第54話 憤怒狂乱の通り雨
「ドコ行ッタ‥‥オ、アレッテ‥」
翼を最優先で再生させたジェニーは遥か上空に飛び去り、エリア3に向かう十数人の人影を発見した。
「ナルホド‥‥隣ノ巣 ヲ 封印スル ツモリカ‥マァ見ツケチャッタ ナラ 仕方ナイ」
ジェニーは竜の口で魔力と自らの毒を混ぜ合わせ、巨大な紫色の球体を作り出す。
「コノ毒デ‥ミンナ死ンジャエ!」
竜がエリア3の大地に向けて毒を吐き出そうとした瞬間。一筋の光が地上からジェニーに突き刺さる。
「グッ‥‥コレハ‥」
竜の胸部分。僅かに電撃を纏った黒い十字槍が刺さっていた。ジェニーがその槍が飛んできた先を見ると、そこには三人の人影が見えた。
「アイツラ‥‥サクリファイス様 ノ 言ッテタ ゼルリッチ ノ 魔子 カ!」
ジェニーと目が合った三人は、武器を構えて臨戦態勢を整えた。
「ジェニーのやつ。やっとこっちに気づいたみたいね」
「ほんと擬態の見た目に脳の年齢引きずられてんなぁ‥‥わざわざ俺らを狙いにかかるなんて」
「いいや、あいつはどうあれ俺達を倒すしかない。まずは俺から挨拶代わりの一撃を当ててやる」
朔夜はジェニーの方向に手を掲げ、魔力を込める。それに対しジェニーは、三人の方向目掛けて急降下をしている最中だった。
「ミツケタゾオオオオオオオ!!! コノ 失敗作共 ガアアアアア!!」
「どっちがだよ‥‥気色悪さならそっちの方が勝ってる筈なのにな!」
ジェニーが一定範囲に入ったその瞬間を朔夜は見逃さなかった。ジェニーに刺さった朔夜の槍を起点に八本の雷の槍が矛先をジェニーに向けて現れた。
「穿ち貫く雷槍!」
「アア!? コノ程度 ノ 魔法 デ 止メラレル ト 思ウナヨ!」
「じゃあ、俺からの押しの二撃目と行くか‥今回は最初から本気だ!」
叶夢はそう言うと、右の手のひらに槍状に形成された魔力の塊をジェニーに向ける。
「黒い閃光・魔力暴走!」
投擲された黒い槍は、普段の倍近くの大きさになっていた。また、それに気を取られたジェニーは朔夜の全方位からの雷槍に体を貫かれた。
「ッ‥‥‥ソンナ魔法如キデ 私 ヲ 落トセルト思ウナ! 」
「お前こそ、俺たち二人の魔法くらってタダで済むと思うなよ! 本命は叶夢の魔法だ!」
「ハァ? コノ程度デ本命トカ 笑ワセルノニモ 限度ガ アンダロ!」
雷に体勢を崩されながらも、ジェニーはギリギリで叶夢の魔法を避けた。しかしそれすらも叶夢にとっては予想の範囲だった。
「そんな余裕言ってられんのも今のうちだ! さぁ爆ぜろ!」
ジェニーに避けられ、無に帰すかと思われた黒い閃光はジェニーの隣で一気に球体に収束し爆発した。その爆発はジェニーから見て右で起きたにも関わらず、右翼どころか左翼すらも跡形もなく吹き飛ばした。
「猪口才ナァ!」
「ベロニカ! 影で縛り付けろ!」
「うっさいわね! もうやってるわよ!」
ジェニーが翼を無くし地面に向けて落下する中、ベロニカは自分の影をジェニーの落下地点まで伸ばす。ジェニーの身体が地面と近づくと同時に影が一回り小さくなるため、ベロニカはなるべく素早く影を繋げた。
「影縛!」
ジェニーの影から無数の手が伸び、竜の身体を掴み地面に叩きつける。
「クソ‥離セ!」
「あんたがサクリファイスの情報吐いたら、楽に殺してあげる。それが無理なら‥‥」
ジェニーを縛りつける影が強さを増し、影が竜の身体にめり込む。
「コノ程度ノ コト デ 私ガ 吐クト 思ウカ?」
