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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
15/83

第15話 知ッテシマッタ

「そういえば叶夢くんってさ」


「ん?」


とある昼下がり。叶夢達第31小隊は任務も無く、リビングに集まり時間を棒に振っていた。そんな中で白鳩が叶夢に話しかけた。


「何か苦手なものとかない」


「あるが言わねえぞ」


即答だった。叶夢は眉一つ動かさず、テレビを見ながら質問を切り捨てるように言葉を吐いた。


「答えるのがクソ早いにゃ。まぁどうせこれから過ごしてる内に見つかるかもだし、長い目で見ようにゃ」


「おーけー。お前らが視界に入るうちは警戒心MAXで過ごさせていただく」


「用心し過ぎだにゃ、そんなに知られたくないのかにゃ!?」


「もしかしたら、案外身近にあったりします? 叶夢隊長」


紫以奈が叶夢にお茶を運んで来た。しかし叶夢は視点を変えずにお茶を静かに啜っていた。


「そうだな‥‥常に隣にいる点では間違ってないな‥‥『死』は」


「そういう洒落は良いので。せめてヒントだけでも」


「あーあ。こうなると紫以奈は止まんないからにゃ‥‥叶夢さらっと白状しちゃいなよ」


紫以奈が叶夢の予想以上に弱点に食らいつく。


「いやいや、時期にわかるから‥‥てか千夜は?」


「え、千夜なら‥‥和室でジグソーパズルやってますけど」


「道理で来ないわけだ‥‥パズル? なら見に行くか」


部屋にいた他の隊員が、取って付けたような理由に対し白い目を向ける。叶夢が視線にうんざりしながら和室の襖の前に立つ。


「千夜ー、パズル出来たかー?」


「もうちょっとですよ〜。どうせなら今見ます?」


「じゃ、お言葉に甘えて」


叶夢が襖を開けると、千夜が横になり180ピースぐらいのパズルを組み上げていた。

しかし、千夜の手元にあるのは残り数ピースでものの数分で完成するものだった。


「なんだ。もうほとんど出来て‥‥うわああああ!」


「わー! 突然どうしたんですか!?」


叶夢が視線をパズルの絵に向けると、突然顔を青くして和室を飛び出した。息を荒くしながら襖に寄りかかっていると、絶叫につられて他の隊員も集まってきた。


「どうしたんだにゃ叶夢くん。千夜ちゃんの料理を食べた直後みたいな顔して」


「さらっと失礼な事言ってません? なんか突然部屋から飛び出して」


「あぁ、大丈夫だ‥‥あと千夜の料理くったらもっと顔色悪くなるからな」


「千夜ちゃん、部屋で何の絵のパズルを作ってたんだにゃ?」


「えーと」


千夜は豹助を部屋に入れて、パズルの絵を見せた。


「これは‥‥水玉模様?」


千夜の完成したパズルには、白い下地に青色の丸が不規則に散りばめられた絵があった。


「誰がどう見てもビビる要素は無いと思うけどにゃ」


「ふぅ、これだけの芸達者なら俺役者になれるかもな‥‥」


「?‥‥フェイク?」


「イエスフェイク」


叶夢は服のホコリを払いながら、ゆっくり立ち上がる。青ざめていた顔も、若干ではあるが元の顔色を取り戻しつつあった。


「なーんだ」


「でも叶夢隊長。今の叫びは本気に聞こえたんですけど‥‥」


