第81話 爪痕
約4ヶ月の失踪申し訳ございません!
転職であったり、やることが多くて手につきませんでした!
それではどうぞ!
例えば。クソみたいな不条理が自分の前にあったとしよう。自分はそれを退かさなければ前に進めない。神が気まぐれに人に与える負けイベントというやつだ。
「俺が‥‥殺した?」
今でも夢に見る。自分を受け入れてくれた人間を自分で殺めた夢。鼓膜が破られそうな五月蝿い雨の中、目の前に倒れているのはまだ温もりがあった恩人の死体。
「あぁ、またこの景色か」
寝ている間に見ている夢が自分の心の中を映すものなのだとしたら、自分の心の中はどれだけ歪んでいるのであろうか。
「進め。それだけでしか償えないんだよ」
耳が腐る程聞いた正論。認識するだけで胃の中に手を突っ込まれて掻き回されるような不快感を覚える。
「教えてくれ。俺はどう生きれば良い?」
「‥‥」
死人に口なし。彼岸の者に問答しても返ってくる言葉は無い。
「答えなんて、ないよな」
誰でもない影に求めた答えが返ってくることは無い。しかし影は口を動かし、声無き言葉を発する。
「‥‥」
「‥‥待て、今なんて!」
その意識が戻る直前。叶夢は手を伸ばすが、意識の覚醒に連れてその精神は現実世界に引き戻された。
「!‥‥悪い目覚め過ぎるだろ‥‥」
「おはよう。気分良さそうで何よりだよ」
肌に張り付いた汗を拭きながら、叶夢は向かい側に座っていた朔夜に目を向ける。朔夜はタブレットに視線を落として、作業をしていた。
「何処がだ‥‥気持ち悪さMAXだよ」
「お前が後悔してるだけだろ。そんな思いするなら、あんな判断取らなきゃ良かっただけだ」
「あぁ、正論嫌い。ウザすぎ」
「事実だろ。反論する自由がお前にあると思うな」
叶夢は怪訝そうな顔で頬を掻きながら、窓の外に目を向ける。
「朔夜‥‥俺ひとつ思うことがあるんだよ」
「余計な話題だったら音楽で耳塞ぐ」
「勝敗、何割だと思う?」
「三割。良くて五分だ」
「だよな‥‥サクリファイスがケラウノスを喰ったとなると」
「それだけじゃない。戦闘記録を今見たが頼光の手が全部喰われてる前提で立ち回った方がいい」
「全く、なんで本隊が仕留められてねえんだよ。俺らがやれってか?」
「あの人なりの要らん気遣いだ‥‥」
朔夜は目を瞑りタブレットから目を離すと、天井にその目を向ける。
「‥‥雷魔法への耐性は上がってるみたいだな。叶夢?」
「俺の魔法でごり押す? 無理無理! 身体吹っ飛ばしても多分ギリギリ死なねえ!」
「何その有限性耐性ステータス振り直しシステム‥‥サクリファイス面倒くさすぎない?」
座席の後ろから気だるげなベロニカと、アイマスクを外すゼノンが顔を出す。
「そういう時はうちの最高火力に任せりゃ良いだろ? 例えば俺とか」
「アルフレッドだな」
「アルフレッドね」
「レクスしか居ないな」
「おいお前ら!!」
ゼノンの言葉を遮るように、三人は同じ名前を口にする。
「サクリファイスを飛ばせる火力はあいつぐらいだろ」
「仮にもあたし達のリーダーだった奴だからね‥‥大方あいつの功績になっちゃうわよ」
「純粋な火力は俺の方が上だろうが! アイツはせいぜいラストのゴリ押しに!」
「ゼノン、確かに瞬間的にはお前の方が火力が出るよ。でもレクスはそういう前提で話していい奴じゃないんだよ。じゃなきゃ俺たちゼルリッチの魔子を纏めるなんて出来るはずがない」
「やけに語るな叶夢。自責の念か?」
「違ぇよ朔夜。本当の事だ」
叶夢は座席のホルダーに置いた珈琲に口を付ける。
「熱っ‥‥正直、あいつとは会いたく無いんだよ」
「カッコつけて飲もうとすんなー」
「猫舌なんだよ。悪いか‥‥熱っ」
「せめて飲みきってから話せよ‥‥」
「朔夜、こいつが無事に飲み切れる保証あると思うか?」
「無いな」
「二人に言われて、恥ずかしくないの? 叶夢」
「魔族と間違って殺されても文句言うなよ。三人」
「なんで私もなのよ!?」
叶夢は右手を刀に添えながら、左手でタブレットを器用にいじり始めると、ある映像を再生する。
「何見てんの?」
「頼光の戦い。ほぼ人がやる戦いじゃねえけど」
