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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
19/83

第19話 前哨戦 廃墟の闘争

入れ忘れた30小隊の隊長と副隊長のステータスを置いて置きます…




敷波(しきなみ) 蠟花(ろうか)

149cm/43kg

誕生日 1/12

使用武器 マイク


第30小隊隊長。得意魔法は回復魔法と音魔法。黒髪を伸ばし、整った顔立ちのした青い目の少女。性格は気弱だが芯の通った真面目な性格。通常の征魔士では通ってない声帯にまで魔力回路が及んでおり音魔法による索敵が出来たり、回復魔法で仲間の傷を癒したりとサポートに特化した征魔士。


新川(しんかわ) 涼子(りょうこ)

164cm/51kg

誕生日 8/2

使用武器 手甲


第30小隊副隊長。得意魔法は炎魔法。強気で肝が据わったベージュ色の髪をしたスタイルも整った姉御肌の女性。副隊長という事もあり、隊長の敷波を補佐したり、他の小隊へのご意見番などの役割を進んで行い、30小隊だけでなく他の小隊からも信頼を得ている。




長めの前振り失礼致しました。

引き続き本篇をお楽しみください!

「ではお前ら! この場で征魔連合軍ウィザーズチャリオッツの為‥‥いや俺の為に命を散らすがいい! では廃ホテルへ入るぞ! 我々は西館。叶夢達は東館を頼んだ」


「了解」


「30小隊は東館に三人。西館に二人だ。

いいか? くれぐれも魔族が現れてもその場で倒せ。俺たちによこすんじゃないぞ?」


「昨日と言ってること違いすぎだろ‥」


「ではお互い無事に!」


早朝。山奥にある廃ホテルに魔族の巣が発生し、その魔族の討伐に十五人の少年少女の征魔士が訪れていた。


「中は思ったより綺麗だにゃ」


「そりゃ廃業したのが一週間前だからな。何でもどこかの階の露天風呂に魔族の巣が出来てそのままおじゃんだそうだ‥‥」


「叶夢くん、死体などの状況はどうなっているんですか?」


「大人の征魔士連れて警察が調査に入ってるから残ってない。一回巣も封印されたはずだったって情報はあったんだけど」


「まぁ‥ここら辺は魔力の霊脈が通ってるから発生しやすいんだろうね」


「恨むんなら、封印式四人必要なのに三人しか連れていかなかった警察を恨んでくれ。俺は関係ない」


叶夢はエントランスに向かいながら、ここに来る数時間前の事を思い出していた。それは出発の前、夜に神座に出発前に呼ばれたことに始まる。


「おーい神座(かんざ)。生きてるかー?」


「生きてるわ!‥‥何だ夢か」


「死んでるんじゃねえか!‥‥ったくら机で寝ると体痛めるぞ?」


叶夢が支部長室を訪れると、書類の山に茶色の空瓶を添えた状態で額を赤くした神座(かんざ) 頼光(よりみつ)が仕事に追われていた。


「何の用だよ‥‥ってそうか。俺が呼んでたんだっけ?」


「お前今絶対、夢と現実の区別がついてないだろ」


「??」


「ごめん。頭が回ってないお前に冗談言っても無駄だったな」


「‥‥あ、ああああ! そういうことか! 今やっとお前の冗談を理解したぞ!」


「覚醒したならさっさと要件を話せ」


神座は少し考え込み、徐々に眠っていた脳を覚醒させていき、何とか意識を通常の状態に戻した。


「さて気を取り直して、叶夢。今回の任務なんだが、第11小隊の動向には気をつけろ」


「ほう? 支部長のアンタにそれを言わせるか」


叶夢は意外そうに少し笑う。しかし神座の目は少しも笑ってはいなかった。


「あいつらは実力もあるしちゃんとした結果も残していった。だが、協調性が全くの皆無。終いには他の小隊を肉壁を言い切った」


「馬鹿な」


「全てはあの隊長。金丸(かねまる) 当麻(とうま)が原因だ」


「んなこと言われなくてもわかるわ。んでどうするんだ? 殺ればいいのか?」


「その言い方やめろよ。まるで俺が殺し屋雇ってるみたいじゃないか」


「金がないだけでやってる事変わりねぇけど」


「それでだ叶夢。もし、金丸が仲間を踏み台や倫理的にアウトなこととかにしようとしたなら‥‥その時は」


「‥‥いくん‥‥叶夢くん! ていっ!」


「冷たっ!‥‥何だよ千夜。ちゃんと話聞いてるから、自我確認の為に首筋に冷気流すのやめろよ」


頭の中の回想は、千夜の魔法によって放たれた冷たい風によって現実に戻される。


「じゃあ何話してました?」


「これからどうするか‥‥だろ?」


「あの‥‥その件何ですけど」


小さく手を上げたのは、第30小隊隊長の敷波蠟花(しきなみ ろうか)だった。


「ん?」


「あ、あの‥‥仮にこの状態で戦闘するとして、ここのような狭い通路じゃ」


「確かにここまで人数が多いと戦闘になった時に困るな‥‥適当に分けるか。」


「バラバラになるついでに、みんな別のフロアに散らばれば調査もすぐ終わりそうだからにゃ」


