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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
17/83

第17話 責任

「ん‥‥‥ここは‥私‥確か」


千夜が目を覚ますと、あったのは見慣れた天井と見慣れた机。それが自分の部屋だと気づくのにそう時間を要する事は無かった。

しかし彼女はなぜ自分が部屋にいるのかわからなかった。彼女の記憶は自分に火のついたナイフを投げられ、誰かが自分の名前を呼んでいたことだけだった。


「あの時‥‥一体誰が私の名前を」


「すぅすぅ‥‥」


「紫以奈さん」


寝ている千夜に付き添う形で紫以奈が熟睡していた。


「ん‥‥千夜?」


「あ‥はい‥‥おはようございます」


「良かった‥‥どこも痛く無い?」


「私‥‥一体何が」


「あぁ、そうよね。千夜、自分がどうやって助かったか分からないんだっけ‥‥あのね」


場面は戻り、あの夜のこと。千夜が意識を失う直前の出来事だ。


「千夜ああああああああ!」


「この餓鬼! まだ起きて‥‥なんだこの煙!?」


千夜に向けられた火のついたナイフは叶夢が暴漢の手を蹴り、発煙筒に当てられた。瞬間。車内に白煙が充満した。


「千夜‥‥怪我したらごめんな!」


叶夢はタクシーのドアを蹴破ると、千夜を抱き抱えたまま車外に飛び出した。


「正気かあの餓鬼!?‥‥うわあああああ!」


叶夢に気を取られてしまった暴漢の乗ったタクシーは前にいたトラックにぶつかり止まった。一連の流れを見ていた二人の警察は驚いて、パトカーを止めると一人は容疑者の生存確認。もう1人は車外に飛び出した叶夢の生存確認をしに行った。


