134 スライムさんと忘れたとき用の草
「あれ?」
まわりを見ると、よろず屋だ。スライムさんもいて、カウンターの上で私を見ている。
なんだか変な気持ちだった。
言うなら、いま、起きたような気持ちというか。
それでいて、すこしだけ満腹感があるような。
スライムさんもどこか、ぼうっとしたような顔をしていた。
「スライムさん」
「はい」
「私たち、なにをしてたんだっけ」
「えいむさんも、わからないんですか?」
「スライムさんも?」
「そうです!」
「うーん」
私たちは考えてみた。
「思い出した?」
「いいえ!」
「そっか。私も」
なにもわからなかった。
「こういうとき、ちょうどいいものがあればいいんだけどね」
「……ふっふっふ」
「スライムさん?」
「おこまりのようですね」
「まさか?」
「ぼくはもっています。おもいだすために、ちょうどいい、くさを」
「倒置法」
「とくべつなやくそうを」
「そんな、都合のいいものが?」
「あるんです!」
スライムさんは、ぴょん、と大きくとんだ。
「じゃあ、お願いします」
「わかりました!」
スライムさんは、カウンターに置いてあった小さなふくろをくわえる。
そしてさっそく奥に向かうと、ふくろをくわえてもどってきた。
私が中を見ると、草が入っている。
「これ?」
「そうです!」
「食べるの?」
「そうです!」
「でも、なんか」
中の草は、目に痛いほどの黄色だった。
「食べたらいけない色に見えるけど。だいじょうぶ?」
「あれ? それじゃ、これはとなりにあった、ちがうやくそうかも、しれませんね? ……ちょっとみてきます!」
スライムさんはまた、ふくろをくわえて奥へと行ってしまった。
さっきより遅いな、と思っていたらもどってきた。
「こっちかもしれないです!」
スライムさんのふくろに入っていたのは、薄い青色の草だった。
色がゆらめているような、不思議な青だった。
こっちのほうが、それっぽく見える。
「これ?」
「そうです! あじも、なかなかのものです! おもってたより、ざいこがへっていたので、さがすのがおくれました!」
「そんなに遅くなかったよ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、食べてみようか」
「はい!」
私たちは、一緒に薬草を食べた。
「あ、なんか、変わった味だね」
口の中に入れると、あまくて、すーっとする。
果物のような気もするし、野菜のような気もする。
やさしい味だ。
口の中、というより頭がすーっとする。
「さわやかでおいしいね。……スライムさん?」
スライムさんは、もぐもぐと食べながらも、頭をかしげていた。
「あじが、ちがうような、きがしますね……」
「スライムさんが覚えてるのは、どんな味なの?」
「もっと、ぴりっとしていたような……」
「おや?」
「しげきがある、あじで……」
「おやおや?」
いま食べているものとは、けっこうちがうのでは?
「そうですねえ。これだと、ぎゃくのやくそうみたいな、あじですねえ」
「逆って?」
「たべると、ちょっとまえのことを、わすれてしまう、やくそうがあるんです」
「ふうん」
「それが、こんな……」
「……」
「……」
「……」
「あれ?」
まわりを見ると、よろず屋だ。スライムさんもいて、カウンターの上で私を見ている。
なんだか変な気持ちだった。
言うなら、いま、起きたような気持ちというか。
それでいて、すこしだけ満腹感があるような。
スライムさんもどこか、ぼうっとしたような顔をしていた。
「スライムさん」
「はい」
「私たち、なにをしてたんだっけ」
「えいむさんも、わからないんですか?」
「スライムさんも?」
「そうです!」
「うーん」