「俺と敷波さん。紫以奈と豹助。白鳩と新川さん。あとあまりで別れるぞ」


「叶夢くん、言い方が酷いね!?」


「ほんとですよ!‥‥あぁ、気にしないでください。ほら行きましょう!」


千夜は身長が約130cmくらいの女子の手を引き階段を上がって行った。


「階数を被らないようにする訳ね‥‥んじゃ私らは三階で」


「私と豹ちゃんは四階を探索します」


「俺と敷波さんは五階に向かう。一応そこの様子が問題なければ、お前らは三つ飛ばした階層に行ってくれ。各自解散!」


「「了解!」」


叶夢は敷波を連れて、五階の廊下に辿り着いた。


「嫌に静かですね‥‥」


「そうだな」


「ちょっと待っててください。あと、出来れば耳を塞いでいてくれると嬉しいかと‥‥」


「?‥‥わかった」


叶夢が耳を塞ぐと、敷波はソプラノ歌手のように高い声を出し目を閉じてなにかに集中し始めた。

しばらく沈黙していた敷波は立ち上がり、叶夢の方を向いた。


「すごいな‥‥その音魔法」


「そ、そうですか?」


「音魔法は声帯にまで魔力回路が通って無いと使えないし、何より声だけでレーダーみたいなこともできるのが」


「い、いえ‥‥私の魔法はその分無差別な攻撃になってしまいますので‥‥」


「あはは‥確かにな‥‥んじゃ音があまり聞こえなかった部屋を一つ一つ虱潰しらみつぶしに行きますか」


「なんで異変があるって分かったんですか?」


「さっき、溜息ついてただろ? 異常が無ければ安心の溜息なんだろうけどその表情見るに鮮明に聞こえない部屋がいくつかあったってこと‥‥違わない?」


「え、えぇ‥‥合ってます」


「ならその部屋の案内を頼む。あ、刀は一応当たらない距離を保つけど当たったらごめんね?」


「えぇ!? そんなこと言われるとものすごい不安になるんですけど‥‥」


「悪い‥冗談です」


叶夢は刀を鞘から引き抜くと、臨戦態勢になった。


「まず鮮明に聞こえなかったのは、505 507 でした」


「君の音魔法って壁が邪魔になったりしないの?」


「いえ、声で行うレーダーみたいなものなので壁程度なら貫通して索敵を行ってくれます。でも貫通できないものもあります」


「まぁ生物だろうな」


「はい、生物には私のレーダーは貫通しません。だから音が鮮明に返ってこなかった部屋に」


「魔族か動物か‥または人間か‥‥まぁ開けてみないことにはわからんだろ!」


叶夢は505号室の部屋の前に来ると、ドアを蹴破って部屋に入った。部屋は荒らされた形跡が残されており、外へ脱出したのか内側から窓ガラスも叩き割られていた。


「いない‥‥もう出たか」


「叶夢さん‥‥後ろ!」


叶夢がその言葉に反応する前に、叶夢のフードの帽子の部分に石ころでも入れられたかのように重さが加わった。


「げっ!? くそっ、入られたか!」


「カーバンクルが入ってます。」


「魔族じゃないんかい!」


「しかも自分の家のようにドングリを広げてますよ‥居心地がいいんですね‥‥」


「状況的に喜べないのが残念だ」


カーバンクルとは白い兎の様な姿に額にルビーを埋め込んだ幻獣。本来なら人に懐く事の無いそれが叶夢に懐いた事に敷波は疑問を覚えた。


「まぁいいか。このまま仕事を続けるとしよう」


「いいんですか!?」


「次の部屋は‥‥507か」


叶夢はフードの帽子の中にカーバンクルを入れたまま部屋をあとにした。


「次はこの部屋だな」


「ほんとにそのまま行くんですか!?」


「え、だってこいつに俺を殺れるような力無いでしょ? それに、人に擦り寄ってくるカーバンクルなんてそう簡単に手放せるわけだろ」


叶夢はドアを開け、荒らされた部屋に入った。


「こっちは何も無いんだな」


「‥‥すすり泣く声が聞こえます‥‥お風呂場辺りから‥‥」


叶夢は茶の間から戻って、部屋に設置された風呂場を扉を開けた。


「‥‥ぅ‥ぅぅ」


薄暗い風呂場には髪の長い濡れた女が、浴槽に入り顔を隠して泣いていた。


「人!」


敷波は急いでその女に駆け寄った。


「大丈夫ですか!? お怪我は!?」


「あ、貴方達は‥‥人間ですか?」


征魔士ウィザードです! 後ろの男の子も征魔士なので安心して下さい!‥‥あれ?」


敷波が後ろを向くと、叶夢の姿が消えていた。


「ちょっと待っててください。今連れてきます」


「は、はい‥‥あと、できれば羽織るものを持ってきて頂けるとうれしいです」


「わかりました!」


敷波が茶の間に戻ると、叶夢が既にクローゼットから浴衣を取りに行っていた。


「もう、何も言わずにいなくならないでくださいよ」


「普通素っ裸の女見つけたら羽織るものを渡すのが健全な男だと思うが」


「自分のフードは?」


「これだけは勘弁。こっちも寝てるし」


帽子にいたカーバンクルはすっかり夢心地な感じで寝ていた。


「なるほど‥‥では着てもらうまでそこに居てください」