「君! 大丈夫‥‥か?」


警官が見たのは猛スピードの車から放り出されたのにもか関わらず、目立った外傷も無い二人と息を荒あげながら倒れ込む一人の少年の姿だった。


「あ、はい‥‥何とか大丈夫です」


「何が大丈夫なんだにゃ! 俺が気付かなかったら死んでてもおかしくなかった癖に!」


「そのための発煙筒だろうが‥‥‥後ろの席から出て正解だった。前だったら多分死んでた」


「今の行動も死んでて当然だったはずだにゃ!」


あの叶夢が飛び出た一瞬、豹助が時間を止めてふたりを拾い上げて白線の向こう側まで走って行った。


「お前‥少し仲間を過信し過ぎだにゃ‥‥千夜が無事に済んだとしても頭から飛び込んでたお前は」


「でもまぁこうして生きてるだけ良いだろう。ありがとな豹助」


「そう言う問題じゃなくて!」


「あぁ、俺だ。千夜? ちゃんと無事だよ。気を失ってはいるが」


叶夢が連絡を取っている間、豹助は警察の相手をしていた。その他の怪我の手当などが重なり結局帰れたのは午後10時だった。


「私‥‥一晩寝てたんですね‥‥叶夢くんは?」


「えーと‥‥豹ちゃんといっしょに支部長に呼ばれてる」


「そんな、私の責任なのに」


「隊員の不祥事の責任は隊長にあるって言って‥‥」


それと時を同じくして、支部長室。

そこはいつも以上に不穏な空気に包まれていた。


「で、犯人を捕まえられたからこれでハッピーエンドと」


「いえ、門限の違反。それだけでなく許可のない魔法の使用。その他にも‥‥」


「‥‥豹助、お前は出ていってくれ。安心しろお咎めはないさ」


「わかりましたにゃ」


豹助は、暗い顔をしたまま部屋を出た。


「全く‥‥何でお前がそんな顔してこっちに報告する必要がある?」


「何はどうあれルールを破ったのは俺だ」


「魔法で人を救った分いいだろ? お前は妙なところで繊細だな」


「あんたは根っからの善人だな…気持ち悪いぐらいだよ」


「まぁ本来、立場上処分は下さなきゃなんだけどな」


神座は頭を掻きながら手に持った書類に目を通す。


「今回は警察からの感謝もあるしお咎めは無しだ」


「だが犯人がぶつかったトラックの運転手は」


「何でも罰して許してもらう方向に持っていこうとするなよ。ここはもうお前がいたマフィアじゃねえんだから。てかお前はそういう意味でかなり欲しがりだな」


「悪かったから人をドMみたいに言うな」


「その自己犠牲の性格。さっさと直せよ。今のお前に殿(しんがり)なんかされたら時間も稼げず無駄な命を散らしちまうだけになるからな」


「それは本当に俺に言うべき言葉なのか?」


叶夢は鼻で笑うように神座の言葉に反発した。


「自惚れるのも大概にしろよ。」


「ああ?」


日本支部の支部長であり総司令でもある神座の温厚な目は殺気で獣でも怯ませるかのような目つきに変わったが、それに共鳴するかのように叶夢の目はさらに鋭い目に変貌した。


「いい加減自覚しろ。あんな暴漢一人にも命を賭けちまうぐらいにお前は弱いんだ」


「わかってるよ。そんな事!」


「弱いってのを分かってるなら、なんであの時朔夜に挑んだ? なぜイフリート相手に立ち向かった?」


「アンタには関係ないだろ」


叶夢は目を逸らす。


「ったく不良息子を持った気分だ」


「の割には楽しそうに見えるが」


「お前に説教してる間だけは素で話せるからな‥‥」


叶夢は静かにドアを開けて支部長室を出た。


「はぁ」


「随分とこっぴどく怒られたようだな。叶夢」


「朔夜‥‥なんだ俺のストーカーに転職でもしたのか?」


ドアを開けて廊下に出た先にいたのは壁に寄りかかった朔夜だった。


「んな訳あるか。不祥事起こしたと聞いて笑いに来たんだが‥‥怒られてなかったのか?」


「司令の愚痴を聞くだけの簡単なお仕事だったよ」


「そうか。残念だ」


「何だよ、喧嘩ならいつでも受けるぜ?」


叶夢は刀を朔夜に見せるように構えたが、朔夜はそれにも動じず


「いつだれが喧嘩したいなんて言ったんだよ‥‥」


「ふふっ、冗談だよ。気分的に誰かをからかいたくなっただけだ」


「にしては目がマジだったが」


「んで? お前も呼ばれてたんじゃないのか?」


「あぁ。ちょっとな‥‥それじゃあばよ。

失礼します」


そう言うと朔夜は支部長室に入っていった。

叶夢もそれを見届けると自分の部屋に帰っていった。


「ただいま‥‥」


「おかえり‥あの俺らは」


「安心しろ。お咎め無しだ」


「良かった‥‥」


叶夢は冷蔵庫からペットボトル飲料を持ち出すと、ソファに座り飲み始めた。


「はぁ‥‥何だろう。あいつの料理食べたあとにまともなものを口に含むとより美味しく感じる‥‥ただのコーラなのにだ」


「あーわかる。昨日インスタント麺食べたらあまりの美味しさに涙出たからにゃ」


「いやそこまででは無いな」


「え、そうかにゃ?」


叶夢と豹助は暫く沈黙を通すと、ゆっくり立ち上がり部屋に戻った。


「そういえば千夜は?」


「さぁ、俺が来た時にはもう部屋には居なかったにゃ」


「そうか‥‥」


「そういえば叶夢。この間の長野の件。報告書が返却されてたにゃ」


「分かった。目を通しとく」


叶夢は開けかけていたドアを閉め、テーブルの上にあった端末の電源を入れて先日あった任務の報告書に目を通した。


「なぁ叶夢。気になったことがあるんだけどにゃ」


「なんだよ」


「魔族の冠位あるだろ?第一位とか第五位とか」


「あったな。お前が疑問に抱いてるのはそれがどう生まれるか。 冠位に変化があるか‥‥あってるか?」


「よく分かったにゃ」


「俺もつい最近まで知らなかったんだが」


魔族の冠位はいわば強さを分けるランクのようなものである。現時点では第十位が最高ではあるが、それよりも強いランクがある可能性もある。


「基本は、強さとそいつによってどれだけ危害を加える危険性があるか。だが例外もある」


「例外?」


「共食いした場合。稀に魔族が魔族を捕食することがある」


「それの何が危険なんだにゃ?」


「魔族の共通性質として『捕食』というものがある。これは本来生物を殺して捕食し、栄養や魔力の補給だけでなく、捕食した生物の遺伝子を読み取って生物の特徴とかを自分に反映させる役割を持っているんだ。」