「こんなガビガビのノイズまみれでよく見れんな。クソ叶夢」
「なんでもクソつければ良いと思うなよゼノン。次戦闘入ったら魔族よりも俺に警戒しとけ」
「チームワーク無いな俺ら‥‥あと叶夢、ゼノン殺るなら俺も協力してやるよ」
「あァ!? 二人まとめて掛かってこいよクソが!」
「本当、昔と変わってなくて安心だわ‥‥で、なんか分かった? 叶夢」
ベロニカが叶夢の顔に視線を移す。
「頼光の魔法しか使ってない。って事ぐらいだな」
「あいつ、自分の魔法持ってないの?」
「喰うことがアイツの魔法って事だろ」
朔夜が叶夢のタブレットを上から覗き見る。
「お前もそう考えるよな‥‥アイツがこの状況で手を残せるのかって」
「あと喰った魔法のストック期間も気になる。永続的に使えるのか。それとも一時的なものなのかもな」
「永続的だったら厄介ね‥‥正直、頼光さんの魔法だけで済んで欲しいところだけど‥‥」
様々な思考を巡らせながら、三人は停止していた映像を再び見始める。
「‥‥アラクネ・ドラゴンの召喚も行けるのか‥‥」
「永続的のパターンねこれ。正直私たちでやれるか心配になってきたわ」
「また作戦の練り直しだな‥‥しかし困った。もう目的地のツングースカまで数十分しか無い」
「そんだけあれば十分でしょ‥‥」
「朔夜の悪い癖だな。『しか』じゃなくて『も』で考えろよ‥‥つーか、どうしたゼノン? さっきから喋らず目つぶって」
ゼノンは座席の肘置きに腰を下ろして、目をつぶっていた。
「いや、列車の車輪の音以外に変な音を感じとったから索敵してただけだ。良かったな朔夜、また、思考時間伸びそうだぜ?」
朔夜が窓を見ながらタブレットをしまうと、その手を自らの武器にかける。
「さて、ここで問題だ‥‥俺らが駄弁ってる相手に、この列車の周りに魔族がどんだけ集まったと思う?」
ゼノンが背中に掛けた大鎌を取り出すと、刃が倒れて展開される。
「数はあっても功績にならない‥‥やるだけ無意味よ。マフィア論なら」
ベロニカが太腿のベルトからナイフを二本取り出すと、指先で器用に回す。
「だが今の俺たちは正義の征魔士。利益無しで人命を守る者たちだ」
朔夜が十字槍の包帯を解きながら、座席から立ち上がる。
「何が正義だよ。大義名分で殺しても罪にならない魔族を虐殺したいだけだろお前らは」
「私は違うわよ? ゼノンと朔夜は知らないけどね」
「朔夜はそうかもなァ?」
「黙っとけ。脳筋ゴリラ、感電させんぞ」
朔夜はそう言うとゼノンに向けて槍を突き出す。容赦の無い刺突にゼノンは紙一重で避けるが、朔夜は止まること無く窓ガラスにその槍を突き刺した。
「キルスピード落ちたな?」
「当てなかっただけ成長だろ?」
朔夜の槍の矛先には、魔族の頭部が刺さっていた。乱暴にそれを引き抜くと、窓に引っかかった魔族の死体が走る列車から下ろされる。
「よく言うぜ。その帽子が飛ばされないように気をつけるこった」
「お前こそ、いつもの馬鹿力で列車ぶっ壊さないように気を付けろよ」
朔夜とゼノンはそれぞれ別の窓から車外に飛び出した。
「ったく‥‥うちの馬鹿共は! 伝令! 列車に魔族多数接近! 一般市民の安全を最優先に全て殲滅せよ!」
ベロニカが他の車両に伝令を行うと、一斉に戦闘音が各車両で鳴り響く。
「避難はどうする気だ。ベロニカ!」
「前の一台に全員入れる! 乗客ならそれぐらいの人数だったはずよ! 案内はアタシ一人でやるから、叶夢はゼノンと朔夜の方をお願い!」
「一人で避難誘導なんか出来るのかよ?」
「こんなとこでゼノンを野放しする方が危険よ!」
「違いない‥‥頼んだぞベロニカ! うちの隊員の指示もな!」
「嫌だけど了解!」
叶夢は窓を開けて、車外に出ていくと上部に登っていく。
「頼んだわよ‥‥千夜、紫以奈! 聞こえてる!?」
『聞こえてます! 私と千夜で最後尾からお客さんを運転車両側まで連れていきます!』
『僕と豹助くんも真ん中から連れてくよ!』
「サンキューですよ。白鳩先輩も!」
ベロニカは通信を切断すると、太腿のホルダーからナイフをもう二本取り出して列車のドアを蹴り開けた。
「ウォーミングアップ。上等よ」