「了解でーす」


叶夢がしばらく待っていると、叶夢の携帯端末に通信が入った。


「俺だ」


「知ってるにゃ。それはお前からかけてきた時に言え」


「はいはい‥‥で、報告か?」


「あぁ、そうだにゃ。一応警戒の意味も込めて」


「警戒?」


「この旅館の部屋が一部ポルターガイストになってたにゃ。一応、ポルターガイストについての資料はお前に送っておくけど‥‥五階の方は大丈夫かにゃ?」


「今のところ遭遇はしていない。気をつけるよ」


「報告終わり‥‥あ、そういや。部屋の散策が終わったらエントランス集合でいいんだよにゃ?」


「もちろん。俺も後で追いつく」


叶夢は通信を切ると、敷波の元に向かった。


「終わったか」


「はい!」


「助けてもらってありがとうございます‥‥」


「いえ。これが仕事ですので」


「あの‥‥実は隣の部屋の506にも友人がいて‥‥そちらの方も助けてもらえないでしょうか?」


「隣の部屋? ですか?」


「きっと怯えてる筈です‥‥できれば早く向かいたいのです‥‥お願いします!」


女は顔色が悪くなりながらも敷波を掴み、必死に訴えかけた。敷波は少し慌てながらも対処した。


「わ、分かりました‥‥では叶夢さん‥部屋に向かいましょう‥‥あれ、叶夢さん?」


「‥‥行く前に少し待ってくれ」


叶夢は風呂場とは逆の方向を向いて、刀を鞘に納めると隣の部屋である506の部屋の壁を思いっきり蹴飛ばした。


「え、いきなり何してるんですか!?」


「グルルル‥‥」


音にビックリして起きたカーバンクルが敷波の方を見て警戒をしていた。


「敷波。お前の音魔法の索敵は生物に反応するんだよな?それは100%か?」


「は、はい。そもそも心音にはレーダーのような弱い音魔法を跳ね返す性質がありますし」


「それは死体にも言えることか?」


「いえ、死体は生命活動を停止しているので音魔法を跳ね返せず索敵には反応しません‥‥」


「そうか」


叶夢は冷たい視線で敷波の後ろの女を見つめた。


「‥‥だそうだ。残念だが諦めてくれ。せめてあんただけでも‥‥」


「まだ分からないじゃないですか! もしかしたら生きてるってことも‥‥一刻も早く行きましょう! 彼女はきっと怯えて」


「おい。魔族」


叶夢はドスの効いた声で女の正体を暴いた。

その正体に敷波は混乱してしまった。


「人間は怯えてる状態で突然大きな音を出されると、少しでも怯えた声を漏らす筈だ。お前はお前が生きてる事を見せることによって俺達に『もしかしたらまだ生存者がいるかもしれない。』って言う感情を植え付けようって事だったんだろうが」


「え‥‥え‥‥」


「ご生憎あいにく様。俺は根っからの悪人だ。そっちの子は騙せても俺はそんな感情抱きもしない」


「叶夢さん! いったい何を言って‥」


「さっき豹助の報告がなければ俺もそっちの部屋に行ってたところだが‥‥んでいつまで人間の皮被ってるつもりだ?」


「ウアアアアアアア!」


「きゃあ!」


叶夢が正体を暴いた女の皮を被った魔族は、人間とは思えない獣のような声で叫びながら近くにいた敷波に襲いかかった。


「敷波さん! 入口に向かって走って!」


「は、はい!」


「ニガスカアアアアアア!」


敷波は女をかわして入り口から出た。

女は狙っていた敷波が出たことで叶夢に標的を変えた。


「叶夢さん!」


「コノ‥‥クソガキガアアア!」


「はいはいテンプ‥‥レ!」


叶夢は刀を抜き、柄の部分で頭部を小突き風呂場の鏡に叩きつけた。


「グッ‥‥コノガ」


魔族が怯んで叶夢に目を向けた瞬間。叶夢は思いっきり刀を振り下ろし頭蓋骨から胸にかけてを切り伏せた。


「叶夢さん‥‥大丈夫ですか?」


「全然大丈夫だ‥‥! 敷波さんら部屋から離れて!」


「え!? ドアが勝手に!」


「ぐっ‥‥悪い!!」


叶夢は敷波を押して部屋から突き飛ばし、廊下に押し出した。


「叶夢さん!」


「すぐにエントランスに向かってて! あいつらには俺がポルターガイストにハマったって言っておいてくれ!」


敷波がいた部屋は叶夢を中に残して、そのドアを固く閉ざした。


「わ、分かりました! 無事に帰ってきてくださいよ!」


敷波は部屋に向かってそう叫ぶと、一階のエントランスに降りていった。


「さてと‥‥ポルターガイストの対処法ってどうだったっけ‥‥」


「キュウ?」


「そうかお前も一緒か‥‥なら寂しくは無いな」


叶夢は豹助から端末に送られたポルターガイストの資料を開いた。


・ポルターガイスト

第三位魔族


家屋の中にある部屋を自分の空間とすることで、その空間の中にあるものを自由自在に操ることが出来る魔族。

だがその本体はその部屋に寄生する形になる為、寄生した部屋の外に移動することが出来ない。もし移動する場合には、その部屋の中に存在する生物を殺して、それに寄生先を変える形で移動する。


