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124 スライムさんと半分ずつ

「おいしいですねえ」

「おいしいね」


 私たちはよろず屋で薬草を食べながら、感想を言いあっていた。


 今日は、ちょっと特別な薬草だった。草だけじゃなくて、果実もついている。

 黄色くて、小指の爪くらいの大きさだけれど、なかなかの存在感なのだ。


「これが甘酸っぱくて、おいしいよね」

「そうです! そして、このはっぱが、そのあまずっぱさをうけとめています! ちょっとすっぱいかもしれない、そういうぶぶんを、さわやかにしてくれているのです!」

「スライムさん」

「なんですか?」

「さすがだね!」

「ふっふっふ! これが、ぼくのちからです!」

 スライムさんは、くるっと回ってにっこり笑った。


「ところで……。問題がひとつあるね」

「なんですか?」

「ひとつ、残っちゃったね」


 私たちの前の皿には、果実つきの薬草がひとつだけあった。

 草の根本のあたりに、小さな果実がくっついている。黄色くて、光って見えた。


「えいむさん、たべたいですか?」

「スライムさん食べていいよ」

「! そういわれると、えいむさん、たべていいですよ!」

「なんで?」

「ぼくらは、このおいしさをしっているんです! いわば、うんめいきょうどうたいです! だから、えいむさんに、あじわってほしいのです!」

「スライムさん……!」

「えいむさん……!」


 私たちは、感動にうちふるえていた。


「……それはそれとして、どうしようか」

 私たちの前には、残された薬草がある。


「そうですねえ。じゃあ、はんぶんずつにしましょうか」

 スライムさんは言った。


「そうだね」

「ならば、ぼくに、かんがえがあります!」

 スライムさんは、ぴょーん、と真上にとんだ。

 気持ちだけなら天井に届きそうなほどだった。


「まず、ないふをつかって、きります」

「ふむふむ」

「そのとき、きるひとと、えらぶひとを、べつにします」

「ふむふむ?」

「たとえば、わけたときのおおきさが、ばらばらだと、ふこうへいですよね?」

「うん」

「でも、わけるひとと、えらぶひとがべつだと、わけるひとは、しんけんになりますよね?」

「……ああ!」


 二つに切るとき、ぴったり同じ大きさにするのはむずかしい。

 特に、切った人がそのままどっちを食べるか選ぶとすると、わざと大きさをずらして、自分は大きい方を取れてしまう。


 でも、切る人と選ぶ人を別にしたら。

 切る人は、できるだけ、同じ大きさにしようとするだろう。


「さすがだね、スライムさん!」

「ふっふっふっふ!」

「じゃあ、そのすごさに感心したから、私は小さい方でいいよ」

「いけません!」

「え?」

「もう、たたかいは、はじまっているのです……」


 スライムさんは、遠くを見た。


「わざとまける……。それは、はずべきことなのです……」

「そう……? じゃあ、私も本気で分けるね……!」

「はい! かかってきなさい! ないふをもってきますね!」

「ううん、いらない。はい」


 私は、果実の根本の部分をちぎって、横に置いた。


「えいむさん?」

「ふたつに分けたよ。どっちがいい?」

「! えいむさん! なんてことを!」

 スライムさんは、薬草の前で、力を抜いてちょっとつぶれた。


「かじつの、あまずっぱさと、くさのさわやかさ! どっちかなんて、えらべませんよ……!」

「じゃあ、私が実のほう、食べちゃおうかなあ」

「あ! まってください!」

「スライムさんは実のほう? じゃあ、私は葉っぱのほうにしようかなあ」

「まってください! えらぶのは、ぼくですよ!」

「じゃあどうぞ」

「……ううむ、ううむ、うむむむむむ」

 スライムさんは、むずかしい顔で、何度も何度も、果実を見たり、葉っぱを見たりしていた。



「どうしたら、どうしたら……」

「スライムさん」

「どうしたら、どうしたら……」

「……スライムさん。私、思いついたことがあるんだけど」

「……なんですか? ぼくはいま、いそがしいんですけど!」

「やっぱりナイフで、ふつうに切るっていうのはどうかな」

 スライムさんは、ぱっ、とこっちを見た。


「もう、たたかいは、どちらかをえらぶだんかいです! ほかのほうほうは、ありません!」

「そっか……。そうだよね!」

「はい! しんけんしょうぶです!」

「わかった。で、どうする?」

「ううむ……」


 スライムさんは、また悩み始めてしまった。


「お茶でも飲みながら、ゆっくり考える?」

「そうですね!」

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