「あんた、その額についてる女の子の部分が本体なのよね? ならそこを重点的に押し潰したなら、あんた死ぬよね?」
「簡単ニ、殺セル 訳ネエダロオオオ!!」
ベロニカが影を額のジェニーの身体に這わせた瞬間、ジェニーが天に向かって叫ぶ。それと同時に斬られた翼から紫色の霧が噴射され始めた。次第にそれはジェニーの叫びと共に空に上がり、日を隠すほどの厚い雲に変化した。
「しまった‥影が‥」
「フッハハハハハ! 何ノ対策モ無シニ、来ルト思ッタ? 残念! オマエラノ情報ハ既ニ筒抜ケナンダヨ! コレデ、厄介ナ影ハ使エナイ!」
ジェニーはベロニカを指差し嘲笑う。その間に翼を即座に再生させ、弱まった影縛を引きちぎると再び曇天の空に舞い戻った。
「あの野郎‥‥ん?」
朔夜の携帯が通信が入る。通信の相手は桐原だった。
「どうした桐原。なんかトラブルでも?」
『それこっちのセリフ! 何があったの!?』
「別に。蜘蛛の毒が気化して、ちょっと人が生きれない土地になっただけだ」
『君ら生きてるよね!? その死地でバリバリ生存してますよね!?』
「うるさい!‥とにかく、巣の封印が終わってもこっちには来るな。安心しろ、すぐに終わらせてやる」
『あ、ちょ』
桐原の返事を待たずに、朔夜は通信を切る。
「なんて乱暴な通信の切り方。私ですらオッくんにそんな切り方したことないのに」
「というか朔夜、槍がまだ胸に刺さったままじゃね?」
「あぁ、だから? 別に槍が手元にあろうが無かろうが、神具は使える」
朔夜は前に手を掲げると詠唱を始める。
「天地を分けし雷よ。閃光と共に大地を焼き切れ。神具解放、武御雷」
「朔夜、援護頼む。俺があいつを斬る!
告げる! 我、人なれど牢獄に爪を突き立てし獣。我、人なれど人に反逆を誓いし悪魔。暗黒となりて虚無を誘え!神具解放。モンテ・クリスト!」
叶夢が神具を解放しながら、ジェニーに向けて走り出す。それを見たベロニカは溜息をしながらも、目を敵に向けて口を開く。
「告げる。自我が乖離せし矛盾なる殺人鬼よ。我が心を分かちて、その悪性を引き摺り出せ! 神具解放! ジキル・ハイド!」
ベロニカの詠唱の終わりと共に、ベロニカの影から一人の姿が這い出す。その正体は赤みがかった白い髪を持つ、ベロニカのもうひとつの人格。メアリー・クライムエッジだった。
「全く、随分と使うのが遅かったな?」
「うっさいわね‥あたしは援護する。叶夢と一緒にジェニーを落として」
「落とす? は! 違うな。ワタシならこう言う‥‥あいつより先に殺す!」
そう言うとメアリーがベロニカの太腿からナイフを四本拝借して、ジェニーの元に走り去る。そのスピードは神具を使って身体強化をしている叶夢に数秒で追いつく程だった。
「ようメアリー! ってことはベロニカが神具使ったのか」
「うるさい! 今は敵を倒すことに集中しろ! その小さい脳みそでもそれくらいはやれ!」
「あーはいはい‥余計なお世話だ!」
ジェニーが竜の口から紫色の液体を水鉄砲のように発射する。
「叶夢! 避けろ!」
「わかってる!」
叶夢がそれの着弾の前に、ジェニーの元に跳躍する。それを見たジェニーは叶夢を撃ち落とそうと右腕を振り上げた。
(さっきの攻撃の仕方を見るに、こいつの身体のほとんどに毒腺が通ってやがる‥‥無闇な攻撃は逆にこっちが反撃を受けるか‥なら!)
叶夢は跳躍してる最中も頭を回し、どの攻撃が最適解なのかを割り出していた。そしてジェニーの右腕が当たる直前に、それを避けて行動に入った。
(出し惜しみしてる暇は‥‥無い!)
