第55話 絶望に射す閃光
四月以降は社会人になるため、投稿ペースが落ちます。申し訳ありません。
さて55話をどうぞ!
「やれやれ‥‥叶夢くん達大丈夫かね‥」
桐原の率いる別働隊は、エリア3で魔族の巣の封印を行っていた。しかし白鳩だけは木に背を預けて休んでおり、その護衛には刀を構え、周囲に目を向ける千夜の姿があった。
「問題ないと思いますよ」
「村雨ちゃんまでそう言うのね‥‥僕が過保護すぎるのかな」
「そんな事ないです。ただ、前と違ってあの霧の向こうには叶夢を見てくれてる人がいる。そう思うと少しは不安がなくなるんです」
「だといいね‥‥」
そう呟くと白鳩はエリア3の状況を見る。エリア3にはスパイダーデビルが溢れており、封印をしようにも邪魔が入って出来ない状態に陥っていた。
「こっちもこっちでジリ貧なんだけど‥」
『白鳩、こちら桐原。エリア5側はどう?』
「こっちから見ても魔族の数が多過ぎる。たぶんこの状況だと巣は相当元気見たいだね」
『まぁ隣のエリアが、あんな状況だから‥それでだ。人数を分ける。封印の人数を六人にして残り五人を戦闘部隊に回す』
「メンバーは?」
「俺、豹助、紫以奈、千夜、オズワルドの五人だ。今から連絡し」
『それは必要ないにゃ!』
白鳩と桐原の通信に豹助の声が割り込む。白鳩が前に視点を向けると、遠くで魔族達が断末魔をあげているのが見えた。
「紫以奈! 聞こえてたよにゃ?」
『当たり前よ!』
白鳩は半ば呆れながらも、微笑みながらその光景を見る。
「悪いね。今回の僕の小隊はいい意味でも悪い意味でも優秀なんだ」
『いやほんと早いよ!?』
白鳩は通信を切って千夜に目を向ける。
「とのことだから村雨ちゃんも行ってきて」
「白鳩さんは?」
「僕は大丈夫だから」
「‥‥わかりました!」
千夜も微笑んで返事をかえすと、戦場に向けて走り出していった。白鳩はそれを見送ると周りに紫色の霧を発生させる。
「急場凌ぎではあるけど無いよりはましか‥‥さて、頼んだよ。みんな」
その霧によって白鳩に近づいていた魔族が崩れ落ちるように倒れ始めたが、それを白鳩は目にもとめず千夜の背中をずっと見つめていた。
ーーーーー
「豹助さん! 村雨 千夜合流しました!」
「おー千夜! ちょうどいい所だったにゃ!」
「ってなんですかこの量!?」
千夜が着いた時には魔族達の死体が地面を埋めつくし見えなくしていた。豹助は神具を解放して四本の聖剣を操り、自分に向かってくる敵を首を跳ね飛ばしてその死体の道の一部にし続けていた。
「このペースで狩り続けねえと絶対物量で負けるからにゃ!」
「豹助副隊長! 僕もお手伝いします!」
豹助の横からパーカーの袖を捲ったオズワルドが走っていく。その袖の下の両手は黒色の手甲に覆われていた。
「みなさん! 少し眩しくなりますがすいません!」
オズワルドは手のひらに魔力を貯めて、それを無数の玉にして空に向けて放つ。
「群れなす光!」
空に打ち上げられた魔力の玉は、一つ一つが眩しい光を放つ。青空が、影が、全てが白に飲み込まれる。
「眩し過ぎだにゃ!?」
「あまり上は見ない方がいいですよ! あとは僕がやるので!」
オズワルドはその白の中でも魔族の姿、そして豹助達の姿を認識出来ていた。顔を腕で隠す仕草をしていた魔族は、オズワルドにとって格好の的でしかなかった。
「光牙一閃!」
オズワルドが使用した魔法は自らの身体をその白に同化させた。その光は複雑な軌道を描きながら魔族の身体や顔に拳のあとを残す。
光速で放たれた打撃は一撃当てただけでも内部を破壊する程の力を持っていた。
「おぉー! 凄いにゃ!」
