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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
27/83

第27話 ランク戦開幕

息をするように新キャラを出していくスタイル


後書きにキャラ設定も貼っておきます。

ではどうぞ!

ランク戦の舞台となる楔島に向かうその船の中には多くの征魔士が乗っていた。無論叶夢率いる第31小隊も乗っていた。死体として。


「以上‥‥今日のミーティングを終える‥あとは善戦してくれ」


「了解です‥」


「この野郎‥準備を一日に押し込みやがって‥‥」


「ろくなミーティングができてない気がしかないよ‥」


「紫以奈、詳しい解説は現地で言われると思うにゃ‥」


全員が力の抜けた状態になっていた。事の発端はランク戦二日前、五人は即就寝して朝六時に起床し、朔夜から貰ったデータをもとに対策や戦闘方法等を模索し続けた。


「このビルに立て篭もるとかいいんじゃないかにゃ? 紫以奈に芋砂になってもらうってのは」


「だったら私は凸砂の方がやりやすいんだけど」


「いつからFPSの話をしてた!? 拠点をコロコロ変えて移動するつってんだろ!」


「あ、ピザ届いた。取りに行ってくるね。はいはーい今出まーす!」


「みなさ〜ん。珈琲出来ましたよ〜。とりあえず飲んで心を休めて下さ〜い」


「千夜は休まり過ぎ! 私のだけ熱した醤油になってるから!」


朝六時から始めた唐突な作戦会議だった故に全員がその場その場の意見を出し続け、無駄にやる気をすり減らし、方針すらも定まらないまま時計は正午を回っていた。


「ぜぇぜぇ‥‥早く休みたかったらまともな意見を‥何でこんなに焦ってるんだっけ?

やばい記憶が錯乱してきた‥あ!」


「この極限状態でまともな言葉なんて出てくるわけないだろ‥‥叶夢くん、ちょっと力みすぎじゃない?」


「白鳩の言う通りだにゃ。何をそんなに焦る必要があるんだにゃ?」


叶夢は怪訝そうな顔をしたまま、自分の携帯の画面を開きあるメールを見せた


「‥‥朝起きたときに翔真先輩から届いたメールだ」


件名 おつかれやまです。


『( *・ω・)ノやぁ、ランク戦前日ともあり準備は順調かな?

ここで一つ忠告をしておくよ。弟がランク戦に参加する全小隊を束ねて、叶夢包囲網と言われる状態を作り出した。\(´Д`;)/ヤバイ

普通に作戦立てるのも良いけど、こっちの対策もしとくんだよ〜٩(ˊᗜˋ*)و』


「叶夢‥包囲網‥」


「作戦内容は載ってないにせよ、大体予想がつく」


「なんでそんなこと早く言わなかったんだにゃ!」


豹助が激昴し、叶夢の襟をつかむ。


「お前らに言えば、パニクると思ったからだ。前日にこんなこと言われて俺でも今パニクってるぐらいだ。」


「最初から言えば!」


「それは‥」


叶夢は一呼吸置いて、表情一つ変えないまま理由を答えた。


「さっきまで考えることに必死になりすぎて、今の今まで言うの忘れてた」


「千夜、熱湯持って来い! こいつの顔面にぶちまけてやるにゃ!」


「は〜い。湧きました〜」


「ちょ待て! 千夜! それは洒落にならない!ぎゃあああああああああ! 熱い!!!!」


「ちょっと皆さん! 脱線しないで話し合いましょうよ! 白鳩さんも止めてくださいよ!」


「むしろ加勢しちゃ駄目?」


極度の疲労によって、頭のネジが外れた者達の暴走により具体的な作戦が日が暮れても決まらず、結局行きの船の中で考えることになり現在に至った。


「す、すいませーん。叶夢くん‥‥いますか?」


「んふぇ?‥‥あぁ、はーい。あれ、敷波に新川? どうした?」


「叶夢、アンタ凄い寝癖と顔してるけど」


目の焦点が定まらないまま、ノックされた部屋のドアを開けると、そこに居たのは30小隊の隊長である敷波(しきなみ) 蠟花(ろうか)と副隊長の新川(しんかわ) 涼子(りょうこ)だった。