「つまり部屋の中にある本体を殺れと‥‥おい、そこは危ないから戻って来い」


叶夢はカーバンクルをフードの中に呼び戻すと、部屋の捜索を開始した。手始めとして叶夢はさっき殺した女の死体を見に風呂場に向かった。

風呂場には叶夢が殺した魔族の抜け殻である女性の死体が壁鏡に寄りかかる形で倒れていた。


「俺が殺ったとは言え‥‥人間の死体は見たくないな‥‥おえ」


「キュー!」


「どうした?‥‥おっと」


叶夢が浴槽の蓋を開けると、突然カーバンクルが大きな鳴き声を吠えた。

叶夢がその鳴き声の方向に振り返ると、風呂場につけられたシャワーが叶夢の頭に向けて振り下ろされた。叶夢はそれを左手で掴むと地面に向けて叩きつけた。


「危ない危ない。だが‥‥時間もそう多くはない。さっさと本体を見つけるとするか」


「キュウ‥‥」


「お、どうした?」


叶夢のフードから出たカーバンクルが、死体の匂いを嗅ぐと風呂場から出ていった。

叶夢もそれについていく形で風呂場を後にした。


「おーい‥‥そこ押し入れだけど」


「キュウ!キュウ!」


「そこに何かあるのか?‥‥てかさっき死体の匂い嗅いでたし、そこに本体があると考えた方がいいか」


叶夢がカーバンクルが吠えた方向の押し入れに手をかけた瞬間。部屋に異変が起きる。


「なんだ地震か?」


一斉に家具が震えだし突如として動き出し始めた。動き出した家具は叶夢に向けて勢いを殺さず飛んできた。


「あぶなっ!」


「キュ!」


叶夢はカーバンクルを急いで抱き抱えると、その家具を避ける。しかし避けた先にもさらに椅子が飛んできた。


「図星だな‥‥お前もしばらく我慢しててくれよ。後でビスケットでもクッキーでもくれてやるからよ!」


叶夢はカーバンクルを左腕で強めに抱えると、右手に持った刀で飛んできた椅子を切り裂いた。


「この範囲で魔法を使えばこっちの身が滅びかねない‥‥なら力技でやるか!」


叶夢は刀を固く握り直すと、前を見据えこれから自分を殺そうとしている無機物を眺め、それに向けて走り出した。震えた無機物達も獲物である叶夢を葬るために一斉に掃射された。


「邪魔。邪魔。邪魔!」


テーブル。クローゼット。掛け軸。ガラス製のテーブル。見慣れたものが明確な殺意を持って叶夢に襲いかかるが、叶夢はその全てを切り伏せた。


「あちゃー‥‥馬鹿なことしたな‥‥切り伏せたちゃったら意味無いんだ」


切り伏せた家具たちの勢いが止まることがなかった。砕かれたのではなく、あくまで半分に分けられただけだったからだ。

家具達は叶夢に向けて再び一斉掃射され、液晶の破片が叶夢の身体から鮮血を吹き出させた。


「でもまぁいいか。殆ど『反転する目リバーサル・アイ』でどうせ避けれるし」


叶夢はその目を使って、放たれた家具一つ一つを呑気に眺めながら避けた。全ては背後の押し入れの中にいる本体にそれをぶつける為に。


「いやー。バカ丸出しで助かったよ」


「アアアアアアアアアアアアア!!!!」


対象を殺すために放った無機物達は皮肉にも、放った本体をなぶり殺した。穴が空きすぎて原型が無くなった障子は倒れ、中の本体を顕にした。


「気色悪っ」


「キュウキュウ! ガブッ」


「いててて! 噛むな噛むな! ほれビスケット!」


「キュ!」


「よくあれ見たあとで食えるなお前‥‥」


その押し入れの中に押し込まれていたのは巨大な赤子の顔の様な形をした巨大な頭だった。嬲られたあとが酷く部屋のあちらこちらに紫色の体液を撒き散らした後に叶夢は溜息を漏らした。


