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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
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第53話 蠱毒喰らう毒蛇

四人の目に映っていたのは蜘蛛の姿から竜に変貌したジェニーの姿だった。三人が驚きの表情をうかべる中、紫以奈はジェニーを見据えある言葉を呟いていた。


「どうするんだにゃ。あれ‥‥紫以奈?」


「呪われし蛇の髪を持つ魔女よ、我が銃を糧として見るもの全てを凍てつかせろ。神具解放メデューサ」


紫以奈の目が紫色に光る。神具を発動した紫以奈は腰の後ろから取り出したナイフの刃先を握り、左のてのひらから血を出し始めた。


「紫以奈、何やってんだにゃ?」


「逃げる準備」


「え? 神具使ったってことは交戦するってことじゃないのかにゃ?」


「まさか、この人数の交戦なんか絶対に負けるよ。精々私がやれるのは足止めくらいかな」


紫以奈は地面に落ちた血から精製された銃弾ペガサスをマガジンに込め、肩に背負ったスナイパーライフルにそれをはめ込むと銃口を竜に向ける。そして躊躇ためらいなく銃弾を一発、竜の翼に撃ち込んだ。


「ただで追えると思うな糞魔族」


「ハッ‥威勢ダケハ イイネ シーナ!」


竜が翼を広げて、暴風を巻き起こそうとした瞬間。竜はある異変に気づく。翼の異常な重さに。


「? 何コレ?」


「どうしたのー? 自慢の翼はお飾りかしら?」


竜が自らの翼を見る。その翼は石化していた。紫以奈その隙に両腕と両足に二発ずつ、合計四発の弾丸を撃ち放った。


「チョット動キズライ‥‥」


「さぁ今のうちに逃げましょう。あ、ジェニーその腕無理に動かさない方いいよ。すぐ崩れるから」


紫以奈は笑顔でその冷たい言葉を言い放つと、空いた左手でハンドガンを持ち魔力を込めた弾丸をさっき打った場所に着弾させた。


吹き荒ぶ風の弾丸オーバーウィンド・バレット


弾丸に押し込まれた暴風は、石化した箇所をその風圧で砕く。四肢を失った竜は支えを失い大きな音ともに倒れ込んだ。


「グッ‥‥クソアマ!」


「叶夢隊長! 今のうちに逃げますよ!」


「おう!」


「マテ! 絶対ニ逃ガサナイカラナアア!!」


ジェニーの叫びを聞かずに四人はエリア5の方向に走って逃げる。叶夢は走りながら通信を繋げる。


『叶夢、無事か! あの音は一体何だ!?』


「嫌な知らせだ朔夜。ジェニーが共食いで変異した。しかも蜘蛛から竜ときたもんだ」


『何だよそれ!?』


『いくら変異でもそんなこと有り得るの!?』


「有り得るわけねえだろ! そもそも突然変異にも限度がある!」


叶夢は後ろを見ながら、通信機に怒鳴り散らす。


「それで俺からの作戦だ」


『そんなの言わずともわかる! 俺たちの全戦力を投じてその竜を迎え撃つ!』


『了解! 巣の封印も今終わったから、私もすぐ戻る!』


ノイズと共に通信が途切れる。叶夢が再び後ろを見ると、既に身体の部位の再生が叶夢の再生とは比にならないスピードで始まっていた。


「マジかよ‥あれだけ部位ぶっ壊したのに、なんだよあの再生スピード」


「傷口凍らせておくべきだったんでしょうか‥」


「あの大きさの魔族に近づくで発想が出来るのは流石千夜だにゃ。でもあれが咄嗟にできる最前だったと俺は思うけどにゃ」


「千夜が責任感じることないよ。それに部位が再生するってことは」


紫以奈が光の消えた目で、クスッと笑う。


「あっちの精神が折れるまで何度でも殺せるってことだから」


「「「えっ‥‥」」」


紫以奈の怒りの炎に三人は背筋を凍らされた。


ーーーーー


「サクリファイスの野郎‥‥こんなドーピング能力持ってるなんて聞いてねえぞ」


「朔夜くん、大丈夫なの?」


「心配すんな桐原‥‥っても無理か。さすがに俺も焦ってる」


「いや僕は焦ってないけど、今の君の様子見てると‥‥」


「そっちの方が心配ときたか」


朔夜は必死に頭を回す。自分の持つ戦力と相手側の戦力。何十回にも渡る脳内再現。それを考えているうちに外に出ていたメンバーが全て戻ってきていた。


「朔夜‥やっぱり考えてるわね」


「当然だ。正直、竜退治の有効打なんて‥‥」


「オッくん。今の竜の様子は?」


「現在、ドローンを使って様子を見ていますがまだ身体の修復に専念している様です。紫以奈さんの四肢破壊が無ければもうここに到達してたかと思われます」


オズワルドが端末からドローンの映像を全員に見せる。そこに映っていたのはのは手足を失いながらもゆっくりと部位を修復していた竜の姿だった。


「修復にかかる時間はどれくらいなんだにゃ?」