「失礼しまーす‥‥アンタらこの部屋でヤク吸うのはやめた方がいいと思うけど」


「吸ってねえよ! 昨日と今日の朝がハードスケジュールだったから全員疲れ果ててるだけだ」


「ハードスケジュールって‥‥おーい紫以奈、大丈夫?」


「ふぇ‥‥涼子ちゃん? どうしてここに?」


ソファに身を投げていた紫以奈のほっぺを触って、紫以奈の意識を鮮明にさせた。


「アンタのだらしないところ久々に見たわ」


「はっ! 一回部屋から出ていって!」


紫以奈が二人を部屋から引きずり出して部屋の外で待たせた。その間に身だしなみなどをある程度済ませて、数分立った後に二人を部屋に招き入れた。


「でもどうしたんですか? 蠟花隊長まで一緒に」


「そ、それは‥えーと‥包囲網についての‥情報と‥その、同盟関係の方で」


「え!? どうして30小隊が? 全員?」


「ふぇ!え、えと‥あの、その‥」


「はぁ、蠟花。あたしが代わりに説明する」


紫以奈が詰め寄ると、敷波は慌てふためく。それを見かねて新川が代わりに説明を行った。


「まず叶夢包囲網について。これはかなり単純な作戦よ。叶夢達を島の中心部である廃都市に誘導してそこでタコ殴りにする。途中逃げ出さないように何人かを結界に置いてね」


「本当単純だな」


「次に同盟。あたし達のバックアップをして欲しい。傷の手当は全面的にこっちがやるから」


「無論、頼るつもりだった。同盟は普通に飲む。でもいいのか? 包囲網に参加しないと何かペナルティでもあるんじゃないか?」


叶夢が敷波の反応を伺うと、静かに目をそらす。次に新川に目を向けると、新川は頷き答えた。


「あぁ、アンタら諸共タコ殴りにされるだけだよ」


「そんなリスク背負って大丈夫なの?」


「最初はあたしも反対した。でも蠟花は譲らなかった」


「‥うん」


弱々しくも決意を決めた目で叶夢を見る。


「包囲網について説明してた金丸隊長。凄い目をしてた。叶夢くんに対する憎悪を凝縮したみたいな‥‥多分、廃旅館の時以上に腕を上げてる」


「確かにそれはやばいにゃ」


豹助が身体を起こして、首を回す。


「正直、叶夢の話を聞くに廃旅館の金丸は慢心しきって本来の力を出してなかったにゃ。幸いにも本気を出す前に叶夢くんに倒されたからにゃ。ましてやそれに数が加わるとなれば、おそらく俺ら五人じゃ分が悪いにゃ。でもなんで敷波が?」


「あの時の叶夢さんがいなければ、今の私はいません。私は旅館での恩を今ここで返すべきだと思ったんです」


敷波は強い声で叶夢に語りかけた。叶夢は全員の目を見ると、同意と受け取り頷いた。


「わかった。頼りにしてるよ、敷波隊長」


「蠟花とお呼びください」


「じゃあ、これからよろしく蠟花」


二人は硬い握手を交わした。そのやりとりをしている間に船の中にアナウンスが流れ始めた。


『間もなく楔島。乗客の皆様は荷物などの整理をお願い致します』


「蠟花、そろそろあたし達も準備だ。んじゃにあとは頃合いを見計らって携帯で集合先を送るから、その前に殺られるんじゃないよ?」


「分かってるよ。それじゃ」


叶夢達は二人が戻ると、携帯食料などが詰め込まれたバッグを持つと楔島に着くのを静かに待った。そんな沈黙の中、白鳩が口を開いた。


「ところでさ、移動って普通にやるつもり? それだったら急襲されちゃうんじゃ‥‥」


「は? お前バカか。そんな危険な中をのんびりマラソンする程平和じゃねえんだぞ? だったらあれしかないだろ」


「まさかこの体力でアレをやらせるつもりですか‥」


「一番近い西の廃村までなら行けるだろ?」


叶夢は配られたマップを広げ、降りる予定の港を指差し、そこから少し離れた西側の村を示した。


「一番近い‥‥それでも500mあるんですけど」


「逆に考えるんだにゃ紫以奈。たった500m走ればそれからが休めるんだにゃ。だったらその分」


『ピンポンパンポーン。支部長の神座だ』


突如として天井のスピーカーから、アナウンスが流れた。


『もうすぐランク戦の開始。初めての奴もいると思うから軽くルールを説明しておこうと思う。

ランク戦の開戦は島に船が着いてから3分後になる。それまでに自分たちに有利な持ち場について貰ってもいいし、周りの人間にマークしながら走り回ってもいいし、どうやって過ごしてもらっても構わない。ただしその3分の間には船から出てくれよ。さもなくば失格として俺からの落雷を食らわす』


