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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
16/83

第16話 休息に縮まる寿命

「出来ました!」


「おい豹助。麻婆豆腐に似た何かが出来たぞ」


ある五月の昼下がり。特に目立った任務の無かった叶夢達、第31小隊は村雨 千夜の料理下手を治すための調理実習を行っていた。


「なんか変な点は?」


「おかしいにゃ。山椒の匂いしかしないにゃ」


「良かった。バカになってなかった俺の鼻」


テーブルに座った二人、刀堂(とうどう) 叶夢(かむい)裏代(うらかわ) 豹助(ひょうすけ)は死んだ魚の目で千夜の作った料理のような何かを見つめながら言った。


「あいつが出来る料理が何かないかと探して早数週間。白鳩は情報収集により外出。紫以奈には俺らから摂取をストップさせて結局俺らが食うハメになってる訳だが‥‥」


「おかしいにゃ。本来山椒の風味が少ししか来ない筈なのに、口の中が山椒だらけにゃ」


「少ししか入れてないつもりなんですけどね」


「どれくらいだにゃ?」


「麻婆豆腐作った後にその全体量の4分の1の量で…」


「「入れ過ぎだろ!」」


2人は掠れた声で怒鳴った。その後すぐに水を喉に流し込んだ。


「ぜぇぜえ‥‥死ぬかと思ったにゃ」


「ひとまず休憩だ‥‥ここまで来ると俺達の味覚が死にかねない‥‥」


「やっぱり料理は難しいです‥」


「というか最初から紫以奈呼んでおけば良かったんじゃないか? あいつ普通に料理上手いし、先生として」


「それだけは嫌です! こういうのは自分の手で乗り越えないと!」


千夜が手を固く握りしめてそう豪語すると、二人は魂が抜けたように力尽きてしまった。


「みんなー順調?‥‥ってわけでもなさそうだね」


「紫以奈、二人ってば三食目でダウンしちゃいました…」


「三食も耐えきったんだね‥‥お疲れ様二人とも‥‥」


部屋から部屋着にパーカーを羽織った紫以奈がリビングに来て、その惨状を見るなりふたりがどれだけ耐えきったかを悟った。


「最初はハンバーグを作ったのですが‥‥生ユッケの味がすると言われてトイレに駆け込まれました‥‥」


「あはは‥‥え、笑い事じゃない」


「2食目にはサラダを作りました」


「生野菜を切って皿に盛るだけだから大丈夫だったでしょ?」


「こちらもダメでした」


紫以奈は予想以上の千夜の料理下手さに驚きを笑顔を保ったまま持っていたスマホを落としてしまった。


「紫以奈、大丈夫ですか!?」


「い‥‥いや‥どんな事があってサラダを失敗作に変えたのかなって‥」


「ドレッシングを作ってる時に二人に白い目で見られました‥」


「何でそこを手作りにしちゃったの!?」


「冷蔵庫の中の物資があまりにも乏しかったのであるもので作ろうと」


紫以奈が急ぎ足で台所に向かうと、テーブルの上に得体の知れないオーラを放つオレンジ色の液体が入った容器があった。


「ねえ‥これって‥‥」


「は、はい。私手作りのドレッシングです」


紫以奈は恐る恐るその容器に入った液体に指を入れて、指に付いた容器の中の液体を見ながらその指を舌に付け味見をした。


「‥‥ドレッシングだよね…」


「は、はい」


「変な癖がある野菜ジュース何だけど‥‥あ、苦い! と思ったら辛い! え? 私の味覚壊れた?」


紫以奈は青ざめた顔で千夜を見た。どうやればこんなに不味いものが作れるのかとそんな疑問を抱きながら、紫以奈は舌を抑える。


「え!?」


「これ‥‥レシピどうしたの?」


「えーと、まずタマネギ4分の1をみじん切りにしてそのまま容器に投入して、その容器に野菜ジュースを大さじ4杯入れた後にサラダ油を大さじ2杯入れて、砂糖の塊を投入して、辛味も追加した方がいいと思ってナツメグを小さじ3杯、抹茶の粉小さじ2杯、その他もろもろを軽く混ぜて作りました…」


