第2話 顔合わせ
後書きに登場人物をまとめておきます。
中は思ったよりは整っており、入ってすぐに廊下を進むと、リビングがあった。壁にはテレビが掛けてあり、それと向かい合うようにL字のソファがあったりと、一般的に見るようなワンルームマンションの一室と言ったところだった。
次に寝室の方を探そうとリビングの隣のふすまに手をかけた瞬間だった。
(呼吸音‥こんな夜中に?)
起きている人間がふすまの向こうにいる事に気付いた。あちらも叶夢に気付いてるようだ。明らかにあちらの意識はこっちに注がれてる。呼吸の音に耳を澄ましてみると女性だと叶夢は理解した。
(そりゃそうなるよな。真夜中に自分の部屋に正体不明が目と鼻の先まで来れば)
叶夢はとりあえず誤解を解かなければと思い、使う事を忘れていた口を動かす。
「あの‥こんな夜遅くにすいません。今日付けで31小隊に配属された刀堂 叶夢です」
叶夢は謝罪と自己紹介の言葉を出した。
おそらく突然の事で壁の向こうの人間も動揺してるのだろう。しかし反応は可もなく不可もなく
「あ、ああ。貴方がですか?来るにしては少々遅かったので不審者かと‥」
可憐な少女の声が聞こえた。
その少女は続けて
「でもよくよく考えれば部屋の鍵は閉めていましたし、開けられるのはマスターキーを持ってる神座司令だけですし。だったら貴方以外考えられませんでしたね」
叶夢はなんとか誤解は解けたと思いそっと肩をなで下ろした。
「良かった〜‥このままわかってもらえなかったらどうなってた……か」
改めて挨拶をしようとふすまを開け、向こうに視線を戻した時に目に写ったのは、
長い銀髪を月光で輝かせ、深い翡翠色の目に困惑の表情と恐怖の涙を震わせた16〜17歳の女の下着姿であった。
「あ! す、すいませ」
「キャーーーー!」
叶夢が謝罪をしようとしたが、謝罪の言葉よりも早く自らの頬に鋭い拳を叩きつけられ、油断してしまった自分を呪いながら意識を手放した。
ーーーーー
「‥ん 」
雀やいろんな鳥の鳴き声に起こされ、ふと目を覚ますと既に日は上がっており、床に放り出されたはずの叶夢の身体はソファに運ばれ、鋭い右ストレートを食らった頬にはガーゼがしてあった。
「あ、起きた。おはようさん。名前わかる?」
声の方に顔を向けると、長めの茶髪を後ろでまとめ、ワイシャツの上に白衣を着た青年がいた。その青年は少し笑いながら
「本当、テンプレみたいなラッキースケベだったね。傷はどう?見た感じ顎砕かれてたけど..ほいコーラ」
「サンキュ‥えーと‥」
「綾文 白鳩だ。君のチームメイトだよ。よろしく叶夢くん」
叶夢は握手をする為に身体を起こすと、白鳩の他にも三人、ふすまの向こうからこちらを見ている黒髪の少女。ベランダに寄りかかっている猫耳のようなくせっ毛の青年。
そして昨日下着を拝ませて貰った少女。叶夢はその少女が目に入っただけで、考えるよりも早く身体が土下座の体制になり、彼女の足元に頭を下げた。
「昨晩はすいません! 何のことわりも無しにふすまを開けてしまった挙句生まれたての目に映してしまい申し訳ございませんでした!」
突然の謝罪に少女は、数秒固まって
「あ、あぁ..こちらこそ怒りに任せて拳を奮ってしまい申し訳ありません!」
「いえ!むしろ」
「はーいそこまで」
謝罪ループに入りそうなところで白鳩が仲裁に入る。
「とりあえず自己紹介しようよ。この五人のメンツは初めてなんだし」
すごくわかりやすい話題のそらし方だったが、叶夢は今はその案に乗ることにした。
数分立ってリビングに向かうと、叶夢以外の四人が揃ってテーブルを囲むように丁度一人座れるぐらいのスペースがあるソファに座っていた。
叶夢が座ったと同時に白鳩が話し出す。
「えーてなわけで、なんて言えばいいかな? とりあえず、みんなの名前とか諸々の事を教えてくれる?」
沈黙を破るように、話題を切り出した。しかし言葉が返って来なかった。白鳩は頭をかきむしりながら渋々自分の名前や経歴を話した。
「んじゃ俺から。名前は綾文 白鳩。17歳。使ってる武器は弓矢。得意な魔法は毒魔法。前いた小隊は伏せさせてもらうけど‥みんなよろしく!」
そう言うと、白鳩は少し汗をかきながらソファに再び腰を下ろした。叶夢は白鳩の肩を叩き一言『おつかれさま』と呟いた。
叶夢が顔をみんなの方に向けると、少しみんなの表情が緩んでいたのがわかった。一人が切り出した事によりみんなも口を開き始めた。
「じゃあ次、誰やる?」
「では私が」
会話の主導権を握った白鳩に銀髪の少女が続けるように喋った。
「村雨 千夜です。16歳。ここに来る前は20小隊で補欠をしていました。使用武器は刀。得意な魔法は氷魔法です。気軽に千夜とお呼びください。みなさんよろしくお願いします」
そう言い終わると、表情を変えず静かにソファに座った。原稿でも呼んでるのかと思うぐらいの自己紹介だった。それと入れ違う様にもう一人女の子が立ち上がった。
綺麗なショートの黒髪に眼鏡をかけた顔立ちもかなり整っていた。
「矢岬 紫以奈と申します。16歳です。ここに来る前は30小隊で補欠をしてしました。使用武器は状況によって変わりますが基本はハンドガン。得意魔法は風魔法です。しいなとお呼びください。よろしくお願いします」
(点淡々と言い過ぎて‥ロボット?)
