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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
46/83

第46話 蟲ノ巣

就活終わったので、不定期ではありますがバンバン更新していきたいと思います。

雷衣(ボルテック・モード)


朔夜の姿が魔族たちの前から消えた。それと同時に魔族たちの目に一閃の光が映り込む。


「俺の雷衣は少し特殊でな‥移動する際に雷が残っちまうんだよ‥だからこれは俺だけの魔法‥‥雷衣・龍魂乱舞(ボルテック・モード・ドラゴニック)!」


朔夜が雷衣を纏い魔族の軍勢に突撃する。龍の(いなな)きにも似た雷音が建物中に響き、魔族たちに理解を与えること無く首と胴体を切り離した。全ての魔族の死を確認すると、朔夜の身体から雷が霧散した。


「討伐数は‥ひーふーみーやー‥‥17体か。そんなにいなかったな」


「朔夜くん? 廊下からクソうるさい雷音が聞こえたんだけど」


「魔族狩りしただけだ‥もう開けていいぞ」


朔夜の指示の後、第1小隊は資料を持って廊下に出た。


「派手にやったねえ‥‥」


「その資料に何かあったら嫌だな‥桐原、残党狩りに付き合え。それ以外はここから出て外から来る魔族の迎撃を頼む」


「「「了解!」」」


「あれ? 俺も?」


「ストッパーだ。久々の戦闘で俺も自分を制御しきれん」


そう言う朔夜の身体には青白い電流が走り続けている。


「こちら朔夜だ、二階に魔族侵入。殲滅してやる」


『こちらベロニカ、一階も同様、ゴミ掃除開始よ』


血気盛んな二人の通信を聞き、地下の叶夢は怪訝そうな顔で舌打ちをした。


ーーーーー


「二人とも楽しそうでいいな。俺のところには一切現れてねえんだけど」


「というか上で戦闘して崩れないのかにゃ!?」


「まぁ崩れたらその時だ‥‥あのバカ二人を恨め」


地下は陽の光が入らないが故に、時間を忘れさせる暗さがフロア全体を包んでいた。


「わぁ! 水溜まり踏みました!」


「どうでもいいわ!」


「俺も魔族狩りたいにゃー」


「だからどうでもいいんだよ!」


「隊長! この部屋から浅い呼吸音が!」


「どうでも‥‥良くねえな!?」


紫以奈が部屋の前で立ち止まる。


「というかこの騒音の中、よく聞き取れたな‥‥」


「音より前に目のつくものがありましたから‥」


叶夢は紫以奈の目の先を見る。そこには赤黒い血の雫の跡があり、紫以奈の見つけた部屋に繋がっていた。


「‥まだ中に何かいるかもしれない。警戒してドアを開けろ」


「わかりました」


紫以奈は銃を抜き、ゆっくりとドアを開ける。部屋の中はものが散乱し、血と臓腑の匂いが充満していた。


「おえ‥」


「ものが散らかってんな‥‥んで呼吸の主は‥‥あいつか」


叶夢は部屋の隅にいた警官服を着たスキンヘッドの黒人男性に駆け寄る。


「何があった」


「‥君は‥」


「征魔士だ。その格好‥‥現場の警備をしていた警察か」


「現場の警備ってなんだにゃ?」


「俺らが来るまでここに一般人が入ってこないようにしてたんだろ‥‥それで、何でこんなところに? 警備はもう少し外側のはずだが?」


警備員は血の混じった咳をしながら、口を開く。


「‥少女が‥忘れ物をしたと言って聞かなくて‥目を掻い潜って入ってしまった‥」


「それを追いかけてか‥警備なら対魔族用の弾丸が支給されてるはずだが」


「使い切った‥それでこのザマだ‥あっはは‥」


警察官の乾いた笑い声を叶夢は黙って聞き流す。


「少女は?」


「‥わからない‥魔族を見た途端に悲鳴を上げて逃げてしまった‥外見が気持ち悪かったからだろうな‥」


「外見が気持ち悪かった?」


「あぁ‥俺は見たんだ‥魔族の巣から‥女の上半身を持った蜘蛛の魔族が出てくるのを‥」


「それって‥」