叶夢は攻撃してきた右腕に紅祟を突き刺し踏み止まる。さらにそこから紅祟に貯めていた魔力をジェニーの右足に向けて一気に解放した。
「黒い閃光の剣!」
「グアァ!」
瞬間。それを理解したジェニーは右腕を振り回し叶夢を振り落とそうとするが、叶夢は魔法を放ったまま紅祟をさらに押し込み離れようとしない。次第に右腕に黒い魔力による亀裂が走り始め、それが右肩を通り右半身に広がり始めた。
「これで少しは動けなくなるだろ! メアリー!」
「ワタシに命令するなァ!」
叶夢の紅祟が暴れるジェニーから離れ、叶夢の身体が振り下ろされるのを見たメアリーは持っていた二本のナイフを竜の目に向けて投げつけると、すかさず残ったもう二本を額のジェニーの目に再び投げつけて視界を塞いだ。
「見えないのは怖いよなァ! だがな‥‥本当の恐怖はここからだ! 叶夢!」
「ほらよ! 使え!」
叶夢は持っていた紅祟をメアリーに向けて投げつける。それを受け取ったメアリーはそのまま紅祟を使って素早くジェニーの左腕を切り飛ばした。
「イッデエエエエエエエ!!!」
「黙れクソガキ! 誰が声を上げていいと言った!」
「ウルッセエンダヨ! コノクソカス共ガアアアアアア!」
ジェニーは切断された左腕からさらに毒霧を散布して、メアリーの身体を包んだ。
「げほっげほっ‥まだまだ! 朔夜、撃ち落とせ!」
「外しても文句言うなよ!」
朔夜はジェニーの方向に手をかざす。それと同時にジェニーの上空の黒雲に光と共に雷鳴が鳴り響く。
「二度モ私ニ雷ヲ落トスツモリカ! ソウハサセン!」
目の回復が済んだジェニーは朔夜に向けて、竜の口を開き、魔力と毒を貯め込む。
「いいや、お前の負けだ!」
「!?」
発射直前、竜の口が黒い縄のようなものに縛られ無理やり閉じられる。額のジェニーが前を見ると、そこには皮膚の一部が溶け、目や口から血を流したメアリーの姿があった。
「オマエ、ナンデ アノ毒ヲ クラッテ生キテルンダヨ!?」
「あの程度で死ぬと思ってるなら、お前の親玉が私たちを狙ってるわけないだろうが!」
ジェニーがメアリーの足元を見ると、メアリーが自らの影を使って竜の口を縛り付けていたのを知った。
(マサカ、アノ雷光ヲ使ッタノカ!?‥‥ダガ、ココデ打テバ、コイツモ死ヌゾ!?)
「落とせ! 朔夜ァァァァ!!」
「正気カヨ オマエ!?」
メアリーの叫びに朔夜は、ただ静かに告げた。竜を落とす落雷の名を。
「雷魔法最終式。原初の雷!」
最終式。一つの魔法を極み抜いた者への答え。魔法の極点とも言えるその一撃は刺さった槍を起点に、一筋の光となって竜の体を貫く。
「グワアアアアアアアア!!」
「ぐっ‥本気とは言ったがここまでとはな‥‥」
ジェニーとメアリーは直撃した雷の衝撃に文字通り身を焼かれていた。互いが一秒先の生存を死にものぐるいで奪い合う。
ジェニーが雷から逃れようとやけくそに暴れるのをメアリーの影魔法で縛り付けて行動を制限する。その攻防が数秒間行われた。
「ジブンノ身体ガ惜シクナイノカ!?」
「‥全然‥‥お前の苦しむ顔が見れるなら‥‥な‥」
朔夜の魔法が止まると同時にジェニーの動きも止まった。また鼻先に立っていたメアリーもバランスを崩し、地面に真っ逆さまに落ちる。着地の体勢すら取れなかったその身体は何かが砕ける音ともに首から地面に落ちた。
「ハッハハハハハ! ホントニ死ンダ! ナンダヨ! タダノ死体ニナリヤガッタ!」
「ベロニカ、メアリー死んだぞ」
「そう」
「ドウシタ? ショック ノ 余リ 声モ出ナイカ?」
「いいえ、でも一つだけ言っておくことがあるわ」
ベロニカは静かに微笑み、メアリーの遺体を指差す。
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる」
「ハァ? 何言ッテ‥!?」
ベロニカの宣言通り、ジェニーは言葉を失った。
「‥‥よう」