「何故‥‥野菜ジュースをベースに‥」


「普通の調味料より栄養が詰まってると思って‥‥」


「他の奴もあったよね?‥‥まさか!」


紫以奈は慌てて冷蔵庫を開けるとその驚きの光景に思わず目を奪われた。


「空だ。何も無い」


「料理のし過ぎで材料が尽きてしまって」


紫以奈は自分の部屋に戻って第31小隊の共通用の財布を取り出し、それを持って再びリビングに戻ってきた。


「とりあえず次に作る料理を一つに絞ってから商店街に材料を買いに行きましょう?」


「わかりました」


「豹ちゃんも起きて、叶夢隊長も」


モニターの電源をつけると千夜が作る次の料理について議論を行った。


「ここは無難に刺身とかどうかにゃ?」


「それなら出来そうです!」


「紫以奈、千夜に魚を捌かせたらどんな未来が見える?」


「血のついた切り身の上を踊り狂う寄生虫が見えます。二人とも、お腹の中にアニーを入れる派目になりますよ」


「え‥‥魚って寄生虫いたんですか!?」


「ほらこの領域だ、別のものにするぞ」


議論は数時間にわたって続き、日も沈みかけた頃、ようやく結論は出された。


「よし、カレーにするぞ」


「もうそれで勘弁だにゃ‥‥こっちも頭が回らないからにゃ‥‥」


「それじゃ商店街に行こっか。行くよ荷物持ちさん」


「紫以奈、マジで言ってるのかにゃ?」


「この時間でも女子二人は危険でしょ?」


「なるほど‥‥確かに紫以奈に何かあったらおじさんに首飛ばされるのは俺だからにゃ」


「分かったら早く出るよ。この時間は混むから」


四人は急ぎ足で日本支部を出て、近くの商店街に向かった。


「えーと‥‥人参にジャガイモ‥玉ねぎ‥あとお肉は何が良いだろう?」


「普通に豚肉でいいんじゃないかにゃ?」


「そうだね‥‥そうしよう。‥‥カレールーは二人に任せたし」


時を同じくしてスーパーマーケットにいた千夜は叶夢に監視される形でいた。


「あのー‥‥叶夢くんは何でそんなに目を光らせているんですか?」


「お前が余計なものを買わない様に、紫以奈から言われてるんだ。悪く思え」


「私がそんな人間に思えるんですか!?」


「この間女子部屋の掃除に入ったところ。お前のベッドの下から大量のお菓子や菓子パンの袋ゴミが発見されたんですがそれはどう言い訳をつけるんですか? 千夜?」


「いつの間に入ったんですか!? というか貴方にはデリカシーってものが‥‥」


「デリカシーが無いのはちょっと謝る。だがな、汚部屋にデリカシーもクソもあるか! せめて一声かけてから買え!」


「ぐ‥‥はーい」


千夜は渋々数週間分の食材を入れながらカートを進めた。そしてカレールーも入れ終わり、レジに進もうとした時だった。


「ある程度のものは買ったし‥‥他に買うものは‥」


「うう‥‥お菓子‥」


「‥‥はぁ」


千夜が堪らず抑えた欲の声を漏らしていた。叶夢はそんな千夜を見て頭を掻きむしりながらため息を漏らすと、ポケットから自分の財布を出し千夜に差し出した


「?‥‥これは?」


「俺の財布。小隊の奴らにアイスでも買って来い」


「‥‥それぐらいなら隊の財布から」


「パシられる取り分としてその金で好きな菓子でも買ってくるといい」


「叶夢くん‥‥なんて優しい‥」


「流石に言い過ぎたからな‥‥わかったら早く行ってこい」


「叶夢くんのそういうところ大好きですよ!」


千夜はさっきまでとは対象的なテンションでアイスの売り場に向かって行った。


「あいつ‥‥財布空っぽにすんなよー?」


叶夢は顔に笑みを浮かべつつもかごの中の商品をレジに通し、会計を済ませるとマイバッグに商品を詰め始めた。


「あれ電話だ」


叶夢がポケットの中で着信音を鳴らす携帯に、気づき画面を開くと紫以奈からの電話だった。画面に現れた緑のボタンを押して電話をとった。


「もしもし?」


『もしもし叶夢隊長? もしかしてまだ立て込んでます?』


「あぁ、いま、会計が済んだところだ」


「なら良かったです。私達は材料が傷むとまずいので先に帰りますね。それを伝えたくて」


「分かった。こっちも今から帰る。無事に帰れよ?」


「わかりました!」


電話が切られたのを確認すると、商店を詰め終わったマイバッグを持ち店を出た。


「ふぅ‥‥無性に甘いものが食べたい‥」


そう言ってベンチに座っていた叶夢はふと目に映ったものを見てそれに向かって走っていった。


「叶夢くーん? あれ‥‥買い物バッグしか置かれてない‥‥にしてもこの買い物バッグ、ピンクの下地にパンダの顔って‥‥誰の趣味なんでしょう」


「俺の私物だが」


「うわぁ! いつの間に‥‥てかどうしたんですか両手にクレープなんか持って」


叶夢は何食わぬ顔でクレープを両手に持ちベンチに帰ってきた。


「いや、唐突に甘いものが食べたくなってさ、ほらお前の分」


「ありがとうございます‥‥」


「さて、ゆっくり帰るとするか。荷物も多いし」


それから千夜はアイス兼自分のお菓子を入れたビニールを。叶夢は数週間分の食料が入ったマイバッグを持ちながらクレープを片手に帰宅路をゆっくり歩いていた。


「にしてもあれだな‥‥それだけ買って食べてその栄養は何処に行くんだ?」


「任務してれば勝手に減りますよ」


「‥‥発育悪いのな。」


「ほっといてください! と言うか女子に対してよくもまぁそんな簡単にプライベートゾーンの話できますね」


千夜はクレープを齧りながら頬を赤らめ叶夢から目を逸らした。


「そんなに気にする事でも無いだろ。寧ろ戦うぶんではそっちの方が身軽だし。ははは‥‥」


(ダメだ‥‥完全にバカにされてる気持ちになる‥‥こうなったら私も叶夢さんに反撃してやります!)


「そうですよね。そういう叶夢さんは胸が大きいのと小さいの。どちらが好み何ですか?」


「へ?」


叶夢は笑顔を保ったまま少々戸惑った。それと同時に不意をつかれた声が叶夢が迷っている事を千夜に感づかれてしまった。


(さてどう答えようか。相手も相手だしな‥‥)