「見つかった時‥あいつの足に腹を切られた‥命からがらここに逃げ込んで‥ありったけ解毒剤を打ったのに‥ずっと痛いんだ‥」


五人は警察官の腹の傷を目にする。肩から腰にかけて赤紫の傷ができており、その傷口は未だ脈を打っていた。


「ひどい‥」


「なぁあんた‥俺はもう助からないんだろ? なんせこの毒を受けたのは昨日の事だ‥もう全身に回ってる‥」


「そこまで自分の状態を知ってて、なんで足掻こうとしないんだよ‥」


「俺たち一般人じゃ‥あの化け物とは戦えない‥なら俺たちは戦えるあんたらに少しでも情報を残さなきゃいけねえんだ‥ゲホッゲホッゲホッ!」


警察官の咳に混じって吐き出された血液が紫色に変色していた。


「情報ありがとよ‥あんた、今苦しいか?」


「あぁ‥痛えし苦しい‥」


「その傷じゃもう長くない。かと言ってすぐ死ねるわけじゃない。このまま治癒してもは寿命が半日に伸びるだけだ」


「叶夢くん? 何言ってるのさ?」


四人の心の中に不安の暗雲が立ちこめる。


「助からないのは‥承知の‥うえさ‥ゲホッゲホッ」


「こんなことを言うのも嫌なんだが‥‥‥介錯してやろうか」


「はぁ? 叶夢何言ってるんですか!?」


「そうだにゃ! お前自分が今何言ったかわかってんのかにゃ!?」


豹助と千夜が叶夢に詰寄る。しかし叶夢は二人を気にもとめず、悲しげな目で警備員を見ていた。


「‥‥頼む、もう役目は果たした‥できるだけ痛いのはやめてくれよ?」


「心配するな。介錯は慣れてる」


叶夢は警察官の頭に手をかざすと、手のひらに魔力を溜める。


「‥‥最後に言い残すことはあるか」


「もし少女を見つけたらよろしく言っといてくれ‥‥それと坊主‥汚れ役はあまり買わない方が‥いいぜ‥‥身を削ってまで誰かを助ける行為すは‥本末転倒ってやつだ‥」


「忠告ありがとうよ」


「だが‥ありがとう‥やっと‥この苦しみが‥終わる」


音は無かった。叶夢の手から細い黒い糸が伸び、警備員の額に触れる。警察官は痛がる様子もなく、安らかな顔で事切れた。


「‥死んだよ」


「てめえぇぇ!」


「豹ちゃん!」


豹助は左の手で叶夢の首を掴み、思いっきり壁に叩きつけた。右手の剣を首元に突きつけると、血走った目で叶夢を睨みつける。


「豹助くん! 落ち着いて!」


「なんで殺した! 殺す必要なんてなかったはずだにゃ!」


「豹助さん!」


「お前らは黙ってろ!」


豹助は二人を一喝し黙らせると、再び叶夢に視点を戻した。叶夢の目に光は無く、悲しげな目で豹助を見つめ返すだけだった。


「‥‥豹助、お前はあの人に対して生きろって面向かって言えるのか?」


「どういう意味だにゃ」


「生きてりゃいいこともある。この言葉を溶岩に沈む人間に向けても言えるか? 硫酸の海に落とされた人間に言えるのか?」


「それは‥だからってお前が死を与えていいなんて権利は!」


「綺麗事吐くのも大概にしろよ豹助」


叶夢に言葉に怒りが篭もる。


「確定された‥逃れられない死が目前に迫った人間は、よっぽど心が強くなきゃ死に抗うなんて行動はしない。大抵は、自分から死を欲するんだよ」


「なんでそんなこと悲しい事が言いきれるんだにゃ!」


「俺が見てきたからだ。その度に俺が死を与えた」


叶夢の目から涙が零れ、それを見た豹助の手が緩む。事態を見兼ねた白鳩は豹助の手を降ろさせた。


「豹助くん。僕らには叶夢くんを責めることはできない。誰かが負うべき汚名を叶夢くんは自ら被った。叶夢くんだって今までもそうして来たんでしょ?」


「嫌なものを見せたな‥‥この遺体は俺が運ぶ。お前らは他の部屋を調べておけ」


叶夢は指示を出すと、警備員の遺体を背負い部屋を出る。


「はいはいみんな。いつまでも落ち込んでちゃいけないよ。弔うことは後で出来る。今はここの調査だ」


「そ、そうですよね! では私は別の部屋の調査に行ってきます!」


