第52話 飛翔する災厄
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では52話どうぞ!
「はぁ‥はぁ‥クソ! クソ!」
ボロボロの身体でエリア5を抜けて、エリア2の森に入ったジェニーは息を切らしながら薄暗い森を駆けていた。
「こんなボロボロな状態で‥奴らに勝てるかよ‥‥」
ジェニーに回っていた毒は、その身体に亀裂を入れるだけでは収まらず、背中の蜘蛛の脚の肉を溶かし尽くして、扱えないようにしていた。そんなボロボロの身体でも、ジェニーは必死に魔族の巣に走る。忘れようとしても忘れられないある光景によって。
『解ッテイルナ? 一度デモ敗走シテミロ。ソノ時ハ私ノ力ノ一部二ナッテモラウ。イヤ、言イ換エルナラコウカ。力ヲ返セ』
『あ‥‥がっ‥かしこま‥ました‥サクリファイス様‥』
記憶の中でサクリファイスと名乗ったその魔族は、四肢をもがれたジェニーの首を掴み、自らの血液をその首から体内に流し込んだ。あの時の激痛や苦しみ、絶望がその足を動かしていた。
「嫌だ‥嫌だ‥‥私は‥殺されたくない‥」
ジェニーはそう呟きながら、巣の中に入る。多くのスパイダーデビルがボロボロになったジェニーを無機質に見ていたが、攻撃することは無かった。
「あらあら随分とボロボロになって帰ってきたのね?」
「黙れ‥‥」
奥の大きく開けた部屋。巨大な蜘蛛の体に頭部が女の上半身になった異形の魔族、第七位魔族 アラクネの姿がそこにはあった。
「サクリファイス様のお気に入りが、そのザマとは‥」
「‥‥ウガァ!」
ジェニーは血走った目で、最後の力を振り絞りアラクネに牙を立てる。
「あら? 何かしらそのはしたない牙は」
「ゲボッ」
しかしアラクネは軽く手をかざして、そこから繭玉を発射しジェニーをはじき返す。
「全く‥何のつもりかしら?」
「‥嫌だ‥嫌だ‥」
「話も聞かなくなったか‥このクソガキが!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
地面にたたきつけられたジェニーは再び立ち上がると、自らの背中の脚を引きちぎり、それをアラクネに投げつけた。
「何よ、こんなもの!」
アラクネは自らの脚で、ちぎられたジェニーの脚を払う。毒でボロボロになったその脚は
軽い衝撃で数個の肉片に変わった。
「遊びに来たなら帰ってくれるかしら? それとも征魔士の情報でも吐きに来たの?」
「‥そんなわけないだろ。あれは私の獲物だ」
「そう‥なら」
アラクネが脚部を振り上げ、先端のトゲをジェニーに突き立てる。
「無様に死になさい。私はあなたを救うつもりは無いんだから!」
そしてそのまま横に薙ぎ払おうとしたとき、アラクネの脚の動きが止まった。異変を感じた時、既にそのアラクネの視界は血により紫色に染まっていた。その視界を染めた紫色の血液は血涙となり、頬を伝う。
「がッ‥‥何よ‥これ‥」
「私が‥喰らっていた‥毒だ‥」
ジェニーは足を引きずりながら、アラクネの元にゆっくり足を進める。
「貴様‥一体‥何を‥来るな! 来るな!」
「私も生きるのに必死なんだ‥‥全てはサクリファイス様の為に」
ジェニーはそう呟くと、毒で動けなくなったアラクネの腹に口を開きながら近づく。
「ッ!‥ぐあああああ!」
悲鳴を耳にもいれず、ジェニーはアラクネのの肉を喰らう。そのアラクネが絶命するのにそう時間は掛からなかった。しかしジェニーはそんなことを気にもとめず気が狂ったようにアラクネの死体を食い続けていた。
ーーーーー
「メアリー隊長! 連絡です! 魔族の急襲により重傷者が多数!」
「なんだと!? おい叶夢、朔夜! 話が違うぞ! 魔族避けの結界はどうした!」
囲まれた魔族を殲滅し終えたメアリー、朔夜、オズワルド、豹助、叶夢の五人はエリア5の帰り道で拠点が急襲されたことを知った。
「あんなもん最初から機能してるわけないだろ。俺がいる時点で」
「あの結界は中に魔族がいると機能しない。つまり叶夢がいるときは、全くと言っていいほど機能してくれないんだよ」