「生物は散り際が美しいって言うけど‥‥魔族にはそれが当てはまらないんだな」


「キュウキュウ‥‥」


「そうだな‥‥そろそろ出るとしよう」


叶夢はカーバンクルをフードに戻し四角いビスケットを一枚与えると、自身もそれをほうばりながら部屋のドアを開けてエントランスに降りていった。


「あ、叶夢さん!」


「うぃーす。遅れましたー」


「遅れましたって」


既にエントランスには西館の調査に行かせた第31小隊と第30小隊の面子が揃っていた。


「なかなかボロボロにされたにゃ」


「どうりで左目の視界が赤く感じたと思ったら‥‥まぁ豹助の報告が無かったらもっとボロボロで帰ってきたところだ。んじゃ報告頼むわ」


「全く‥‥包帯巻くので叶夢くんはさっさと来てください‥‥」


「サンキュー千夜」


千夜は叶夢と一緒に客間の椅子に座ると、頭に治癒魔法をかけた。


「まず三階だけど、特に異常は見られなかった。魔族の巣も発見できなかったよ」


「白鳩に新川さん、お疲れ様。次豹助」


「こっちも同じだにゃ‥‥ただポルターガイスト化した部屋が四つもあったにゃ。どれも鎮圧はしたけど」


「豹助なら四つも鎮圧できたのは納得だ。次は千夜」


「こちらは白鳩さんと同じです。特に異常は見られませんでした」


「最後に俺だな」


「叶夢くんの方は敷波隊長から聞いたから大丈夫だにゃ」


叶夢はその報告を元に、即席で端末にメモを書いた。


「さて俺らは東館に行った無能共を待つだけか」


「無能って‥‥かなり辛口な発言ですね。仮にも彼ら第11小隊何ですよ?」


「実力だけはあるもんね、金丸隊長達って」


「あー‥‥仮にも第11小隊隊長ですもんね。叶夢、治癒魔法終わりましたよ」


「サンキュー」


叶夢はレポートも書き終わると、テーブルの上に横になった。他の皆も第11小隊の指示がなければ動けない為、暇を持て余していた。


「西館行くか?」


「あいつらからこっち来いって言われないと命令違反になるにゃ‥」


「そうだけどさ‥‥にしたって暇すぎる」


「自己紹介でもするかにゃ?」


「何でだよ‥‥お前、定期的に自己紹介やらないと死ぬ病気にでもかかってんのか? 俺らは人間だぞ。OSみたいに常にアップデートされないんだから基本変わんないぞ」


「第30小隊と連携をとるためにも名前と特徴ぐらいは覚えてもらった方がいいにゃ」


叶夢は起き上がり、30小隊を見た。


「えーと、そっちの男気ある方が新川で‥目立たない方が敷波で‥‥そこの小柄な人が」


「皐‥‥古川(ふるかわ) (さつき)


「刀堂 叶夢だ。こっちの子は村雨 千夜」


「他の三人は‥‥」


「流石に知ってるよあたし達でも。紫以奈は前までこっちの小隊だったし、豹助はたまに避難してこっちに来てたし。何より白鳩さん何かは有名人だし」


「流石元第1小隊隊長って訳だ‥‥」


叶夢は塞がった傷に痛みを覚えながらも、話を進めた。


「んでどうする? このまま待つか?」


「いや、行くでしょ。俺らのフロアになかったってことは‥‥」


「第11小隊‥‥あいつらの方だったってことだにゃ」


「んじゃ全員一致で東館に向かうとするか」


叶夢は全員からの合意を得たのを確認すると、フードのポケットから携帯端末を取り出した。電話の着信履歴を開くと大量の非通知設定の電話番号から電話が届いていた。叶夢はその電話番号に電話をかけた。


「もしもーし」


『遅いぞ叶夢! お前、こちらが電話を掛けている間何をしていた!?』


「申し訳ありません。こちらも魔族の襲撃を受けてまして‥」


『お前達の都合など関係ない! 俺たちがピンチになれば助けに来る! それだけの価値しかないお前らを使ってやるだけ有難いと思え! とにかく! すぐに東館来い! わかっ』


「うるせえゴミが」


叶夢は耳元で喚かれた雑音に耳を塞ぎながら、通信を切った。


「叶夢さん‥‥」


「あんたかなり度胸あるね‥‥いつから着信拒否にしてたの?」


「いや、連絡用としてもらった直後に」


「お前らしいにゃ‥‥んじゃ向かうとするかにゃ!」


「その前に千夜。これ頼んだ」


叶夢は袋を開けたビスケットと共にカーバンクルを千夜に渡した。


「カーバンクル‥‥ですか?」


「ビスケット食ってる間は大人しいから。あとは頼んだ」


「ほえー‥‥‥え、なんで今のタイミングで!?」


八人はまるで遠足に向かう子供たちのような表情を浮かべながら東館へ向かった。東館の入口は綺麗だった本館の入り口とは逆に荒らされた後があちらこちらに見えた。


「やっぱり当たりはこっちだった訳ですね」


「手柄独占しようとしたあいつらの自業自得だ‥‥正直、ザマァ見ろって思いたいところだけどそうにも行かないんだよな」


「白鳩の言う通りだ。早く巣を潰さなきゃもっと被害が出る。何よりも残った30小隊の2人も救わなきゃ行けない」


「叶夢くん‥‥その言い方だと第11小隊がどうでもいいって言ってるのと同義だと思います」


「千夜。面白い冗談だな」


「本当にどうでもよかったんですか!?」


叶夢は抜刀してから壁の汚れなどを見て、被害の確認をしながら廊下を歩きながら第30小隊の二人を探していた。そして三階に登った時に空気の変わりように全員が表情を固めた。