「へぇ‥どう過ごしてもいいのか」


「落雷ってリスク聞いてたかにゃ?」


叶夢が静かに口角を釣り上げる。豹助がそれに悪寒を覚えつつも続くアナウンスに耳を傾ける。


『ランク戦は基本4日間。リタイア通告などは俺のメールに送ってきて貰えれば、リタイアしたメンバーを携帯のメールとして全隊員に伝える。もちろんリタイアした隊員は、一切の危害を加えることも加えられることも禁ずる。その時は場合によってペナルティを受けてもらう。

説明はそれぐらいか‥‥そんじゃ、楔島到着だ。これより3分は有意義な時間を過ごしてくれ。アディオス!』


窓の外を見ると既に船は港に着いており、それと同時に部屋の外の廊下から多くの人間の急ぎ目の足音がしていた。みな船から一斉に降り始めたのだ。


「それじゃ僕らも行こうか‥」


「おいお前ら。何処に行く?」


「何処って」


「出来るだけ俺達は気づかれずに行く。その為に30秒前で船から出る」


「なるほどにゃ‥そのうちに休んでおけと」


それから二分が立ち、船内に響いていた足音が少なくなってくると叶夢はリュックを持ち、部屋のドアを開けた。


「さぁそろそろ出るぞ。マップは頭に突っ込んだからいいよな?」


「靴紐もしっかり結んでるから絡まるなんてそうそうありませんよ」


「うっかり踏まれないようにね」


「豹ちゃん大丈夫? 忘れ物ない?」


「問題ないにゃ。叶夢、全員OKだにゃ!」


「前半不安なんだが‥‥行くぞ!船を降りたら全速力で突っ切れ!」


五人が人の気配が無くなった船を飛び出し、港に足を踏み入れた瞬間、島の全ての通信端末にある連絡が入る。


『時間だ。開戦!』


その連絡を狼煙に叶夢達は走り出した。それと同時に彼方此方で静かだった島に爆発音が響き出した。


「叶夢! 後ろから来てるよ! 数は10!」


「敵だろうな! 白鳩、狙い撃て! 出来るだけ陣形を乱すな!」


「前から4人か来てるにゃ! 俺が‥‥」


「いやお前は残ってくれ! 俺が引き受けた!」


「豹ちゃん! 言ったそばから叶夢隊長が!」


「あれはほっといてもいいにゃ! 俺達だけで例の地点に全力疾走するにゃ!」


四人は陣形を崩すこと無く廃村に辿り着くと、瞬時にバラバラの方向に走り出した。追手を分散させるためだ。


「慌てるな! こちらも分散して31小隊を撃て!」


「「了解!」」


村に入った征魔士達も散開して四人の行方を追跡した。その光景を上空を飛んでいたドローンに着いたカメラが映していた。そしてその映像は本土にある征魔連合軍日本支部のモニター室に映し出されていた。


「早速タコ殴りのようだな」


「やぁ、龍之介。君も来たのかい?」


「そりゃな。一部の小隊は任務が入ってランク戦が見れないのを悔しがっていたぞ」


ランク戦の状況は5台のカメラ付きドローンによって中継され、征魔連合軍の本部、支部全てのモニター室に放送されている。藍髪の青年の金丸(かねまる) 翔真(しょうま)司馬(しば) 龍之介(りゅうのすけ)はテーブルに座り戦いの様を見ていた。


「まぁ序盤は誰も見ないだろうけど、今回は期待の新人がいるからね」


「叶夢のことか? 確かに今回の見所は当麻が用意した叶夢包囲網を本人がどうやって突破するかだと思うが」


「そうだね。4日間のランク戦で彼がどんな人物なのかも確認できそうだし、さてさて竜次の評価を覆せるといいんだけど」


翔真はただ真剣にモニターを見つめる。そしてその向こうでの戦闘は僅か数分で激しさを増す。叶夢達第31小隊が逃げ込んだ廃村にも多くの征魔士達が踏み込んだ。


「叶夢達の様子はどうなってる?」


「現在、廃村エリアで消息を絶ったという情報が入っております。あの狭いエリアで逃げ切るのは不可能かと」


「だといいがな」


中心の都市エリアのとあるビルの一部屋に、叶夢包囲網を作り出した張本人。黄金色の頭髪に青い目を持ちそれに眼鏡をかけた青年。この島にいる中で最も頂点に近い者。

金丸(かねまる) 当麻(とうま)である。


「あいつの死体を見るまで警戒を怠るな」


「了解!」


(あの旅館の屈辱‥あぁ、思い出しただけで腹が立つ。彼処まで俺をコケにしてくれた奴は彼奴が二人目か‥)