「それは僕にもわかりません‥‥ベロニカ隊長はどう見ますか?」


ベロニカは目を凝らして、その竜の姿を見る。その中でベロニカがあることに気づき、怒りの声を漏らした。


「‥ッ! あいつ!」


「ベロニカ隊長?」


「朔夜! ジェニーのやつ翼の再生を優先的にやってる!」


「何だと!?」


「あのままだと空から急襲される!」


「‥‥くそ!」


朔夜が下唇を噛み、机を思いっきり叩く。朔夜のやり場の無い怒りによる八つ当たりは同時に朔夜にある事を決意させた。


「桐原、全指揮をお前に任せる」


「朔夜くんは?」


「あのクソガキを撃ち落とす」


「撃ち落とすって‥‥あんた自分で何言ってるかわかってんの!?」


「無策で突っ込むわけじゃない。叶夢の情報が正しけりゃ、あの方向から来るのは竜‥‥ジェニーだけだ。あの巨体一つなら俺の神具で撃ち落とせる」


「その後を考えなさいよ! あんた一人じゃ‥‥」


「誰が一人で行くって言ったよ? てめえらも一緒だ。叶夢、ベロニカ」


「「は?」」


朔夜の発言にベロニカだけでなく、蚊帳の外にいた叶夢まで呆気に取られた声を漏らす。


「残ってる魔族の巣はエリア3のみだ。そこに俺たち四人以外の全戦力を投入する。一番厄介なのはあの魔族の軍勢率いてこられる事だ」


「でもそれでは、ベロニカ隊長達の負担が‥‥」


「あぁ‥心配ないわオッくん‥むしろこっちに来たら駄目よ‥」


「あぁ‥多分こっちの方が地獄になる」


ベロニカと叶夢は苦笑いで乾いた笑い声を出す。


「出し惜しみするつもりは毛頭ない。ベロニカ、お前も神具使えよ?」


「はいはい‥まぁ、あたしの神具が戦力になるかは知らないけど」


「無いよりはマシだ」


「でも大丈夫なんですか? 最優先事項であるジェニーの討伐をこの人数でって‥‥」


「不正解だ千夜さん。ジェニーの討伐は最優先事項じゃない。あくまで俺たちの主目的は魔族の巣の封印。その指揮に任せたのが桐原って訳だ」


「だろうね。あと朔夜くんはこう言うつもりでしょ? さっさと終わらせてこっち手伝えって」


「さっすがうちの優秀な副隊長様だ」


「よし! 残存戦力は僕についてきて! エリア3の魔族の巣の封印に行くよ!」


「「「了解!」」」


「ちょーーーっと待ったーー!」


桐原の号令への返事に了承以外の声が混ざる。


「って‥なんで起きてきてるの白鳩!?」


「巣の封印に行くんなら僕も連れてけ!」


「ダメに決まってるだろ!? 第一、君は戦闘に参加できる身体じゃ‥」


「あ、丁度いい。頼むわ」


「叶夢まで!?」


「そんだけ荒れるんだよ。朔夜の本気って」


「あ、避難する的な意味ね!?‥‥とにかく‥みんな! 行くよ!」


「「「了解!」」」


桐原は白鳩を背負って拠点を出る。それに続くように叶夢、朔夜、ベロニカを除く隊員達が一斉に外に出て行った。その中で千夜だけ叶夢の前で立ち止まる。


「あの、叶夢」


「どうした‥言っとくがお前も残るのは無しだからな」


「そんなの今更言われなくても知ってますよ。私が言いたいのは‥‥」


「言いたいのは?」


「えーっと‥‥その‥」


千夜はうつむいたまま、口をつぐむ。叶夢は不思議がり千夜の顔を覗こうとするが、千夜は顔を叶夢から逸らし続ける。


「どうしたお前? 様子変だぞ?」


「そ、そんなことありません!」


「じゃあなんで俺と目合わせてくれないんですか?」


「う、うるさいです! バカ! アホ! 精々死なないように頑張ってください! ふんだ!」


「え!? 俺なんかしました!?」


戸惑う叶夢を他所に、千夜はそう吐き捨てると駆け足で外に出ていった。状況を理解しきれなかった叶夢の思考は未だにフリーズしている。


「何なんだよあれ‥‥」


「察してやれよ。彼氏だろ」


「無理よ、こいつがそんな行動出来るわけないじゃない」


「何だか知らんがお前らが俺をバカにしてるのだけは理解した」


叶夢は不服そうな顔を浮かべながらも、千夜が伝えたかった事を考える。そんな叶夢を横目にふと朔夜がエリア2の方を見た。


「どうやらお出ましのようだ‥‥」


「意外と早かったわね‥‥」


「よーし、じゃあ俺が宣言させていただきマース」


窓の外、巨大な翼を広げた竜がエリア2の上空に飛び去る姿が三人の目に映る。叶夢はそれを見ると、通信に手を傾けた。


『全員に告ぐ。これよりエリア3の魔族の巣の封印。及び第八位魔族、アラクネ変異体・ジェニーの討伐を開始する‥‥さぁお前ら、狩りの時間だ』


ベロニカ、朔夜、叶夢の三人は窓を割って外に飛び出た。紅い死神が視るのはその竜の死に様のみ。


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