120 エイムと落ちてる魚
「これは……?」
道を歩いていると、魚を見つけた。
道の真ん中ではなく、横の、短い草が生えているあたりに落ちている。だから私が見つけたのはぐうぜんだった。
誰かが食べるために買ってきて、落としたんだろうか。
でもどうしてそんなところに。
近づいていって、しゃがんだ。
よく見てみる。
魚は生きていないようで、動かない。
川は、道をくだっていって、すこし行かないとない。だから、川からぴょん、と出てきたということもない。
動物が持ってきたんだろうか。動物が口にくわえて持ってきたような傷はないように見える。
でも、動物がくわえるときは、歯でくわえるんだろうか。それとも、唇でくわえるようにして、傷がつかないようにするんだろうか。
魚は、私の手のひらよりもちょっと大きいくらいなので、動物によっては、歯を使わなくてもくわえられるような気もする。
私は、空想の魚を思いうかべ、口を動かしてみた。なにもわからない。
スライムさんならわかるだろうか。魚を持っていこうか。
でもスライムさんも、これを持ってこられても困るかな。
私はそのままにして、歩きだした。
「わっ」
強い風が吹いて、私は目をつぶった。
今日は風が強い。
見上げると、雲の動きも速かった。
そのとき私は、変なことを思いついた。
魚は、空から降ってきたのではないか、ということだ。
あまりに強い風に巻きあげられた魚が、あの草まで飛ばされてしまったのではないか。
思いついてすぐ、くすくす笑ってしまった。
川を泳いでいた魚が、水面からちょっとだけ飛び上がるようなときがあるのは見たことがある。そのとたん、強い風が吹いて、魚が飛ばされたのを思いうかべてしまったのだ。
ヒレをバタバタさせる魚のあわてた顔まで見えてくるようで、おかしかった。
いやいや、魚がそんなことになったとしたら、命がけだ。笑ったらいけない。
でも、ヒレを動かして空を飛ぶ魚を見たら、魚が自分の力で飛んだようにも見えるだろう。
それはそれで、おもしろい。
というより、すごい、かもしれない。
スライムさんに会ったら、魚の話をしてみよう。
一緒に、落ちている魚を見に行ってもいい。魚がいなくなっていたら、また、あれこれ、いろいろな話ができそうだ。
よろず屋が見えてきた。
「ん?」
よろず屋の近くで、なにか青いものが動いている。
と思ったら消えた。
「わっ!!」
そしたら、近くになにかが降ってきた!
私が尻もちをつくと、砂ぼこりが晴れていって……。
「こほん、こほん」
ホコリの中でせきをしていたのは、スライムさんだった。
「スライムさん!」
「あ、えいむさん! こんにちは!」
「ど、どうしたの、スライムさん! だいじょうぶなの!?」
「はい! あ、ちょっと、ものを、ふっとばすれんしゅうをしていました!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「ものをふっとばす!?」
「ええと、つむじかぜをおこす、つえ、ありましたよね? あれです! あれで、すばやく、まちをいどうできないかと!」
「危ないからやめてね!」
「わかりました!」
スライムさんは、話せばわかってくれるスライムさんだ。
「あれ、つえがどこかにいってしまいましたね」
スライムさんがきょろきょろする。
「……あっ。じゃあ、スライムさんが魚を飛ばしたの?」
「そうですね! さっき、とんでいきました!」
「そっか。なんだ」
やっぱり、自然に風で飛ぶことなんてないんだ。
私はすこしがっかりした。
「どうかしたんですか?」
「ううん、なんでもない。でもスライムさん、魚を遊びで飛ばしちゃうのは、かわいそうじゃない?」
「どうしてですか?」
「だって、生き物だし……」
「でも、ぼくがとってきたわけじゃないですよ!」
「え?」
「そらから、ふってきたのが、かぜにのって、とんでいっただけです!」
「え? え? どこから?」
「しりません! それより、つえをさがしに……」
「スライムさん、それより魚を拾いに行こうよ!」
「はい、でもまず、つえをさがします!」
「スライムさん! 魚はあっちだよ!」
「えいむさん! あそこに、つえです!」
「スライムさん!」
「エイムさん!」