「お前ら…ちょっと露天風呂寄るぞ」


「叶夢、風呂イベントCG回収するのはまだ早いと思うにゃ」


「黙ってろ年中発情期。さっき言ってた魔族の巣がこのフロアにあるかもしれないって意味だ」


「言われよう酷くないですかにゃ?」


豹助の言葉に意を返さず、叶夢は三階の廊下に出た。そこは見た中で一番被害が酷く、所々の床が抜け落ち、血痕などもこれまでの部屋以上に壁を汚していた。


「露天風呂は確か‥‥そこの突き当たりを左にだね」


「ちょっと待っててください。一応索敵を行います」


「了解、頼んだぜ」


敷波が呼吸を整え声を出そうとしてる間に、他のメンバーは耳を塞ぎ静かに待った。

敷波は吸った空気を声にして吐き出した。多めに出された声は三階だけでなくその上の五階のフロアの索敵も行う為であった。

声による索敵が終わると、耳を塞ぐのを辞めさせる合図を皆に出した。


「どうだった?」


「まずこのフロアですが‥‥確かに露天風呂の方向から生物及び魔族達の反応がありました。数は12体。そして四階には6体。五階は10体の反応がありました」


「合計23体って言ってたから7体多い‥‥てことはみんなは五階にいるってこと?」


「そうなるにゃ‥‥」


小隊全員が話す中、叶夢は一人考え込んでいた。その様子を見た千夜が、話し合いを抜け出すと叶夢に近づいた。


「叶夢くん。混ざらなくていいんですか?」


「いや‥‥配置を考えてる」


「なるほど」


叶夢は考え込むのをやめると、後ろのメンバーに顔を向けてこれからの指示を出した。


「班を分ける。豹助、紫以奈、白鳩、敷波、新川は三階の魔族の巣の封印。千夜は四階の魔族を全部片付けろ。俺は五階で魔族を倒しつつ11小隊と30小隊を安全なところに避難させる」


「この編成にしたのは?」


「まず三階の魔族の巣に封印式で最低四人必要になる。だから時間稼ぎで一人を寄越した。四階の千夜は避難途中の小隊の為に魔族を足止めしてもらう。一人だけな分、思うがままに氷魔法を使ってもらうためにもな。

俺の場合は余ったからそれをやる」


「めんどくさくなったんだにゃ‥」


「クレームなら後でたくさん聞いてやる。各自解散!」


「「「了解!」」」


叶夢が指示を出すと、他の六人はそれぞれの持ち場に向かう。叶夢と千夜は階段を上がってそれぞれ四階と五階に向かった。


「ご無事で!」


「ああ!」


そう言うと千夜は1人で四階の廊下に飛び出した。それを見送った叶夢は五階に着くと、刀を構えていつ攻め込まれても問題無い体勢を取り、呼吸を整え詠唱を行った。


「さあて‥‥告げる、我、人なれど牢獄に爪を突き立てし獣。我、人なれど人に反逆を誓いし悪魔。暗黒となりて虚無を誘え、神具解放。モンテクリスト伯」


自らの武器である神具の名前を呟くと、左の前髪が白くなり左目が赤寄りの黄色に染まる。その姿になった叶夢は全力で廊下を疾走した。気配を殺すべき場所で叶夢の気配は裸で晒されていた。その馬鹿を見過ごすことのない魔族達は叶夢の気配と同じ様に殺気を日の目に晒し、正面、部屋、後ろの部屋から順に飛び出してきた。


「3体か‥同時に出てきてくれて嬉しいぜ!」


叶夢は自分を囲む魔族たちを嘲笑うかのように刀を大きく横に振り魔族たちを斬り伏せ、怯ませた。その隙に叶夢は助走を付けて後ろの部屋から現れた魔族を踏み台に飛び越え、全ての魔族の背後に回り込んだ。


黒い閃光(ブラック・レイヴン)!」


右手に魔力を集中させ槍のような形を形成させると、後ろから前に振り向く勢いを利用して浮いた体制から魔族達に魔法を放った。


「ーーーーーー!!!」


案の定、立ち直って間もないの魔族達が避けれる筈もなく黒い槍となった魔力に触れると一瞬で塵に還った。叶夢が着地した時には、薄暗かった廊下も天井が取り払われ陽の光が魔法によって破壊された箇所を照らしていた。


「よしと‥‥あとはみんなを探さなきゃな」


叶夢が振り返り、手当り次第部屋の散策に入ろうとしたその時だった。


「ーーーー!!!」


「おっと!?」


叶夢が視点を前に戻すと、目と鼻の先ほんの数cm先に魔族の手が迫っていた。それは気付くのが数秒遅ければ叶夢の頭蓋骨を貫通し、脳髄を外に引きずり出されていた。

叶夢はその狂爪を殴りつけて魔族の腕をへし折った。


「ーーーッ…ーーー!!」


「邪魔だ!」


怯みながらも襲ってきた魔族を、叶夢は無慈悲にも切り伏せた。最後の足掻きすら叶夢には無駄な行動の一つとしか見られなかった。


「さっき‥‥物音がした部屋は、504か」


叶夢は顔にかかった返り血を拭かずに目の前の504号室のドアを蹴破り中に侵入した。

中にいたのは第11小隊の四人と30小隊の二人だった。叶夢は納刀して、声のトーンを少し変えて喋り始めた。


「みなさん、無事で何よりです。早く本館のエントランスまで逃げて下さい」


「魔族の巣は?」


「今五人に封印させています。フロアの魔族は俺たちで一掃しました。早く逃げましょう!」


叶夢は六人を連れ出し階段まで送った。

途中第11小隊の一人が立ち止まり、叶夢に話しかけた。


「君は逃げないのか?」


「いえ、俺にはもう一つ仕事がありますから」


「それなら私達第11小隊が」


「いえ、貴方達は本館のエントランスで待機してて下さい」


「わ、わかった」


叶夢は目つきを鋭くして、威嚇するように一人を黙らせた。それに怯えた一人は気圧されるように静かに階段を降りていった。


「さて、あいつらに連絡を入れるか」


叶夢が携帯端末を手に取り、他のメンバーに連絡を取ろうとしたその時だった。階段を降りている途中のメンバーの1人が隠し持っていたボタンを取り出し、そのスイッチを静かに起動した。


