第6話 神具
村雨は静かに部屋に戻った。途中、何も無いところにつまづいた所を見る限り、村雨自身も自分のしたこととされたことを理解していたようだった。
「はぁ‥なんて日だ」
叶夢が時計を見てみると既に正午を過ぎており起きた頃に窓に光を届けていた太陽も、今や窓の向こうに姿を移すことなく建物の真上から光を放っていた。
叶夢はベッドの隣に畳んでおいた赤いフードを着て部屋を後にし、リビングに向かった。
「さて‥どう説明しよう」
言いにくい。あの状況を見られて、村雨が原因等と言って納得する者がいれば、それは頭を常にコマ並に回してるような者だろう。叶夢は弁解を考えてるうちにリビングについた。
そこで叶夢を待っていたのは白鳩と矢岬と豹助による六つの蔑むような視線と、放心状態でソファに座る村雨の姿だった。
「んで、俺が襲われてる時になんの資料取ってきたんだ?」
「説明無しで襲われるってよく言えたものだにゃ‥まぁ、事情は村雨から聞いたからいいけど」
「お前ら知ったうえでその目か。えーと‥神話とか英雄譚とかが殆どだな」
叶夢はテーブルの上に並べられた資料をパラパラ読みしながらどんなものが載っているのかを確認した。そこには旧約聖書やギリシャ神話、クトゥルフ神話など多くの物語があった。
何故こんなに物語を集めたのだろう。
「そりゃそうだよ。こっからみんなの神具を探すんだから」
「もしかして神具知りません?」
神具。神や英雄を武器として閉じ込めた物。主に神具の能力は伝承が元になると言われてる。わかりやすい例としては、ゼウスなら強力な雷。アーサー王ならエクスカリバー召還など。こういった武器があれば、より強い魔族との戦う手段にもなる。
「それぐらいなら知ってるよ。俺が聞きたいのは何で今更神具なんざ漁ってるのかってこと」
「あぁ、そういえば叶夢君には届いてなかったんだよね。これ」
白鳩がテーブルの茶封筒から取り出したのは、4枚の書類だった。叶夢はそこから1枚を取り目を通した。
「綾文 白鳩 様。この度は神具適性において適合しました。つきましては、4月25日午後8時に中央舍地下5階において神具顕現を行いますのでお越しください‥こんな文書で届くのか」
「これが人数分届いてたんだにゃ。4人分」
「4人分。知らないのは俺だけ‥俺以外来てるんじゃねえか! 逆に何で俺には来てないんだよ!?」
「てなわけで俺らは自分に相応しい神具を調べる為に、この資料を漁るんだにゃ。大体夕方5時まで!」
(相応しいって‥神具って選べねえんだぞ?)
神具の神はそれと最もゆかりのある武器が触媒になる。どんなものでも触媒になる。それが棍棒でも。木の棒でも。ましてや人の身体さえも
‥最もそれとゆかりのある英雄や神がいればの話だが。
「確か‥お前らの武器は‥豹助がいろいろって言ってる割には剣しか使ってないから剣」
「それが一番使いやすいんだにゃ」
「白鳩は弓矢。身をもってコントロールの良さは知った」
「それほどでも」
「褒めてねえよ」
叶夢は女性陣に視点を変える。
「矢岬さんは、スナイパーライフルでいいんだよな?」
「紫以奈とお呼びください。はい合ってます」
「わかったよ紫以奈。最後に村雨は刀」
「ちょっと待って下さいよ!」
放心状態だった村雨が突然起き上がる。
「なんで私だけ苗字なんですか!? 私も名前で呼んでくださいよ!」
「どうでもいいことに反応すんな!」
「だって寂しいじゃないですか! 私だけ苗字呼びって!その流れは全員下の名前で統一でしょ!」
「‥悪い。悪かったからもう喋るな‥」
叶夢は耳を塞ぎソファに座り文献を読み漁る事にした。
作業は夕方5時までまわった。
叶夢以外の4人は、夢中で神話などを漁っていた。一方の叶夢は4時間の間ぐっすり夢の中だった。
「ほーら叶夢くん。起きるにゃ。もうお勉強終わったから資料を返しに行くにゃ。今度は5人で」
目が覚めると俺の前には綺麗にまとめられた資料があった。皆は資料を持ってそれぞれ部屋を出ていた。
「そういえば昨日‥冷蔵庫の中身見たらと腐った海の森みたいになってたな‥もろもろ買うか。豹助か白鳩捕まえて」
叶夢はテーブルに置かれた資料を持って小走りで部屋を出た。
日暮れとはいえ、廊下とその向こうに目を配るとかなり広く感じた。
「やばい。中央舍の地下って何処だ‥知人いないしな‥神座にでも聞きに行くかな。そういえばあいつが日本支部のトップだったな。道理で他の征魔士の目が鋭くなったと思った」
叶夢が自ら長い独り言だなと思いつつも十字路に足を踏み入れた時だった。
「おっと」
「うわぁー!」
右から来た人影にぶつかりそうになったので叶夢は一歩足を引いた。右から来た人間は体制を崩し地面と激突した。
「大丈夫ですか?」
「いやいや大丈夫だよ。ぶつかりそうになった君に非は無いから。ったくうちの隊長は人使いが荒いなぁ‥」
少し荒れてる黒髪の色白で眼鏡の下に写った翠の目の下に色の濃いクマがある人は資料を集めながら愚痴をこぼしていた。
「もしかして図書館に? あぁ、これどうぞ」
「どうも‥そうだよ。君は見たところ新人のようだね。図書館、一緒に行きますか?」
「ありがとうございます!」
叶夢と青年が中央舍につき、階段に差し掛かったとき、青年は口を開いた。
「そういえば名前聞いてなかったね。31小隊の新人くん」
「そういうのはまず自分から名乗らないと‥」
「そっかそっか、そうだったね。俺は桐原 銃造。銃って名前がついてんのに弓を使ってる征魔士だ。歳は17」
「刀堂 叶夢。16です。刀使ってます。そういえば桐原さんはどこの小隊所属なんですか?」
「んー? 10より上とだけ言っておくよ」
「すごいっすね‥」
「そんな事ないよ‥ほれついた。ここが図書館。と言っても第二だけどね」
「あぁ、文献とかはここにしまってあるんですね」
「そうだよ。外の図書館の本館何かは色んな本がある。有名な作家の本だったり‥あとラノベとかね」
(娯楽の為の本なんだろうけど‥‥何でライトノベルまで揃えてあるんだろう)
叶夢はそんな事を思いながらも桐原について行き文献等を元の場所に収め、図書館を後にした。
「付き合ってくれてありがと‥えーと‥叶夢。また縁があったら今度は飯でも。俺はこのあと用があるからここでお別れだ」
「是非。ありがとうございました」
中央舍1階のロビーで互いに別の方向に歩き始めた。叶夢はこのまま部屋に戻る事にした。
「刀堂‥どっかで聞いたことあるんだよなぁ‥」
桐原は顎を手でさすり、何かを思い出しながら後ろの人混みの中に消えていった。