彼はただ見据えていた。彼が今求めているのは自分に屈服した叶夢の姿である。


「よっと‥‥あちゃ〜まだ追ってきてるか」


当の叶夢は多数の追手から木々の間をくぐり抜けて、逃走を続けていた。目測で約20mの距離になったとき、叶夢は自らのポケットにしまっていた爆竹に火をつけて左の方向に投げ飛ばした。

案の定、爆竹は凄まじい爆音を林の中に撒き散らした。叶夢を追っていた征魔士達もその爆発音に気を取られ、その隙に叶夢は追手の視界から自分が映らないように下に降りた。


「よっと‥‥バイバーイ」


叶夢が頭上を征魔士達が通り過ぎたのを小声で見送ると、端末を付け村の方角を確認してそこに向けて走り出した。

逃げながらも地形を覚えた叶夢にとって村を目指すことは容易いことだった。しかし日差しが多めに差しているひらけた場所に出たところに叶夢の目に人影が映った。


(味方じゃなさそうだな‥‥バレないように行くか)


「それで気配を消したつもりなら、私も舐められた物だな」


「なっ! 危ないっ!」


突如として人影から叶夢のいた道に小さな雷撃が飛び出してきた。紙一重で避けたものの、自分の存在を察知されてしまった。叶夢は静かに抜刀すると人影の元に姿を現した。


「やぁやぁ。これは可愛らしいお嬢さんだ」


「黒髪の紅い眼に赤いフード。お前が刀堂叶夢か」


「ご名答。何で俺がわかった?」


ひなたにあった人影の正体は長い茶髪を二つに結び薄いピンク色の目を持ち、巫女服のような服装に腰に刀を携えた少女の姿だった。


「爆発音と逆方向に向かう影があったから、それが刀堂 叶夢と踏んで待ち伏せをしていただけだ」


「いい観察眼をお持ちで。んでどうする? 生憎あいにく、俺は急ぎの用があるからデートのお誘いには乗れないぜ?」


「お前に拒否権はない。降伏するなら楽に峰打ちだけで済ませてやる」


少女は腰にから静かに抜刀して、その刀の切っ先を叶夢に向ける。


「それじゃ、仕方ないから付き合ってやるよ。お名前は?」


葉月(はづき) 紅葉(あかは)だ」


「楽しませてもらうぜ、紅葉」


叶夢はたった一歩の踏み込みで、紅葉を自分の間合いに巻き込んだ。しかしそれは同時に叶夢自身も紅葉の間合いに飛び込むことを意味していた。叶夢が大きく刀を横に振ると、紅葉はそれに動じず斬撃を自分の刀で止めた。


「反応速度はいいな」


「お褒めに預かり光栄だ。紅い死神」


「でも、まだ足りない」


振り下ろされた刀を受け流して、紅葉の喉元に刀を突きつける。しかしそれを読んでいた紅葉は受け流した刀を叶夢の喉元に近付ける。


拮抗きっこう状態って奴だな」


「それはどうかな? 雷衣(ボルテックモード)!」


紅葉の身体が青白く光り、叶夢の視界から消える。以前朔夜に見せられた自分の身体を雷に近づけて移動速度を光速まで上げる魔法である。しかし初見でない叶夢はギリギリではあるが、軌道を目で追えた。


「速っ! でも‥‥まだ追えない速さじゃない!」


「これを避けるのか!?」


後ろに回り込まれ自らの首元に向けて振り上げられた刀身を、叶夢は腰に携えていた鞘を掴むとそれを盾代わりにした。


「当たり前だろ! 伊達に31小隊隊長やってねえよ!」


「それは誇れる事なのか!?」


「知らん!」


紅葉は一時的に叶夢から距離を取った。また叶夢も後ろに大きく跳躍して紅葉との距離を離した。抜き差しならない状況で2人は自らの刀を構える。


「しかし噂の通りの強さだな。金丸を負かしたのも納得がつく‥‥」


「褒めても何も出ねぇぞ。しかし俺も急がなきゃいけない。この一太刀でおしまいにさせてもらうよ」


そう言って叶夢は刀を逆手に持ち、腰を低くした。魔力回路には身体強化の魔法が流され、その跳躍の先に紅葉を見た。


「面白い‥‥やってみろ」


「んじゃ、お言葉に甘えて!」


轟音と共に大地を蹴る。身体強化を使っているとはいえさっきの雷衣には及ばぬスピードで紅葉を捉える。紅葉は叶夢の眼を見ながら迎撃の為の体制を整えるが、妙な違和感を感じた。叶夢の動きにノイズが走り始めた。


(何だ‥‥叶夢の動きが‥読めない!? これが金丸の言ってた反転する眼(リバーサルアイ)か!)


