第79話 雷鳴残響
半年近くの失踪申し訳ありませんでした。
執筆の時間が取れなかっただけでなく、
文そのものの書き方を忘れてしまっていたため時間がかかってしまいました。
次回はもっと早く書き上げたい...
それではどうぞ!
ツングースカに暗い雲が立ち込める。時刻は正午を周り、日が上がりきったはずの空は黒く染まり、蒼い雷光が空の隙間から溢れ出していた。その真下、数分前までその場にあった屋敷が消し飛んでからの出来事であった。
「ウオオオオォォ!!」
「おらよ! ぶっ飛びな!」
「ホザケ!」
第九位魔族 サクリファイス。それに相対するは十二帝の一人、『雷霆』神座 頼光。魔族側、征魔士側の頂点に立つもの同士の戦いの始まりはその初撃だけで地形を変えるほどであった。
「ココデ貴様ヲ潰シテオケバ、我ノ計画ノ障害ハ取リ除カレル!」
「そうかよ! だが、俺で障害なんて言っているようじゃ失敗するのが落ちだぜ!」
「ヨク回ル クチダ!」
「お互いな!」
互いに言葉を交わしながらもその攻撃には殺意が込められていた。
(何だ、この違和感? 確かに魔力の質も別格だ。気を抜けば死ぬ感覚だってある‥‥でもこんなもんじゃないはずだ)
「深ク思考シナガラ戦ウトハ‥‥舐メラレタモノダ」
「ッ!」
頼光は咄嗟の判断で刀を自分の前面に構える。その直ぐに黒い魔力の奔流が頼光に向けて放たれた。
「あっぶねぇ‥‥いつもの武器ならまともにくらってたぜ‥しかし、やっぱ無傷って訳でも無いか」
頼光が奔流を斬り裂いてすぐに刀身を確認すると、僅かにヒビが入っているのが視えた。
「アノ大物デアレバ ココマデ苦戦スルコトハ無カッタガナ」
「よく言うぜ‥‥それじゃボルテージ上げてくか。着いてこいよ、目玉おやじ」
「来イ」
頼光が自らの身体に魔力を流し込むと、帯電によって発生した青い電流の量が増える。サクリファイスはそれを見ながら両手を広げて、嘲笑うように歯茎をケタケタと震わせた。
「雷衣」
「見セテモラオウカ。『雷霆』」
「言ってろ」
頼光を見てサクリファイスが魔力を展開した瞬間。その視界から頼光が消える。
青い光の軌道の先が自らの目の前に来ているの確認した時点でその腕が胴体から離れるのを視認する。
またそれを認識すると自らの細胞に電撃が走る。
全ての反応が既に過去に置き去りされた。
「グッ‥‥」
「遅せぇよ。全部」
頼光の持った刀には自らの魔力を練り上げて作り上げた雷が宿っている。それによって放たれる斬撃は『斬る』のではなく『抉る』ものに変わっていた。しかし、滅びの光に攻撃されたサクリファイスの口角は不気味にも吊り上がる。
「確カニ‥‥ダガ‥‥喰エタゾ」
「何言ってやが」
「雷衣」
「ッ!」
頼光は自分の目を疑う。それは今自分が纏っている雷の鎧。そしてその速度も寸分違わず自らの魔法そのもの。初期動作だけでそれを見抜いた頼光は咄嗟に刀を前に構えた。
「遅イ。オ前ノ速度ガソレデ防ゲルト思ッタノカ」
サクリファイスは構えた拳を頼光の刀に振り下ろす。その一撃が齎す衝撃は刀を通しても尚頼光の内部を駆け巡ると、そのまま頼光の身体を後方に押し出す。
「ただのコピーじゃない‥‥俺の魔力の性質ごと喰らったって訳か」
「仕留メ損ネタ‥‥イヤ、マダ魔力ヲ奪エルナラ、幸福ダナ」
「初見で一撃で殺さないと行けない訳だな‥‥おもしれぇ」
『呑気言ってる場合じゃないでしょ。頼光くん』
「リアムか‥‥」
頼光のインカムにノイズ混じりの聞き慣れた声が入る。
『天候が悪くなってる。短期決戦で行ってくれ』
「じゃあアレ転送してくれ。神具も使う」
『良いけど、盗られても大丈夫な力の範囲だからね!』
「分かってるよ‥‥」
インカムからの通信が途絶えると、頼光はサクリファイスに目を向ける。サクリファイスは頼光に対して魔力を練りながらもただ見ているだけだった。
「随分と余裕だな」
「今ココデ貴様ヲ、始末スルノモ良カッタガ‥‥マダ本命ヲ、奪エテ居ナイカラナ」
「奪えるかどうかは試してみろよ‥‥」
『小僧‥‥出番か』
頼光の脳内に若い男の声が響く。
「あぁ、力貸せ。俺の神具」
「来ルカ‥‥」
頼光の元に魔力が集まる。それに呼応するように雨風と落雷がさらに激しさを増していく。
「告げる。魔を撃ち滅ぼせし雷神よ。その雷霆を以て彼の者に永劫の眠りを。我が纏うは汝の雷のみ。それ以外は必要に在らず。
お前だけを俺の刃とする。神具解放 ゼウス!!」
『待ちわびたぞ。さぁ暴れる刻だ!!』
雷の嘶く音に混ざり、男の声が曇天の中から響き渡る。降り注いだ落雷が頼光に収束していく。
「主神トハ ヨク言ッタモノダ。 神具ニナッテモ ソノ自我ヲ残ストハナ」