「あれ? 初めて聞きましたよ。叶夢くんのその不意をつかれた時に出る声。やはり叶夢くんは攻めるのは強いですが受けが弱いんですね‥‥」


「おい待て。俺だって男だ。男が女にそんな質問されたら誰だってこんなに反応するよ」


「へぇ〜」


「そうだ中くらい!それぐらいが俺はいい!」


「中くらいって‥‥具体的に何カップを言うんですか‥」


「そこまで具体的に答えなきゃいけないの!? DTの俺にそこまで言わせるとかお前ほんと人の心無いな!」


「ええ。曖昧な答えでしたので」


叶夢は自分が優位に立てていると勘違いして余裕の表情を浮かべている千夜に少し怒りを覚えた。


「分かった。曖昧な答えじゃなきゃいいんだな?」


「下手な発言は私含めて世界の女子を敵に回すことになるのでお気をつけて発言してくださいね?」


「いいや‥‥はっきり答えてやるよ。俺は」


叶夢は半ばやけくそ気味に千夜の方を指さして、ゆっくり悪意がたっぷりこもった笑顔を向ける


「お前ぐらいがベストかな。壁でもなければ山とも言えない。その微妙なサイズが‥‥‥」


「もういいです。変な質問してごめんなさい」


「答えさせてそれかよ!」


「あとしばらく私に近づかないでください。近づけば氷で撲殺しますので。以上。それでは私は先に」


「‥‥」


叶夢は千夜から向けられたドン引きの目に唖然としながら、ただ立ち尽くしていた。

その目を向けてる千夜も、小走りで先に向かってしまった。


「ははは‥‥ちくしょう! DTに対してあんな扱いしやがって! ほぼ大罪だぞ! ハーくそが!」


叶夢は夕焼けに向かってそう叫ぶと、悲しげな目でその夕景を見ながら歩いていた。


「ふふふ‥‥‥大成功です! これで私も叶夢くんに一泡吹かせられました!」


叶夢の目が離れたであろう場所で喜びのあまりスキップで道を軽やかに進んでいった。


「しかしこれはこれで面白いですね‥‥今度は別のやり方で遊んでみるのも悪くは無いですね‥‥あれ」


千夜はこの成功例を元にさらに叶夢で遊ぶ方法を模索する事に夢中になるあまり、帰宅用のルートから離れてしまった。


「いけないいけない‥‥でも日本支部見える範囲ですし‥‥そんなに離れてないでしょう。ここら辺なら‥‥裏路地使えば叶夢くんより早く着けそうですし」


千夜は申し訳程度の明かりしか付いていない薄暗く人通りの少ない裏路地に向かって消えていった。


「ただいま〜‥‥千夜帰ってないのか?」


「おかえりなさい。叶夢隊長と一緒じゃなかったんですか?」


「いや色々あって、はぐれたまま帰ってきた」


「なるほど‥‥千夜なら待ってれば帰ってくるからな」


「それもそうだな‥‥あとこれ数週間の分」


「お疲れ様です。一応電話かけてみますね」


「頼むわ‥‥はぁ〜‥‥疲れた」


叶夢はマイバッグをテーブルの上に置いて、リビングのソファに自分の身体を投げ込んだ。


「お疲れ様にゃ。お互い荷物持ち大変だったろうに」


「あぁ? そうだな‥‥しかもスーパーは商店街の比べて道も遠いし」


「あれ‥‥繋がりません‥‥」


「ほっとけほっとけ‥‥すぐに帰ってくるさ。白鳩〜、洗濯物頼んだ」