「何だ‥‥こんな時に電波障害か。なら直接行けば」


「キュウ! キュウ!!」


「お前どうしてここに? って、おい! 待てって!」


叶夢が方向転換して前を見ると、叶夢と入れ違うようにカーバンクルが何処かに案内するように五階のフロアに入っていった。

それを不思議に思った叶夢は、カーバンクルを追って501号室まで戻った。


「何も無いじゃねえか‥‥」


「キュウ!」


「からかった‥‥って訳でもなさそうだな‥‥でも何でここに‥‥まぁいいか。そっちは後で調べてやるから俺は戻るぞ」


「キュウ! キュウ!」


「部屋にいろってか? そりゃ無理な話だ」


呆れた叶夢が部屋のドアを開けて、外に出た。それでもカーバンクルの鳴き声が止むことは無かった。それを気にせず504号室の前に差し掛かった時だった。ある嗅ぎなれた匂いが叶夢の鼻腔を擽った。


「‥‥火薬の匂い‥まさか!」


察知した時には既に遅く、さっきまで六人がいた504号室が爆破された。台風のような強烈な爆風と共に飛んでくる火の雨は鼠色の煙幕を引き連れて、一番近くにいた叶夢をカメレオンに食べられるハエのように一瞬で飲み込んだ。


「今の音‥‥上の階から? まさか叶夢くんとあのカーバンクルに何か」


四階の魔族狩りを行っていた千夜が部屋に追い詰めた魔族を仕留めて、全員と合流しようと部屋を後にしようとしたその時に、上の爆発音を聞いた。その音に不穏な予感を覚えた千夜は部屋を出て真っ先に五階に向かおうとした時だった。廊下から右腕を負傷した戦鎚を持った金髪の男、第11小隊の隊長金丸かねまる 当麻とうまが現れた。


「ぐ‥‥」


「金丸隊長! 大丈夫ですか!? 腕に怪我を‥‥」


「さっきの魔族の攻撃で腕を負傷した‥‥部屋で手当を頼めるか?」


「わかりました! すぐに手当します!」


千夜は金丸に寄り添うと、近くの部屋まで金丸を誘導した。部屋の中に入ると、ドアを閉めて金丸を壁に寄りかかる体制にして肩に治癒魔法を施していた。


「何故‥‥四階に?」


「無論‥‥五階の仲間を守るためだ‥俺はこれでも隊長だからな‥‥だが皆を守るつもりが隊長がこのざまでは、合わせる顔がない」


「そんな事無いですよ。そんな状態になるまで戦ってるなんて隊長の鑑です」


「そう言ってもらうと何となく嬉しいな‥‥もういい」


千夜の治癒魔法を避け、金丸は肩を回し腕が充分に動くかを確認した。千夜自身も納刀をして部屋から出ようとドアノブに手をかけた。


「ちょっといいか?」


「え? はい」


金丸は千夜を呼び止める。落ち着かない様子の金丸ではあったがそれを千夜は不審とも思わなかった。


「お前が良ければこの任務が終わったら、うちの小隊に来ないか? 治癒魔法も早く、実力もある。そんなお前が最底辺の小隊にいるのはどうにも宝の持ち腐れのような感じでなら」


「お誘いは嬉しいのですが、お断りします」


「何故?」


「私にはこの小隊が一番居心地がいい小隊なんです。お兄さんみたいな存在の白鳩さん。双子みたいな紫以奈さんと豹助さん。それに‥‥何よりも私の事を大切だと言ってくれた叶夢くんもいますから」


「あ、あははははは‥」


「す、すいません!変な事をいって‥‥しまって‥‥?」


少し語り過ぎたと思った千夜は、苦笑いをしていた金丸に頭を下げて謝罪した。その笑い声の中で、千夜は自分の中の叶夢の立ち位置について考えた。


(私にとって‥‥叶夢くんはどんな存在何でしょう?家族と言うよりは‥‥恋人?‥ないですね‥それだけは」


「こ、声、出てる‥‥」


「あ」


つい考え込んでしまうと声に出してしまう癖が出てしまい恥ずかしさの余り現実に引き戻された。しかし現実に戻ってきた千夜を迎えた笑い声に千夜は違和感を覚えた。


「あはははははははははは!!!! あっははははははははははははは!!! やべえ! こいつは傑作だ! バカだあ! あはははははははははは!」


「え、金丸‥‥隊長?」


そのほくそ笑む笑いは、狂気の笑いに変わった。余りにも愚かな行為を見た時に出る、腹がよじれるような笑い。その笑いに千夜が感じたのはショックや悲しいという言葉ではなく、疑問だった。


