表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
71/83

第71話 融解Break down

「朔夜、君の役目はなんだ?」


「いきなりなんですか」


「なに、私の暇潰しだ。付き合いたまえ」


「わかりましたよ‥幹部じゃなかったら余裕で断ってましたけど」


書類と血と死体が散乱した書斎。そこには机の上に座る黒い長コートを肩に羽織った男がいた。男は長めの髪の隙間から左目を覆った包帯を覗かせながら、右手の指で帽子を廻しながら朔夜に問いかけていた。


「それでさっきの質問だ。君の役目は?」


「組織の潤滑油ですけど」


「もっと具体的に言いたまえ」


「質問が抽象的過ぎんだよ。俺に具体性求めないでください」


「あれおかしいな。私ぜルリッチファミリーの幹部で君の上司のはずなのに‥まぁいい。では質問を変えよう。

君は他の魔子よりも何が優れてる?」


男の光の無い目が朔夜を睨む。


「突然ですね。頭ですよ。作戦を立案するための頭脳」


「ほう。なら憐れな話だ。その頭脳の弱点が予想外とは」


「‥‥」


朔夜は目を逸らすように視線を転がった死体に落とす。男は表情を変えないまま淡々と話を続けた。


死体コレは君の失敗が招いた死だ。生かすことが出来れば情報に繋がり得たものを‥」


「それは申し訳ありません」


「謝罪は死を以て償え。ゼルリッチから言い聞かされてるだろ?」


「‥‥そうですね」


朔夜は足元に転がっていた拳銃を取ると、銃口を自分のこめかみに向ける。


「あー、ストップストップ。変なこと言った私が悪かったよ」


朔夜が引き金に指をかける寸前に、男が銃の上に手を置いて朔夜に銃を下ろさせる。


「まぁなんだ。この失敗は私が被っておくよ。君は後に同じ失敗をしないように心掛けてくれ」


「そんなことでいいのか?」


「あぁ、まぁその簡単なことが出来ないのが人間っていうものだから。私はそう割り切ってるよ」


「でも俺は‥魔族ですよ?」


朔夜の発言に男は少し目を見開くと、そのまま静かに微笑んだ。


「なら尚更殺せないな。そんなに自我を持って、まるで人間みたいな見た目をした魔族はそうそう居ないからね」


「はぁ‥」


「さて、責任を被る私からの条件だけど」


男は持っていた帽子を朔夜の頭の上に乗せる。


「これから先、君はこの帽子をかぶって生活する事だ」


「は? それだけ? その程度のことでいいのか?」


「あぁ、その程度でいい。戦闘中も日常を送っている時もそのままでいることだ」


「つくづくおかしい人だな‥こんなことが罰として機能するのか?」


「ふむふむ、やっぱり君もまだまだ理解が足りてないようだね」


「と言うと?」


男は自らの人差し指を朔夜の額に押し付ける。


頭脳ブレインというのは常に余裕を持って行動するのが絶対条件だ。もちろん今日のような失敗は論外中の論外。であれば君は余裕を持つべき‥いや作るべきだ」


「想定外のことが発生してもか?」


「頭脳を名乗るならその言葉は二度と口にしない方がいい。君が叶夢なら私は迷わず殺していたよ」


「ッ!‥‥申し訳ありません」


朔夜が男の言葉に血の気が引いた。その声色こそ変えなかったものの、その言葉には怖気づかせる程の重みを朔夜に感じさせた。


「想定外すらも想定内に収めろ。予想外なんて自分が嗤う為の喜劇だ。もし君が帽子のことを気にすることが無くなれば、君はようやく頭脳を名乗ることが許される」


「そういうものですかね‥」


「あと私が君に向けてアドバイスをするとすれば‥誰も信じるな。チームメイトすらも」


「何故ですか?」


「彼らは彼等であって君では無い。君の作戦がどれだけ完璧に作られたとしても実行が必ず成功するとは限らない。故に君は作戦とともに考えることがある」


「‥リスクヘッジ。失敗した時の立ち直らせ方です」