叶夢は堕落しきった声でちょうど後ろを通った白鳩に言った。


「はいはーい‥‥寒っ! 珍しいな‥‥この時期にこんな寒い風」


白鳩は鳥肌を立てながら洗濯物をたたもうと、ベランダのドアを開き外に出た。


「そんなに今日寒かったっけにゃ‥‥」


「日もすっかり沈んだからな。ちょっとトイレ行ってくる」


叶夢はソファから重い腰を持ち上げてあくびをしながらリビングを出ていった。


「何か面白いテレビやってないかにゃー‥‥紫以奈〜。リモコンとってくれにゃ〜」


「今付けるから」


紫以奈がテレビのリモコンを取り、電源のスイッチを押してテレビの電源を入れる。

テレビは夕方のニュースを放送しており、三人はそれを何も考えずただ流し見していた。

だが、とある一つのニュースを除いて。


「えー、次のニュースです。今日の昼。女性が暴行を受ける事件がありました。犯人は現在も逃走中で、現在も警察が捜索を続けています。さらに犯人は魔法も使えるという情報も入っています。事件があった近隣の皆様はご気をつけて外出を控えてください。次のニュースです‥‥」


「怖いにゃ‥‥魔法も使えるってあたりが」


「どうせ野良だけど、対した魔法も使えないだろうし‥‥矢岬ちゃん?」


「どうしよう‥‥まだ電話が繋がらない‥」


そのニュースを見て紫以奈は青ざめた顔で俯いた。


「千夜がもし巻き込まれてたら」


「それは流石に考えすぎだにゃ。それに千夜だったら自分の魔法で撃退できるだろうし‥‥」


「いいや。矢岬ちゃんがそう考えるのも無理はないよ豹助くん」


「白鳩まで‥‥なんで二人共一方的にやられる事態だけ考えるんだにゃ? 千夜にはやり返すぐらいの力があるのは同じチームメンツの俺らが一番知ってるはずだにゃ」


「はぁ‥‥君さぁ‥‥」


白鳩は顔を手で隠しながら深いため息を吐いた。


「許可なく敷地外で緊急時以外での魔法を使うのは征魔連合軍(ウィザーズ・チャリオッツ)のルールに反する。破って謹慎処分で済んだらいい方だ」


「別にそれぐらいでも俺なら‥‥」


「豹ちゃんならでしょ。千夜ちゃんはああ見えてかなり根が真面目で優しい子なの。恐らく自衛目的とはいえルールを気にしてそれをできないのよ」


「それって‥‥やばくないかにゃ?」


「今すぐ探しに行かないと」


「でも何処に? 千夜は別の道通ったって‥‥」


「みんなで手渡り次第探してみるしかないか‥‥とりあえず僕が」


「落ち着けくにゃ二人共。二手に別れて近くの通りを探してみよう」


三人は上に防寒着を着ると急いで玄関から外に出た。


「あれ!? そういえば叶夢は!」


「隊長にはテーブルに置き書き残してあるから後で来るはずだよ! トイレからも会話聞こえてた筈だし!」


「んじゃ僕は表通りを探すから見つけたら連絡頼む!」


「了解! 豹ちゃんと私は商店街を探そう!」


「OKにゃ!」


入り口前で三人は散開して別々の道を走った。


「ううっ‥‥ものの見事に道に迷ってしまいました‥‥なんか夜になった分さらに寒く感じます‥‥アイスが溶けない様に自分の魔法で作った氷を入れてるのもそうなんでしょうけど」


