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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
39/83

第39話 激闘の報酬

今度こそランク戦編、完結です…

ではどうぞ!

「ええー僭越ながら俺が乾杯の音頭を取らせて頂く」


((司令なのに‥僭越?))


「思えばお前達にとっては長いランク戦だったと思う‥」


((絶対これ長くなるやつだ))


帰りの船の宴会場に、ランク戦を終え疲れ果てた征魔士(ウィザード)達を待っていたのは円形テーブルに並べられた豪華絢爛な食事と別件でここに訪れた神座(かんざ) 頼光(よりみつ)だった。神座は一部を除き全員が揃ったのを確認すると、シャンパンの入ったグラスを持ち乾杯の音頭とということで着ているワイシャツのネクタイを緩め話を始めた。


「‥まぁなんだ。今回のランク戦の結果を踏まえ、チームの反省点や特徴をぜひこれからの任務に生かしてくれ! では、かんぱ」


「「かんぱーーーーい!!」」


「え」


一瞬、神座の声よりも早く隊員達の声が宴会場に響き渡る。神座は豆鉄砲を食らった鳩のような顔で独りグラスを傾けた。


「かんぱーい‥ははっ‥」


神座はグラスの中身のシャンパンを飲みながら、他の隊員達の声に耳を傾ける。


「今回はホント番狂わせだったよな」


「金丸が負けたってまじ?」


「まぁ俺らは俺らでポイント稼いだと思うし、大丈夫じゃね?」


聞こえてくる声は当たり前ではあるがランク戦の振り返りや反省だ。人様々にいろんな思いを持ってランク戦を終えたのが伝わってきた。しかし通常とは違ったランク戦として皆共通して話していたこともあった。


「にしても今回はびっくりしたよな。魔族が乱入したって‥」


「31小隊が対処したらしいけど、結局詳しい状況はわからずじまいだったし、挙句それのせいでランク戦終了とか」


「第七位だろ? 良くやれたよな‥」


「紅葉とか天城も手伝ったらしいぜ。おかげで天城は病室送りだとか‥」


(やっぱその話題は来るよな‥)


魔族乱入。ランク戦の最後に訪れたそれは事情を知らない多くの征魔士に衝撃を与えた。


(正直あれを誤報に出来たのは幸いだった‥残ってた10小隊以上には話す羽目になったが口止めはしたし、まさかこの中で暴れていた魔族が叶夢だっていうのは知ってるやつはいないだろう‥)


「神座支部長!」


「お、おぉ?」


近くにいた三人組の女子が緊張した趣で神座に話しかける。いきなり声をかけられた神座も驚きの声を漏らす。


「今回のランク戦どうでした?」


「あぁ、とても良かったよ。みんなそれぞれ普段の任務で培った連携が活かされていた。特に君たちの山岳エリアでの斜面の滑走での奇襲は見事なものだったよ」


「ちゃんと見ていてくれたんですね! ありがとうございます!」


「小隊編成の際は楽しみにしているといいよ。昇格は考えてるから」


「ほんとですか! やったー!」


神座はシャンパンを飲み終えるとその場を離れ、用意しておいたキッチンワゴンにある程度料理をのせ宴会場を後にする。


「怪我人とは言え、これぐらいは食えるか‥」


神座が足を止めたのは怪我人を安静に休ませておく病室だった。神座がノックをしようとするとドアの向こうから声が聞こえてきた。


「だー! 何回言ったらわかるんだにゃ!