「おい朔夜! なんでそんな大事なこと言わなかったんだにゃ!?」
「だってそれだとジェニーが好き勝手動けないだろ?」
「は? ジェニーが? 何でだにゃ?」
「だってあいつアラクネの擬態だもん」
「‥‥理解が追いつかないにゃ」
豹助が頭を抱える。叶夢はそんな豹助を気にせず喋り続けた。
「おそらくあいつは拠点を内部から破壊するのが目的だったんだろうな。結果あいつはついさっき崩壊を実行した」
「まさか、わざと見過ごしたんですか!? 」
「文句ならその判断をした叶夢に言え!」
メアリーの怒号にオズワルドと豹助の困惑の目が叶夢に向く。
「どうなんだにゃ叶夢!」
「‥‥とりあえずエリア5に帰ってから好き放題言ってくれ。白鳩たちが心配だ」
「人を利用しておいて、良くもまぁそんなこと言えたもんだにゃ‥」
「見えたぞ!」
メアリーがそう叫び、全員が前に視点を戻す。魔族の襲撃は既に落ち着いており、残った隊員たちは負傷者の手当てに追われていた。
「あ、豹ちゃん!」
「紫以奈! 無事でよかったにゃ‥‥」
「あ、あー‥‥無事ではなかったんだけどね‥」
「どういうことだにゃ?」
「とりあえずみなさん封印お疲れ様です! 詳しい被害の状況は中で話します」
五人は紫以奈に案内されるまま、拠点に戻る。進んだ先の会議室では白鳩以外の全員が集められ怪我の手当てなどをされていた。五人が会議室に入ると、千夜が駆け寄り出迎えた。
「ベロ‥‥いえ、メアリー隊長でしたか。おかえりなさい」
「村雨 千夜か‥‥挨拶はいい。あの弓使いは?」
「白鳩さんは‥‥」
「おかえりみんな」
千夜の後ろから、いつも以上に髪が乱れた桐原が現れる。
「桐原、白鳩先輩は?」
「‥‥山は越えたと思う。ただ残ったアラクネの毒がまだ‥」
「くそっ! ジェニーにやられたってことかにゃ!」
「叶夢隊長達は知ってたんですよね? ジェニーがアラクネの擬態だって事に。だったらこんな結果になることも知ってたはずです。どうして‥‥」
豹助と紫以奈は叶夢に疑いを向ける。それに対して叶夢は怒るでもなく、目をそらさずに答えた。
「まぁそんな目を向けるのも無理はない。だけど『こんな結果』? 『この程度の結果』の間違いだろ?」
「叶夢! 白鳩さんに重傷を負わせてこの程度だなんて!」
「落ち着け村雨さん。叶夢は‥‥」
「いいよ朔夜。批判なら俺が受ける。紫以奈、その毒ってジェニーに受けたやつだろ? にしてはお前随分と元気そうだな」
「え?‥そういえば確かに‥」
「桐原先輩。白鳩の部屋に案内してくれますか?」
「あぁ、わかった」
「みんなも着いてきてくれ。ちょっと裏会議について話す」
叶夢は白鳩の部屋に向かいながら、裏会議の内容について話し始めた。
「まずジェニーの正体に関しては最初から気づいてた。というのも地下で死んだ警官の言葉が気になってな」
「警官の言葉かにゃ?」
「あぁ、あの人も気づいてたんだろうな。『女の子を頼む』っていう言葉を一言も言わなかった。さらに極めつけはジェニーを運んでいる時。歯を鳴らして居場所を知らせていた。あれでクロだと確信したんだ」
「あの時、叶夢が俺とベロニカに拠点に待機させたのも警察の方に確認を取るためだった」
「確認‥ですか? 一体何の」
「行方不明者のリストか‥‥」
紫以奈の言葉を遮るように、メアリーが口を開く。
「あぁ正解だ。警察に確認の電話を入れたんだがどう返ってきたと思う? 『該当者はいない』ときたもんだ」
「それによって確信した‥‥っていうわけよ」
メアリーが話している途中に、髪の色が黒くなりベロニカの人格に戻る。
「なるほど‥‥裏会議の内容については分かりました。だけどだったら尚更、叶夢隊長たちがジェニーをここに入れた意味が分かりません」
「紫以奈の言う通りだにゃ。なんのためにそんなことを‥‥」
「着いたよ。白鳩くーん、叶夢くん達帰ってきたよー」
「うっ‥‥どうぞー‥」
桐原がドアの前に立ち、部屋の白鳩に呼びかける。白鳩は苦しそうな声でそれに応じた。
桐原がドアを開けると腕と頭に包帯を巻き、通常よりも青白くなった白鳩の姿があった。