「つまり蟹を大量摂取すれば、魔族なのに両手がでっかいハサミに進化するとかかにゃ?」


「まぁ理屈的にはそんな感じだな。」


「んじゃそこから巨大な何かを捕食すれば、某ヒーロー番組のメインの敵みたいな」


「バル〇ン星人もあらかた間違いじゃないかもな」


叶夢は豹助に笑いかける。


「けど驚きだにゃ。魔族の捕食にそんな意味があったのかって。しかもただの生物にも魔力があったなんて」


「俺ら征魔士だけが魔力を持ってるのではなく、生物全般は微量ではあるが魔力を持ってるからな」


「でも魔族同士の捕食ってことは」


「栄養も魔力も過剰摂取。そんなものを摂取したら変化も起こるよ。悪い方向で」


「でも何でそれが例外なんだにゃ?そんなの魔族同士が共食い繰り返せば手軽に強くなるんじゃ‥‥」


「お前は人間を食べれば超強い力が手に入るとか言われて人間を食えるのか?」


「え‥‥そりゃ無理だけど」


「魔族にもその倫理はあるみたいだ。だから珍しいんだよ」


叶夢はレポートの中にあった第五位魔族のイフリートの資料を豹助に見せた。


「イフリートがいい例だ。運良く生き残った魔族が雷で燃えた魔族の死体を炎ごと摂取したからこそ生まれたものなんだ」


「だから突然現れたってことかにゃ?」


「まぁあれは生存本能だろうな‥‥それが運良く転生に繋がったと」


「へぇ‥‥なるほどにゃ」


「まぁこの任務についての報告はお前らにとっても俺にとっても学ぶ事だらけだよ。暇になったら目を通しておくといい」


「はいはーい‥‥」


「んじゃ俺はシャワー浴びてくる。実は後片付けが重なって入れてないんだよなぁ」


「道理で汗臭いと‥‥」


「今の俺にはお前にツッコミを入れる余裕が無いんだ‥‥勘弁」


そう言うと叶夢は部屋を出て早足で脱衣場に向かった。そして勢いに任せてドアを開けた。


「はぁ‥‥疲れた〜」


「あ」


「あ‥‥失礼しました」


脱衣所のドアをスライドすると向こう側で素肌をあらわにした千夜の姿があった。

幸いか不幸なのか。タオルなどで局部などは見えなかったが、千夜のスタイルだけは浮き彫りになっていた。


「ちょっと!? 何でノックも無しに開けてるんですか!?」


「つか何でお前いるんだよ!? 豹助がいないって…は!」


叶夢は豹助の発言をもう一度頭の中で繰り返した。


『俺が来た時にはもう部屋には居なかったにゃ』


誰も家の外に出たと言ってなかった。


「あの野郎」


「え‥‥まさか欲情して‥‥確かこの間の私ぐらいのスタイルがベストって」


「やめて、もうやめて。それ以上傷口アイスピックでえぐらないで。ごめんなさいDTがイキってごめんなさい」


「あ、欲情の部分は否定しないんですね」


「はっ‥‥してる訳無いだろうが! つかお前みたいなツルぺた論外だし!」


「はぁ!? 何ですかその言い方! 私着痩せするんですよ!? たった数秒見ただけで服着てる時と同じに見えたって言うんですか!?」


「寧ろあの一瞬で完全に確認する方が無理だって話だろ!」


「それじゃ見てみます!?」


千夜がタオル一枚のままドアを開けようとしたが叶夢が外側から抑えに入った。


「馬鹿だろ!? あんだけ見るなと言って突然見ろって!?」


「私が貧乳認定されたまま叶夢くんに鼻で笑われるくらいなら、いっそここで!」


「そんなことで鼻で笑う訳ないだろ! いいからさっさと着替えろ! そして俺にシャワーを浴びさせろ!」


「‥‥わかりました」


(絶対何かあるな‥‥こいつがこんなにいさぎよい時は何かあるな‥‥)