「本気でやんなきゃ騙されないと思ったからな。さて騙したお詫びに何か買ってくるよ」


叶夢は掛けて置いたフードを着て、鼻歌を歌いながら玄関を出ていった。取り残された隊員はソファに集まり話を始めた。


「‥‥ガチだったよね?」


「あぁ、あれは本気でビビってたにゃ」


「でもあの和室に叶夢隊長が怯える要素あった?」


「唯一、私の趣味で飾ってある般若面があるかと‥‥」


「流石、趣味が傾いてる事に定評のある千夜ちゃんは違うにゃ」


「もしかして馬鹿にされてます?」


「ひとまず和室の中を探して叶夢くんがビビる要素を探そう」


四人は和室に入るなり、周りをくまなく見渡した。和室には千夜の趣味で集められた目の閉じた晒し首の掛け軸であったり、能面や般若面があった。


「なんか和室ってだんだん千夜ちゃんの趣味の部屋になってないかにゃ?」


「実際、女子部屋よりも居心地超いいです」


「叶夢隊長が部屋入った時と部屋の状況は一緒なの?」


「はい。全く変わってません」


「実は本当にあのジグソーパズルにビビってたんじゃ無いかにゃ? よく見てみると怖い絵が浮かんでくるみたいな‥‥」


豹助の言葉につられ、四人はジグソーパズルの絵を食い入るように見つめ始めた。


〜1分経過〜


「何も見えないにゃ‥‥」


「悪い。目が痛くなってきたから一抜け。」


白鳩 脱落


〜2分経過〜


「なんか丸が動いてません?」


「千夜も無理しなくていいよ。私と豹ちゃんが続行するから」


「では‥‥お願いします‥‥あぁ、目が」


千夜 脱落


〜5分経過〜


「駄目だにゃ! これ以上は目が持たないにゃ!」


「豹ちゃん‥‥私もゲシュタルト崩壊起こしてきたよ‥‥」


検証終了


結局、ジグソーパズルを見ても出てくるのは青丸が動く幻覚であったり、ドライアイなどの目に悪い要素だけだった。


「OK! これは無いにゃ!」


「やはり般若面被って出迎えするしかないですね」


「でも、叶夢隊長がそれで怯えるかな‥‥」


「試しに誰か被らせてみたら?」


「よし、こういう時はジャンケンだ」


白鳩によって始まったジャンケンを制したのは、三人の出したパーをチョキで制した紫以奈だった。


「‥‥私で検証になるかな」


「大丈夫です。実はこういう内気な子ほど怖いって事もあるかもしれませんし」


「一応、オプションで包丁も持たせよう」


「‥‥」


紫以奈に般若面に合うデコレーションをしている二人を、青ざめた顔で見る豹助がいた。数分が立ち、それは完成してしまった。


「‥‥」


「「おぉ!」」


その紫以奈の姿は般若面を付けて、包丁を逆手に持っていた。心無しか雰囲気も変わっていた気がした二人はあまりの変わりように圧巻の声を漏らした。


「凄いです! かなり迫力があります!」


「あはは‥‥喜んでいいのかな‥」


「ほら豹助!お前も見てみろって!」


「…俺は遠慮するにゃ」


「大丈夫? 豹ちゃん?」


紫以奈が豹助の顔を覗き込む。勿論、般若面を付けたまま。


「ひっ!」


「?」


豹助は感じ取っていた。紫以奈から出る黒いオーラを。そしてそれは般若面を付けた事で更に恐怖を増すこととなった。魔族を相手にしても一度も恐怖を感じたことのない豹助は、やはりこの世で一番恐ろしいのは人間だと言うのを再認識した。


