144 エイムと虫歯
右下。
あごより上。
奥から二番目。
ずきん、とする。
気にしないようにすると、気にならなく……。
ずきん!
「……」
「えいむさん」
「……」
「えいむさん?」
「え、なに?」
スライムさんが、カウンターの上でこっちを見ていた。
「さっきから、よんでましたよ」
「あ、ごめんね。なに?」
「どうかしましたか?」
「ううん、全然痛くないよ!」
「いたいんですか?」
「え!? どうして知ってるの!?」
スライムさんが、じっと私を見た。
「……えいむさん、おかしいですね。なにか、なやみでもあるんですか? きくだけだったらできますよ!」
「え?」
「あくまで、きくだけですけどね!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「実は……」
「なるほど。きのうから、はが、いたいと」
「いたいような気がするんだけどね。あくまで、気がするんだけどね」
「つめたいものが、しみると」
「ずきんとくる、かんじがするんだけどね。あくまで気がするだけだよ?」
「ずきんといういたみがあって、とくに、よるに、いたみがつよくなると」
「そういう感じがあるという気がする、あくまで。あくまで気がする」
「むしばですね」
「そんなバカな!」
私は仰天した。
それから耳をふさいだ。
「……?」
スライムさんの口が動いている。
しかし聞こえない。
ということは、やっぱり気のせいだったのだ。
歯の痛みなんて、なかったんだ!
私はそっと耳から手をはずした。
「えいむさん、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
「むしばは、もういたくないですか?」
「あーあーあーあー」
私は左右に動きながら声を出した。
「えいむさん」
「聞こえなーい」
「むしばがなおる、やくそうが、ありますよ」
「えっ」
私は止まった。
「たべるだけで、むしばが、なおります」
「えっ。食べるだけで?」
「はい」
「虫歯が?」
「はい」
「……でも、おたかいんでしょう?」
「おまけでもらったので、ただですよ」
「……。……。スライムさん」
「はい」
「ください!!」
私は深く頭を下げた。
「いいですよ!」
「やった!」
スライムさんが持ってきてくれた薬草は、ちょっと色が抜けて、白っぽく見えた。
「これを食べればいいの?」
「はい!」
「よし」
私は、痛くない側の歯で薬草をかんだ。
薬草で歯が治るならありがたきしあわせだ!
苦かったり、辛かったりするかと思ったけれど、すーっと、さわやかな味だった。
「どうですか?」
「ん? 別に、ふつうの……」
そのときだった。
「う、うう」
口の中が、変だ。
「えいむさん?」
「うう……」
虫歯が、痛い。
いや、痛いというのだろうか。なんだか、変な感じだ。
歯の奥が、むずむずするような。
「うう……」
「えいむさん!」
急に、ぐっ、ぐっ、と押されるような感じになった。
歯が押される。
押されて、押されて……。
「あっ……!」
ころん、となにかが床に落ちた。
歯だ。
へこんだところが黒くなっている、歯が落ちていた。
「むしばですね」
スライムさんが言った。
それから。
「あっ!」
また、ぐい、ぐい、と押すような感覚があって。
それが終わった。
私は、体をぴたりと止めて、口の中の変化を待った。
なにもない。
それから、ゆっくり、舌で、そのあたりをさぐってみる。
「あれ?」
歯が抜けて、空洞になっているところがない。
スライムさんに鏡を借りて見てみると、歯が抜けたところに、歯があった。
「歯がある」
「はえてきたんですね!」
スライムさんは言った。
「え? でも、もう、これは永久歯だよ」
私は抜けた歯を持った。
「このやくそうは、むしばがぬけて、あたらしいはが、はえてくるみたいです!」
「え……。その薬草、だいじょうぶなの?」
「だいじょうぶですよ!」
「えっと」
だいじょうぶって、なんだろう。
「でも、このやくそうはめずらしいので、なかなか、てにはいりませんね」
「そうなの?」
「はい! とてもやすいですけど、2ねんぶりです!」
「そうなんだ」
「だから、ちゃんと、はみがきしましょうね!」
「うん」
なかなか手に入らないと聞いて、がっかりしたような、ほっとしたような、そんな気持ちだった。
「ちゃんと歯みがきすれば、解決だもんね!」
「そうです!」
歯みがきをしよう!