「失礼しまーす‥‥思ったよりも重傷だったな‥‥悪いな白鳩」
「謝るくらいなら頼まないでよ‥‥おかげで今回の任務じゃもう戦闘には参加できなさそうだし」
「けど成功したようで何よりだぜ」
「あぁ、かなり命懸けだったけど」
白鳩がテーブルの上を指差す。叶夢がそこに視点を向けると、紫色の液体が入った12本の注射器があった。
「叶夢隊長‥‥これって?」
「解毒薬だよ。対アラクネ用のな」
「‥‥まさかジェニーと白鳩を拠点に残した理由って」
「豹助の想像通りだ。あいつを拠点に入れた真の目的は、ジェニーの毒から血清を作るためだ」
「正直、今朝言われた時は驚いたけどね‥‥」
白鳩は枕元の栄養ドリンクに口をつける。
「前に僕が言った様に、アラクネの毒はスパイダーデビルの比じゃないんだ。喰らったら即エンドってわけ」
「そんな中、目の前にアラクネが。じゃあやることは一つだよな?」
「毒魔法使いは普通の征魔士よりも毒の耐性が強い。解毒薬を作るには絶好の場所ってわけ。まぁ予想以上に苦戦して僕絶賛死にかけたけど」
「えーと‥つまり白鳩さんと叶夢の言うことをまとめると‥リスクを背負ってまでジェニーを拠点に入れたのはアラクネ用の解毒薬を作るためってことでいいんですか?」
「千夜の言う通り。お前らに言わなかったのも、ジェニーに気付かれるリスクを防ぐため。あいつが行動してくれなきゃ今の状況にはなってないからな‥‥にしても白鳩。ほんとありがとうな」
「はいはい。これで任務が楽になるならお易い御用よ‥‥ただ見ての通り作れたのはあれだけ。叶夢くんがいつものペースで被弾し続けるとすぐ無くなるから、そこは気を付けてね」
「はいはい、ありがとさん」
叶夢は解毒薬の入った注射器を、ケースに入れた。
「それでジェニーの方は?」
「エリア2に逃げたよ。ま、神具使ってボロボロにしてやったから、どっちにしろ死んでるだろうけどね」
「‥‥なるほどな‥‥‥へ?」
「なるほどですね‥‥ん?」
「にゃ?」
叶夢含めた31小隊の全員の反応が固まる。
「白鳩‥‥今なんて言ったんだにゃ?」
「え? 神具使ってボコボコにした。あ、致死量の毒流し込まれたけど逆流させた話もする?」
「桐原先輩!? 白鳩ってこんなにやばいやつだったんですか!? アラクネを一人で殺るとかおかしくないですか!?」
叶夢が桐原の服の袖を掴み、白鳩から離れる。
「落ち着いてって叶夢くん、喋り方が変になってるから。というか知らなかったの? 白鳩ならこれくらいはやるよ? あいつを毒で倒そうなんて、マグロと泳ぎ勝負するようなものだし、毒使う相手には白鳩はほぼ負けないよ」
「だろうね! サラッと聞き流したけどこいつ毒逆流させたって言ってたし!」
「‥‥もうなんかテンションの振り幅がおかしくなってきたにゃ‥」
豹助が頭を抱える。
「ま、まぁいい‥‥とりあえず白鳩は休んでてくれ。俺たちはこれからジェニーの討伐をしてくる」
「今からかにゃ?」
「エリア2の封印ついでだ。31のメンバーでも行けるだろ」
「紫以奈は大丈夫なんですか?」
「うーん‥毒は白鳩さんのおかげで落ち着いたんだけど‥」
紫以奈の不安そうな顔を見て、叶夢は独り言のように呟く。
「しっかしジェニーの擬態はよく出来てたな。あの敏感な『豹助』を『女の子』として『騙してた』んだからな‥」
「‥‥‥」
「え? 叶夢? 何言ってるんだにゃ‥‥」
『豹助』『女の子』『騙してた』。この三つの単語が紫以奈の心を駆け巡り、同時にその心を黒く染めあげていった。
「行きましょう。死にかけのあの魔族を殺すなら今しかありません」
「し、紫以奈? 目が怖いですよ?」
「ふふっ‥‥豹ちゃんを騙したあいつが悪いんだ‥‥あー魔族でよかった‥‥おかげで惨たらしく殺せる‥」
「あわわわ‥‥おい叶夢! 何さらっと紫以奈の変なスイッチ入れてるんだにゃ!?」
豹助が叶夢の肩を掴み、小声で話し掛ける。叶夢の表情は余裕の笑みから冷や汗を含んだ苦笑いに変わっていった。
「いや‥‥ちょっとやる気スイッチ押すつもりが‥思ったより怖い‥」