時を同じくして、道に迷って人の少ない裏路地を徘徊していた千夜は疲れ果てた身体を動かしどうにか表通りに戻ろうとしていた。


「電話は運悪く充電が切れて使えず仕舞い…はぁ。私帰れるかな‥‥あれ、何か騒がしい。もしかしてもう表通りに出れた?」


千夜は笑顔を取り戻すと、急ぎ足で裏路地を突っ切って光が漏れる表通りに飛び出した。


「やったー! これでかえれ」


飛び出したと同時に千夜の首に太く勇ましい腕が絡みついた。最初は酔っ払いか何かかと思った千夜だったがボヤけた視界が鮮明になってくに連れて自分が何に捕まっているのかを知った。


「それ以上こっちに来るなァ! この女の命が惜しいならなぁ!」


「え、何ですかこれ」


千夜は警察に追われていた暴漢に人質として捕まってしまっていた。皮肉にもその暴漢は紫以奈達が恐れていた最悪のシチュエーション。女性に暴行を振って逃走していた暴漢だった。


「すいません。離してくれますか?」


「あぁ!? うるせえよ!」


「がっ‥‥」


抵抗をする間もなく千夜に暴漢の魔法によって電気が流され千夜は意識を手放してしまった。


「よーし! そのまま動くなよ警察官共!」


「あ、おい待て!」


暴漢は千夜を盾にしたまま、丁度近くに止まったタクシーから運転手を引きずり出し、千夜ごとタクシーに乗って逃走した。


「犯人がタクシーを奪って逃走しました! 我々もパトカーですぐに追います!」


「すみません! あの暴漢ってニュースのあの犯人ですか!?」


パトカーで追うとしていた警察を引き止めたのは、千夜を探して街を駆け巡っていた紫以奈と豹助だった。


「あ、あぁそうだが‥‥人質を取って車を奪って逃走してしまったよ‥‥」


「人質?‥‥それって、白髪の女の子でした?」


「そうだが‥‥君、知り合いか何かかい?」


「やっぱり!」


「引き止めてしまって申し訳ありませんにゃ」


「あ、あぁ! 君たちの友達はすぐに連れて帰る! だからそこで待っててくれ!」


警察はそう言うとパトカーに乗ってタクシーを追っていった。


「白鳩! テレビの犯人に千夜ちゃんが持ってかれたにゃ!」


「やっぱりか」


「千夜‥‥やっぱり抵抗せずに」


「いいや。抵抗できなかったんだ。ニュースによれば、犯人は軽い雷魔法を使える見たいんだ。殺すまでは出来なくてもスタンガン代わりにはなるだろうね」


「そうか‥‥千夜ちゃんが動かなかった理由はそれかにゃ」


「犯人はタクシーを使って逃走したって言ってたから‥‥白鳩さん! 今の位置から先回りは出来ますか!?」


「無茶言わないでよ、人の足で車に追いつけるわけないだろ! 身体強化使っても雀の涙程度にしかならない!」


「じゃあこのまま見てろって言うの!?」


紫以奈は通信機に向かって何も出来ない自分に対する怒りを吐き出した。それを黙って見てるしか無かった豹助は拳を握って俯いていた。


「紫以奈。車のナンバー覚えてる?」


「豹ちゃん?」


「車のナンバー。」


「えーと‥‥」


「分かったにゃ。紫以奈は此処で待ってて」


豹助は獣のような目で、前を見ると同時に時間を止めてタクシーを追っていたパトカーを発見するとすかさず白鳩に連絡を入れた。


「白鳩。いまお前のいるビルから東に見える赤い橋に向かっているパトカーの前のタクシーに矢を打てるかにゃ?」


「無理に決まってるだろ!? 弓の射程範囲考えろ!」


「一応、ビルに向かってますけど‥‥」


「なら‥‥!?」


突如、車を追っていた豹助の足が止まった。


「‥‥さっき言ってた赤い橋。歩道がない」


「やられた‥‥‥あれは高速道路だ。もうゲートを通った後だろう」


「クソっ!」


豹助が進もうとした道は、高速道路に入るゲートに阻まれた。


「いっそ車上に乗って‥‥」


「そんな事したら豹ちゃんの身体が持たないよ!」


