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12 スライムさんと空腹

 お昼。

 母が、用事をすませてからお昼ごはんを用意するからちょっと遅くなるよ、といって近所まで出かけていった。


 テーブルには、これでも食べておいて、とパンが入っているバスケットを置いていってくれた。でもバスケットの上にかかっていた布を取ったら、なにも入っていなかった。母はこういう、うっかりしたところがある。


 待っていたけれど、食べられないと思ったらよけいにお腹がすいてきたので、私は近所まで出かけることにした。


 スライムさんのよろず屋だ。



「こんにちは」

「いらっしゃいませ!」

 スライムさんがカウンターの上に現れた。


「きょうはなにをおもとめですか!」

 スライムさんがいつもにも増してやる気に満ちた目をしていたので、ちょっとうしろめたくなった。


「あ、ええと、ちょっとひまつぶしに来たんだけど……」

「ひまつぶしですか……」

 スライムさんのピンと張っていた体が、ちょっと力が抜けるようにやわらかくなった。

「ごめんね、だめなら」

「いいでしょう!」

 スライムさんが大きくうなずいた。


「ごめんね。ついでになにか買えるといいんだけど、おこづかいもあんまりなくて」

「いいですよ! ぼくとてれーさんは、しらないなかでは、ないのですから!」

「ありがとう。あとエイムです」


 そのとき私のお腹が鳴った。

 ちょうど会話の間が空いていたので、はっきりとした音がした。


「いまのおとはなんですか?」

「……えっと、聞こえた?」

 私は笑ってみたけれど、スライムさんが妙に真剣な顔をしていたので私も笑顔を保てなくなっていった。


「いまのはなんですか?」

 スライムさんがもう一回言った。

「ええと、お腹の音」

 私はこのまま帰ろうかどうか迷いつつ、結局言った。

「お腹がすいていると、音がするんですか?」

「うん」

「どうしてですか」

 スライムさんは言った。

 そうか、スライムさんにはそういう経験がないのか。


 それと、言われてみるとたしかにふしぎだった。

 お腹がすいたらお腹が鳴る?

 どういうことだろう。


 体が、音で私に空腹を知らせてくれている?

 でも音が鳴らなくたってお腹がすいているかどうかくらいはわかる。お腹がすいているときだけ教えてくれるというの変だ。眠いときのあくびみたいに、そっ、と教えてくれればいいのに。


「おとがするものは、おなかがすいてるんですか?」

 スライムさんは言った。

「おとがするもの?」

「がっきです! ふえはおとがします!」

「笛かあ。笛が鳴るのは、空気が通るから」

「では、えいむさんのおなかにも、くうきがとおってたんですね!」

「えっと」


 そういうことなんだろうか。

 声を出すときはたしかにのどを空気を通っているのを感じる。


 もしそうだとして、さっきお腹が鳴ったとき、口は閉じていたような。

 でも、鼻もあるし、耳もあるし、どこかから空気がもれていたのかもしれない。もしかして、穴をふさぐと鳴らなくなるのだろうか。


 そう思って、右腕で右耳をふさぎながら手で鼻と口をおさえて、左手で左耳をおさえてみる。

 もしこれが正しいとしたら大発見だ。

 お腹がすいても、誰にも気づかれないのだ。

 誰かがいたとしても、お腹すき放題だ!


「なにをしてるんですか?」

 スライムさんは言った。


 受付のカウンターのガラスはちょっと斜めになっているので、私が口や鼻や耳をおさえている様子が、うっすらと反射していた。

 変な格好だった。

 お腹が鳴るよりよっぽど。

 そう思っていたら、お腹が鳴った。

 耳と鼻と口をふさいでも、全然関係なかった。


「えいむさん? どうしたんですか? かおがあかいですよ。みみもまっかです。えいむさん、えいむさん?」

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