133 エイムと麦わら帽子
「行ってきます」
外に出ると、強い日差しだった。
いつもだったら、ちょっとうんざりしてしまう。でも今日はちがっていた。
新しい麦わら帽子をかぶっているからかもしれない。
下を見ると、地面には強い光で私の影がくっきり浮かんでいた。
ちょっと、おおざっぱに編んであるのか、影にはすき間がある。
麦わら帽子の影は、星空のようにキラキラしていた。
すぐよろず屋が見えてきた。
なんだか、いつもよりも早かったように感じる。
「わっ」
強い風が吹いた。
そう思ったときには、麦わら帽子は舞い上がっていた。
風を受けた帽子は、道沿いに生えている木の、上の方の枝に引っかかってしまった。
木を見上げる。
風はもうぴたりと止まっていた。
帽子は枝の中でも高いところにかかっていて、手は全然届かない。
葉っぱが透けて、明るい緑色になっていた。いろいろな緑がある。
「どうしよう」
そう思ったときだった。
いきなり木が消えた。
「えっ」
横には建物があった。よろず屋だ。
ぐるりとまわりを見た。
私は、よろず屋のすぐそばに立っていた。
さっきまで見ていた木は、道のそばにある。私の麦わら帽子が、上の方の枝に引っかかっているからまちがいない。
木の下で、なにかきらりと光った。
と思ったら、私はそこにいた。
木の下だ。
見上げれば麦わら帽子がある。
どうなっているんだろう。
「えいむさーん!」
声がした。
よろず屋の前でなにかが、きらりと光った。
そして、私はまたよろず屋の前にいた。
「つまり、その杖を振ると、場所が入れ替わるんだね?」
「そうです!」
スライムさんは言った。
スライムさんは杖を持っていた。先に、真ん中で青と黄色にわかれている、宝石のようなものがついていた。
長さは、私の腕よりも短い。
「ただしくいうならば! いれかわりたいものを、みながら、ふります! ばしょがえのつえ、といいます!」
「ばしょがえの杖?」
「えいむさんをみて、うっかり、ふってしまいました!」
「うっかりか」
「うっかりです!」
「あ。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「えいむさんのおねがいを! ぼくが! ことわったことが! ありますか!」
「えっと……。わかんない」
「ぼくもです!」
「あれを見て」
私は上の方の枝を指した。
「きに、ぼうしが……。じけんのにおいがします」
「私のなんだけど、飛ばされて、引っかかっちゃったの」
「なんということでしょう!」
「だから、その杖で取ろうと思って」
「きと、いれかわるんですか?」
「ちがうちがう」
実際、入れ替わるとどうなるんだろう、とちらりと思った。
「あれ」
私は、太い枝の内側に、木の葉が引っかかっているのが見えていた。
その枝から、麦わら帽子が引っかかっている枝は、近い。
「あれと入れ替わって、木をゆらそうと思って」
「なるほど! めいすいりです!」
「借りていい?」
「はい!」
杖はとても軽くて、からからに乾燥した枝のようだった。
「よし」
私は、入れ替わったあとのことを想像しながら、木の葉を見る。
「いくよ」
「どうぞ!」
「えいっ」
私は杖を振った。
想像通り、いきなり枝の上にいた。
私は用意していたとおり幹に手をのばして……。
「えっ」
と思ったけれど、手を伸ばした先に幹がない。体の向きがずれていた。
葉っぱが動いたんだろうか。
振り返りながら幹をさわったときにはもう、体は落ち始めていた。
「えいむさん!」
どうしようもない。
そう思ったとき、キラキラ光る葉っぱの先に、麦わら帽子が見えた。
私は杖を振った。
私は、細い枝の上にいた。
全然私の体を支えられない枝は、折れるどころか、私のことを知らないようにちょっと、しなるだけだった。
またすぐに落ち始める。
落ち始めた私は、スライムさんが見えた。
スライムさんと入れ替わったらだめだ。
そう思ったとき、スライムさんの横に落ちている葉っぱが見えた。
私は杖を振る。
「わっ」
気づいたときには、口の中に土が。
私は道でうつぶせになっていた。
「ぺっぺっ」
「えいむさん!」
「あ」
どうやら、無事に葉っぱと入れ替わることができたようだ。
「だいじょうぶですか!」
「うん、なんとか」
そのとき、私の頭の上になにかが乗った。
麦わら帽子だ。
「それがぼうしですか?」
「うん」
「にあいます!」
「ふふ」
私は土を払って、一緒によろず屋に歩いていった。