「相変わらずうるせえ登場だな‥‥ゼウス、あまり力出しすぎんなよ。こいつ俺の魔力を喰ってる」
『であれば我が雷霆を食ったその臓腑すらも焼き尽くして見せよう!』
「頼んだぜ‥‥こいつも使い切ってやるからな」
青い雷を纏った頼光が刀を鞘に戻して、抜刀の体勢に入る。
「来イ。貴様ヲ 喰ライ尽クシテヤル」
「‥‥」
頼光の意識がさらに集中の深層に落ちる。サクリファイスの言葉はおろか、雨の音すら鼓膜に響かない。呼吸は最低限のパフォーマンスで最大火力を引き出すための準備を身体に促す。
(この感覚だ‥‥)
生成した魔力が身体を貫くような感覚が頼光に訪れるとその視界から色が消えた。元より少なかった色彩はモノクロに変わる。それと同時に頼光の目には虹のような淡い模様の様な光が映るようになる。
「‥‥」
「‥‥何故動カナイ‥何ヲ待ッテ‥」
「‥‥雷切」
雷衣を纏った頼光が抜刀しながら曇天の下を駆け抜ける。もはやサクリファイスの言葉を聞くことなく、自らの加速と雷魔法をその一刀に乗せてサクリファイスの首を狙う。
(馬鹿ガ‥‥コレデ 私ヲ滅スル ナド 笑ワセル。私ガ 周囲二 自動反撃ノ 魔法ヲ 設置シテル事モ知ラズ‥‥)
「視えてんだよ」
「何ヲ言ッテ‥‥ッ! 貴様ッ マサカ!」
頼光の視界には無論見えていた。サクリファイスを覆った魔力のベールの存在を。本来、人間に見えるはずのない魔力の色が頼光の目の中に存在していた。
「入ッテイルノカ‥‥『色の無い世界』に!」
「頭ん中で戦ってるようじゃ、俺には勝てねえぞ」
頼光の振った一刀は的確にサクリファイスの首元を捕える。本来であればベールに阻まれ刀の威力は殺される。しかし頼光はその眼でベールがかかる瞬間すらも見切る。
「甘いんだよ!!」
サクリファイスの意識がその攻撃に向かれた瞬間に頼光は刀を振る速度をさらに上げる。だがその反面、刀身には亀裂と雷撃が走り今にも砕け散ってしまうような脆さになっていた。
「バカガ! 貴様ノ魔力デ 自ラ ノ得物ヲ 破壊スルトハナ!」
「うるせえよ目玉装束」
振り切った。言葉よりも先に刀で薙ぎ払った。サクリファイスの首から左脇を高密度の魔力で形成された刃で斬り裂く。
(逸れたか‥‥)
「ッ!!」
頼光の流し続けた魔力に刀身が耐えられるはずもなく粉々に砕け散る。サクリファイスは口から体液を零しながらも、その様を見て口角を吊り上げた。
「オ前ノ負ケダ。貰ウゾ 神ノ雷ヲ」
「再生に魔力を回してるな‥‥最初の言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
頼光が折れた刀を下に投げ捨てると、その右手に頼光の背と同等の刀身を持った大剣が現れる。
「ナンダト‥‥」
「今のお前に受け切れるか? 俺の本命の一撃。前座でボロボロだったお前が」
頼光の大剣は自身の魔力と曇天の中の落雷をを吸収し続ける。雷切の時以上の魔力は周囲の景色すらも歪めているように見えた。
「ゼウス‥‥神具奥義」
『小僧。出力は?』
「半分だ。それぐらいなら奪われても叶夢達が対処出来る」
『貴様、口を慎め。俺の雷霆が簒奪されるなど冗談でも笑えぬぞ』
「ゼウス、何も俺はお前を信じて無いわけじゃない。こいつは俺のミスだ」
『ミスだと?』
「雷切をぶっぱなした時に理解したんだよ。あいつは初撃で俺の落雷を喰って、あの雷切を耐え切った」
『それがどうした』
「俺はあれを殺す気で使ったんだよ」
ゼウスの言葉を遮り、頼光は言葉を吐き出す。
「あいつは戦いの中で進化してんだよ‥‥他人の魔力を捕食し続けて、進化の速度すらも進化させてる。本来魔族が耐性をつけるにはどんだけ早くても一日掛かる」
『ただの魔族があそこまで‥‥いや、超魔族というのだったな? だったら尚更仕留めるべきだと』
「初撃で決められなかった。その時点で俺じゃ倒せない。ならやる事は簡単だ。俺が瀕死にさせて止めを別のやつにやらせれば良い」
『俺を前座として踏みつけるか!』
「あぁ。こいつは俺が殺すべきじゃない。アイツらが超えるべき壁なんだよ。だからさ、俺の後輩育成に少しばかり付き合ってくれ」
『‥‥クッハハハハハ!! 乗ってやる! さすが我が認めた小僧だ! 解放を許可してやる!』
「小僧の歳どころか、子供二人いるんだけどな‥‥」
頼光は左手を大剣の持ち手に添えると、刃に流れる青い雷が刀身を覆い尽くす。
「さぁ、行くぜ。サクリファイス!」
「来イッ!」
頼光は雷を纏った大剣を天に振り上げる。その様はまるで本来空から落ちるはずの雷が天に逆流してるかのようだった。
「主神雷霆・極点!!!」
天を震わす轟音と共に、頼光は雷そのものとも言える自分の刃を目の前の魔族に振り下ろした。




