第37話 蹂躙の黒
毎度遅くなってしまって申し訳ありません!
本編をどうぞ!
「おいコラ! 起きろ! バかむい!」
「ーーー! ーー!」
「その調子はきっと黙れ黙れ! って言ってると思います!」
白鳩の判断の下、千夜、豹助、紫以奈の3人が叶夢を翻弄する。
「できるだけ叶夢くんを疲弊させる!
矢岬ちゃんはいつでも打てる体制を整えておいて! 村雨ちゃんはできるだけ威力が強い魔法で叶夢くんを攻撃して!」
「基本的には俺がターゲットを取る感じでいいのかにゃ?」
「あぁ、豹助の攻撃タイミングは俺が作る」
「ーーーーーーー!!」
叶夢が豹助に向けて魔力で形成した黒い拳を振り上げる。
「おわ!‥何だよこれぐらいなら!」
叶夢の行動を読んだ豹助が身体を右に逸らし、叶夢の拳から逃れる。しかし叶夢の攻撃はこれで終わることは無かった
「ーーー!‥ーーー!!」
突如としての避けた拳状に形成した魔力の塊が豹助達にとって見慣れた槍状に形状を変えた。
「嘘‥あの形って‥豹ちゃん!」
「黒い閃光‥まずい! 豹助! 早く避けろ!」
「んな事言われたって!」
直撃。豹助や2人が死を確信した。加減無しの黒い閃光は容易に豹助の腹に風穴を空けることだろう。
「豹助さんすいません! 肩借ります!」
「ち、千夜!?」
豹助が千夜の声に反応し顔を上げようしたが、左肩に訪れた衝撃と激痛に阻まれた。
「おっも!」
「粉砕する氷斧!」
「ガフッ!」
豹助が叶夢に視点を持ち直すと、叶夢の首筋に氷で形成された巨大な斧の刃先がめり込み、切込みを入れられた首の動脈から凍った鮮血が吹き出ていた。
「ぐっ‥まだ浅いですか‥」
「千夜! 早く離れるにゃ!」
「‥‥」
千夜は豹助と共に、叶夢から距離を取る。しかし叶夢は追いかけるでもなく、ただ自分の傷口を撫でるだけで立ち尽くしていた。
「豹ちゃん! 千夜! 大丈夫!?」
「私は大丈夫です‥でもすいません‥豹助さん足場にしちゃいました‥」
「以外に痛くてびっくりしたにゃ‥」
「そりゃあんな氷塊乗っかればね‥でも無事なら何よりだよ」
「それにしても、あの怪我で平然としてるなんて‥あれが超魔族‥」
紫以奈が叶夢の方を見上げると、叶夢は首に固定された氷塊を凍った血飛沫と共に引き抜いた。
「やれやれ‥せっかく千夜が血液を凍らせて止血までしたのににゃ‥」
「というかナイフ引き抜く感覚で氷を壊すって身体にかかってる身体強化が普段の比じゃないと思うのは俺だけ?」
「白鳩さん‥多分予測当たってます。
一刻も早く封魔石に‥」
「矢岬ちゃん。こっちとしてもその手を使いたいのはやまやまなんだけどね‥」
白鳩が頭を掻きながら弓を持ち直す。
「まず制御室はここよりも狭い。そこで今の叶夢くんと戦うなんて自殺行為だ。最低でも魔力の装甲を全部剥がす必要が出てくる」
「それはやれなくもないにゃ、魔法を打たせるなりすれば魔力は勝手に減ってく。ましてや今の叶夢は全開にした蛇口みたいに加減無しに魔力を垂れ流しにし続けてるからにゃ」
「私と千夜で叶夢隊長の動きは十分には止められるとは思うんですが‥どうしてもその後のトドメにもって行く火力が‥」
「現実的には自己再生で魔力切れを起こさせるしかないってことだにゃ‥」
豹助は自分の神具で呼び出した二本の剣を逆手に持ち直すと、叶夢を睨みつける。
「豹ちゃん?」
「二人とも。ちょっと離れてて欲しいにゃ」
「豹助さん?やめてくださいよ?」
「白鳩、あの馬鹿に最大火力で毒矢をぶち込んでくれにゃ」
「あのね豹助‥あの行動が予測できない化け物相手に最大火力なんて」
「いいから離れて構えてるにゃ。俺がそのチャンスをくれてやるにゃ!」
豹助が千夜の言葉を無視し、息を大きく吸う。
「おーーーい! ボケっと突っ立ってないでかかってこいにゃーー! このバ」
「ーーーーーー」
豹助が挑発を言い切る前に、豹助の横を冷たい衝撃が通り過ぎる。しかし豹助の意識は未だ叶夢の方に向いていた。
「ったく、最後まで言わせろにゃ!」
「ーーー!!!」
叶夢は自らの首の斧を豹助に投げつけると、豹助目掛けて襲い掛かった。豹助はその場から動かず叶夢の動きを見ることだけに専念していた。
「まったく‥外しても文句言うなよ」
白鳩は矢をつがえると、叶夢の着地先である豹助に向けて狙いを定めながら矢に魔力を流し込む。
「豹ちゃん! 何やってるの!?」
「早く動かないと豹助さん死んじゃいますよ!?」
残り2m地点。叶夢のスピードは下がるどころか増している。対して豹助は千夜や紫以奈の声にも耳を傾けず剣を構えて叶夢への迎撃体勢に入る。
「豹助! 避けろ!