俺はそんな重傷じゃねえし! アーンとか恥ずかしくてやってられねえにゃ!」


「嘘つき! 魔力切れ寸前で身体強化で無理矢理しか体動せなかった人が重傷じゃないわけがないじゃない! いいから口を開ける!」


「いーやーだーにゃ! 紫以奈は変なところでお節介だにゃ!」


「二人共‥静かにしてもらえる‥叫び声が腹に響く‥」


「全く‥」


聞きなれた声。第31小隊の病室だった。

神座は笑顔を浮かべるとその部屋のドアをノックした。


「おーいお前ら。入るぞー」


「あ! 神座支部長! お疲れ様です!」


第一に返事をしたのは紫以奈だった。菓子型の栄養食を両手に持ち、それを豹助が抑えている状況だった。


「お前ら何してんだ‥」


「聞いてくださいよ支部長! 豹ちゃんってば全くご飯を食べてくれないんです! 食べやすいように口移しもしようとしたんですが拒否されて‥」


「誰だって拒否するだろにゃ! なんで唾液混ぜる必要あんだよ!」


「その言い方やめてよ! なんか汚いじゃん!」


「いくら紫以奈が美人でも人の唾液を飲みたいなんて思えるわけないにゃ!」


「‥白鳩。部屋変えるか?」


神座は自分の心配を返せと言わんばかりに呆れた顔を二人に向ける。


「いいですよ‥賑やかな方が楽しいですから」


「そうか‥そうだ。お前らの為に料理を持ってきたぞ」


「マジですか、ありがとうございます」


「いいってことよ。二人とも食ってさっさと傷を治せよ」


神座はワゴンにのせたローストビーフやサラダの乗った皿を四つテーブルに移す。


「んで村雨は一言も喋ってないんだが‥大丈夫か?」


「‥大丈夫です」


「大丈夫な奴はそんな顔と声で喋らないぞ?」


「‥‥」


「まぁ気が向いたら食え。叶夢なら俺が見てきてやる」


「‥お願いします」


明らかに普段よりも口数が少ない千夜を見て、神座は優しく声を掛け、その部屋をあとにした。


「さーてと次か‥」


神座はワゴンを引き『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたエレベーターに乗る。『B2』と書かれたボタンを押すとエレベーターが動き出した。


「超魔族‥予想以上に被害が行かなかったのが救いか‥」


神座はつい数時間前‥叶夢の件に関する事後処理を思い出す。


ーーーーー


豹助からの連絡を貰った30分後。神座と朔夜はようやく楔島に到着した。島にいた殆どの征魔士は比較的範囲が広く、船に近かった漁村エリアに集まっていた。


「見た感じ大きな怪我をしてる人間はいなさそうですね‥」


「叶夢が襲ったって報告が無かったしな、多分怪我してる奴がいるとしたら‥」


神座は集まっていた征魔士達に目を合わせ、大声で指示を出す。


「お前ら、お疲れ様! 島の異変についてだが

少し誤報があった! 第31小隊 隊長 刀堂 叶夢についてだが、別に魔族になったわけじゃない! 報告した者が魔族を叶夢と勘違いしただけだったみたいだ!」


(無理があるなその話は‥)


「ちなみに報告したやつは豹助。それを包み隠さず回したのは俺の隣のやつだ!」


「はぁ!? 」


鳩が豆鉄砲をくらった時のように朔夜から驚きの顔が現れる。神座は苦笑いをしながら朔夜の耳に顔を近づける。


「‥いいから乗れ」


「‥部下に責任を押し付けるとはあんた最低だな‥」


「なんとでも言え‥後で任務優遇の話でも持ってきてやるから」


「忘れんなよ‥」


朔夜は神座を引き剥がすと、全員の周りに向き直る。


「誤報の件は悪かった! こっちも突然の事で混乱していた! ほんとにすまん!」


「‥なんだよ誤報かよー」


「そりゃそうだよな‥人間が魔族になる訳ないもんなー」


朔夜はため息をしながら周りを伺う。誤報と聞き安心する者。その真偽を疑う者。多くの征魔士はその二種類に分類されたていた。最も疑いを持つものに答えを知る術などないのだけど。