既に群れなす光の光が終わっており、オズワルドが倒した後にはオズワルドが通った光の軌跡が残っていた。
「はっ‥すいませんすいません! 皆さんの目を潰してしまって!」
「凄いですオズワルドさん!」
「千夜! 感心してる暇はないよ!」
千夜が目を輝かせながらオズワルドを称賛するが、その興奮は紫以奈によって冷まされる。オズワルドが倒した量以上に魔族の巣から魔族が溢れ、こちらに向かってきていた。
しかしその中に一つの人影が紛れ込んでいた。
「みんなー!」
「桐原先輩! 巣の状況はどうなってるにゃ!」
「巣の封印は無事成功した! あれが最後の軍勢だよ!」
巣の近くにいた桐原は息を切らしながら豹助達に合流した。
「あれが最後なら‥紫以奈、アレやりましょう」
「え、あれ!?‥‥まぁいいけど」
「お? なんかあるのかにゃ?」
「桐原先輩、魔力回路の状況は?」
「巣の主のアラクネ倒すのにちょっと使っちゃって、現在ヒートアウトしてる‥」
紫以奈が桐原の様子をよく見ると、肌のあちらこちらに焦げ跡や煙が上がっていた。
「戦闘は無理そうですね‥‥それじゃ、豹ちゃん。オズワルド副隊長」
「にゃ?」
「何です?」
「私と千夜であの群れの動きを止めます。トドメをお願いできますか?」
「‥やれそうです? 豹助副隊長」
オズワルドが豹助に不安な表情を向ける。豹助は紫以奈の問いを鼻で笑い飛ばす。
「誰に向かって言ってんだにゃ‥‥全部俺がやってやるにゃ」
「それでこそ豹ちゃん」
「あとオズワルド副隊長、俺のことは呼び捨てでいいにゃ。どうせ立場はあんたの方が上だし‥」
「なら僕も呼び捨てで結構です。呼びずらいでしょ? 名前と役職なんて」
オズワルドの豹助に向けた不安は消え、二人は拳を軽く合わせた。
「おっけーだにゃ。紫以奈、千夜。足止め頼んだにゃ!」
「よーし‥それじゃ私が紫以奈に合わせます!」
紫以奈が背中からスナイパーライフルを取り出し、銃口をその軍勢に向ける。千夜もそれに続くように背中の太刀を抜刀して、その刀身を地面に突き刺した。
お互いの武器から魔力が漏れ出し、冷たい風が豹助とオズワルドの頬を撫でる。
「千夜! 打つよ!」
「了解です!」
二人の魔力が頂点に達する。
「「生の火を奪いし吹雪!」」
紫以奈の放った弾丸に千夜の刀の柄から放たれた氷魔法がぶつかる。その瞬間、肌を刺すような絶対零度の風が魔族達に吹き荒れた。
その風が触れた魔族の熱、水分、生の為に必要な全ての要素が失われた。
「おぉー! すごいにゃ! 二人ともいつの間にこんな技を!」
「でも、あの吹雪の中突っ込むんですか?」
「いいえ! これも長くは持ちません! 吹雪が止んだら一気に突っ込んで下さい!」
紫以奈がそう言うと魔法によって放たれた吹雪が徐々に弱まる。
「よっしゃ、いくにゃオズワルド!」
「待って下さい! 豹助が時間魔法使ったら僕動けませんよ!?」
「それなら問題ないにゃ! 俺の時間魔法じゃ『光』までは止められない! それまで止めたら何も見えないからにゃ!」
「‥なるほど! わかりました!」
豹助は知っている。自分の時間魔法は未完成だと言うことを。未完成故に、その時間停止は停滞でしかないことを。
「行くにゃ!」
「はい!」
「時間凍結!」
「光牙一閃!」
未完成故に受け入れる。色が消えた世界にさす一筋の光を。
「で、できました!」
「ナイスだにゃ! あとは全員狩り尽くすぞ!」
「了解です!」
凍りついた魔族の死体を足場に豹助とオズワルドは、その向こう‥まだ凍てついていない魔族達に目を向ける。
「全員‥消えろ!」
