110 スライムさんと呪いのテーブル
風が冷たい日だった。
上着の間をたぐりよせるようにして閉じても、冷気が入り込んでくるような晴れた日だ。
私は小走りでよろず屋に向かった。
「こんにちは! ……あれ?」
お店に入ると、スライムさんはカウンターの上にあらわれなかった。
それと気になったのは、テーブルだ。
カウンターの前と、入り口までの場所をふさぐように、テーブルが置いてある。
ひざくらいの高さの、低いものだ。
大きくないけれども、存在感がとてもあった。
カウンターの前の、入り口との間のせまいところに、じゅうたんが敷いてあった。
その上にテーブルが置いてある。
変わっているのは、テーブルの天板と、脚の間に、ふとんがはさんであるところだ。
どういうものなんだろう。
小さな音が聞こえた。
なんだろう、と耳をすませたけれども、もう聞こえない。
「スライムさん? いないの?」
カウンターの奥に呼びかけても返事はない。
一度、お店の外に出て、ぐるりとまわってきたけれどもスライムさんの姿は見られなかった。
風が冷たくて、またお店に入る。
私はなんとなく、テーブルのふとんをさわってみた。
ほのかにあたたかいような気がして、ふとんと、じゅうたんの間に手を入れてみた。
「! あったかい」
中はとてもあたたかい。
ふとんをめくって中をのぞいてみた。
すると、天板の下あたりに、赤く光る石が取り付けてあった。魔法石だろうか。
そこからの熱であたかかくなっているようだった。
「入ってても、いいよね」
私はくつを脱ぐと、そのふとんをめくって、中に入ってみた。
「はあ……」
あたたかい。
手を入れて、ちょっと背中を丸めるようにして入ってみた。
さっきまでの外の寒さはまだ背中に感じるけれども、みるみる体がほっとするようなあたたかさだった。
中で足の位置を動かしていたら、なにかにあたった。
ぷにゅ、とやわらかい感触だ。
手を入れてみると、あたたかくて、ぷにゅぷにゅしたものがあった。
引っぱりだしてみる。
「わっ」
スライムさんだった。
目がとろんとしていて、あたたかい。
目が開いて、私を見た。とろんとしている。
「あ、えいむさん……」
「どうしたのスライムさん!」
「のろいの、てーぶるに、やられました……」
「呪いのテーブル?」
「そうです……。このてーぶるに、はいると、でられなくなってしまうのです……」
「出てるよ」
スライムさんはテーブルの外の、じゅうたんの上にいた。
するとだんだん、スライムさんの目がしっかりしてくる。
「これはいけない!」
スライムさんが、しゅっ、とふとんの中に入った。
「スライムさん?」
「ふう……」
「スライムさん?」
「このてーぶるは、なかにはいったひとが、でられなくなる、のろいがかかっているのです……」
「出られるでしょ?」
「じゃあ、えいむさん、でられますか?」
「うん」
私は外に出て、立ち上がった。
するとすぐに、冷たい空気が足元からはいあがってくる。
私はゆっくり座って、ふとんの中に、足を入れた。
「どうですか、えいむさん」
「これはおそろしい呪いだね」
「そうでしょう!」
私たちは、しばらくのろいにかかっていた。