「そうだ。君は自分の中だけで机上の空論を完璧にしなければならない。故に」


「「他人の意見を入れるな。自分の完璧にほころびが生まれる」」


額にあった指は胸に降ろされると同時に、朔夜の口から男と全く同じ言葉が出た。


「君に必死とか根性論は似合わない。この言葉を胸に刻んでこれからの人生を歩む方が幸せだと私は思うよ」


「‥簡単な話でしたね。要は一人で完結させればいい」


「まぁ? 君がもしその帽子を外さなければならないピンチが来たら? それはそれで楽しみたまえ。恐らくそれは私と離れた後になるだろうからね」


「あはは。そんな日俺が来させませんよ」


「まるで笑ってない声。それでいいんだよ」


その日、朔夜の中の世界は朔夜だけになった。他人は死んで二度と心に踏み入る事は許されない。牢獄か楽園か。朔夜はどちらかもわからないまま、心の鍵を掛けた。


ーーーーー


(楽しめ‥か‥そうだな)


記憶の夢を見ていた朔夜の意識が僅かに戻る。


「ジャアナ」


「‥‥」


櫂が振り上げた右足で横たわった朔夜の頭蓋を踏み潰そうとした瞬間。僅かに朔夜の表情が櫂の目に入る。


「‥ッ!? ナンデテメエ ワラッテンダ?」


「‥何でって‥楽しいからに決まってんだろうが!」


朔夜の狂気に満ちた叫びと共に、櫂の左脚に朔夜の槍が突き刺さり貫通する。もちろん槍の主は朔夜だった。


「グッ!‥ナンデ カンツウ デキテンダヨ! モウ ソンナチカラ ノコッテネエダロ!」


「はぁーー? お前の常識押し付けんなよ。現になってるだろうが」


体勢が崩れた隙に朔夜は自ら羽織っていたマントを櫂に投げつけて、視界を遮断する。突然布に視界を阻まれた櫂にさらに大きな隙が生まれてしまった瞬間であった。


「ヤリカタガ‥ヨウチナンダヨ!!」


「黙って見てろよ! お前の出来ることなんて俺の知ってる範囲で全部カバーできるんだからよ!」


突如として櫂の視界からマントが消える。数秒ぶりに外に目を向けた櫂を待っていたのは斬られたはずの右腕を覆った巨大な黒い雷の姿だった。


(マテマテマテ‥ナンダヨ ソレ!?)


「あ! 今驚いたろ!? お前思った通りの反応しかしないな!」


朔夜は口角をこれでもかと吊り上げながら黒い雷をまとった右腕を振る。


「オナジテガ‥ナッ!?」


櫂は起こった事象に目を疑った。自分の鋼鉄の装甲が雷によって抉れたのだ。さらにその傷は装甲の下の身体にも届いていた。


「ナンナンダヨオマエエエエエエ!!」


「知らねえよだまってくたばっとけやクソが!!!」


朔夜の攻撃に押し負けた櫂は階段を転がり落ちる。その様子を見た朔夜は骨格だけが残った右手で口を隠して笑い声をあげる。


「あっははははははは! 櫂、教えてやるよ。超魔族になる為のトリガーを。簡単だよ。罪の逆をすればいい」


「ツミ ノ ギャク ?」


「罪ってのは俺たちが背負うべき業だ。そして人間の心の底の本心はなんであれその業を嫌うんだよ。それがあるかぎり自分は自分になれない」


「ナニイッテンダヨオマエ‥ツイニクルッタノカ?」


「あの時叶夢は千夜を捨てる事を『諦めなかった』から超魔族になった。『怠惰』であることを放棄した。だから中にいた化け物が出てきたんだよ。そしてそれは同時に魔子である俺にも言えたことだ」


朔夜の黒い雷が身体中を覆い始める。その雷は左手に持った槍ごと朔夜を呑み込んだ。


「『嫉妬』である俺のトリガーは『友愛』。気持ち悪くて言いたくもねえが、俺からの最後の話だ」


朔夜は黒く染った目を櫂に向けて呟いた。


「お前やっぱ面白いわ‥アアアアアアア!!!!」


「オイオイ‥マジカヨ」


「ーーーーッ!」


顔を黒い魔力が覆った時、意識無き破壊衝動の塊となった朔夜は咆哮を上げて櫂に襲いかかった。櫂は直ぐに防御の構えをとるが、朔夜が振り上げた右腕の黒い雷によって防御にしようとした両腕を装甲ごと切り裂いた。


