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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
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第30話 反戦前夜

「ただいまー」


「おかえりなさい。叶夢隊長」


「おっす、紫衣奈。豹助は?」


「まだ寝ています」


「だろうな。その様子じゃ、よっぽど無理させたみたいだしな」


日も沈み、叶夢達は山岳地帯のコテージにようやくたどり着いた。ランク戦の場合、夜の間は休戦中となり、一切の戦闘を禁じているため叶夢達は安全にここに向かうことが出来た。


「そういえば叶夢隊長。同盟相手の顔合わせは?」


「豹助が起きてからだ。それに俺らも少し休ませてくれ」


「ならまだ寝てた方が良かったかにゃ?」


「チッ」


叶夢がベッドに身を投げ出すと同時に、豹助が声を出す。その声の返事に叶夢は舌打ちで返した。


「おはよう豹助。そして死ね」


「ひっでえ言い方だにゃ、それでも隊長かよ」


「二人とも身体は寝てても、口は元気ですね」


「あ、千夜もおかえり。ほんと元気だよねこの二人」


叶夢に続いて、銀色の髪を項(うなじ)の上でポニーテールにして結んだ翡翠色の目の少女。村雨 千夜も合流した。


「叶夢。紅葉隊長たちが呼んでますよ。至急会議をしたいそうで」


「俺に言うんじゃなくて白鳩に言ってくれよ。あっちの方が適任だろ?」


「駄目です。作戦を知っているのが叶夢だけなんですから」


「そりゃ知らねえよな。まだ立ててないもん」


「だろうと思ったよ。叶夢くん」


「お、噂は人を呼んでくれるな。白鳩。お疲れさんどす」


「なぜに京都弁‥」


ドアを開けて現れたのは、いつも着ている白衣を肩にかけて緑のTシャツを着て、茶色の髪を後ろで軽く結んだ青年。綾文(あやふみ) 白鳩(はと)だった。


「伝言役で良ければ頼めるけど、どうする?」


「30分後にブリーフィングを始めるって言ってくれ。それまで各自しっかり休む。以上」


「了解」


白鳩は叶夢の話を聞くと、首を鳴らしながら部屋を出ていった。


「見たところ叶夢隊長だいぶ疲れてますけど‥‥」


「豹助程じゃねえよ。ただ、一日走り回っただけだ」


「それも十分すげえと思うけどにゃ」


「味方も増やせた。22小隊がな」


「‥‥‥まぁ叶夢だからにゃ。それ以上の言及はしないにゃ」


「前々から思ってたけど、お前らの目に俺ってどういう風に映ってんの?」


叶夢が尋ねると、三人は叶夢に近いものを頭の中でサーチする。


「性格最悪の限りなく人間に近い魔族」


「初めて動かない身体を恨む。こんなに豹助を殴りたいと思った事は無い」


「名前だけ隊長‥‥ですかね?」


「紫以奈は優しいな。できればその言葉は豹助のあとに聞きたかった」


「うーん。何でしょ‥」


千夜は頬杖をして考え込んでいた。


「そんな考えること無いにゃ。軽く、罵倒する感じで」


「痛い口癖を持つ淫乱ピンクとかな」