命の灯火が消えたはずのメアリーが息を吹き返した。さらにメアリーはそれだけでは飽き足らずジェニーの胸に刺さった槍を掴み取ると、それを乱暴に引き抜いた。
「ナ、ナゼ‥生キテ‥」
「これが私の神具の正体よ」
ベロニカと朔夜がジェニーの元に駆け寄りながら告げた。
「私の神具。ジキル・ハイドの能力はジキル、そしてハイドに一つずつで、合計二つあるの」
「二ツダト?」
「ええ、まずジキル。これが人格を分ける能力。そしてハイドの能力は、ジキルがいる限りハイドが死なないってことよ」
「‥‥ナンダヨソレエエエエエエ!!?」
額のジェニーがしょっくといらつきのあまり自らの頭髪を掻き毟る。メアリーはそんなジェニーを横目に抜いた槍を朔夜に渡していた。
「そんなに驚くことか? ほら朔夜。ワタシが取ってきてやったんだ。後で靴舐めろ」
「ありがとよ。お前の汚い靴なんざ舐める気は毛頭無いが」
「フザケンナ‥フザケンナ‥」
そうしてる間にもジェニーの竜の身体は既に限界を迎えていた。叶夢に付けられた闇魔法による傷で右半身には黒いひび割れが入ったまま。左腕はメアリーに紅祟で斬られ、目も潰されたまま。
「コンナトコロデ‥終ワッテタマルカアアアアア!!!!」
だが、まだ足りない。ジェニーの心は狂気とも言えるレベルで折れていなかった。それに共鳴するようにジェニーの竜体部分も空に向けて大きく咆哮した。
「あいつ、まだやる気か‥」
「全テハ サクリファイス様ノタメニ! 滅ベ!失敗作共ガアアア!」
ジェニーは再び翼を広げて天を舞う。四人がそれを阻止するべく武器を構えた時、空から何かが降ってきた。
「?‥何だこれ‥雨?」
「このタイミングで雨だなんて‥ついに天候にも見捨てられたかしら私達‥‥ゲホッゲホッ!」
冷たい雨がエリア5の草原に降り注いだ。そしてその雨に打たれたベロニカにとある異変が起きた。
「おいベロニカ! どうした!?」
「わかんない‥突然‥力が‥」
ベロニカが突如として吐血しながら膝から崩れ落ちる。
「しっかりしろ‥ゲホッ!」
慌てて朔夜が駆け寄るが、ベロニカの頬に朔夜が吐いた血が垂れた。その原因不明の異様な光景に叶夢はジェニーを睨みつける。
「おい二人とも! どうした!?」
「この雨‥‥そういう事かよ、あの野郎!」
「おい叶夢! どうなってる!? どうしてベロニカが‥」
「話はあとだ! メアリー、朔夜のバックから解毒薬取って二人に打っとけ!」
「あぁ、分かった!‥しっかりしろ二人とも!」
「解毒薬打ったら俺の影に二人を隠せ。それぐらいお前の影魔法でもやれんだろ。説明はその後だ!」
「逃ガスカヨ!」
叶夢が指示すると同時に、ジェニーの竜が咆哮する。それに反応するように雨足が強くなり、その雨に当たった叶夢の皮膚が煙を上げて霧散した。
「早くしろメアリー! 俺も長くは持たねえ!」
「わかってる! 急かすな!」
メアリーは二人を担いで叶夢の影に飛び込む。影は静かな水面のように、優しく三人を受けいれた。
「よしっと‥後は逃げる!」
メアリーが影に入ったのを確認すると、叶夢はジェニーに踵を返して全速力で拠点に逃げる。
「ソンナ建物ニ 逃ゲテモ無駄ダ! 瓦礫ト 一緒ニ ペチャンコニ ナルダケダカラナ!」
(言葉の割にスピードが落ちてる‥そりゃ、あれだけ攻撃すればダメージは相当受けてるよな)
叶夢は一階の窓を蹴りで割って中に入ると、迷わず地下に逃げ込んだ。ガラスの割れる音とともに壁の破壊される音がしたが、叶夢の耳にはそれすら入っていなかった。
「ぜぇぜぇ‥確かこの部屋に‥‥」
叶夢が辿り着いたのは、最初に警官にあった部屋だった。そこに入ると叶夢は僅かに光を放つ切れかけの電灯の下に座り込んだ。
「‥‥もう出ていいぞ」
叶夢が呟くと、叶夢の影が波打ってそこからメアリー、ベロニカ、朔夜の三人が一人ずつゆっくり這い上がるように出てきた。
「助かった‥‥すまない叶夢」
「礼はいい、朔夜。それとご苦労だったなメアリー」