「あぁ‥‥笑い死ぬかと思った。なあ、千夜さん。あんたは叶夢の為にここにいるんだよな?」


「そうですけど‥‥」


「あはは‥‥ならもういる意味ねえな。さっきの爆発で跡形もなく吹き飛んだぜ?」


「え‥‥そんな事で私の動揺を誘えるとでも?」


「あぁそうだろうね。あいつの戦闘においての能力は俺も認めてはいるが今回は明確な証拠もあるんだよ」


そう言うと金丸は隠し持っていたある物を千夜に向けて投げつけた。投げつけられた物に千夜はゆっくり目を向けた。それを見た千夜は悲痛の叫びを上げた。


「‥‥いやあああああああああ!!」


「これが何かの知ってるか? そうだろうな!だってそれはお前が愛した男のトレードマークの赤いフード何だからな!」


金丸 当麻は高らかに笑った。一人の愛を娯楽として嘲笑った。その泣き声すらも彼にとっては歓声と何ら変わらなかった。


「さあて千夜。このままお前を殺して、あいつの後追いを一押しするのもいいが‥‥」


金丸は喪失感に飲み込まれた千夜に近づくと、呆気に取られているうちに千夜から刀を奪い投げ捨て、千夜の両手を掴み頭の上に拘束し押し倒した。この時点で自我を取り戻したが、時既に遅かった。


「は、離して!」


「どうせなら楽しんで、精神面も壊しておくか! ではいただきマース!」


「たすけて‥‥」


「キュウ!」


その言葉が掠れかけた声で吐き出された瞬間。聞きなれた小動物よ声と共に後ろから爆音が聞こえ、天井から石などの破片が落ちてきた。しかし金丸は背中に瓦礫とは違う違和感を感じた。何かが背中に触れてるような感覚を。


「おやおや‥‥第二波も起動したか。これは死体も吹き飛んだかもしれねえ‥‥な?」


しかしその違和感の感覚は次第につんざくような痛みに変わっていった。更にそれを後押ししたのは、決して聞こえるはずのない、聞こえてはならない声だった。


「そうだな。お前の思い込みがする作った架空の死体なら吹き飛んだと思うぜ? 金丸」


「ば、馬鹿な! 何故! あの時確実に! お前は死んだはずだぞ! 死体だって確認」


「確かに死んでた。いや正確には死んだフリ? 虫の息だった分誤魔化しやすかったけど。それとさ、いつまで刺してんの? それ」


「へ?」


金丸が叶夢の指を刺した方向を見ると、有り得ない物が腹から飛び出していた。さっき捨てた千夜の刀だ。それに気を取られた金丸は叶夢によって横腹に放たれた蹴りを避ける事ができなかった。


「あば」


「ありがとな。俺を助けてくれて。オマケに千夜の所にまで連れてきてくれるなんて」


「キュウ〜!」


「叶夢‥‥くん‥‥何ですよね?」


「こんなにカッコイイ幽霊がいてたまるか。ばーか」


「いてて!」


トレードの赤いフードは着ておらず、身体の殆どの部位に大きな傷を付けて身体を赤く染めて、立っている方がおかしい状態になっても尚、叶夢はいつも見せていたあの笑顔を見せながら呆気に取られた千夜のほっぺを軽く抓った。


「良かった‥‥生きてて‥良かったです‥‥」


「礼ならこいつに言ってくれ。俺とお前の危機を救ってくれたこの切り札に」


「キュウ!」


「ありがとう‥‥」


千夜は仲間の危機を救ってくれたカーバンクルを優しく抱きしめ、その体毛を優しく撫でた。叶夢はその光景を見て笑みを浮かべると、さっきまで仲間に非道な行為に走っていた男に殺気立つ怒りの視線を向けた。


「千夜、動けるか」


「は、はい。何とか」


「なら下に逃げろ。俺はこいつの」


「ひっ‥‥ぐあああああああああああ!」


叶夢はその視線を保ったまま、金丸に近づき腹から突き出た刃を素手で握ると、そのまま無理やり引き抜いた。身体を巨大な縫い針で貫かれたような激痛に金丸は悲痛の叫びを漏らした。


「命を摘み取ってから向かう」


「わ、分かりました! ご武運を!」


そう言うと千夜は叶夢から渡された刀とカーバンクルを抱えたまま、部屋を後にした。殺伐とした空気が覆う荒れた部屋に残ったのは叶夢と金丸の二人だけであった。


「さぁ金丸隊長、遊ぼうか。それくらいの傷なら回復できんだろ?」


「言われずとも回復してる」


「散々、人をやれゴミだのカスだの奴隷だの‥‥もう我慢の限界だ。口だけの王様に誰がついていくと思うんだ?」


「何が言いたい?」


「お前には俺が身を以て教えてやるよ。王‥‥いや暴君の君臨の仕方って言うのをさ」


叶夢が向けた刃には欠片の慈悲すら残されていなかった。その刀を通して金丸に向けられていたのは紅い死神が獲物を殺す際に見せる憎悪も憤怒も無い。ただ純粋な殺意だけであった。

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