「ナルホド‥コイツ ガ 超魔族デスロード‥タシカニ ツヨイガ コノテイド ナラ」


体勢が崩れた一瞬に朔夜は左手に固定された槍を振り上げる。それと同時に槍を覆っていた魔法が龍の顔のような形になり、櫂に向けて咆哮を上げた。


「オイオイ! ココラ イッタイ コワシツクスキ カヨ!」


櫂の感が告げた。

『逃げろ』と。

しかし朔夜の目はハッキリと櫂の姿を捉えていたが故に、同時に左腕の龍もその口を櫂に向けていた。


「コイツ ハ マズイ‥ツカサ ノ モト二!」


「‥雷鳴と共に死に絶えろディザスター・オブ・サンダーストーム


朔夜が魔法の名を告げる。それに応えるように左手の龍は開いた口から高密度の雷魔法を放った。触れた場所は赤く融解し、反動によって出来た雷の余波だけでも敵をいとも簡単に感電させる程の威力の魔法が、たった一人の腕から放たれていた。

櫂が背を向けて階段を走り出した時には既に遅く、朔夜の魔法は櫂をいとも容易く飲み込む。


「グアアアアアアアア!!!」


雷を通さなかったはずの魔力に作られた鋼の鎧は熱によって溶け落ちる。それによって発生した熱と雷撃による高熱。櫂は炎の中よりも過酷な破滅の光の中に閉じ込められ、声にならない断末魔を叫び散らしていた。


「‥ッ!‥げほっげほっ」


しかしその一撃にも突然に終わりは訪れる。朔夜を覆っていた魔力に亀裂が入り、一部が霧散する。それは同時に朔夜の生命の限界を示していた。


「時間切れか‥まぁあんだけ魔力を浪費しまくればそうか‥あぁ、もう少しなのにな‥」


やがて朔夜を覆っていた魔力の塊はひとつ残らず塵になり風に消えると、朔夜はまともに立つ力すら失い後ろに倒れた。


「ぜェぜェ‥どうしたァ! まさかこれで終わりか? 仕留められてねえぞ!」


(あの鋼さえ無けりゃ殺せてたのにな‥)


「確かにてめえ雷魔法は見事だったぜ。でも相手が悪かったなァ! てめえの雷は俺の磁魔法をさらに強化する結果になったがな!」


身体の所々に火傷あとを残しながらも、櫂は生きていた。朔夜は抵抗する余裕すら持てず、櫂の磁力に引き寄せられ首を掴まれる。


「がっ‥」


「‥まだそんな目が出来んのかよ‥そうかまだ叶夢がいやがったな。じゃあ丁度いい」


櫂は空いた左手で指パッチンをする。朔夜はその意味が理解できずにいた。


「‥今、あいつの首にしかけた魔法が起動した。多分喉に石詰まらせて死んだぜ?」


「‥あぁ‥そうかよ‥」


「気に病むなよ‥俺があいつの元に送ってやるからさァ!」


「ぐっ‥がっ‥」


櫂の首を掴む手の力が強まる。まともな呼吸も出来ないまま朔夜の意識が途切れ途切れになった。


「ほーら! は・や・く逝けよ!」


「‥ぶっ」


朔夜は口の中に貯めた血液を櫂の目に向けて吹き出した。


「うぁ!‥てめえ!」


力が緩んだ隙をついて、朔夜は櫂の手を振りほどき、後ろに下がった。


(‥詰み、か。右手の再生が間に合ってない。さすがに骨だけで動かすのは無理だしな‥魔力も切れてるし‥)


「この野郎‥ふざけた真似を!」


櫂はようやく左目の視界を確保すると朔夜に向けて金属片を飛ばす。避ける気力すらない朔夜は目を閉じて呟いた。


「‥あとは任せましたよ」


「「朔夜ーー!」」


「え?」


自らを呼ぶ重なった声に朔夜は、閉じきっていた瞳を開く。その目に映った光景は‥。

次回から視点を叶夢に戻します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