「あっはは。叶夢、戦闘中は主に後ろに気を使った方が良さそうだにゃ」


豹助は引きつった笑顔で、殺意のこもった言葉を吐き出した。


「いいじゃん。ある意味それも豹ちゃんの個性だと思うし」


「‥‥紫以奈に言われると、全く反論出来ないにゃ」


「何よ今更、昔っからじゃない。このこの~」


紫以奈はいたずらに、豹助のほっぺをつついた。


「相変わらずラブラブしてるね。矢岬ちゃんに豹助くん」


「あ、白鳩さん。ごくろうさまです。何かいつもの二人で安心しました。」


白鳩も部屋に戻って来た。


「何の話してたの?」


「叶夢くんが私達の目にどう映っているかって。白鳩さんはどう思いますか?」


「正直に言っていいなら言うけど?」


「らめぇーメンタルこわれちゃうー」


白鳩は一呼吸して、口を走らせた。


「自分勝手で常にかっこつけてる厨二病患った自分のことを死神だと言う痛い人間」


「ぐはっ‥‥全部自覚あった‥」


軽めのジャブでは無く、真顔で言葉の右ストレートを打つ白鳩。この時点でも叶夢は膝をついており、耐えきれてなかった。


「あとピンチを楽しむドM野郎。その癖して女の子の前で自分はまともですアピールをしているにキャラブレッブレのクソガキ」


「白鳩‥‥ギブアップ」


「KO!‥‥って言い過ぎですよ!」


無数の言弾(ことだま)に、心を貫かれた叶夢は毛布の中に篭ってしまった。


「やだなぁ叶夢くん。冗談に決まってるじゃないか。半分は冗談だから。半分は」


「半分は本気か愚痴ですね。わかります。そうです僕はダメ人間です。こんな僕を二度と隊長と思わないでください」


篭った布団の中から叶夢の震えた声が聞こえてきた。


「ささ、最後は千夜で。トドメを刺してやれにゃ」


「私がですか?」


「そうそう。叶夢隊長に対して思ってることを正直に言って、介錯しちゃおう」


「殺せばいいだろ‥‥つか殺せよ!」


半ばやけくそになった叶夢の声に、千夜は困惑の色を浮かべた。そして少し溜息をすると、叶夢の篭った布団に向けて口を開いた。


「まず、正直言って前の三人の言ってくれたことは事実です。少しは自覚してるなら直す努力をしてください」


「ううっ‥」


千夜は叶夢の布団に近づくと、布団の上に静かに手を置いた。


「でも悪いところだらけじゃありません。カッコつけてるのは私達の奮起(ふんき)のため。それだけじゃないです。誰よりも不器用で誰よりも仲間思いで‥‥料理が上手くて‥ん?」


千夜の言葉を遮るように、布団の中から叶夢の手が伸び、千夜の手を掴んだ。


「それ以上は照れるからやめてくれ‥」


「えぇー? 貶(とぼ)されては泣いて、褒(ほ)められたら照れるからやめろってー? 結局、叶夢くんはどっちがいいんですか?」


「くっ‥お前に遊ばれるのは抵抗出来ない‥」


「じゃあもっと褒めてあげます。不器用な所が可愛い。精神年齢が少し幼いところが可愛い。基本されるがままになってくれる。他には‥」


千夜による叶夢への思いは数十分続いた。途中、白鳩が苦笑いになったり、紫以奈の顔が真っ赤になったり、豹助が枕に顔を埋め陸に上げられた魚のように暴れたが、そんなことを構わずに千夜は喋り続けた。