「気付くのが遅いんだよ!」


近付いた叶夢に向けて刀を降ったが、空振りに終わり、その隙に後ろに回り込んだ叶夢は腰から取り出した鞘で紅葉のうなじの部分を強めに叩いた。


「かはっ‥‥き‥さま‥」


「悪いな。ちょっくらお前を利用させてもらう」


そのショックで紅葉は気を手放す。叶夢は周りに誰もいないことを確認すると、紅葉を背中に背負い、再び廃村に向かった。


「よっと‥これで二人‥って危なっ!」


「白鳩さん! 後ろにも用心してください!」


第31小隊は廃村に逃げ込み、追手を迎撃していた。


「紛れ込んだ征魔士は、八人‥残り六人は?」


「千夜と豹ちゃんが引き付けてます! あとは叶夢隊長を待つだけ!」


村の東側では、豹助が六人の征魔士を連れて村の屋根から地面を縦横無尽に駆けていた。


「全く‥‥叶夢はまだなのかにゃ? おっと!」


後ろからの攻撃を呑気に避けつつも、叶夢の指示を待ちきれなくなった豹助は、通信用端末に手を伸ばし、叶夢に通信を掛けた。


『どうした?』


「いい加減、征魔士達がウザイにゃ」


『捕まえて地下牢にぶち込んどけ』


「言ってることが正義の味方では無いにゃ」


「何言ってるんだよ。正義っていうのは都合の良い理由をまとった理不尽だろ」


「‥‥とりま捕獲しとくにゃ」


『おけ。そろそろ着くから通話切る』


「了解にゃ」


豹助が連絡を済ませると、距離を離し追手に顔を向けた。


時間凍結(フリーズ・ワールド)


豹助の言葉と共に、時間が凍り付く。その中でただ一人豹助は全員の手から武器を落として、再び距離を取った。体感にして15秒、再び時は動き始めた。


「おい! 武器をどうした!」


「いつの間に落としたのか!?」


「すぐに拾いに」


「遅いですよ。地を這う吹雪(ブリザガ・グランド)!」


地面に落ちた武器を拾いに、大地に足をつけた瞬間。征魔士達の足が千夜の氷によって地面と固定されてしまった。


「ハイ捕獲ー!」


「白鳩さん。中央の地下牢でいいんですよね?」


「そうだよー。念のために気絶させとくんだよー?」


千夜は白鳩の電話の言葉通り、慣れた手つきで征魔士達の項の位置に一撃を加えて意識を捨てさせた。

白鳩が電話を切ると、手前の森から枝を激しく揺らす音が聞こえ、そこに目を向けた。


「おーい。ただいまー」


「おかえり。その子は?」


「捕まえてきた」


「うわぁ‥」


「変な意味じゃねえよ!」


森から飛び出してきたのは、気を失い叶夢にお姫様抱っこされていた葉月 紅葉だった。

叶夢は白鳩と紫以奈の姿を見つけ合流すると、通信用端末の電源をつけた。


「こちらたいちょー。中央舎に集合。捕らえた征魔士は地下牢に連れてけ」


「「「‥‥了解」」」


「了解にゃ」


「お前ら、その間はなんだ?」


しばらく歩き、廃村の中央にある大きな建物に入ると人質を抱えた豹助が地下室に。その他の4人は2階の会議室と書かれた部屋に入った。


「疲れた‥」


「叶夢隊長。隊長が連れてきた女の子って‥」


「葉月紅葉って名乗ってた」


「葉月隊長ですか!?」


紫以奈の問いかけた疑問に、千夜が驚く。


「知ってるのか?」


「もしかして前の小隊?」


「そうです! 補欠の私にも優しくしてくれた隊長なので印象に強く残ってて」


「いい隊長じゃない」


「そうか‥‥前の小隊か。その手があったな」


叶夢が何かを思いついた表情を見せる。その顔にその場の全員が悪い予感を感じた。


「ただいまにゃ。ってみんなのその顔はなんだにゃ? 察するに叶夢くんが何かろくでもない考えを思いついたと」


「あぁ、自分でもそう思うよ。ひとまずお前らは夜までここで待機だ」


「隊長は?」


「警備やっとく。夜は交代にする分、お前らの体力を残しとくために昼の内は出来るだけ俺が働く」


そう言うと叶夢は会議室から出ていった。一階まで降りると、階段の裏にあった地下室に続く隠し扉を開けた。ドアの向こうは冷たい石の壁と石の階段がここと地下を繋げていた。