叶夢がそんな事を思う内に紫以奈はソファに座り直す。質問すら寄せつけない雰囲気に空気が元に戻ってしまった。
しかしそんな沈黙はすぐに破られる。
「あっははー‥紫以奈。顔ロボットみたいだったにゃ」
「「 !? 」」
三人に二つの衝撃が走る。一つはタブーと思われた紫以奈の立ち振る舞い。これはまぁ仕方ないことであろうと思いながらも叶夢が質問をする。
「あの、もしかして人と話すのは苦手ですか?」
叶夢は少し不思議そうな演技をして紫以奈に尋ねた。
「…す…すいません…わ..わたし…対人恐怖症で…ほんとに…ごめんなさい..」
彼女は目を合わせず顔を赤らめながら、消えてしまいそうな声で呟いた。
「にゃははは‥許してやってくれよ。こいつは少し昔にトラウマあってさ」
紫以奈に向けられた視線が一瞬でもう1人の男に向いた。猫耳のようなくせっ毛を持った男だ。
「あぁ、紹介が遅れたにゃ。俺は裏代 豹助。猫っぽいのは遺伝だにゃ。みんなと同じ16歳。使用武器は剣。ここに来る前は11小隊にいたにゃ。これからよろしくだにゃ!」
「遺伝‥ですか?」
千夜が不安そうな表情で小さく手を上げる。
「そうそう!爺ちゃんがケット・シーっていう亜人でにゃ。先祖返りというかなんというか‥俺に色濃く遺伝しちまったみたいなんだにゃ‥」
「その喋り方も遺伝?」
「あぁ、びっくりしちゃったかにゃ?
治そうとは思ったんだけどにゃ..現在まで粘ってみて無駄だって判断したにゃ..」
「あぁ、納得」
「まぁみんな。改めてよろしくだにゃ」
豹助はほっと一息ついてソファに座り直す。
しかし豹助の自己紹介が終わってから叶夢の頭の中には困惑の言葉がぐるぐると回っていた
(キャラが濃すぎる。しかし、11小隊…となれば実力はこの中ではこいつが一番だろう)
「さ、君が最後だよ。早く紹介しちゃいなよ」
白鳩が叶夢の肩を叩く。叶夢は豹助が座るのと入れ違うように立ち上がり、口を開いた。
「えーと、刀堂 叶夢です。歳は16。ほぼ新人です。使用武器は刀っす。一応、闇魔法が使えます‥これぐらいでいいかな?」
叶夢は半ば適当の必要最低限の自己紹介を済ませた。しかしこれで終わるはずもなく
「ええええ? まさか最後がこれで終わり? せめて好きな女性のタイプを..」
白鳩が叶夢にとって余計な事を口走った。
「あんたなぁ..なんでそう余計なことを..」
「いいじゃないですか。私も気になります。タイプと一致したら見た理由も説明付きますし」
「私も…気になります」
「せっかくの締めなんだし、それくらいは吐いて貰わないとだにゃ~」
他の隊員たちも食いつき始め、収拾がつかなくなってきてしまった。
叶夢は全員の食いつき様がしつこく感じ、適当に答えようとした。
「はぁ…俺のタイプは」
突然にサイレンが鳴り響いた。耳を塞ぎたくなるような不快な音だった。そのサイレンの向こうにアナウンスが聞こえた。もう一度それに耳を傾けると
「緊急事態発生。日本支部敷地内にて、魔族が確認されました。至急戦える征魔士は、魔族を発見し、速やかに排除して下さい。繰り返す…」
彼らの叶夢に向けられた期待の視線は、魔族に対する敵意への視線に変わった。征魔士ともなれば魔族に向けるのはそれと殺意を乗せた武器だけだ。
「好きなタイプは俺が生き残ってたら言ってやるよ」
「よく言うにゃ」
「ほんとです」
「…ちゃんと…生き残る…よね?」
「全員!減らず口叩かずさっさと魔族を狩るよ!」
こうして4人の狂人の初ミッションが始まった。
刀堂 叶夢
164cm/60kg
誕生日 6/6
使用武器は日本刀。『紅い死神』の異名を持ち、普通の征魔士では使えない闇魔法を扱う事ができる。
村雨 千夜
150cm/49kg
誕生日 12/1
使用武器は刀。氷魔法を操る征魔士。出生は本人もわかっておらず曰く「知るまでの経緯に頭が痛くなった」ので本人もわかっていない。性格は冷静沈着で何事にも動じない精神の持ち主…を演じている天然である。
綾文 白鳩
175cm/65kg
誕生日 3/21
使用武器は弓。毒魔法を操る征魔士。亡き父がジャーナリストでその影響で征魔士界隈の情報に詳しい。
性格は楽天家であり、その場の流れに身を任せる自由主義者である。
裏代 豹助 (うらかわ ひょうすけ)
164cm/60kg
誕生日 4/5
使用武器は剣。使用魔法は不明。曰く気がつけば敵が死んでいるために魔法が判別不可能となっている。亜人族ケット・シーの血が混ざったクォーターであり、通常の征魔士の3倍の魔力回路を持っているが、猫のような口癖が残ってしまっている。
矢岬 紫以奈
149cm/51kg
誕生日 10/15
使用武器はハンドガンやライフルといった銃火器。使用魔法は風魔法。子供の頃に受けたイジメの影響で人見知りになり、声を押し出すように喋る。銃火器を選んだのも近づくこと無く敵を倒せることが理由である。
豹助にはイジメから守ってもらった過去があり、普段は豹助の指示に忠実に従うが、豹助が間違った指示を出した時には豹助を抑えるブレーキとしての役目も担っている。