「…これぐらいですかね。ってどうしたんですか皆さん?」


「いや、別に‥‥さすが正妻だなぁって。その愛の深さ。多分矢岬ちゃんに負けてないよ。普通に叶夢くん好き過ぎだろって、聞いてるこっちが恥ずかしくなった」


「んあーーー! ちくしょう!」


「豹ちゃんさっきからどうしたの!?」


ベッドで暴れる豹助とは対象的に叶夢は布団の中で大人しくなっていた。


「てか叶夢くん。いつまで布団にこもってるの?」


「白鳩‥‥自分を好いてくれる人がいるのってこんなに嬉しいことなんだな‥いでぇ!」


「当てつけかい? ただ一人ボッチの僕を笑ってるの?」


白鳩は顔に青筋を立てたまま、叶夢の篭った布団に向けてエルボーを食らわせた。


「外の世界は痛みに塗れてる‥」


「はいはい。そんなに嬉しいなら出てきてくださいね。叶夢」


千夜の言葉に動かされたのか。叶夢は布団を退かし、赤くなった瞼を見せた。


「ホントに泣いてたんですね」


「恥ずかしかったんだよ。言わせんな。というかそろそろ作戦会議の時間だ。行くぞお前ら」


「「「「はーい」」」」


叶夢達は部屋を出て、かなり広めのリビングに向かった。既にリビングには第30小隊 第22小隊 第20小隊が出揃っていた。


「遅かったじゃないか。刀堂 叶夢」


「疲れて仮眠とってた」


「いい意味で呑気ですね。小生そういうところ憧れますね」


部屋には葉月(はづき) 紅葉(あかは)とガスマスクを取った天城(あまぎ) 瞬(しゅん)が円卓に向かい合うように座っていた。またその間に二人の気に気圧されるように苦笑いをしながら