「いくら初夏とはいえ、陽の光がない分寒いな」


静かな暗闇が続く階段に足音を響かせながら、地下室に降りる。微かに話し声が聞こえた。地下牢が見えるところまで降りると、捕縛した征魔士達が見えた。それと同時にあちらも叶夢の姿に気づく。


「よう。早速ちょっかい掛けてくれたみたいじゃないか」


「ぐっ‥‥31小隊風情が」


「そういうお決まり文句はいい。お前らは金丸の指示で動いていた征魔士でいいんだよな?」


「それがどうした?」


「俺包囲網についての情報。全部吐け」


叶夢は冷たい声で言い放つ。その目は一切の感情を映さない。


「そんなの吐けるわけないだろ!そんな事したら金丸隊長に‥‥」


叶夢が吐かないと言った征魔士に足を振り上げる。


「言い方を変えるか。吐かなきゃ死ぬぞ?」


躊躇いもなくそう言い放った叶夢の顔は、笑うでもなく怒るでもなく、ただ作業的に仕事を行う機械のように無表情だった。


「その程度で喋ると思うなよ‥」


「そうか‥どうしても喋らないなら」


叶夢は征魔士の腕を掴み、肩を踏みつける。この体制になればこの後どうなるのか誰でも予想がつく。叶夢がそのまま腕の関節を外そうとした時だった。

叶夢の通信用端末に連絡が入る。叶夢は軽く舌打ちをすると、いつもの腑抜けた表情に戻り通信に応じた。


「はいはーい。どちら様ー?」


『そこまでだ。叶夢』


通信の相手は神座 頼光だった。


「神座? 何がだよ」


『拷問で吐かせるのは無しだ』


「どこから見てた」


『さぁな。ただ、この島じゃお前が好き勝手出来ないようになってるだけだ。紅い死神かむいくん』


「はぁ‥分かったよ」


『分かればよろしい。それじゃこれからも善戦してくれ』


神座はクスッと笑うと通信を切った。

叶夢の目には光が戻り、再び蹴り飛ばした征魔士に近寄る。


「さっきは力を入れすぎたな。まぁ、無理にとは言わねえよ」


叶夢は治癒魔法を掛けると静かに牢獄を出た。


「拷問はダメか」


「やっぱりするつもりだったんですね」


「おぉ、千夜か。なんでバレたの?」


地下室から一階に上がると、千夜が階段に座り込んでいた。


「叶夢ならやりかねないなと思ったので‥‥それで心配して」


「悪いな。変な心配掛けちまって」


叶夢は頭をかきながら謝る。千夜は呆れながら溜息を漏らす。


「別にいいですよ。その調子ならやらなかったみたいですし」


「司令からやめろって通信頂いたからな」


「仮にやってたら本気で軽蔑してましたけど」


千夜は割と聞き逃せない言葉を笑顔で言い放つ。仮にやったとしたらこの言葉は笑顔ではなく、いつかに見た豹助に銃口を向けた紫以奈の顔の比じゃないだろう。


「怖い怖い‥」


「そういえば叶夢。紅葉隊長は?」


「流石に牢獄だと、そういうプレイに見えなくもないから普通に部屋にいてもらってる」


「それ‥大丈夫なんですか? 脱走とか‥」


「今のところは寝させてる。適切な信頼関係を築く為にはあくまで同じ立場じゃねえとだからな」


そう言いながら叶夢は千夜と共に二階に戻った。会議室に入ると、白鳩が通信端末を使い、誰かと連絡をとっていた。


「はいはい。お、丁度来たから変わるよ。おーい叶夢くん、通信来てるよ」


「蠟花からか?」


「そそ」


叶夢は白鳩から通信端末を受け取り、耳に近づけた。


「もしもし。悪いな連絡が遅れちまって」


『いえ‥‥追われてるの見えましたし。追手はどうしたんですか?』


人質兼ねて地下牢にぶち込んだ」