「あ、矢岬ちゃん!‥‥行っちゃったか‥俺は矢岬ちゃんを追いかけるから、二人はここの部屋お願い!」


白鳩は二人を置いて、部屋を急ぎ足で出た。取り残された二人は警官がいた場所を見つめる。


「‥‥豹助さん」


「‥あーあー! 凹むの終わり!」


「え?」


豹助は首を横に降った後、自分の頬を軽く叩いた。突然の奇行に千夜も空いた口が塞がらなかった。


「いつまでも引き摺ってたら、進むもんも進まないにゃ! 千夜も何だにゃその顔‥おりゃ!」


「いでで!‥いきなり何するんですか!」


「あ、悪い。強くし過ぎたかにゃ」


「二人がいたら半殺しにされるぐらいには」


「うんそれ俺死んでるにゃ。すまん‥」


「‥でも白鳩さん達の言う通りです。いつまでもクヨクヨするのはあの警官さんに失礼です。やりましょう調査!」


「よっしゃー! 怪しいところ片っ端から探してくにゃー!」


二人はそれぞれ調査を始める。豹助は薬品棚を、千夜は警官の返り血を拭き取った。


「なんか無いかにゃ‥解毒剤は安定で空だにゃ」


「返り血と解毒剤の容器を回収しました。それにしても蜘蛛の魔族ですか‥豹助さんはなにかご存知ですか?」


「そりゃそんな癖が強い魔族なんて一匹しかいないにゃ。女の上半身に蜘蛛の下半身。ギリシア神話に伝わる怪物、第七位魔族 アラクネだにゃ」


「第七位魔族ですか‥‥私たちで対処できるんでしょうか」


「今回は朔夜にベロニカもいるし長野みたいにはそうそうならないだろにゃ‥にしても薬品が多いにゃ‥」


豹助は棚にある薬品を全て机に並べる。ほとんどのラベルが剥がれ、中にはホコリを被っているものもあった。


「豹助さん‥これは‥」


「この部屋は薬品庫だったみたいだにゃ‥となると白鳩の方が詳しそうだにゃ」


「ではこれは後で白鳩さんに報告‥うわっ!」


「何やってるんだにゃ‥」


突如として千夜が足を滑らした。軽い衝撃音と共に千夜が尻もちをつく。


「いてて‥‥スカートの中見てませんよね?」


「馬鹿なこと言ってないで早く立てにゃ」


「冗談ですよ‥‥あれ?」


千夜が異変に気づく。


「どうしたにゃ? まさか今度は腰が抜けて立てないとでも言うんじゃないかにゃ?」


「い、いえ。腰は抜けてないですけど‥‥何ですかこれ? 白い糸‥」


「白い糸? 本当だ‥どこまで繋がってんだにゃ‥‥!」


豹助が千夜の元に駆け寄る。確かに千夜の転んだ場所に白い糸が束になっていた。それは後ろの壁に繋がっており、奥の闇に二人以外の呼吸が潜んでいた。切れかけの蛍光灯の僅かな光からその呼吸の主と豹助の目が合う。


「ーーーー!」


「千夜! 伏せてるにゃ!」


「わかりました!」


呼吸の主は二人に飛びかかってきた。豹助は腰にかけた剣を引き抜き、その攻撃に向けて刃を振り下ろした。


「おら!」


「ーーーーーー!!」


「やはり魔族でしたか‥うわああ!!」


「アラクネがいるならそりゃいるよにゃ‥」


豹助と千夜の近くに来たことで、その姿が顕になる。その体こそ黒色の鱗に覆われた体と手足に鋭い爪を持つ二足歩行の人型の典型的な魔族の身体だが、異質とも言えたのはその顔。口は耳元まで裂け、顔の上半分を8つの赤い目が占めていた。また背中にも不気味に蠢く四本の蜘蛛の足が付いていた。


「第四位魔族‥スパイダーデビル!」


「ーーー!!」


「千夜! 足元を凍らせて糸を剥がすにゃ!」


「わかりました!」


豹助と目を合わせたスパイダーデビルは、背中の足を豹助に向けて伸ばす。豹助は伸びてきた二本の足を剣で弾き返すと、そのまま剣を逆手に持ち替えてスパイダーデビルに斬り掛かる。


「甘過ぎるにゃ!」


「豹助さん! 足元!」


「にゃ?‥‥痛!」


千夜の警告の後、すぐに豹助の左足に痛みが走る。恐る恐る左足を見ると、そこには下から伸びた蜘蛛の足が刺さっていた。食い込んだ皮膚から紫色の液体が漏れ出す。


(まずい! 毒を入れられてるにゃ!)