「最悪時間止めれば‥‥」


「酷使し過ぎて倒れたら、回収なんて出来ないぞ!?」


豹助は再度呼吸を整えて、ヒートアウトしかけている魔力回路に魔力を流した。


「そんなの簡単な事だにゃ。俺がヒートアウトする前に終わらせればいい」


「無理だよ! 豹ちゃんの時間停止の15秒で収まる距離じゃないし!」


「んじゃ行ってくる」


豹助は自分の携帯の電源を落とすと、高く跳躍し近くを通ったトラックの上に飛び乗った。


「豹ちゃんとの連絡が‥‥」


「ったく‥‥てかうちの隊長は何やってんだよ! 隊員の危機なのにどんだけ長い大便やってんだよ!」


白鳩は何も出来ない自分に対するだけでなくこんな状況になっても尚顔を出さない叶夢に憤りの矛先を向けた。


「叶夢! 聞いてるなら返事か報告の一つぐらいしろ!」


「うるせえ、怒鳴るな! やかましい!」


「え? 叶夢隊長?」


なんの前触れもなく叶夢は現れた。あっさりと。


「おい!いつまでトイレしてたんだよ!」


「んなモンしてねえよ! 最初から千夜を追ってたんだよ!」


「はぁ!?」


「説明はあとだ! おいさっさと車止めろ!」


「うるせえ! ガキが俺に指図してんじゃ」


聞き慣れない野太い叫びと共に叶夢の連絡が途絶えた。


「あいつ‥‥今何処に‥‥」


「今の声‥あの犯人の声じゃ‥」


「え、何であいつが!? そういえば微かにエンジン音が聞こえてた気がしてたけど‥‥それじゃ‥‥あいつが今いる場所は‥‥」


「「タクシーの中ぁ!?」」


2人は声を揃えて言った。


「糞ガキ‥‥いつから乗ってた?」


「最初からさ。お前がこのタクシーを拾うのを見越した上でな。さて俺からの最後の忠告だ。600m先にパーキングエリアがある。そこに車を止めろ」


叶夢は運転席にいる暴漢の首元にナイフを突きつけ脅迫のような要求をした。


「へっ‥‥糞ガキが‥‥魔法使える人間を舐めるなよ!」


「なっ! ぐわああああ!」


暴漢はにやりと笑うと叶夢が突きつけていたナイフに静かに触れて電流を流した。叶夢は刀を手放すと後ろの座席に倒れ込んでしまった。


「ったく‥‥しかしこの餓鬼は山にでも捨ててくか。こっちの女は飛んだ拾い物だな‥‥隠れ家で飼ってやるのも悪くは無い」


「なら私も山に捨てられる方がマシですね。貴方のような下等生物に飼われる程人間やめてないので」


「流石にここまで叫べば起きるか‥‥お前にはまだ働いてもらうぜ」


暴漢は叶夢から奪ったナイフを千夜に突きつけた。


「この程度で脅したつもりですか?」


「おっと。このナイフに触れればまた意識を手放すぜ?」


「それで?」


「例えば俺が今、この腕を振り回せば電流が走るナイフが君だけでなくそこでおねんねしてる彼氏にだって被害が行くぜ? こんな感じでな!」


男のナイフを持った腕は車の運転に身体を前に向けているとはいえ、千夜にナイフを届かせるほどの大きさを誇っておりそれを知ったうえで暴漢はナイフを振り回した。

それは肌を掠らなかったとはいえ、千夜の服を切り刻むだけでなく叶夢の頬に傷を付けた。


「ひゃっははは! 割と綺麗な肌だな!」


「お前‥‥叶夢くんに‥‥許さない!」


千夜の強気な視線は殺気が込められた目に変わった。それと同時に車内の温度がどんどん下がっていった。


「な、なんだ?車内が‥‥まさかお前も‥」


「魔法使い‥‥いえ征魔士(ウィザード)と言ったところですか。」


「調子に乗るなよ‥‥この女ぁ!」


暴漢は手に持ったナイフに火を纏わせると千夜に投げ付けた。


「あ」


「千夜ああああああああ!」


直後誰かの叫びとともに千夜は再び意識を奈落に手放してしまった。

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