『さらっと怖い事言いましたね‥‥まぁそれは置いといて』


「え‥」


自分から爆弾発言を言ってしまって何だが、それを軽く受け流す蠟花もどうかと‥。そんな事を思いながらも叶夢は蠟花との会話を続ける。


『では状況が落ち着き次第、再び連絡しますね』


「了解。あと出来るだけ味方は増やしておくよ」


『当てがあるんですか?』


「あぁ、ちょっとな」


『ではまた』


「あぁ、お互い無事にな。‥‥はぁ」


叶夢は溜息混じりに通信を切ると、パイプ椅子に腰を掛ける。


「叶夢くん、これからどうするんだにゃ?」


「紅葉に味方になってもらえるように交渉し(くどい)てくる」


「マジで言ってるのかにゃ? 葉月 紅葉と言えば『日本史部の風紀委員』と言われるくらいに規律厳守かつガードが堅い人間だけど」


「それだと更にめんどくさくなるな」


叶夢は今の状態では確実に断られるだろうと考えていた。何か交渉を有利に進められる手は無いかと頭の中で模索をしていた。


「‥‥金で釣る?」


「それは人道的にどうなんですか?」


「でもね紫以奈。それ以外まともな手が浮かばないんだ‥‥」


「叶夢隊長…そのいつも使わず蜘蛛の巣がはってるような脳でも、もっと考えればある筈ですよ」


「なるほど‥‥‥紫以奈。さらっと酷いこと言ってくれたな」


紫以奈の言葉に傷つけられながらも、何とか真っ当な手を探す。叶夢の生きてきた世界から考えれば、人の心を傷つけずに従わせる方法を考えるのは至難の業だった。


「なんか手はないのか‥‥」


「あの‥叶夢」


千夜が小さく手を上げる。叶夢はテーブルに沈めた首を千夜に向けた。


「私が一緒に行きましょうか?」


「お前がか?‥‥手料理を口に押し込みそうだから却下」


「そんな叶夢みたいな事しませんよ‥‥さっき言ったじゃないですか。紅葉隊長は私の元チームメイトだって。それなら交渉も少しは楽になるんじゃないですか?」


「あぁ! その手があった!」


「何で叶夢くんって対人戦は強いのにそれ以外に頭が回らないんだろうね‥‥」


「白鳩さん、それは言わない約束ですよ」


自分の評価が駄々落ちしていることに気付いていない叶夢は投げやり気味に、千夜の案に乗ることにした。


「そういやさっきから気になってたんだけどにゃ」


「ん? なんだよ」


「いつの間に千夜ってば、叶夢の事呼び捨てするようになったのかにゃ?」


「え?‥‥あ」


千夜の顔がみるみる赤くなり、それが豹助の嗜虐心しぎゃくしんに火をつけた。


「おやー? いつの間にお二人できたんですかにゃー?」


「はいはい。豹助くんそこまでだよ」


「白鳩さん‥‥」


「二人の馴れ初めはランク戦終わってからたっぷり聞かせてもらうからね」


「だろうな‥‥とにかく! 三人は村の警備を頼む。俺たちの寝床を守り抜いてくれ」


「「「了解〜」」」


「返事軽いなおい」


叶夢は千夜と共に再び一階の、紅葉を閉じ込めた部屋の前に来た。そして、千夜が前に出て、ドアを静かにノックした。


「紅葉隊長。少しお話があるのですが」


「‥‥千夜か。入れ」


「失礼しま〜す」


「お前には言ってない。出ていけ刀堂 叶夢」


「‥‥頼んだ千夜。俺も村の警備してるわ」


紅葉の冷たい言葉に、叶夢は若干のイラつきを見せながら千夜にすれ違いざまに耳元で囁いた。千夜は部屋に入り、紅葉と向かい合うように座った。紅葉には拘束された様子は無く、ただ刀を自分の左側に置き、再開を喜ぶでもなく無表情で千夜を迎えた。