「何かあったのかにゃ?」


一連の騒ぎを聞いて豹助がやって来た。


「おいお前、どの口がそれを言ってるんだ」


「まぁまぁ‥‥何となくわかってるにゃ。まぁゆっくり休めにゃ。俺はちょっと紫以奈迎えに行ってくるから」


「あぁ‥‥」


豹助はそう言うと玄関から出ていった。途中叶夢の上着のポケットに何かを入れて。


「何入れたんだ? あいつ」


叶夢は上着のポケットに手を入れると、ポケットの中に入ったものに触れた。


「‥‥おふざけだよな?」


触った形だけでも分かってしまった。急いで中身を出して確認すると


「‥‥」


四角い袋に丸い輪が浮き彫りになっていた。

それが何かを悟った叶夢は静かにそれを上着にしまった。


「使う予定は無しと‥‥」


「着替え終わりましたー」


「あぁ、わかった」


叶夢はドアを開けて千夜の姿を確認した。

千夜は寝巻きに着替え終わっていた。ただ一つのプロセスを除いて。確かに寝巻きではあったが、前のボタンを全開。しかも下に下着もつけず。

一歩間違えれば裸よりも淫らなその姿は、叶夢の視線を一時的に釘付けにしたが、叶夢は急いでドアを閉めた。


「馬鹿だろ! お前馬鹿だろ!?」


「何でですか! 羽織れと言ったのは叶夢くんでしょ!?」


「どんだけ自分がスタイルいいのを異性に見せびらかしたいんだよ!? いいからちゃんと服を着ろ!」


「着てるじゃないですか!?」


「いいから下着て、上着ちゃんと着てさっさと俺にシャワーを浴びさせてくれ!」


「わかりました‥‥なら下着持ってきてください」


突然、千夜の声が小さくなった。今になって恥の感情を取り戻したのだろう。


「まさかとは思うが俺に下着を持ってこさせる為にこんな茶番やってるんじゃないだろうな?」


「さっき忘れたことに気づきました‥‥」


「はぁ‥わかった‥ただ持ってきたらすぐ着ろよ」


叶夢は呆れのため息を出しながら千夜の部屋に向かい、下着を回収すると猛スピードで風呂場に戻った。


「さっさと着替えを終わらせろ!」


「よく躊躇なしに持ってこれましたね‥‥どれだけシャワー浴びたいんですか?」


「あまりDTで遊ぶなよ。襲うぞ」


「は、はい! 直ちに!」


叶夢はドスの効いた低い声で千夜を脅した。

その声にびっくりした千夜は一目散に部屋着に着替えると、外に出た。


「終わりました」


「はぁ‥‥じゃあ入るわ」


「あ、あの‥叶夢くん」


「今度はなんだ‥あ、襲うは冗談だから」


「あの‥‥昨日はすいませんでした! 私ひとりの勝手な行動で31小隊を振り回してしまって!」


千夜は頭を下げて謝った。叶夢はそれを見てため息を出すと


「この流れでその話か‥‥お前に何もなくて良かった。俺はそれだけで十分だよ」


「でも‥結果的に私のせいで小隊のみんなに迷惑が‥」


「仲間を助けに行くのが迷惑なんて考えねえよ」


「でも‥‥でも‥」


「‥‥千夜。背筋直せ」


叶夢は少し笑うと、お辞儀から直った千夜を抱きしめた。


「‥‥‥!?」


突然のことに千夜は顔を真っ赤にして、声にならない悲鳴を出した。


「はい。これでチャラ。風呂入りたてのおかげでお前大分いい匂いするな」


叶夢は笑みを保ったまま、固まった千夜を脱衣場からつまみ出した。


「さてと‥シャワー‥シャワー」


叶夢は服を脱ぎ、風呂場に入った。


「じゃねえだろ! 何やってんだ俺! あー恥ずかしい! 死ぬほど恥ずかしい! ごめんね千夜! こんな俺でごめんね!‥‥‥‥頭冷やそう」


一方、脱衣場の外に放り出された千夜は赤くなった自分の頬を触りながら現在の状況を飲み込めずに座り込んでいた。


「かかかかかか‥叶夢くんに‥ハグ‥して‥貰ってしまった‥何でなの‥普通異性に突然ハグされたら突き飛ばす筈なのに‥‥何で拒絶せずに‥‥というか何で私照れたままなのよ!」


千夜はふらふらと立ち上がると、自分の部屋に戻って枕に顔をうずめた。どれだけ現実から逃げても、頭の中にこびり付いた叶夢の顔を消すために。しかし千夜がどれだけ別のことを考えても叶夢の笑顔が消える事はなく


