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01 スライムさんとエイム

 道具屋におつかいに行く途中、見慣れない看板を見かけて私は足を止めた。

 よろずや。

 あまりきれいとは言えない字で書かれた看板が、知らないお店の前に立てかけてあった。


 最初は通りすぎるつもりだったけれど、なにかひかれて、私は入ってみることにした。


 入り口からのぞいてみる。

 店はせまい。

 商品が中に陳列できるカウンターがあって、その中にはちらほらと品物が置いてある。カウンターの前に、縦に人がならぶのは難しいくらいの広さだ。

 壁にそって、武器や防具と思われるものも置いてあるので、さらにせまく感じる。


「こんにちは……」

 そっと声を出すと、しゅんっ! といきなりカウンターの上になにかが姿を見せた。


「いらっしゃいませ!」

 それは、丸くて、透き通った青色をして、ぷるぷるとゆれるものだった。大きさは私の頭くらいだろうか。そこに、目や口がある。気持ち悪いというよりは、かわいらしい、かもしれない。


「えっと……」

「ここはよろずやです!」

「あなたは?」

「すらいむです!」

「え? スライム?」

「はい! すらいむさん、とよんでいいですよ!」


 スライムさんと名乗ったそれは、ぷるん! と大きく体をゆらした。堂々としていたので、もしかしたら胸を張っているのかもしれない。

「おじょうさん、あなたはだれですか!」

「えっと、私はエイムです」

「おそろいですね!」

「なにが!」

 意味のわからないことを言われて、つい大きな声が出てしまった。

 私はせきばらいをした。


「スライムって、魔物でしょ?」

 私はこっそり出入り口に近づいた。

「はい! でもぼくはすごいので、おはなしもできるのです! すごいので!」

「でも魔物でしょ? 人を襲うんでしょ?」

「まさか!」

 スライムさんは体を大きく振った。首を振っているつもりなのかもしれない。


「ぼくは、ちょうちょうさんにも、ここに、おみせをだしていいといわれています! しゅってんきょか、です! ひとあじちがう、すらいむなのですよ!」

「そうなんだ」


 私は、もうすこし話をしてみることにした。


「えいむさんは、きょうは、どんなごようですか!」

「ええと、毒消し草って売ってる?」

「どくけしそうですか?」

「うん。うちで常備してる分が減ってきちゃったから、おつかいなの」

「ちいさいおじょうさんなのに、えらいですね!」

「どうも」

「ありますよ!」

 スライムさんは言って、一度カウンターから降りた。

 陳列されていた緑色の草をくわえてカウンターの上にもどる。


「どうぞ!」

 私はその草をよく見た。

「これ、薬草でしょ?」

「はい!」

「毒消し草がほしいんだけど」

「やくそうでもだいじょうぶですよ!」

「だめでしょ」

 私が言うと、スライムさんはぽかんとした顔をした。


 それから丸い体がゆっくりと重力につぶされ、平べったくなっていった。

「ぼくはだめなひとです……」

「え、あ、ええと」

 人ではないけれども。

「つぶれておわびします……」

 スライムさんはますます平べったくなっていく。


「あ、じゃあ、毒消し草は道具屋で買うから、ここでは薬草もらおうかな……」

 私が小声で言うと、スライムさんは瞬時に球体にもどった。


「やくそうですね! 2000ごーるどいただきます!」

「高いよ!」

「ごめんなさい。さしあげます」

「お金払うから!」

「いくらがいいですか?」

「決めてないの?」

 スライムさんはまばたきをして、体をななめにした。


「どうぐやさんでは、やくそうは、おいくらですか?」

「8ゴールドかな」

「じゃあ7ごーるどです! おやすいですね!」

「まあ、それなら買おうかな」


 私はカウンターに10ゴールド硬貨を置いた。

「まいどありがとうございました」

 スライムさんが硬貨の上に乗ると、体の中に入っていった。

 透明な体に、硬貨が浮いているように見える。


「えっと、おつりは?」

「おつり?」

 スライムさんはカウンターから降りて、あちこちぴょんぴょんとびまわっていたけれど、もどってきて、体が平らになっていく。

「おつり、ありません……」


「じゃあ、また明日買いに来るね」

 私はカウンターに薬草を返した。

「そうはいきません!」

 スライムさんは元にもどると、カウンターから別の薬草を持ってきて、置いた。


「これをどうぞ!」

「え? でも、そんなに薬草を買うお金ないよ」

「おつりのかわりです!」

「でもおつりは3ゴールドだよ」

「えっと……、しょかいさーびすです!」


「またきてくださいね!」

 スライムさんは出入り口まで見送りをしてくれた。

 手を振る代わりに体がぷるんぷるんぷるん震えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小説PickUpから来ました! 可愛らしいお話ですね♪ のんびり読ませていただきますね〜。
2022/11/08 21:51 退会済み
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