黒髪に青い目を潤ませた敷波(しきなみ) 蝋花(ろうか)の姿があった。


「わるいな蝋花。この組み合わせの中待たせちまって」


「あはは‥‥いいんですよ。このお二人は相変わらず見たいですし」


「おい蝋花。こいつだけならまだしも、なぜ私まで同じ扱いなのだ?」


紅葉は殺気立った目を蝋花に向けた。


「ひっ!‥‥す、すいません!」


「あーステイステイ。落ち着きなって」


紅葉の威嚇を蝋花の後ろにいた、ベージュ色の髪をサイドテールでまとめた長身の少女。新川(しんかわ) 涼子(りょうこ)がなだめた。


「この調子じゃ、すぐに纏めるってのはキツそうだな」


「お言葉ですが叶夢くん。半数はお前のチョイスだにゃ」


「ここの苦労人は蝋花ちゃんになりそうね‥‥そこら辺は涼子ちゃんに任せるしかないんだろうけど」


「はーいはい。みんな落ち着いてねー」


白鳩が手を叩くと、混沌チックなギスギスした空間が少し和らいだ気がした。あくまで気がした。


「金丸を倒す気があるんでしょ? そんな馬鹿みたいな貶し合いしてる暇あるんだったらさっさと明日以降の予定について話し合ってね」


「すいません‥‥綾文先輩」


「おぉーナイスカリスマ」


「本当は叶夢くんがやらなきゃ行けない事なんだけどね」


「はいはーい。場をまとめてくれたのには感謝するよ。そんじゃ各隊。早速今日の結果報告を頼むわ」


「ではまず私達、30小隊から」


蝋花が椅子から立ち上がる。


「私達は山岳エリアを拠点として、辺り一帯の他の小隊の位置などの調査をしていました。結果としては、まだここは見つかってないと考えてくれても構いません」


「見つかってないのはでかいな‥‥次、紅葉隊長」


「あぁ、わかった」


蝋花が座るのとすれ違うように、紅葉が立ち上がった。


「我々20小隊は、廃村エリアの付近の林で待機していたが、刀堂 叶夢に急襲され拉致監禁及び強引な同盟の契約を結ばされた。

さらに同盟後は金丸の兵隊に自らの隊が裏切られた。以上」


「ひでえ話だ。‥‥おいどうした。二人ともなんでそんな冷やかな目で俺を見るんだよ」


「なんて‥うら‥めしいんでしょうね!」


「「変態は永遠に黙れ」」


「黙ったら小生。報告できないですよ?」


天城は晒した口角を釣り上げ、二人を煽るように笑った。


「わかった‥‥次、天城」


「かしこまり」


力なく手を上げると同時に、天城はゆっくりと立ち上がった。


「小生は金丸隊長に森林エリアの枯れ木の森側に1日中おりました。叶夢隊長が通るかもしれないからと」


「ふむふむ‥‥やっぱ包囲網に力入れてんな。となると中心の都市エリアには?」


「それが詳しく知らされてないんですよ。ねぇ? 紅葉隊長」


天城はニヤけた目で紅葉の同意を求めた。紅葉はその目を見て知らされてないこと事実であることを否定出来ず、その印として困った顔をしながら溜息をついた。


「マジか?」


「あぁ、マジだ。まぁ、私と天城(へんたい)は裏切る可能性が高かっただろうな。現にあいつからの指示はただ待機してろだったからな」


「無駄に頼ろうとしてるのが気持ち悪いですよね。さすがの小生もチキン肌でしたよ」


「ふむふむ‥‥なら思ったよりは動きやすそうだ」


「叶夢くん? また嫌なこと考えてません?」


「さすが、相手に回したくないランキングダントツ一位の叶夢くんは違うにゃ」


「まだ何も言ってないだろ。お前らがその気ならこっちにも考えがあるからな」


「それより、動きやすそうとはどういうことだ?」


「おっと、その件についてだな。みんなの意見を聞いて、俺なりに作戦を考えた」


叶夢は立ち上がり、ホワイトボードに2日目以降の予定を書き始めた。全て書き終えると同時に部屋には「なるほど」という納得の声と「馬鹿げている」という感情が込められた困惑の声が響いていた。


「二日目と三日目は何もしない。四日目で勝負を決める」


「叶夢‥‥貴様ふざけてるのか?」


「そ、そうですよ! そんなことしたら、勝てるチャンスが減ってしまうかもしれないんですよ!」


反対派として声を上げたのは、紅葉と蝋花だった。


「まぁ出るだろうな。反対派の意見を詳しく聞こうじゃないか」


「なんだその偉そうな態度は!? 第一、この戦力で四日目まで生き残れると思っているのか? 相手は島全体。仮に別エリア逃走したとしても囲まれるだけだ!」


「だから?」


「見つけ次第無力化させていくのが善策だと思いますけど。ですが、それよりもランク戦は別に4日ずっと居なくてもいいんです」


「そうなのか? 白鳩?」


叶夢が白鳩の方向を見た。白鳩はタブレットを開き、ランク戦の注意書きの一文を指差し叶夢に見せた。


『リタイアは自由。リタイアしたい者はリタイア通知メールを本部に送った時点でリタイアしたものとみて、その時点での戦績を結果とする。故にリタイアした者には危害を加えることも自らが危害を加えることの一切を禁ずる』