細菌爆破!」
白鳩の叫びに千夜と紫以奈は目を逸らす。二人の脳裏に過ぎるのは叶夢に屠られる豹助の姿。しかしその予想は裏切られることになる
「ーーーー!!!‥!?」
「よっしゃ! さっき言えなかったからもう一回言ってやるよ! バーーカ!」
「おし当たった!」
一瞬で場面は変わっていた。叶夢の前にいたはずの豹助は叶夢の後ろに回り込み、二本の剣を背中に突き刺していた。また白鳩の放った矢は叶夢の腕に刺さり魔法によって作られた毒が叶夢の身体に染み込みつつあった。
「豹助! 毒が回らないうちに離れておいて!」
「あいよ!」
豹助は乱暴に剣を引き抜くと、叶夢を踏み台にして三人の元に戻ってきた。踏み台にされた叶夢は顔から着地し、床に横たわっていた。
「今のって‥」
「時間凍結だにゃ」
「豹助はわざと自分の間合いに叶夢を引き込んだ。‥でもなんでわざわざあんなギリギリまで待ったの?」
白鳩が荒くなった呼吸を戻しながら、豹助に問い詰める。
「確かめたいことがいくつかあったんだにゃ」
「確かめたいこと‥ですか?」
「1つはあいつの意識が干渉してるかどうか。少しでもあいつの意識があるなら、わずかにでも減速したり軌道を逸らしたりは出来るはずだと思ったからだにゃ」
「結果は? どうだったの?」
「多分意識はないにゃ。あれは多分魔族としての本能だけが動いてる状態ってことでいいにゃ」
「なるほど‥」
「あれって攻撃が通用したってことでいいんですかね‥」
千夜が豹助の説明を聞きながら叶夢の様子を観察していた。叶夢は背中の傷を手で抑えながらも身体にまわった毒に悶え苦しんでいた。
「毒は盛りすぎだったかな‥けどまぁあれでも弱めた方だから死ぬことは無いっしょ」
「あれでも弱めなのかにゃ‥」
「うん。あの毒は魔力回路のブレーキを一時的に破壊するものなんだよ。と言っても使った魔力と一緒に外に出ちゃうからほんと一時的なものなんだけどね」
「さすが白鳩だにゃ。‥でもそう話してる暇もなさそうだにゃ」
「ーーーーー!!!!」
四人は叫び声の場所を見る。そこには魔力がコントロール出来ず、魔力の鎧を形成しては崩れを繰り返す状態になった叶夢が溶けた魔力で形成した仮面の間から紅い目を覗かせていた。
「あれだけボロボロにしてもまだ戦うのね‥」
「でもまぁもうちょっとだよ。それじゃ次来るよ矢岬ちゃん」
「わかりました。白鳩さんと千夜は制御室までの道をおねがいします」
「ってその流れはまた俺が残る流れなのかにゃ!?」
「私の火力じゃ弱らせるのは無理。せいぜいターゲットをとるのが精一杯なんだから」
「仕方ないにゃ‥その代わり援護射撃俺に当てないよう気をつけろよにゃ?」
「誰に向かって言ってるのよ!」
紫以奈の叫びと共に、叶夢が突撃してくる。紫以奈は両太腿のホルダーからハンドガンを二丁取り出すと叶夢にその銃口を向ける。
(手負いでもこの動き‥だけどさっきよりは明らかに狙いやすい‥)
「おらよ! 好きなだけ自己再生しやがれにゃ!」
紫以奈の正面に直進している叶夢の体制を崩すように、豹助が叶夢の側面を狙って左から剣を突き立て走り出す。
「ーー!」
「ってさすがに警戒するよにゃ‥紫以奈!」
(わかってるよ‥まずは左腕の動きを邪魔する)
紫以奈は叶夢が左腕を豹助に向けた同時に、二つのハンドガンから銃弾を発砲する。
「疾走する弾丸」
二発の放たれた弾丸は風魔法を帯びて加速する。加速した弾丸は魔法を撃とうと構えた叶夢の左腕をあらぬ方向に傾ける。
「ー!?」
「豹ちゃん! 早くして!」
「さんきゅー!」
豹助は振り上げた剣で叶夢の背中を斬る。叶夢も弾かれた左腕を振りあげようとしたが、紫以奈の神具メデューサによって生み出した弾丸ペガサスによって石化した魔力の塊が左腕の動きを制限していたせいで反撃に出ることができなかった。
「ーーーー!!」