四本の聖剣は担い手を必要とせず、豹助の思うがままに空に浮いている。一度豹助が命じればそのままに動く。その剣は石像のように動かなくなった魔族達を斬った。
「よっと!」
オズワルドも豹助の剣を避けながら、自らの拳を魔族の身体に叩きつける。光速に乗せた拳は一瞬で魔族の命を刈り取った。
「あ、オズワルド! 足だけは止めんにゃよ! 即座に時間凍結に引っかかるからにゃ!」
「わかりました!」
色の消えた世界で、閃光と聖剣が魔族の命を摘み取る。そして豹助の体感時間にしておよそ15秒後。世界は色をつけ再び秒針を刻み始めた。
「‥‥ほぼ全滅だにゃ!」
「ぜぇぜぇ‥‥やりました!」
豹助とオズワルドは息を切らし、草原に倒れ込む。二人が時間凍結中に殺された魔族は、言葉を吐く暇も無く、その身体を灰に還した。
「やるね二人とも‥‥」
桐原は引き気味に褒める。
「あくまで‥‥ほぼ‥全滅です‥。まだ数が残ってます‥」
「そうだにゃ‥ここまで来たら、俺たちだけで全滅させるにゃ!」
豹助とオズワルドが無理矢理自分の体を起こして、敵の方向に走り出した。その空元気っぷりに桐原は開いた口が塞がらず、紫以奈と千夜は手を額にやり、呆れの溜息を吐いた。
「いやいや‥恐れ入ったよ‥」
「あれが異常なだけですから!‥‥って豹ちゃん! 待ってよー!」
紫以奈が慌てて追い掛ける。千夜はその背中を静かに見ていた。
「君はどうするの? 行くの?」
「え?‥‥そうですね。私も」
「そっちじゃないだろ? 君が向かう先は」
千夜が紫以奈の背中を追いかけようとするが、桐原の声に止められる。
「戦闘中もずっと隣のエリアを見っぱなし‥気づかない方がおかしいと思うよ」
「‥‥すいません」
「別に咎めてる訳じゃない。ただ行くんだったらこれを持っていきな」
桐原がバックから解毒薬の入った注射器を二つ、千夜に手渡す。
「これって‥」
「多分足りてないだろうから。あ、一本は君の分ね。あの中に入るんだったらあらかじめ打って行った方がいい」
「‥‥本当に、ありがとうございます!」
千夜はそれを握り締めてエリア5に向けて足を走らせた。早く、ただ早く叶夢の顔が見たいが為に。
(私は心配です‥だって、叶夢は絶対に無茶をする。見えるところでも見栄を張るような彼が、見えないところで無茶をしないはずがない)
桐原から貰った注射を首に打ち込み、千夜は足を動かす。やがて背景の色が変わって行くと、千夜は息を止めて極力毒を吸わない努力をした。
無我夢中に走り抜けた先に、激戦地となったエリア5があった。
「はぁはぁ‥何ですかこの雨‥」
「千夜っち!? なんで来たの!」
「その声‥‥ベロニカ隊長!」
幸いにも拠点の近くに出た千夜は、外に出ていたベロニカに発見された。
「ソノ声‥‥チヤ ダ!」
しかしその声に反応したのはベロニカだけでは無かった。額のジェニーが千夜に向けて竜の口から毒を千夜に向けて放った。
(しまった氷魔法で防御を‥)
千夜が氷魔法を使い壁を作ろうとした瞬間、その竜の背中から毒よりも早く、黒い影が千夜の元に飛んで来た。
「ッ!」
その影の衝撃に千夜は腕で顔を隠す。次第に視界が確保できるようになり、千夜はその影の正体に目を向ける。
「‥‥嘘」
千夜は目を疑った。千夜の前に立っていたのは、超魔族と化した叶夢の姿だった。顔を闇魔法で仮面のように覆い、腰の後ろからはしっぽが生えている。唯一ランク戦と違うのは、髪色が叶夢の黒から赤混じりの白になっていることだった。
「そんな‥間に合わなかった‥」
「何が間に合わなかったんだよ」
「ッ! 朔夜隊長、とぼけないで下さい!」
「待て待て! 俺は喋ってないぞ!?」