「そういう事だ! 俺からの報告は以上だから各自船に戻ってゆっくり休め!」


「「はい!」」


神座はそう告げると、朔夜を連れて千夜達のいる廃都市エリアに向かった。


「あいつら大丈夫かね‥」


「死人は出てない‥らしいですがね」


「無力化に向かわせたメンバーの組み合わせを考えると死ぬギリギリまでの怪我してる奴が確実にいるんだよなぁ‥主に31」


「わかってるじゃないすか」


神座は顔に手をつけため息を吐く。死人が出ていないのは何よりも良かったのだが、だからといって状況が変わった訳では無い。

叶夢の暴走で死んだ。が、まだ死んでない。にシフトしただけだ。無事が発覚したところで神座の表情が変わることは無かった。


「朔夜、怪我の手当はできるか?」


「なんすか突然‥回復魔法ぐらいなら俺でもできますよ」


「なら良かった。お前が出来なきゃ応急手当はどうなるかと‥」


「大袈裟っすね」


「いいや。なんせ俺は回復魔法が使えないからな‥」


「は?」


「不便な身体だよなぁ‥どうした?」


朔夜の反応を気にも止めず、神座は歩みを進める。


「回復魔法が使えない?」


「あぁ、言ってなかったか? 俺自分の神具の影響で雷魔法と身体強化以外使えないんだよ」


「どんな神具だよ‥」


「そりゃ‥お、着いた」


二人が会話をしているうちに廃都市エリアに着く。神座達は地下都市エリアの入口になる、中心のビルに足を急がせた。


「神座司令!」


「よう村雨! 怪我はなかったか?」


入り口に現れた神座を真っ先に出迎えたのは千夜だった。またそれに続くように後ろから紫以奈と紅葉が現れた。


「女性陣は無事か‥」


「その分男どもが重症なんです‥」


神座と朔夜は奥に寝かせられた豹助達の元に向かう。その悲惨たる怪我の状況に朔夜が目を疑った。


「こいつは‥」


「予想以上だな‥朔夜、さっさと運ぶぞ」


「分かってますよ‥」


神座は男性陣を見て怪我の度合いを視る。激闘の疲れからか男性陣の意識は無かった。


(白鳩は腹に穴を開けられてる‥回復魔法で辛うじて内蔵の傷口は塞がってるが‥肝心の腹の穴が塞がって無い‥)


「朔夜‥回復魔法をかけながらゆっくり運べ。傷口がまだ完全にふさがってない」


「わかりました‥」


朔夜は持ってきた担架を広げてそこに白鳩をゆっくり乗せる。


「千夜さん。後ろ持ってもらえるか?」


「わかりました」


(次に天城‥この血の色は恐らく奥の手を使ったか‥酸欠で死にかけてやがる‥)


「‥司令。隊長は私達が運びます」


「おお、いたのか‥頼んだぜ」


天城を取り囲むように第22小隊が現れ、天城を背負って瞬く間に消える。神座はそれを見送り残った二人に目を向けた


(豹助は単なる魔力切れ‥もう少し寝れば意識は戻りそうだな。問題は‥)


神座は壁に寄りかかった叶夢に目を向ける。魔力の鎧で守られていたとはいえ怪我の度合いは叶夢が最も重傷だった。


(見た限り、肋骨が数本折れて内臓に刺さってる。出血多量に全身にヒートアウトによる火傷‥普通だったら死んでる。だが‥)


神座が目を疑ったのはその傷が叶夢の意識が無いはずの現在進行形で自己再生していたことだった。足りなく欠けているはずの部位から見えた筋肉がミミズのように動き回復をしていたのだ。


「矢岬、敷波。豹助を運んでくれ」


「わかりました! 叶夢隊長は‥」


「ひとまず俺が運ぶ」


「了解です。ほら行くよ豹ちゃん‥」


敷波が豹助の身体を起こし、紫以奈の背中に被せる。紫以奈は豹助が背中に負われたのを確認するとゆっくり立ち上がり、建物を後にする。


「ほらお前も行くぞ‥」


神座も叶夢の身体を持ち上げ、背中に背負うと入口に向けてゆっくり歩き出す。背負った背中に微かな鼓動音が伝わると、神座はため息をしながら愚痴を吐いた。


「ったく‥そんな状態になってもまだ生きてるなんてな。正直見直したぜ‥そういうとこ春月には似なくて良かったな」


神座の口からは知るはずのない名前が零れた。


ーーーーー


「着いた‥」


それから数時間。後始末を済ませた神座は現在に至る。手馴れた手つきでドアの前の機会にパスコードナンバーを打ち込み、叶夢の部屋を開く。


「やっぱここにいたか‥朔夜」


「悪いっすか?」


「いいやお前ならいい。んで問題は‥」


薄暗い部屋。朔夜は隅のテーブルにコーヒーを置き、椅子を正面の牢屋に向け叶夢の様子を見ていた。鉄格子に区切られた約十畳の牢屋の中に叶夢は壁に寄りかかり虚空を見据えていた。