氷の槍アイス・ランス!」


「ーーーー!!!」


すかさず千夜は魔法で作った氷塊をスパイダーデビルの顔面に向けて放つ。鋭い槍の切っ先のような形をした氷の槍はスパイダーデビルの左目に突き刺さった。


「豹助さん! 大丈夫ですか!」


「問題無い‥とは言えそうにないにゃ‥時間停滞(スロウ・ワールド)


豹助は傷口に手を翳すと、自分の足に時間魔法をかけた。


「これで左足から毒が回る時間を遅くしたにゃ‥つっても問題はここから出なきゃ行けないんだけどにゃ‥」


千夜は豹助の両脇に腕を通して、そのまま豹助を入り口の近くまで引き摺って運ぶ。


(豹助さんが動けない今、戦えるのは私だけ‥けどこんな狭い部屋で氷魔法を使ったら、部屋の温度が下がって豹助さんに負担をかけてしまう‥)


「心配すんにゃ‥千夜‥もう手は打ったにゃ‥告げる」


豹助が掠れ気味に詠唱を始める。


「告げる‥我が元に集え‥十二の勇士の魂よ‥神具解放シャルルマーニュ!」


豹助の詠唱の終わりと共に、空中に二本の聖剣が現れる。


「これで動けなくても戦えるにゃ‥千夜、足を止めるにゃ」


「わかりました! 地を這う吹雪(ブリザガ・グランド)!」


「ーーーーー!」


「まだ試作段階だけど‥やるしかないにゃ!」


スパイダーデビルの足が地面ごと氷漬けにされると、豹助は体制を崩した一瞬を狙ってその胸の中心に聖剣を刺した。


「豹助さん! それじゃ決定打には‥」


時間終局(ピリオド・ワールド)


「!?」


ガラスが碎けるような音ともに、スパイダーデビルの動きが止まる。


「成功‥だにゃ」


「何をしたんですか?」


「あいつの心臓部に直接時間魔法をかけたんだにゃ‥傷口の時間を遅くできるなら、局所的な時間の操作もすることも出来るんじゃないかにゃって」


「だとしても‥‥」


「時間終局は俺が剣で刺した部位の動きを完全に停止させるにゃ。そして魔族っていう生物は心臓から魔力を供給し続けてるから、そこの動きを止めたんだにゃ」


「数秒の魔力の枯渇でこうもなりますか?」


豹助は千夜に肩を借り、立ち上がりながら話を続ける。


「止めたと言っても方法が違うにゃ。例えとしていつもの時間凍結(フリーズ・ワールド)が時計の電池を抜いて止めてる。それに対して時間終局(ピリオド・ワールド)は時計そのものをぶっ壊してるんだにゃ」


「つまり、動かす前提で止めているのが時間凍結。二度と動かせないようにするのが時間終局というわけなんですね」


「理解力があって助かるにゃ‥ちなみに時間終局は部位にしか有効じゃないし、心臓に当たったとしても発動の前に剣を抜かれたら意味無いし‥未完成の術を使うなんて俺らしくないにゃ‥」


「そんなに言うなら、なぜ使おうと思ったんですか?」


「決まってるにゃ」


豹助はニヤリと口角を釣り上げながら言った。


叶夢(あいつ)なら、そうしただろうからにゃ」


「ふふっ‥」


「何だにゃ、その反応」


「いえ‥以前の豹助さんなら、そんなこと絶対言わなかっただろうなって‥」


「絶対あいつに言うんじゃないにゃ」


「はいはいわかってますよ‥」


豹助と千夜は部屋を出た。崩れていく魔族の死体から大きな繭玉が落ちたことに気づかずに。

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