「へ? じゃあこの声は」
「まだ気付かねえのかよ。まぁノイズ混じってるから仕方ねえか‥」
「な、何で‥叶夢!? 意識が!?」
千夜は声の方に振り返る。そのノイズが入った声の主は超魔族になった叶夢だった。
「うーん話すと長くなんだけど‥‥簡単に言うと裏技?」
「う、裏技?」
「叶夢、呑気に話してる暇無いぞ。毒飛んできてる」
「知ってるわバカ。黒い閃光」
叶夢は放たれたジェニーの毒液に向けて、いつの間にか手のひらに生成した黒い閃光を放つ。その魔法は毒液を正面から二分させるだけでは飽き足らず、毒液をジェニーに押し返した挙句にジェニーの口に着弾して爆発した。
「ベロニカ、千夜を雨の当たらない所に案内してくれ」
「わかったわ。行くわよ千夜っち」
ベロニカは千夜の手を引き、木陰にたどり着くと、気を背もたれに座り込んだ。
「あのこれって‥どういう事なんですか? 超魔族は自我が無くなって暴走するはずじゃ‥」
「文字通り裏技ってやつだ‥‥」
朔夜が冷や汗をかきながら、答える。
「ベロニカの影魔法最終式、影鬼遊戯っていう魔法を使った」
「最終式ですか?」
「影を繋げた敵を乗っ取るっていう技よ」
「でもそれだったらベロニカ隊長になんで意識が?」
千夜が見る限り、ベロニカの意識は鮮明だった。
「あの髪色見て気づかない?。叶夢に取り付いてるワタシが」
「‥もしかして、メアリーですか!?」
「せいかーい。キスいる?」
「いりませんよ!」
「超魔族の暴走はそもそも意識が無いから起こる事象だ。体内の魔力回路を流れる魔力の高密度に耐えきれずに自我が消える。簡単に言うと痛みに耐えきれないから意識が無くなるんだ」
「そこをメアリーで上書きしたのよ」
「でも、痛みが続いてるんだったらメアリーも痛みに耐えられずに意識が無くなるんじゃ‥」
千夜の疑問をベロニカは鼻で笑う。
「メアリーが痛みに耐えられない? そんなわけないじゃない。少なくとも元は私なのよ? それぐらいの痛みは笑えるぐらいじゃないと戦闘には出しはしないわ」
「主導権こそメアリーにあるが、メアリーが許しさえすれば叶夢も意識を保てる。メアリーと半分にしてる分、痛みは軽減されてるからな」
「すごい‥そんな奥の手が‥」
千夜は叶夢の姿に目を向ける。攻撃の仕方や、気迫などは以前見た超魔族そのものだったが、確かにその中には叶夢の理性が見えた。
「ただ、長い時間はできない。五分以上、メアリーが中にいると叶夢の人格が完全に消えてあれがメアリーの身体になっちゃうから」
「へぇ‥‥‥って、え!?」
「まぁメアリーは、私の身体が一番だからってこっちに戻ってくるけど」
「あの、それじゃ叶夢くんの身体は?」
「まぁ植物人間だろうな」
「あ、あの‥‥ちなみに今何分経ちました?」
「二分は経ってるから‥‥残り三分ってとこね」
千夜の顔が青ざめる。すぐに叶夢の元に走ろうとするが、朔夜に手を掴まれ阻まれた。
「離してください! 叶夢が!」
「言うと思った‥‥いいか、あの中に行ったらむしろ邪魔になる。前々から思ってたが、千夜さんほんと過保護すぎないか?」
『仕方ねえよ千夜だし』
「お前は反応してないでさっさとそいつを狩れ!」
通信から叶夢の呑気な声が聞こえてくる。
『はーいはい、それじゃこっから本気出すか』
「あんたそんな余裕もってたのね 」
『何事にも余裕を持つ。それが俺だ。でもまぁ今回は千夜が見てくれてるって言う名目もある事だし、男として全力でカッコつけねえとな!』
叶夢は竜の背中の上で顔をあげ、大きく咆哮する。空を震わすその叫びは紛れもなく、千夜がランク戦で戦った超魔族そのものであった。




