第61話 笑みの残り香
「ここが裏路地の入口かにゃ‥」
叶夢達、31小隊の5人は監視カメラのある裏路地の入口にいた。そこは人通りの多い活気ある商店街の中にポツンとあり、一歩進んだだけでも後ろの賑わいの声は一瞬で消えるような静けさを漂わせていた。
「ここの人達も絶対に立ち寄らない無法地帯‥ほんとに入るんですか?」
「あはは‥紫以奈。ここまで来て、引き返すなんて俺が言うと思うか?」
「だろうにゃ‥なら調査終わらせてさっさと帰ろうにゃ」
豹助は焦り気味に裏路地に足を進める。
「うわっ!!」
「ど、どうしたの豹ちゃん‥」
「いや、入ろうとしたら静電気みたいなショックが‥」
しかしその歩みはすぐに止められた。叶夢は溜息を吐きながら首を斜めにする。
「そりゃ、間違って一般人が入らないように結界張ってるからだろ。もっと進めば更にいい一撃貰えたのに‥‥惜しい」
「それ早く言えにゃ! つか惜しいってなんだにゃ!?」
「でも叶夢、どうするんですか? これじゃここに立ち入るのは‥」
「安心しろ千夜。こういうのは追い出すのが目的であって、強行突破には案外弱かったりするんだ」
叶夢は裏路地の入口付近に手を伸ばす。伸ばした手のひらには魔力による電撃が、叶夢を拒絶するように流れていたが、叶夢はそこに自らの黒い魔力を逆流させた。
「叶夢くん、何やってんの?」
「見てりゃわかる‥ほらそろそろだ」
叶夢の逆流させた魔力が、虚空に亀裂を走らせる。四人はその時点でようやく叶夢が何をしていたのかを察することになった。
「お、お前‥まさか」
「ちょちょ! 叶夢くんストッ」
白鳩の制止も間に合わず、叶夢の魔力は裏路地の結界を粉々に破壊した。大きなガラスが割れる様な音がその場所に響く。
「よし、これで問題なく入れる」
「よし!‥‥じゃねーですよ!」
やり切ったという表情の叶夢の背中を千夜は思いっ切り蹴飛ばした。
「いってえ!」
「何でわざわざ結界を壊したんですか! 叶夢はあちらこちら破壊しないと死ぬ呪いでもかかってるんですか!?」
「人のことを脳筋みたいに言うなよ」
「どの口で言ってんだにゃ」
叶夢は背中を痛そうに抑えながら立ち上がると、服に着いた汚れを叩いて落とす。
「俺らが欲しいのは情報だ。そしてその情報をくれるのは他でも無い人間。でも正直探すのはめんどくさい。だから勝手に出てきてもらう」
「こちらからしたら敵意剥き出しじゃねえかにゃ‥」
「どうせ向けられる感情だ。それにここに住んでるような奴らのルールは決まってる」
「ルール‥ですか?」
「あぁ、アイツらは強いやつの言う事しか聞かないってことだよ」
叶夢は背中をに手をやりながらその足を薄暗い路地に進めた。
ーーーーー
「なるほどな‥ありがとよ。ほら」
「わーい! ありがとう!」
聞き込みを初めて数十分。叶夢は子供を中心に話を聞きながら飴の袋詰めを配っていた。
「何やってるんですか?」
「子供の方が嘘はつかない。だから聞き回ってるだけだ」
「意外だにゃ。お前子供相手に出来たんだにゃ」
「意外ってなんだよ。俺はクソガキが嫌いなだけで子供は普通だよ」
「あー同族嫌悪って奴だね」
「白鳩。否定できないからそれ言うの無し」
「自覚あるのかにゃ‥」
「そりゃ自覚なきゃこんな性格してねえし‥」
「隊長、一先ず情報整理をしましょう」
紫以奈は叶夢の持ってきた飴を頬張りながら、メモを広げる。
「まず基本情報。情報屋が裏路地のゴミ置き場にて死亡。死因は映像見るにナイフで刺されたことによる失血死。犯人は翔真先輩であり、その犯行の瞬間は監視カメラに映されていました」
「いい笑顔してたにゃ‥先輩」
「ここからが得た情報。子供達が見たモノについてです」
紫以奈はメモのページを捲る。
「まず、殺害された時間帯は昼から夕方にかけての間。あの場所は子供の遊び場としても使われていましたが、その時間帯は子供達は別の場所で遊んでたみたいです。そして戻ってきた時に血痕を発見した‥以上ですね」
「時間帯は分かってたとして、あの場から子供が出払っていたっていうのは貴重な情報だね‥それと気になるのは」
「あぁ、ガキ共が見つけたのが血痕だけ‥‥死体が見つかってない」
「朔夜くんからの情報でも、警察側も見つけられてないみたい」
「一先ずその血痕の場所に行ってみるか‥」
「行ってみるかって‥わかるのかにゃ? 場所」
「心配すんな。こっちは臭いでわかんだよ。魔族舐めんな」
叶夢は鼻をほじりながら、その足を奥に進める。四人は不安そうな顔で叶夢の後を着いて行った。
「そういや思ったんだけどにゃ」
「ん? どうした豹助」
「なんで内通者はこんな回りくどいことしたのかにゃって」
「どういうこと?」
「だって思わないかにゃ紫以奈。正直俺はあのカメラ映像だけじゃ決定的とは思えなかったんだにゃ」
