第4話 片鱗
「いてて‥身体に無理させ過ぎたなぁ‥魔法使った後は休憩必要なのになぁ‥」
叶夢は落下の衝撃を木に突っ込んで、相殺しようと頑張ったが思いの外失敗してしまい左腕に刺さった枝を引き抜きながら、そんな事を呟いた。
「えーと端末端末‥あった。」
叶夢が無傷の右手で、携帯を取り出し豹助に通信をとった。
「あーテステス。叶夢デース。豹助くーん‥どこに向かえばいい?」
「うぇ!?」
豹助は少し驚いたような声で通信に応じた
「か、叶夢?生きてるかにゃ?」
「むしろ死んだ方が良かったか?」
「そういうことじゃ‥」
通信の先に見えるのは恐らく、叶夢に疑いの目を向ける第31小隊であろう。
「噴水広場って言ってたが、どこだ?」
「あぁ、今から煙弾打つからそこの方角にむかってくれにゃー」
「ああー。ってばか! 迂闊に打つ馬鹿が」
叶夢が言い切る前に数100m先に赤い煙が激しい音共に昇っていた。
「もっと早く言ってにゃ!」
「知らねえよ!‥俺が追いつくまでの魔族の応戦頑張れよ」
「ちょ」
叶夢は通信を切ると一目散に走り出す。また空を見ると黒い羽根を広げた魔族達が煙弾の方向へ飛んで行くのが見えた。
「無事でいろよ」
叶夢はそう呟くと噴水広場へ向かう。もはや水の音を辿る事は必要ない。彼らの場所は空に残った煙が教えてくれているからだ。ただ無我夢中に走り出す。
枝を掻き分け彼らの場所に向かった。
「ッ! 危なっ!」
途中に赤い血が付着した矢が頬をかすったが、叶夢には痛いという感情よりももう近くという感覚が先に来た。早く向かう。悪い考えを捨てる。噴水広場に着いた時に見えるのは仲間の姿だ。決して血塗れで横たわる仲間じゃない。森を抜けて噴水広場に辿りついた。そんな思い込みを自らにかける
「おい!お前ら無事か!…へ?」
森を抜け、目に映ったのは魔族にボロボロにされた彼らではなく
逆に、襲い来る魔族を片っ端から迎え撃つ彼らの姿であった。
「あ、いたいた! 叶夢遅かったにゃ。もう殆ど狩り尽くす寸前だけどにゃ‥早く来てくれれば残しておいたけど?」
「おつかれさまです‥」
豹助と紫以奈の2人とも怪我は無く、一安心したが他の2人の姿が見えない。探そうとした矢先に向こうの森から焦った声が聞こえた。
「かーむーいーくーん! よーけーてー!」
叶夢がふと声の方を振り向くと、さっき森を抜けてきた時に頬を掠った矢が再び叶夢の数センチ横を通り過ぎていった。当たりはしなかったもののここまで来ると確信犯としか叶夢は思えなくなってきていた。
「お前絶対狙ってただろ‥さっきもお前の矢が飛んできたんだけど」
矢が飛んできた方に目を戻すと弓を持った白鳩が苦笑いをしながら叶夢の元に近づいてきた。
「気のせい気のせい。僕が仲間を狙うと思う?」
「どうでもいい。もう1人は?」
「ちょっと! その反応は流石に酷いよ!?」
叶夢は白鳩を無視して、最後の一人 村雨 千夜を探す事にした。
「白鳩。お前が元いた所に村雨がいたで合ってるんだな?」
白鳩は少し渋りながらを居場所を言った。
「この先の開けた場所‥と言うより少し肌寒く感じる風の吹いてる方角。でもおすすめはしないよ。彼女のいた場所、特に多く魔族たちが攻めてきていたところだったから‥俺もついさっきに逃がされたけど‥」
(なるほど‥こいつだけが戻ってきたのはそれが理由か。とにかくすぐに村雨のもとに向かわないと)
「ここは頼んだ。俺は村雨の援護に行く!」
叶夢は獣道を再び走る。途中魔族に道を塞がれたが、焦点を定める前に切り捨てた。
少し冷たい風が叶夢の頬を撫でる。風を頼りに彼女の場所を探す。そして木々の向こう。枝の隙間にあの夜に見た銀髪を見た。それを見つけ無我夢中で走る。そして開けた場所に出た。
「村雨!無事‥か‥嘘だろ?何だこれ‥」
「あぁ、えーと‥叶夢くん‥でしたっけ?」
村雨は無事だった。それよりも叶夢が驚いたのは彼女を中心に木や大地が凍りついていた事だった。その鏡の世界を彩る様に氷像のように凍りついた魔族達の姿が合った。しかも1〜5体の数ではなく、目に入るだけでもの10~20もの氷像が彼女の周りにはあった。
「何でそんなに慌てた表情で私を見てるんですか?」
「いや、何でもない。案外お前含めての4人強いのねと思ってね」
村雨は少し呆れた顔で叶夢の元に向かってゆっくり歩いてきた。
「何を言ってるかわかりませんが、あの程度でやられる人たちではありませんよ。実戦の経験はありますし。でも私からしたら自称新人のあなたの方が化物だと思いますよ。あの中から帰ってくる方が」
「いろいろ合ったんだよ。幸運が。」
「幸運だけでどうにかなるものなんですか?」
「それより早く帰ろうぜ。あいつらも心配してる頃だ」
「そうですね。あなたの事についていろいろ知りたいですし」
叶夢が迎えに行こうと彼女に近付いた時。彼女の向こう側、叶夢と向かい合う形で1匹の魔族が村雨の元に勢いをつけて向かっていた。このままの形で行けば彼女は魔族に後ろからの攻撃を受け大きな怪我を負ってしまうだろう。
「…」
幸いにも魔族は叶夢の存在に気付いていない。
しかし叶夢と村雨のどっちかでも声を出せば魔族はスピードを上げるだろう。これ以上スピードを上げられると確実に追いつけない。
(ならやる事は簡単だ。反転する眼を使って村雨の行動を操作する)
「ちょっとごめんね」
叶夢は自らの目で村雨の目を見る。直視しながら村雨にギリギリまで近付く。
「いきなりどうしたんですか…わっ!」
村雨は驚きのあまり距離を取るために一歩左足を後ろに下げた。が、そのまま凍った地面への自分の体重維持に身体が耐えきれず体勢を崩して右に倒れた。
村雨の元に向かっていた魔族は少し驚きを見せたが、そのまま対象を叶夢に変えて強襲を続行した。
「おっと、運が悪かったなァ! 糞餓鬼ィ! どっちにしろ一人連れてくぜ! 」
「運が悪いのはそっちだろ。空中ならあまり動きの自由が効かないからな。」
一歩踏み込み、突撃してきた魔族を刀の間合いにギリギリで入れた。その後間髪入れずに思いっきり刀を振り上げた。
「GYAAAAAA!」
真っ二つになった魔族の声にならない断末魔の悲鳴と振ったコーラのように勢い良く出た返り血に晒されながら静かに納刀し、呼吸を整えた。
「い、今…なんで私右に…叶夢くん。貴方はほんとに何者なんですか!?明らかにあの動きは新人とは言えませんよ!」
「何度も言わせないでくれよ。俺の名前は刀堂 叶夢。ただの征魔士だ」
俺は視線を村雨に戻し、ただ俯瞰した目で挨拶をするように呟いた。