「‥‥ちょ、ちょっと俺は部屋で休んでるにゃ」


「大丈夫? 私ついていこうか?」


「だ、大丈夫! 一人で行けるからにゃ!」


「本当に?」


「うん! こんな事で紫以奈の助けを借りるわけにもいかないからにゃ!」


「……」


紫以奈が下を向いたまま黙り込む。


「し…紫以奈?」


「どうして? 私がせっかくついて行くって言っているのに‥‥」


「ちょっと待って紫以奈! 変なスイッチ入ってるにゃ!」


「こうなったら!」


紫以奈が豹助を畳に押し倒し、豹助に馬乗りになる。


「四肢もズタズタに引き裂いて‥‥私無しじゃ動けない体にしてあげるから!」


「ちょっと紫以奈! 戻ってくるにゃ! おりゃ!」


豹助は紫以奈に付けられた般若面を投げた。


「あぁ! 私の般若面が!」


「紫以奈! 戻ったかにゃ!?」


「もう‥‥冗談だってば」


「矢岬ちゃんってば、割と演技上手だね」


「ありがとうございます白鳩さん! 自分でも不思議と何かに取り憑かれたと思いましたよ」


豹助は、顔に流れた脂汗を上着の袖で拭いながらゆっくりと立ち上がった。紫以奈の顔からはすっかり毒気が抜けていた。


「豹助さん的にはどうだったんですか? あの演技」


「少なくとも感じ取った殺気はモノホンだったにゃ‥‥」


千夜の手を借りながら体制を戻すと、周りに視界を定めるとある異変に気づく。


「あれ? なんか部屋暗くないかにゃ?」


「どうしたんですかいきなり? まぁ大方、外が曇ったかそれぐらいの理由でしょうけど」


「だ、だよにゃ‥‥あんな演技見せられたあとだから少し心が落ち着かなかっただけだにゃ。さーて珈琲でも飲んでゆっくりするかにゃ」


豹助は部屋を出ようと和室の襖に手を掛けた。


「‥‥開かないんだけど」


「はぁ? 豹ちゃん何言ってるの? 変な冗談の二番煎じはもう笑いすら起きませんよ‥‥‥開かないんですが」


「え? 本気?」


白鳩が身体強化をかけながら、襖を開けようとしてもびくともしない。まるで向こう側から押さえつけられているかように。


「ほんとに開かない!」


「建て付けが悪いんでしょうか? それともこの部屋自体が呪われているとか」


「おい! 仮にここが前お墓だったとしても、何処の世界に約13mの高さに墓を作るやつがいるんだにゃ!」


「豹ちゃん話のベクトルが変な方向に行ってる!」


「いいえ豹助さん。違いますよ。多分これは役13mの地点にお墓があったのではなく、全長約13mのお墓だった可能性も‥‥」


「千夜まで、変に豹ちゃんに乗らなくていいの!」


「というか君たちお墓というかそういうのなしでどうして開かないか心当たり無いの!?」


「「「わかりません」」」


「息ピッタリですねうちの隊員。じゃなくて!」


「おおーナイスノリツッコミだにゃ」


「今のタイミングで褒められても嬉しくない! 村雨ちゃんと僕で右の襖引くから、矢岬ちゃんと豹助で左お願い!せーの!」


二十分後。ドアに変わりなく、四人は疲れ倒れこんでいた。


「どんだけ固いんだよこれ! いっそ強行突破する!?」


「ぜぇぜぇ‥‥どっかに鍵がある落ちとかじゃないかにゃ?」


「千夜、なにか思い出せない?」


「‥‥やはり約13mのお墓が」


「駄目だにゃ‥‥みんな疲労で頭が回ってないにゃ」


「待って‥‥玄関のドアが開いた」


部屋から出れずに絶望していた四人に希望の光明がさす。壁の向こう、玄関のドアが開く音がした。その後、足音がリビングに向かっている。


「ただいまー‥‥アイツらどこいったんだ?」


「叶夢くん! 叶夢くん!」


「うお!‥‥白鳩か」


叶夢が部屋に帰ってきた。自分の名前を呼ぶ絶叫の方向を見ると、多くの手で叩かれ、鈍い音を鳴らす閉ざされた襖があった。


「何やってんだお前ら。開かずの間とでも言いたいのか?」


「叶夢くん、そこからどうにか開けられない!?」


「そんなこと言ったって‥‥あれ、ほんとに開かない」


棒読みで呟きながらも手を尽くすが、襖は閉じられたままだった。叶夢は少し考え込み、何かを察した


「まさか」


「叶夢くん? なんか覚えでもあるの?」


「千夜、一応掛け軸の方を見てみろ」


「は、はい?‥‥あ」


千夜が腑抜けた声を漏らした。三人も掛け軸を見てみたが、晒し首にされ目を閉じた生首が書かれているだけで、特におかしい点は無かった。


「なんかおかしい点でもあるの?」


「‥‥皆さん。怒りませんか?」


「「「時と場合による」」」


「は、はい。では‥‥失礼します」


千夜は掛け軸に手を伸ばすと、首の絵の(まぶた)の部分をスライドさせ、閉じた目を開かせた。

その目が開くと同時に襖の方向からガチャという音が鳴った。


「‥‥」


「あはは‥‥」


「あはは。じゃねえよ、だからそんな鍵忘れるつったろ。ほらお前ら、出ろ」


「う、うん」


三人は無表情で和室を出る。こんな事で出れたという虚しさと、あの鍵の気持ち悪さに別れを告げた。数分が立ち、彼らが落ち着くと、叶夢の買ってきたケーキを食べながら千夜への説教タイムが始まり、あの似非(えせ)怪奇現象の原因を問いただしていた。