「よう。調子はどうだ?」


「最悪の目覚めだ‥意識がもどったと思ったら檻の向こうに世界一見たくないやつの顔があったからな」


「そんな減らず口が聞けるなら大丈夫か‥」


神座は半ば呆れながら、ワゴンから皿を持って叶夢の前に差し出す。


「食えるなら食っとけ」


「今この状況で食事とか‥あんた頭おかしいんじゃねえの?」


「前言撤回。食欲関係無しで食え。説教は聞き流しでいい」


「説教の意味無いな‥まぁ食うよ」


神座は鉄格子のドアを開けて、料理の盛られた皿を叶夢の前に差し出しすと、すぐにドアを閉める。


「出してくれる訳じゃないのか」


「少なくとも今夜一晩は出さんぞ」


「‥はーいはい。こっちもその方がありがたい」


叶夢は神座達に背を向ける形で鉄格子に体を寄りかからせながらフォークで料理を口に運んだ。


「味覚は?」


「ある‥このローストビーフ美味いな」


「問題無しか‥まず、おかえり」


「は?」


叶夢の料理を進める手が止まる。


「いやいや、それ今言うことか?」


「そりゃそうだろ。超魔族から人間に戻るなんて普通だったら奇跡に近いことなんだからよ‥」


「お、おう‥」


「それと何で超魔族になった?」


「‥俺が馬鹿やったからだ‥」


「四回目を使ったか‥何に使った?」


「千夜を守ろうとした」


「‥フフッ」


神座から嘲笑にも似た笑いがこぼれる。


「‥笑う要素あったか?」


「だってお前‥俺が思ったこと一語一句間違えず言いやがったからさ‥」


「悪かったな‥」


「いいや。それでいい」


神座は静かに叶夢の頭の上に手を乗せる。


「お前はそれぐらいの悪餓鬼でいいんだよ」


「意味分かんねえんだけど‥」


「分かんなくていいんだよ!」


神座は頭に乗せた手で乱暴に髪をかき乱す。


「だー! だからワシャワシャすんなって‥」


「でだ叶夢。これからどうするつもりだ?」


「これから?」


「その力だよ。お前が望むなら小隊も解散して全く別の場所で戦ってもらうこともできるからな」


「あぁ‥そういうこと‥朔夜、俺どうすりゃいいかな?」


「ブーーー!‥ゲホッゲホッ‥急に俺に振るなよ!」


叶夢の突然の質問に、朔夜はコーヒーを気管に詰まらせてむせた。


「いや話に混ぜてもらえなくて悲しそうな顔してから」


「そんな顔を生涯浮かべた覚えも無いし、浮かべる予定もねえよ!」


「まぁ落ち着け。今回はお前にも関係してくる話になってくる」


「はぁ。俺が?」


「今回の件でゼルリッチの魔子が暴走のリスクを知っちまった以上、何らかの対策はしなきゃ行けない」


朔夜は呆れながら「なんだそんなことか」と呟く。


「だったら答えは簡単です。手元に残しましょう」


「その理由は?」


「今回の件で分かったように、叶夢が背負っている暴走のリスクは俺たちの想像よりも身近なものでした。であれば野放しするよりもこちらの目が届く場所においておくのが最善です。そして何より‥」


「全く同じリスクをお前も背負ってる」


朔夜の言葉を遮るように叶夢が口を開く。


「お互い目の届く場所にブレーキがあれば暴走のリスクを軽減できるからな」


「まぁお前らならそういう考えになるか‥」


「確かにそれもある。だが俺が言いたかったのは全然違う」


朔夜は叶夢を小馬鹿にするように笑う。


「なんだと?」


「もしその程度で俺の心を読んだと思っていたならお前もまだまだだな」


「神座、檻開けろ。アイツしばく」


「落ち着け馬鹿」


少し間を開け、朔夜は口を開く。


「目の届く場所‥それ以前に小隊解散は叶夢や神座さんが許しても、他のメンバーが許さないんでしょうか?」


「は?」


「確かにそうだな」


朔夜は続けて話す。


「第一、その結果じゃ究極の自暴自棄野郎である叶夢しか納得しない。それが俺は気に食わない」


「なんだよ自暴自棄野郎って‥」


「事実だろ? 昔っからお前はそうだ。助けるという行為に入るべき自分が入ってない。だから今回も暴走した」


「だから何だよ」


「ッ!」


瞬間。朔夜の姿が消え、同時に鈍い音ともに叶夢を幽閉していた鉄格子が歪な形に歪んだ。


「おー怖い怖い‥檻入っててよかったー」


叶夢は一筋の光も刺さない眼で、檻の向こうで神座に押さえつけられた獣を見つめる。


「やめろ。殴ってわかるやつならとっくに殴殺されてる」


朔夜は神座の腕を振り払うと、血走った目で檻の向こうから叶夢の襟を掴んで問いただした。


「一つだけ教えろ。全てを捨てて紅い死神になってお前は何を視た?」


「‥知れたことだ。俺に関わった奴から死んでいく。この真理だけだ」


「何だと‥」


「友人も、恋人も、仲間も、果てには師匠も、俺のこの力で死んで行った。幸運を不平等にばら撒く神様は死だけを平等に与えやがった。この意味が分かるか?」


ふつふつと湧き上がったやり場のない怒りは叶夢を容易にこの世への絶望を吐かせた。


「どれだけ努力しようが、どれだけ俺に与えても全部壊しちまう。お前らと共に得た力は俺にとっては呪いでしかない。でも俺も諦めが悪いよな‥ここでならどうにかなると思っちまったんだ」