豹助の剣に斬り伏せられた叶夢は紫以奈に届くことなく顔から床に滑り込んだ。
「‥やりましたか‥?」
「回復が始まってるからまだ生きてるにゃ‥回復スピードは少し遅くなってるみたいだけどにゃ」
「なら良かった‥」
倒れ込んだ叶夢はピクリとも動かず、傷ついた箇所を闇魔法が覆い傷口を再生させていた。しかししだいに闇魔法は広がり叶夢の身体を蛹のように包んだ。
「一気に身体の殆どを覆うとは‥俺の攻撃がだいぶ効いてきてる証拠かにゃ?」
「あんまり油断しない方が‥」
「豹助さん! 紫以奈!」
「千夜! 制御室は見つかった!?」
千夜が二人の元に戻ってきた。紫以奈と豹助は安堵の表情を漏らす。
「はい! なんとか! あとは叶夢くんを‥‥何か様子おかしくありませんか?」
「え? あ、あぁ全身の回復に入ってるから魔力に覆われ‥」
「多分あれ‥回復じゃないです‥」
叶夢を包んだ蛹状の魔力が波打ち、不気味に胎動し始める。
「‥なんかやばそうだにゃ。 二人とも! 離れるにゃ!」
「ーーーーー!!!!」
豹助の叫びにと同時に波打っていた魔力の塊は大樹のように枝分かれし始め、触れたものを破壊し尽くした。地下都市を覆う壁や建物すらも。
「豹ちゃん!」
「紫以奈!前に出ないでください!
氷の部屋!」
「ぐっ!」
千夜の放った氷の部屋は自らと紫以奈、豹助を巻き込み氷の壁を作り出す。その壁は枝分かれして鋭利となった闇魔法の進行を完全に防ぐには頼りないものであった。
「豹助さん!」
「いっで!」
半径約2mにもなる氷の壁は中心の千夜に魔法を届かせることは無かったが、千夜から数センチ離れていた豹助には魔法の到達を許してしまった。
「なんなんだにゃ‥この威力!」
「豹助さん! 早くこっちに!」
「無理だにゃ! 回復を済ませた叶夢がこっちに狙いを定めてる!」
千夜が氷の外に目を向けると、卵の殻を破る雛のように魔力の中から叶夢が氷の部屋を睨みながら這い出ていた。
「魔力の鎧こそ無くなってますが‥まだまだ元気そうですよ。あれ」
「まさかまた迎え撃つの!? 」
「じゃないと俺らが死ぬにゃ!
2人はそこから動くな!」
強気な発言とは裏腹に豹助の体力は限界に近づいていた。足は震え、視界は辛うじて輪郭を保ち、立つのがやっとの状態になっていた。
(時間凍結のやりすぎだにゃ‥さすがに短時間で使い過ぎたしわ寄せが今になってきたにゃ‥けどここで俺が立たなきゃ‥)
「白鳩さん‥早く来て下さい‥」
千夜は白鳩の帰りを祈るように、また絶体絶命の現実に目をつぶった。
ーーーーー
「はぁ‥はぁ‥ここか!」
白鳩は廃屋の床下の梯子を降り、制御室の扉の前までたどり着いた。
「あとはここを開け‥パスコード!?」
白鳩がドアノブに手をかけようとすると、ドアノブの上にある数字盤が目に入った。
「しまった‥聞かないまま来てしまった‥電話は‥そうだ地下都市エリアは基本圏外だし‥。 いっそ蹴破る‥いや下手なことすると何が起こるか分からない‥
あーもうどうすりゃいいんだよ!」
白鳩はドアの前に頭を抱える。パニック状態に陥った白鳩には何が正常な判断なのかが区別がつかなくなっていた。
「ちくしょう‥」
「綾文先輩!」
「え? この声‥」
後ろからの聞き慣れない呼称に、白鳩は振り向く。
「はぁはぁ‥大丈夫ですか!」
「し‥敷波ちゃん!?」
その声の主は外で待機していたはずの敷波 蝋花だった。
「え! なんでここに!?」
「神座支部長から連絡をもらってパスコードを伝えに来ました! そこを開けますからちょっと待っててください!」
「わ、わかった!」
敷波は携帯の写真を見ながらパスコードを早打ちで入力する。
「にしても敷波ちゃんが来てくれて助かった‥」
「私だけじゃないですよ。戦闘面は二人に任せてきましたから」
「二人?」
白鳩の疑問の答えを待つことなく制御室の扉が開いた。




