102 スライムさんと魔法のびん
「いらっしゃいませ!」
よろず屋に入ると、スライムさんが迎えてくれた。
「今日は寒いね」
「そうですね! そんなひは、えいむさん! これをみてください!」
カウンターの上にあったのは、細長い、金属の筒のようだった。
太さはコップくらいかな。
長さはコップの三倍くらいある。
「これを、あけてください」
「開くの?」
私は、スライムさんに言われて、先のほうをまわした。
何度かまわしていくと、はずれた。
器のようにも見える。
「それはこっぷでもあります」
「ふうん?」
コップを外したところに、さっきより小さい、フタのような、まわすところがある。
「そこもあけてください」
「これを?」
開ける。
すると、中から湯気が出てきた。
この香り。
「お茶?」
「そうです! のんでいいですよ!」
コップとしても使えるというフタに注いで飲んでみた。
「あったかい」
ほっとする。
「そうでしょう!」
「いついれたの?」
私が来なかったら冷めてしまっていたと思うと、なかなかハラハラしてしまう。
「ふっふっふ。じつは……、あさです」
「えっ?」
スライムさんはとくいげだ。
私は、おどろくというより、どういうことなのかよくわからない、という感じだった。
「いまはお昼だよ」
「そうですね!」
「どうしてあったかいの?」
「ふっふっふ。これは、まほうのびんです!」
「魔法のびん?」
「そうです。これにいれておくと、いつまでも、あたたかいのです!」
「ふうん」
あたたかくするための魔法でもかけられているのだろうか。
「えいむさん。あったかくするための、まほうがかかっていると、おもいましたね?」
「えっ?」
「ふっふっふ」
「どうしてわかったの?」
「ぼくは、こころをよむことができる、すらいむなのです」
「ふうん。じゃあ、私が一番好きなチョコがなんだかわかる?」
「うーん……。えいむさんは、あらゆるちょこがすきです!」
「正解!」
「ふっふっふ!」
「チョコかあ……。また食べたいなあ……」
「えいむさん、きょうはちょこじゃないんですよ!」
「なんだっけ?」
「これです! この、まほうのびんです!」
スライムさんが、魔法のびん、をぷにぷにする。
「そうだそうだ。どうして?」
「わかりません。でも、おちゃをいれるまえは、あったかくなかったです」
「そうなんだ。ふしぎだね」
「そうなんです!」
あったかくないのに、あったかいものを入れると、あったかいまま。
「冷たいのを入れたらどうなるんだろう」
「! やってみましょう!」
私はスライムさんといっしょにお茶を飲んで、中身をからっぽにした。
水で洗ってから、あらためて、外の冷たい水を入れる。
「入れてきたよ」
「ありがとうございます!」
スライムさんがぴょん、とはねた。
「でも、どうしようか、これ」
「なにがですか?」
「しばらく、あったかいところに置いておかないといけないよね」
「それなら、ぼくが、あつあつにしておきます!」
「あつくしちゃうと、魔法のびんが、こわれるかもしれないよ?」
スライムさんの熱々は、きっとかなりのものだろう。
「そうですね……。そうですね!」
私たちは、どうしたらいいか考えた。
そのとき、入り口にぬっ、と誰かがあらわれた。
頭からすっぽりフードをかぶっていて、顔は見えない。
「あ、いらっしゃいませ!」
「お客さん?」
「じょうれんさんです! えいむさん、きょうはかえってもらってもいいですか?」
「え?」
「このひとは、とおくからきているので、なかなかこられないのです! でも、まものなので、しょうたいをしられたくないので、えいむさんにはかえってもらいたいのです!」
スライムさんが言うと、お客さんは、びくっ、とした。
私は聞いてないふりをすることにした。
「じゃあこれは私の家に置いておいて、明日持ってこようか?」
「どういうことですか?」
「よろず屋よりあったかいし。明日までずっとあっためておいて、明日の朝、急いで持ってくるよ。いっしょに飲んでみようよ」
「……はい! そうしましょう!」
「じゃあね」
私は、お客さんにちょっとだけ頭をさげて、お店をあとにした。
家では、できるだけ部屋のあたたかいところに置いた。
夜は、一緒にベッドに入って眠った。
くっついていると、最初は金属の表面がひんやりしていたけれども、すぐあたたまって、気にならなくなった。
中はどうなっているのだろうか。
明日、スライムさんと一緒に開けることを考えながら、私はねむりについた。