「どうにか‥なる?」


「この世界は独りで生きるのには寒過ぎる。でもここに来てから不思議とその寒さも和らいだ。アイツらがいたからだ」


「31小隊か」


「‥」


神座は影を落とし黙り込む。


「そうだ。そして何より、そこに会わせてくれた神座にも感謝しているんだ。だからこそ俺はそれを失ってしまうのがこわ」


叶夢がその言葉を言い終わる前に、耳を劈く様な鉄の衝突音が部屋中に響く。叶夢がその状況を理解するのに時間はそう必要ではなかった。


「‥! ‥何のつもりだよ神座さん!」


「え?」


叶夢の目に映ったのは、神座が自らの背中に背負っていた大剣を振り下ろし、それを朔夜が自らの槍で受け止めている状況だった。


「‥さっきから聞きっぱなしにしてりゃ、ごちゃごちゃと‥」


「神座?」


叶夢と朔夜は初めて神座 頼光という男に恐怖を抱いた。その眼は普段皆から慕われている神座 頼光という人物を瞬殺し、純粋な殺意と怒りを凝縮した眼になっていた。


「一先ず、その剣を下ろしてくれ! あんたのフルパワーを受け止めれるほどこっちもできてねえんだ!」


「ハァハァ‥悪い」


神座は我を取り戻すと大剣を背中に納刀して、呼吸を整えた。


「何のつもりだよ‥あんた今、本当に叶夢を殺そうしてたろ!」


「そうだ」


「そうだ‥って何でそんな事を!」


「その理由は今から言う‥」


叶夢は言葉を出せずにいた。神座 頼光が見せた獣の恐怖が叶夢の全てを支配していたからだ。


「叶夢。お前がそう言うのも分かる。何故なら俺はお前が紅い死神として生きてきた頃もゼルリッチの魔子として生きていた頃も知っているからだ。だがな、だからといってそれは逃げていい理由にならないんだよ」


「俺が逃げた? アッハハハ!‥逃げてたらこんな事を思って生きてねえよ!」


「仲間を失うのが怖いから初めから持たない‥この言葉が逃げる以外で簡略化できるならこっちが聞いてみたいな」


「それは‥」


神座は狼狽える叶夢の頭を鉄棒の隙間から掴むと、無理やり引き寄せて頭突きをかました。


「いって!」


「確かにそうだよ! お前は生きてるだけで多くの人間の全てを奪う疫病神だ! 触れたものがすぐに灰になるような一生を送る!

それが嫌ならなんでお前はその運命に抗おうとしないんだよ!」


普段の神座からは想像のつかない怒号、叶夢と朔夜はただ黙って聞いていることしかできなかった。


「もしお前がそうやって奪ってきただけなら、せめてその奪ったものを使ってでも、どんなことをしてでも抗え!

お前の命はな奪ったものがくっ付いて、お前一人がどうこうする重さじゃなくなってんだよ! ならそれに見合った一生を送れ!

じゃなきゃ俺が‥何よりお前に生きる道を譲った春月が許さねえんだよ!」


「春‥月?」


叶夢は絶句する。神座の口から聞こえるはずのない名前が飛び出したのだから。


「‥何であんたからその名前が」


「‥アイツは古い付き合いだ。アイツはお前のリスクを知った上で自分の元に置いた。そして自分になんかあった時にお前のことを頼まれた。正直、そんなことない方が良かったがな‥とにかくだ! 気が変わった! 小隊はそのままだ! 口答えしたり次変なこと口走ってみろ。その時は俺もどうなるかわからないからな!」


神座は命令を吐き捨てると、イラついた足取りで部屋から出ていった。


「‥何だよあいつ」


「あの人の言う通りだ。お前の命はお前一人のものじゃない。何よりその一人にソフィアがいることを忘れんな」


「にしたってやりすぎだろ‥あんな神座初めて見たぞ」


「それだけお前が本気で怒らせたってことだ。これに懲りたら下手に死のうとしないことだ」


「‥しょうがない。もう少しだけ命と付き合ってみるか」


「それが言えただけ成長か‥俺は部屋に戻る。じゃあな」


叶夢はどこか諦めた声で決意を固めるのを見ると、朔夜は静かな足取りで部屋を出た。


「‥悪いソフィア。俺はまだ、お前の場所には行けないらしい」


叶夢の言葉に返事が返ってくることは無い。叶夢は冷たい床に身体を投げ出すと、そのまま眠りについた。今こうして自分が生きていることを報酬として噛み締めながら。

次は書くとしたら日常かな‥

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