「隊長。お久しぶりですね」


「お前も大変そうだな村雨。あのような男が隊長で」


「はい。正直言ってかなり苦労してます」


千夜は少し笑いながら答えると、笑みを消し真っ直ぐな視線で紅葉の顔を見つめ直した。


「実は隊長に折り入って話をしに来たんです」


「同盟なら断る。私も下手に金丸(あれ)を敵に回して、貴重なランク戦を無駄にしたくないからな」


千夜の言葉を見透かした紅葉は、眉一つ動かさずに答えた。ここまでの展開は誰でも予想がつく。叶夢が千夜に頼んだのは、ここからだと言うのを千夜は今になって悟った。


「ですよね‥‥そう言われると思いました」


「そもそもだ。お前のその聞き方から察するに、叶夢達はどうやら勝機を見つけられてないようだ。そんな曖昧な決意に身を任せるほど、私は血気盛んでは無いのでな」


言われてみればそうだ。叶夢は明確な勝機を見つけないまま、金丸を倒そうとしている。まだ見つけてられてないのだ。


「それはそうですけど‥‥」


「もっとも。私の得になる条件があれば、その同盟に乗ってやらんこともないが」


「条件」


交渉において、持ち札が少ない者は必ず負ける。千夜はそれを痛感しながら、頭の中での情報を掻き集める。


「話は済んだか? 済んだなら私は、ここを抜けさせてもらう」


「あ、待ってください!」


服装の乱れを整えながら、部屋を出ようとした紅葉を千夜は必死に引き止めた。


「なんだ? 私が飲み込める条件でも見つけたのか?」


「い、いえ。えーと、えーと‥」


大急ぎで頭を回す。その影響からか、狂気の混じったそれでいて最も合理的な条件が浮かんだ。


「叶夢隊長の首とか如何ですか?」


「‥は?」


呆気に取られた紅葉があられもない声を出す。それを無視しながら千夜は口を進めた。


「叶夢くんには、必ず倒せるタイミングがあるんです。しかも、そのタイミングはあっさり現れるんです」


「お前‥‥自分が何言ってるのか分かっているのか?」


「どうしますか? 話に乗ってくれるなら、これから先をお話できますが」


「‥‥」


紅葉はドアノブに掛けた手を離すと、再び千夜に向かい合うように座った。千夜は捕まえた嬉しさを抑え込むように淡々と喋り出した。


「叶夢くんは一日三回しか魔法を使えないんです」


「三回だと?」


「ええ、私も詳しい訳は分かりませんが。

そこで叶夢くんが魔法を三回使った後、その中でも最も隙が出る時間に私が隊長に連絡をします」


「それは裏切りになるのではないのか?」


紅葉の言う通り。これは明確な裏切り行為である。自ら弱点をさらけ出して殺せと言ってるようなだ。


「いえ、同盟を組んでもらうんですから。隠し事があっては信じ切って貰えませんからね」


「だからと言って‥‥」


「それに、これはどう転んでも隊長に損はありません。いざとなれば『脅された』の一言で逃げれますから」


もう一押し。千夜はそう思うと、紅葉の神経を逆撫でする様な言葉を心の内から口の中に引きずり出した。


「まぁ逆に言えば、隊長の大将が欲している情報を上げて、さらに確実に殺せるチャンスまであげたんです。

これで同盟組んでくれないのは相当な臆病者かと」


「乗った‥‥乗ってやろう! 後悔する事になるのはお前達だと言うのを分からせてやる」


「交渉成立ですね。これからよろしくお願いしますね。紅葉隊長」


「ふぅ‥‥」


千夜の粘りもあり、葉月 紅葉を味方に引き込むことが成功したのをドア越しに確認した叶夢は、顔を青ざめ冷や汗を拭きながら上の階に戻った。


「あ、おかえりにゃ‥どうかしたかにゃ? 顔色悪いけど‥‥」


「いや、何でもない。ちょっと死が隣り合わせに存在してるっていう事実を再確認しちまっただけ」


「やはり聞いてたのだな。刀堂 叶夢」


「当たり前だろ‥‥というか一応は仲間ってことでいいんだよな?」


「そう思ってくれて構わん」


「叶夢くん。30小隊から合流地点の連絡が来た。ここから西にある山岳地帯の女神像の前だそうで」


「ならさっさと向かうぞ」


叶夢達は荷物をまとめると、自分達がいた建物を後にして山岳地帯に向かった。


葉月(はづき) 紅葉(あかは)

155cm/47kg

3/5

使用武器 刀


第20小隊隊長。暗めの茶髪をふたつに結んだ、巫女服のような白い服に身を包んだ女性。

得意魔法は雷魔法。性格は至って真面目。友人同士の約束は確実に守り、見つけた違反などはすぐに告発をするなど、その真面目さは『日本支部の風紀委員』と言われる程。故に独裁主義の金丸 当麻とは犬猿の仲であり、常に第11小隊の座から彼を引き摺り下ろそうとしている。第31小隊に行った千夜の事を気にかけており、やや過保護気味な所がある。

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