「そんな労いはどうでもいい! 何なんだあの雨は!?」
メアリーが息を荒あげながら、叶夢に問いただす。
「見りゃわかんだろ‥‥あれはアラクネの毒によって作られた雨だ。しかも厄介な事に毒性がさらに増してやがる。おそらくあの中に白鳩の毒の成分も混ぜられてる」
「何よそれ!? しかもこの感じって‥」
「あぁ、当たった時点でアウトって訳だ」
「無理ゲーにも程があんでしょ!?」
ベロニカが失意の果てに叫んだ。叶夢の発言はそれをくらって死にかけた自分だからこそ理解せざるを得なかった。
「しかし、何故叶夢は無事だったんだ?」
「確かに、メアリーの言う通りよね。あんた私たち以上にくらってたのに少し余裕があるって言うか‥‥」
「何でだろうな‥確かに一回スパイダーデビルの毒はくらったがその耐性だけじゃ多分お前らと同じ様な状態になってるはずだし‥」
「毒の耐性‥‥白鳩の毒‥」
朔夜は三人の話に入らず、叶夢だけが毒に耐性のある理由を考える。
(こいつにだけ毒に耐性がある理由‥‥明確してなきゃ勝てるものも勝てない。何故効かないのか‥‥)
「叶夢、どこかで白鳩先輩に毒でも盛られたか?」
「いくら何でもそりゃ無いぜ!? あいつが俺に毒を盛った? 俺そんな悪いことしてないし!」
「一度連絡してみるか‥‥」
「そんなことしてる場合!?」
「仕方ないだろ! 仮にこいつがただ鈍感か痩せ我慢してるだけとかだったら戦える人間が居なくなって俺たち詰みだからな!?」
朔夜が叶夢の携帯から白鳩に通信を繋げる。緊急事態の為かその通信はあっさり繋がった。
「あ、白鳩先輩!」
『叶夢くんと思ったら、朔夜くんか。何かあった?』
「時間無いので単刀直入に聞きます。叶夢に毒魔法使いました?」
『いきなりどうしたの!? いや使った覚えは無いけど‥‥』
「‥‥そうですか‥」
朔夜は落胆の声を出す。しかし白鳩は答えを出してからも自分の記憶を探っていた。叶夢と過ごした日々、トラブル。それをかき分けた中に真の答えがあった。
『いや、あった!』
「あるんすか!?」
「え、あったの!?」
『ランク戦の時! 超魔族になった叶夢くんに、魔力回路をめちゃくちゃにする為に一発打ったんだった!』
「ありがとうございます!‥‥あともう一つ質問いいですか?」
『ん? なになに?』
「白鳩さんの神具暴走の毒って、白鳩さんの毒魔法で抑えることって出来ますか?」
『うーん‥』
白鳩が通信の向こうで口篭る。
『‥‥まぁやれる。というか僕は神具暴走したとき、そうやって毒を中和してるから』
「ありがとうございます。ではこれで」
『あ、ちょっとストップ!』
「は、はい!?」
朔夜が通信を切ろうとすると白鳩が焦った声で引き止めた。
『どうしていきなりそれを聞いたの?』
「あぁ、実は‥」
朔夜はジェニーが白鳩の毒によって毒性の強さを増したこと、またそれに叶夢が耐えたことを簡潔に説明した。
『ふーんなるほど‥‥一応忠告しておくけど、毒の中和でその分体内の毒性が消える。僕は生み出し続けてるから大丈夫だけど、叶夢くんの場合は毒が生み出せないってことを踏まえると‥』
「踏まえると?」
『耐えられるのは持って五分。それ以降は‥』
「分かりました。なら五分掛けずに終わらせてみせます」
『あぁ、頼んだよ。朔夜隊長』
白鳩はそう告げると通信を切った。朔夜の顔は苦しそうに冷や汗を顔に伝わせながらも、口角がつり上がっていた。
「ベロニカ、メアリー、叶夢。ジェニーを倒す作戦が出来上がった」
「そう‥‥でもあたしは動けないわよ?」
「お前はメアリーを出せればそれでいい。それと叶夢、魔法のストックはあと何回だ?」
「二回だ。黒い閃光の剣は紅祟に貯めてた魔力を放出しただけだから自分の魔力回路はほとんど使ってない」
「上出来だ。作戦の成功率が上がる」
「それで何なんだ。ジェニーを倒すための作戦とは」
メアリーの問いに朔夜は頷きを返す。そして視点を叶夢に向けた。
「叶夢。超魔族になれ」