「まぁ人殺して、現場撮られたカメラに笑顔ってよくよく考えたら狂気の所業ですよね」
「つまり豹助くんが言いたいのは‥なんでこんなあからさまに嘘だって分かる映像を決定的証拠にしたのかってことだよね。確かに僕もそう思う。現に今僕らに疑念を残してるからね」
「豹助にしてはいい点に目をつけたな」
「お前はまた馬鹿にしやがって‥てめえは」
豹助は舌打ちをしながら叶夢を睨みつける。
「いやいや馬鹿にしてねえよ。俺にしては珍しくお前を褒めたんだよ豹助」
「分かりにくいわ!」
「あぁ? 分かりにくい‥か?」
呆気に取られた叶夢の疑問に、四人は首を縦に振る。
「‥今度から気をつける」
「えぇ、急にしおらしくなるなよにゃ‥気持ち悪いにゃ‥」
「叶夢くんの課題だね。本読んでるんだったらもっと語力あげようか」
「‥努力する」
「叶夢、話脱線してますよ」
千夜はやれやれと言った表情で助け舟を出した。
「そうだった‥映像におかしい点があえて残されてる理由だっけか?」
「そうだにゃ、内通者っていう重要な役割してるような奴がこんなガバガバムーブする訳ないにゃ」
「ま、ボロが出てバレちゃったてへぺろで済まないからな。野郎も相当慎重に行動してるはずだ。じゃなきゃ今疑い持って行動してる俺らにこんなに水面下で動かれてねえよ」
「‥‥もしかしてそれが目的なんじゃないですか?」
二人の発言に、千夜が何かを確信する。
「千夜、どういうこと?」
「ちょっと話が長くなりますけど、いいですか?」
「駄目」
「叶夢うるさいです」
千夜が素早く氷魔法で野球ボールサイズの氷塊を作り、叶夢の後頭部に当てる。
「痛っ! 冗談だからさっさと話せ」
千夜はひと呼吸おいて話し始めた。
「まず映像の杜撰さ‥ですよね。多分それわざとなんじゃないですか?」
「わざと‥ってどういうことだにゃ?」
「あえて疑念を抱かせることで、それによって行動してる人達をまとめて釣っちゃえば、不安要素を限りなくゼロに出来ます」
「なるほど、僕らみたいな不安要素を翔真から芋づる式に引っ張り出すってことか」
「でもそれっておかしくない? 実際、そこまでしなくても10小隊以上の先輩達はそもそも元から目立った行動はできないんじゃないの? 現にそれで私達が動いてるのであって‥‥」
「紫以奈、前提が違いますよ。私はこの映像流出自体が内通者にバレてるってことで話してるんです」
千夜の言葉に豹助が納得した様子で首を縦に振る。
「なるほどにゃ。10小隊の奴らは目の届く範囲で監視はできるが、それより下の小隊には目が届きにくい。だったら目が届く場所まで誘導すればいいってことだにゃ」
「てことは‥」
「おいおい、ご明察なのは嬉しいが、今それを話すか? まさに今から俺ら罠にかかろうとしてんだけど」
白鳩の前を見る目が鋭くなり、叶夢が四人の会話に後ろを向いて苦笑いを返す。
「着いたぜ。ここが事件現場だ」
狭い道を進んだ先にあったのは、ビルの壁に囲まれたテニスコートほどの広い空間だった。
「意外と広い場所だにゃ‥」
「あ、あれじゃないです?」
紫以奈が何かに気づき指をさす。その先にあったのは壁に大きく付着した新しめの血痕だった。
「割と綺麗に残ってんな」
「叶夢、まだ見つかってない死体は近くにあるかにゃ?」
「‥‥あるっちゃあるが‥」
「何だにゃその反応」
叶夢が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら口を開く。
「あー胸糞悪いわ‥この場所のあちらこちらに点在してるんだ。この血痕と同じ匂いが」
「何だにゃ‥それ」
「ともかく壊して確かめてみるか‥ッ!?」
叶夢が血痕から離れようとした瞬間、五人を包んでいた静かな空気が大きな魔力の流れによって塗り潰される。
「何だにゃ‥この魔力‥」
「趣味悪い罠仕掛けてくれたね‥」
白鳩が弓を構えた先に、黒い穴が現れる。それは五人が見慣れた災厄そのものだった。
「なんでこんな所に魔族の巣が‥発生してるんですか」
「とはいえ小規模だ。これぐらいなら巣をそのままぶっ叩けば‥‥とも行かねえか」
叶夢は、白鳩が見た場所とは反対の後ろの壁に目を向ける。そこには同様な魔族の巣が現れていた。
「さっきも言ってたろ‥罠って」
「白鳩、そっちの対処知ってるか?」
「知ってるよ。最大火力で」
「魔法をぶつけて霧散させる‥だっけかにゃ?」
「分かってるならいいか‥千夜、こっち手伝え」
「はいはい‥手早く終わらせますよ」
千夜が背中の太刀を抜くと、叶夢も抜刀して魔力回路に魔力を流す。
「こっちも早めに終わらせるよ」
「白鳩〜、そっち三人なんだから終わったら早くこっち手伝えよー」
「はいはい、わかったよ叶夢くん」
五人はそれぞれ、背中を向けながらも同じ敵を見据え武器を構えた。