「お前やっぱ馬鹿だにゃ!」
「二人とも私に内緒で何話してるの?」
紫以奈の冷たい声が二人の耳に入る。
「いえ何も!」
「紫以奈がやる気満々で何よりって、二人で話してたんだにゃ!」
「そう‥‥隊長、すぐにここを出ましょう。あのくそ魔族を絶対に生かしてはおけませんから」
「紫以奈! なんか言動が怖いですよ!?」
「そんなことないよ千夜。征魔士が魔族を憎み、殺すのは当たり前のことでしょ?」
「朔夜‥拠点を頼む‥俺は今すぐここを出る」
「そんな顔色で大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえ問題だ」
叶夢は汗を拭きながら部屋を後にする。千夜、豹助、紫以奈の三人もそれに続くように拠点を後にした。
「あ、そういやベロニカ!」
「うわっ!‥‥何よ、そんなに慌てて」
かと思いきや、叶夢が急ぎ足で戻ってきた。
「エリア4の巣の封印を今日中にやっとけ!」
「はぁ!? 突然すぎるんですけど!?」
「大丈夫だお前ならやれ‥‥間違えた。わかったら早くやれメス豚!」
「わざわざ言い直さないでよ! わかったわよ! 行けばいいんでしょ行けば!」
叶夢はそう言って拠点を出た。それを見送ったベロニカも隊員を集めると、それに続くように拠点を出ていった。
ーーーーー
「エリア2突入‥‥魔族は無しか」
「巣が見えたにゃ!」
叶夢、千夜、豹助、紫以奈の四人はエリア2に入り魔族の巣の目前にまで迫っていた。
「巣到着ー!‥‥ってほんとに魔族いないにゃ‥」
「いないに越したことはないよ。早く巣の封印だけしちゃおう」
「紫以奈の言う通りですね! ちゃっちゃとやっちゃいましょう!」
四人は巣を囲むように四方に立つと、右手を地面につけて巣に自らの魔力を流し込む。
「豹助ー、封印の間の警戒も忘れんなよー」
「わかってるにゃー。お前こそうっかり背中から刺されんにゃよー」
「二人とも集中してください!‥‥というか叶夢、魔力流し過ぎでは?」
「仕方ないだろ、魔力回路イカれてるから制御出来ないんだよ」
四人が魔力を巣に流し込んで約二分。繭から漏れ出していた魔力が完全になくなり、巣の穴が完全に閉じられた。
「エリア2の魔族の巣封印‥‥完了か」
「叶夢隊長。一応中に入ってみましょう。巣が潰れたとは言え、中に魔族が残っているかもしれませんし」
紫以奈が太股のホルスターから銃を抜き、巣に立ち入ろうとした瞬間、地面が大きく揺れる。
「おっと! 何だ!?」
「地震かにゃ!?」
「いえ! あの繭です! あの中から何か出てきます!」
千夜がそう叫ぶと他の三人は巣を覆っていた繭を見る。その繭には大きなヒビが入っていた。さらにそのヒビが大きくなり、繭の中から巨大な翼が姿を見せた。それを皮切りに繭の中からその翼の持ち主が姿を現した。
「あれは‥‥竜?」
「なんておぞましい姿なの‥‥」
千夜が顔青ざめる。全長およそ8m。背中に生えた巨大な翼はよく見てみると、骨格が蜘蛛の脚、翼膜が蜘蛛の糸という不気味な姿で構成されており、その中でさらに気持ち悪さを加速させたのは顔であった。その竜の口は大きく横に開いており、スズメバチのような鋭い牙がついていた。そして目に当たる部分には目というよりも、赤い球体が横並びに左右四つずつ、合計八個付いており、より禍々しさを際立てていた。
「アア‥‥アア! 最高ノ気分ダァ!」
「何なんだにゃあれ!?」
「あんな魔族見たことないです‥‥」
「アァ、オ兄チャン達。随分ト 小サク ナッタネ!」
「ようジェニー。随分と化け物らしくなったじゃねえか」
叶夢がその竜を額を見る。竜の額にはジェニーの人間態の時の上半身が生えていた。
「なんでそんな姿になってるんですか!」
「共食いに決まってんだろ‥‥道理で外に誰もいなかった訳だ。ここのアラクネとスパイダーデビルを喰ったんだな」
「死ヌ程 不味カッタ。デモ、カッコイイデショ! コノ姿!」
ジェニーの声に反応するように下の竜は咆哮する。その咆哮は叶夢達にとっては竜の嘶きというよりも束ねられた人の悲鳴に聞こえていた。