「つまりあの和室は、晒し首の掛け軸の目で鍵がかけられるのね」


「そうです。目が開いている時はオープン。目が閉じてる時はクローズしてます」


「何でそんな馬鹿馬鹿しいオートロック買ったんだにゃ‥‥」


「い、いや~。ただのオートロックじゃつまらないと思ったので」


「逆になんで村雨ちゃんはそこまでして、何で和室に篭ろうなんて思ったんだよ‥‥」


「普段の作業場はあそこ以外有り得ないので」


千夜は職人のような言葉を、ドヤ顔で開き直って言い放った。隊員が無言で凍りつく。もはや全員呆れて怒る気力も湧かなくなっていた。


「な、何ですか。この空気」


「てい」


「ああー! 私のイチゴ! 最後までとっておいたのに!」


その沈黙を破った千夜本人の不意をつき、紫以奈は千夜のショートケーキからイチゴを持っておいたフォークで奪った。


「まぁ、このイチゴで今回は勘弁してあげるから‥‥」


「ううー‥‥イチゴ。ならいっそ叶夢くんのを! ‥‥あれ?」


千夜は持っていたフォークで叶夢のケーキのイチゴを狙うが、叶夢のケーキからは既に苺が消えていた。


「もう食べたんですか! つまんない人ですね!」


「仕方ないだろ。俺イチゴ嫌いだし」


「じゃあ何でショートケーキにしたんですか!」


「それしか売ってなかったんだよ! というか黙って食べなさい!」


「うー‥‥」


千夜は渋々ケーキを頬張る。イチゴがいなくなり生クリームだけとなったショートケーキを頬張り始めた。


「にしても以外だね。叶夢くんがイチゴ苦手だなんて。でも嫌いだったらわざわざ最初に食べなくても、誰かにあげれば良くない?」


「別に味は嫌いじゃない。見た目が無理なだけだ。あの種が果実にめり込んでる見た目が」


「まぁ確かに。叶夢隊長の言う通り、イチゴってよくよく思ってみると普通の果物よりも見た目が独特ですからね」


「あぁ‥‥思い出したくもない」


そんな会話に花を咲かせている中、たった一人、豹助は頭の疑問の点を繋げていた。結局、叶夢があの和室でビビっていたものは何だったのか。


(叶夢くんは水玉模様の絵に驚いた‥‥あれは絶対ふりじゃなかったにゃ‥‥水玉‥‥イチゴの見た目‥‥)


「あ!」


「うぉ!‥‥どうしたいきなり大きな声出して。」


豹助の中である結論が生まれる。豹助はおもむろに携帯を取り出すと、ネットの画像検索を開き、あるワードを入力した。


「ねえ叶夢くん。『蓮コラ』って知ってる?」


「はす‥‥こら?何だそれ」


「今、画像検索したから、見てくれにゃ」


「え、あぁ。んじゃ失礼して‥‥‥!」


叶夢は豹助の画面を見ると、すぐさま豹助の携帯を豹助に投げ返した。


「おい」


「やっぱりにゃ、叶夢。お前は集合体恐怖症だったにゃ」


「集合体恐怖症? ですか?」


紫以奈が復唱しながら、自分の携帯で調べる。


「つまり叶夢くんはつぶつぶが怖いんですか?」


「YES‥‥」


回復していた叶夢の顔色は昼の状態に戻される。


「豹助さん。その蓮コラの画面は消しときましょう」


「えー‥‥もうちょっと見せようにゃ‥‥」


「豹助さん!」


千夜がいつもより大きめの声を出す。息子を怒鳴る母親のような雰囲気を出しながら。

それに驚愕した豹助は溜息を吐くと、スマホの画面を閉じた。

それを見届けた千夜は笑顔を戻した。


「さぁ、ケーキ食べましょうか」


「そ、そうだな‥‥(あれ、あっさり収まった‥‥何でこいつが庇ったんだ?‥‥は!まさかこの子‥‥俺に惚れ‥‥無いな)‥‥はぁ」


「どうしたんですかそのため息?」


「い、いや。さっきのを見たら食べる気が無くなっちまっただけだ」


「じゃあ私が頂きま」


「まぁ食べる気がないだけであって、流石に手をつけた本人は完食しなきゃ行けないんだけどな」


「あーー!」


千夜から伸びたフォークがケーキに触れる前に、叶夢は残ったケーキを平らげた。


「ごちそうさまでした」


「ぶーー‥‥」


食器を下げる叶夢を頬を膨らませた千夜が睨みつける。


「そういえば千夜。さっきは何でオートロックなんて掛けたんだにゃ?」


「え? 私じゃないですよ。紫以奈さんと白鳩さんじゃないですか?」


「知ってたらさっさと開けてるよ‥‥白鳩さんは?」


「右に同じだよ矢岬ちゃん。俺も開けてる。となると叶夢くんしか無いけど」


「自慢じゃないがこの中じゃ、俺が一番和室にいなかったぞ」


「でも叶夢隊長、結構部屋をドタバタしてたからその衝撃で閉じたんじゃないですか?」


「それは無い。あのオートロックは割と力入れるやつだから、正直衝撃で閉まるやつじゃない」


「「「「「‥‥‥」」」」」


五人の思考が停止する。五人の意思は議論と探究心を足止めした。そうでもしなければ自分達が何か恐ろしい真実に触れてしまうのではないかという恐怖心が頭の中を駆け巡ったからだ。


「千夜」


「は、はい」


「あれ処分な。今度近所の神社行ってお焚き上げしてもらう」


「了解しました‥‥」


千夜は渋々それを承諾した。結局、あの掛け軸のオートロックは誰が掛けたのか、それを知る者も知ろうとする者も誰一人としていなかった。

作中に出てきた(はす)コラですが、昔、いたずら半分で検索してトラウマになったので気になった人は自己責任で。


というかあれは集合体恐怖症じゃなくても、本能的に無理だと思いますね。

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