「ほーほー。つまり丁度いい戦績を残して撤退するのがいいのか。てかそれがノーマルなのか」


「2日も3日も逃げたら、戦績にならない。っていうことが言いたいんですね? 紅葉隊長?」


「それが分かってるなら、なぜ私に賛同しない? 天城?」


天城は呆れたように天井を見つめた。


「いえ、分かってますよ。こればっかりは小生も普通なら賛同しました。ですが、去年のデータと比べて見てみて気付いたんですよ。これが通常のランク戦では無いことに」


「通常のランク戦では無い?」


「そこからは俺が説明する。

通常はランク戦は多人数によるバトルロワイヤル。対して今回は俺という人間を敵とした討伐戦(わがまま)なんだよ」


「目的がより明確になってるって事ですか?」


「あぁ、その通り。いつも通り『これぐらいでいいか』っていう終わり方が許されてない。確実に『叶夢を倒す』って明言しちまってんだからな」


叶夢の発言に未だ二人は疑問符を浮かべる。


「まぁ要はあれだよ。課題が告知されてるのに、提出日ギリギリまでその課題が渡されない状況ってこと」


「焦らしプレイというやつですよ。時間ギリギリまで現れず、冷静な判断力を欠いた状態で奇襲をかける。確かに人数の少ない我々からしたらこれ以上ない最上の手かと」


「そう、上手くいくものか?」


「普通に逃げ切る分を考えたら、無理ゲーの気がしますけど‥‥叶夢隊長には何か策でもあるんですか?」


「安心しろよ蝋花。逃げる策も用意しとかなきゃこんな事言ってねえし。白鳩、地形データの断面図を出してくれ」


「ほいほーい」


白鳩がパソコンをいじると、スクリーンの島の上面図が断面図に変わった。

そしてそこに映っていたのは、地形の下にある巨大な謎の空間であった。


「な、何ですか!? これ!?」


「白銀先輩からのアドバイスだ。『逃げるなら地下都市エリアが最適解』ってな」


「馬鹿な‥‥こんなエリア。ガイドブックには書かれてなかったぞ!」


「落ち着いて下さいよ。しかし、ほんとにあったとは‥小生も驚きですよ」


「葉月ちゃん達が知らないのも無理ないよ。これ、神座支部長のお遊びで作られた隠しエリアだもん。というか竜次からか」


白鳩が遠い目で、左下辺りに視線を流していた。


「何かあったんですか、白鳩さん」


「はは‥‥前のランク戦でこの地下都市エリア知らなかったせいで、さんざん竜次と翔真に好き勝手されたのを思い出しただけ。

あの野郎‥‥未だに許してねえからな。今度会ったら‥」


「白鳩さん‥自分から聞いておいてなんですが‥古傷抉ってすいません」


「大丈夫だよ。村雨ちゃん。俺は平気」


白鳩の静かな怒りを後ろ目に、叶夢は悩ましげな表情で説明を続けた。


「ただ、白銀先輩は入り口を教えてくれなかった。そこは自分で見つけろって‥」


「でもあるって分かっただけでも希望が見えてきました! ね? 紅葉隊長!」


「ね?‥‥じゃない! 入り口が見つからないなら意味無いだろ!」


「うるせぇ! だったらお前がもっとマシな作戦考えろや!」


「おい叶夢! なぜ貴様が逆ギレしてるんだ! 私は蝋花に言ってるんだ!」


「だから蝋花は関係ねえつってんだろ! お前ほんとに人の話聞いてねえな!」


「あ、あの‥‥2人とも」


蝋花の子鳥のさえずりの様な声は、二人の怒号に掻き消され耳に届くことは無かった。

周りの隊員も止めに入ったが、二人は周りの制止を振り切り聞くに耐えない罵詈雑言をぶちまけた。


「大体何が『日本支部の風紀委員』だ!

ただ、金丸にあからさまに逆らってるだけじゃねえか! 挙句その状態で金丸につくとか‥

知ってるかー? アニメとかで学校内の風紀を一番乱してんのは風紀委員なんだってよー!」


「それは周りが勝手に言っているだけだ!お前こそ、自分から『紅い死神』などと名乗って恥ずかしくないんですか~?」


「あぁ、口喧嘩で押され気味になって若干幼児退行を起こしている紅葉隊長もこれはこれで」


「で、ですから‥そ、その‥」


「蝋花隊長。小生のアドバイスではさらにうるさい声をぶつければこの二人は一発で黙りますよ」


「私が‥‥」


「保証いたします。ガツンと‥」


天城が三本の指を立てて、タイムリミットを作る。蝋花も呼吸を整えて、喉の魔力回路に魔力を回す。

残り一本の指が折れる直前、蝋花は大きく息を吸い、折れた同時にそれを全て声に変換して力の限り叫んだ。


「いい加減にして下さい!」


「「!!?」」


天城と蝋花以外の他の誰もが固まる。事前に会話を聞いていた涼子は耳栓をはめ直した。


「紅葉隊長!」


「な、何だ!」


「紅葉隊長の言い方には無駄にトゲがあります! そんな言い方ばっか続けてれば自然と人が離れて行きますよ!? もう少し控えて下さい!」


「わ、わかった‥」


「叶夢隊長!」


「お、おう」


「作戦の立案者が、100%作戦を把握してなくてどうするんですか!? せめてもう少し下調べを済ませてから報告して作戦に組み込んで下さい! 紅い死神に関しては一切言及しませんから!」