「ああああああああああああああああああああ! もう! 叶夢くんの癖に! いつまで私の頭に居座ってるんですか! 早く消えてしまえ!」


「叶夢隊長がどうかしたの?」


「ふぇ‥‥紫以奈さん‥」


千夜の思いの叫びは、部屋に戻ってきた紫以奈の耳に届いてしまった。


「な、なんでもありません‥悪い夢を見ただけです‥」


「あぁ‥なるほどね。具合の方は大丈夫そうだね。叫ぶ元気があるなら」


紫以奈は荷物を置くと机に座り、図書館から借りてきた本を開いた。千夜は相変わらず枕に沈めながらベッドに横になっていた。


「そういえば叶夢隊長は?」


「かかかかかか叶夢くんがどうかしまたか!?」


「千夜‥‥叶夢隊長になんかされたの?」


「ナニモサレテマセンヨ」


「何でそんなにカタコトなの‥‥」


「ハグされました‥」


「あらま、意外と大胆なところがあるのね叶夢隊長」


「それだけですか!? 反応それだけですか!?」


千夜の勇気を込めた発言を、紫以奈は軽い驚きで受け止めた。


「まぁいいんじゃない? よっぽど怒られてゲンコツ貰うよりは」


「そうですけど‥‥ハグってこんなに日常的にやるものなんですか」


「少なくともこの国ではないと思うけど」


「というか紫以奈さんはハグされてもなんとも思わないんですか?」


紫以奈は少し間を開けて考えた。自分がハグされてる姿を。ハグしてる相手の顔が豹助だというのを確認すると、少し顔が赤くなった。


「人による」


「ですよね! 嫌ですよね!?」


「いや‥‥子供の頃からそういう触れ合いはあったし」


「…紫以奈さん。頭の中で誰にハグされたんですか?」


「関係ないでしょ」


紫以奈はイヤホンをつけて、本を開き自分の世界に逃げ込んだ。千夜は枕から顔を離すと、ベッドで体を伸ばした。


「ふぅ‥‥いい風呂だった‥やっぱ汗を流したあとの体ほど軽いものは無い」


数十分立って叶夢が風呂場から頭をタオルで吹きながら出ていった。


「あ、叶夢くん。ただいま」


「白鳩か、おかえり。また情報集めか?」


「正解。図書館行ってきただけだよ。新聞の過去記事漁ってた」


「ふーん‥‥前々から思ってたんだけどさ、いったい何をそんなに調べてるんだ?」


「何を‥‥って?」


「お前ってさ、暇があればいつも図書館にある過去の新聞記事とか漁ってるから、何をそんなに調べる必要があるんだって思ってさ」


「話すと長くなるよ?」


「どうせ暇だし聞いてやらんこともない」


「なんだその偉そうな態度」


白鳩はソファに座ると、飲料水を飲み一呼吸おいて話し始めた。


「僕の家は少し特殊でさ、親父が魔族関係のオカルト雑誌の編集者。母さんは普通のサラリーマンって言う変な組み合わせ。両親は共働きで基本家には僕と妹のふたりで生活してた」


「ふむふむ‥‥」


「決して裕福では無かったけど、幸せな生活だった」


「だった‥‥ねぇ」


叶夢は目を逸らした。


「僕が九つの頃に、親父が失踪したんだ。突然、何の前触れもなく。警察にも連絡して総出で捜索したんだけど今でも見つかってない」


「なるほど‥‥親父の捜索の為にか‥でもその為だったら何でお前はわざわざ征魔士に?」


「魔族関係の資料を調べる為って言うのもあるんだけど‥‥妹の為ってのもある‥」


「妹の?」


「親父がいなくなったあと、ちょっと不幸が多発してね。母さんがリストラにあったんだ。さらに同時期に妹が原因不明の病にかかって病院に入院することになった」


「酷いな」


「母さんは妹の入院費を稼ぐ為にバイトや内職を掛け持ちした。でも無理が祟って母さんは過労で死んでしまった。葬儀の方は、親戚がやってくれたんだけど、妹の方はいつ治るかもわからない病気に金をかけてられないって言われて、結局僕がどうにかするって決めた」


「それでここに来たってことか‥」


「元々、魔法が使えた事と親父の件もあってここに行くってことは決めてた。しかもここは任務さえこなせば報酬金も貰えるから、それを妹の治療費に当てている」


「予想以上に困難な道歩んでるな‥‥お前。今の調子はどうなんだ?」


「安定してるよ。前の小隊にいたときの分があったからね」


「前の小隊? 前って‥‥いったい第何小隊だったんだ?」


「あぁ‥‥桐原と同じ第1小隊だよ。そこで隊長して」


叶夢の作業していた腕が止まる。

白鳩が隊長であった事に驚きを隠せなかった。


「え‥‥てことはお前‥元トップ‥ていうか去年ってことは‥お前一つ年上‥」


「そりゃ征魔士になれるのは16になってからだからね。まぁ今は17だけど」


「予想以上に凄い先輩だったんっすね」


「今更感」


白鳩は呆れながらソファから立ち上がり、ベランダに出ると洗濯物を畳み始めた。


「でも何でこの小隊に?」


「そりゃ勿論司令の指示だよ。曲者揃いの小隊だから影から支えてやってくれっていうね」


「先輩も随分と苦労人ですね」


「今更突然敬語に変えるなら殴るよ?」


「はーいはい。んじゃ夕飯の支度とするか…ん?」


叶夢がソファを立ち上がり、台所に向かおうとしたその時だった。第31小隊の共同用のタブレット端末に一通のメールが届いた。


「メール? 神座からだ。任務かな‥」


『日本支部の第31小隊~第11小隊の征魔士へ。近いうちに大規模な小隊の序列整理を行うためにランク戦の開催をお伝えします。』


「ランク戦?」


「お、もうそんな時期か。叶夢くん、みんなを集めて。ランク戦について説明するから」


叶夢は部屋にいた全員に招集をかけた。

全員が集まるのにそう時間はかからなかった。

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