「‥‥‥最後の一言が、病み上がりによく効いた。外の空気吸ってくる。」


叶夢は潤んだ目を隠しながら、静かにリビングを去った。それを見送った白鳩は1度手を叩き、場の空気を仕切り直した。


「はい。とりあえず、2日目3日目の作戦の方は逃げながら地下都市エリアの入口を探すってことで。

葉月ちゃん達20小隊は東の海岸エリアと漁村エリア。

天城くん達22小隊はその隣の森林エリアと渓谷エリア。

敷波ちゃん達30小隊は山岳エリアを調査しつつ待機してて」


「「「了解です‥‥」」」


「白鳩さん。私たちは?」


「俺たちは廃村エリアと、遊園地エリアに行く」


白鳩は廃都市エリアを囲む7つのエリアに、それぞれ人員を配置した。


「では各自で自由行動及び解散!!オールするも良し!すぐに寝るも良し!明日最高のコンディションになるような過ごし方をするように!」


「は、はい!」


「やっぱ元第1小隊隊長は違うにゃ。具体的にはリーダーシップ?」


「ほんとにうちの隊長がすぐメンタルを痛めるから‥‥それじゃ僕は先に寝てるから。おやすみ」


「はいはーい。紫以奈はどうするんだにゃ?」


「私は本を読み切ってからかな。続き気になってると戦いに支障が出るかもしれないし」


「じゃあ俺もそっちにいよ。千夜ちゃんはどうす‥‥あれ?」


豹助が後ろを見た時には、既に千夜の姿は無かった。大方どこに行ったのかを察した豹助は気にせず、紫以奈に続くように部屋を去った。


ーーー


「んっん~‥‥夜の潮風は程よく冷たいな」


部屋を出た叶夢は山岳エリアの海が広がる小高い丘にあぐらをかいていた。灯りがない地上を照らす無数の星空。それをすべて受け入れ、白く光る月を投影し映し出す紺色の海。

不思議と叶夢の心はこの海と共に、穏やかにとても落ち着いていた。


「しっかし、二日三日で地下都市エリアの入り口が見つかるもんかな‥‥おっと?」


波と風の音だけの夜に、携帯のバイブ音が響く。叶夢がポケットから出した携帯の画面には『出雲(いずも) 朔夜(さくや)』の名前が浮かんでいた。

叶夢はイヤホンを装着して、通話に応答した。


「もしもし?」


『もしもし。一日目ごくろうさま』


「素直に言葉を投げかけるなよ。気持ち悪いな」


『仲間集めは順調みたいじゃないか』


「悪口無視ね‥‥あぁ。ボチボチ」


『なら良かったよ。ここでくたばってても面白かったんだが』


「‥‥何心配してんだよ」


『バレたか。そりゃ心配だよ』


通話の向こうで、溜息を吐く朔夜の姿が容易に浮かんだ。


「魔法の使用制限なら問題ねえよ。ちゃんと一日三回で済ませてる」


『分かってるなら、せめて使わない努力をしろ』


「お前は心配症だな。だったらあの薬くれれば良かったのに‥‥」


『バーカ。お前には投与できねえよ‥』


「まぁ最悪三回使ってもどうにかなるだろう。倒れるだけならみんなに運んでもらえばいいし」


『そういう問題じゃねえだろ! お前自分の体のこと分かってんのか!?』


「うるせえな。ちゃんと分かっ‥‥て」


叶夢は空いた左耳で、草むらの音を感知する。呼吸音から女性と推測。後ろの草むらに視点を向ける。

見えたのは月に照らされながらもより銀に輝く髪。村雨 千夜だった。


「何だ千夜か。びっくりさせんなよ」


「叶夢こそ。こんなところに来ていったい何を」


「いや、朔夜とちょっと連絡を‥‥」


挨拶しようと手を挙げた叶夢の携帯から、イヤホンが外れ朔夜の言葉がスピーカーに切り替わり、大きめの声が響く。


『お前が四回目の魔法を使えば、魔族になっちまう危険性をもってるからこんなこといってんだろうが!』


「‥‥」


朔夜からの電話が切れたと同時に、二人は沈黙に包まれる。さっきのような穏やかな沈黙では無く、重苦しい沈黙に。


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