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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
14/83

第14話 任務を終え

「はいまた私の勝ちです!」


「あぁー! また負けたにゃ!」


「豹ちゃん昔からババ抜き弱いもんね‥‥」


「すぐ表情に出てたからね」


激線を終えた第31小隊は帰りの新幹線の中で、トランプゲームに勤しんでいた。約一名。窓際の叶夢を除いて。


「‥‥叶夢、いつまで読書してるつもりにゃ!? いい加減見てるこっちが申し訳無くなってくるにゃ!」


「うるさいな‥‥もう上げるテンションが無いんだよ‥‥それに今の俺がやったら即上がりになるから‥‥つまらんし」


「なら大富豪とかならどう?」


「意地でもトランプから離れないつもりか!?」


「まぁ、今の疲れてる叶夢ならまともな判断はしないと思うけどにゃ‥‥」


「ったく‥‥普通にババ抜きでいいよ」


叶夢は読んでいた小説に栞を挟み、本を閉じると窓際に寄らせた自分の身体を正面に向かせた。


「あ、カードは俺がきる」


「ダメです。イカサマしかねないので」


「千夜さん? 俺なんかしましたっけ?」


「別に?」


叶夢は渋々笑みを向ける千夜にトランプを渡した。千夜は無言でシャッフルをし、カードを配り始めた。


「ただやるだけって言うのもつまんないですし‥‥どうでしょう。最期にジョーカーを持っていた人は罰ゲームとか」


「例えば?」


「叶夢隊長がギャフンと言うやつがいいですよね」


「紫以奈ってば割と怖いこと言うにゃ‥‥」


順番としては、席順に紫以奈→千夜→豹助→白鳩→叶夢で始まった。


「爪を剥ぐとかなら俺でも悶絶するぞ?」


「拷問は論外だよ」


「「え!? ダメなの!?」」


「村雨ちゃんまで何言ってるの!? もしかしてやらせるつもりだったの!?」


五人は何順か回しながら罰ゲームを何にするか話しながら進めていた。そしてみなカードが四枚以下になった時に千夜が手を上げる


「それじゃ、家に帰った時に私の手料理を食べるのはどうでしょうか?」


その瞬間、叶夢を除く全員の手が止まった。


「やっぱり罰ゲームは無しにしよう」


「突然どうしたお前ら。爪を剥ぐよりも酷いのか」


「そんなに酷くありませんよ!?」


「どうだろうね‥‥あ、私あがりで」


紫以奈は千夜から受け取ったハートの10とスペードの10を捨てて手札をゼロにした。


「悪いね叶夢くん‥‥君にはここで落ちてもらう!」


「待て待て! せめて千夜の料理の危険性だけを教えてから罰ゲームの是非を問わせろ!」


白鳩が叶夢からカードを引きダイヤとハートの2を捨て、自分の残りの手札を1枚にして勝利を確定させた。


「強いて言うなら人間の食べるではないとだけ言っておく‥‥僕の毒魔法に並ぶレベルでね」


「千夜‥‥お前いくら氷魔法の使い手だからって背筋を凍らせるもの作るのはダメだろ‥」


「昔から料理だけはどうしても苦手で‥‥てへっ」


「何をどう間違えればああなるんだにゃ‥‥あぁ、俺もあがりにゃ」


叶夢が千夜のカードを引き、手札が三枚になる。千夜の手札も四枚になり、豹助がスペードとハートのクイーンを捨ててあがると、安堵の息を漏らした。その次の白鳩も叶夢にカードを渡し、あがりとなった。


「容赦はしませんよ!」


「はぁ‥‥」


それからやり取りを続け、千夜の手札はジョーカーとハートの9。叶夢の手札はスペードの9となり、叶夢が千夜のカードを引く番になった。


(ババは右か‥‥このまま左の9を引けば俺の勝ちだが)


叶夢が見た千夜の顔は涙を浮かべながらカードと睨めっこをしている状態だった。叶夢と目を合わせれば思考が読まれてしまうと思い、その行動をとったのだろうが、予めカードの移動した位置を覚えていた叶夢に対しては無駄な行動に過ぎなかった。


(女を泣かせてまで勝利をもぎ取るが‥‥女の涙に負けて死を選ぶか‥‥普通に考えて前者じゃね? と考えてしまう俺はなんて外道なんだろう)


叶夢は左に手を伸ばしながら頭の中で葛藤していた。


(仕方ない‥‥今回は見逃してやるか)


左に伸びていた手をずらし右のカードを取った。叶夢の心の中の葛藤を知らない千夜は残ったカードを見ると、ほっとため息をついた。


(さて‥‥問題は俺の9をこいつが引けるかどうかだ)


叶夢は自分のカードから目を千夜に向ける。それに対して千夜はこれまでにない殺気で叶夢を睨みつけていた。


「おい待て。千夜の料理ってどれ位危険なんだよ。対した事ないなら普段抜けてるこいつがこんなに殺意漏らす訳が無いだろ」


「普段からアホみたいに言わないでください!」


「えーと‥‥千夜の料理を食べたらしばらく味覚が無くなる程度ですかね」


「紫以奈が言うと大袈裟でも本気で思えてしまう不思議だにゃ」


「いや間違ってないよ。現に僕は村雨ちゃんの手料理食べたせいで、幻覚が見えたままこの任務に挑んだから」


「食べるのに命の危険を(ともな)うって‥‥相当だぞ」


「引きます!」


「は、はい!」


千夜が殺意を解かず、叶夢のカードに手を伸ばした。その姿に流石の叶夢も不意をつかれ、集中力が切れてしまった。


「左。ジョーカーですね」


「入れ替えるの忘れてた」


千夜が右のカードを取り9を二つ揃えてそのカードを捨てて上がりになり、叶夢の手元には失意のままジョーカーが残された。


「あぁ‥‥俺死ぬのか‥‥せめてこの夜行列車だけは有意義な時間を」


「いや、今日作ってきたお弁当があるのでそちらを食べて下さい」


「わーい。女子から貰うお弁当でこんなに嬉しくないの初めてだー‥‥嘘だろおい」


千夜は自分のバッグの中から大きめのタッパーを取り出すと、その蓋を開けておにぎりの詰まった中身を顕にした。


「見た目は普通だな‥‥見た目は」


「油断しない方がいいにゃ…おそらく具になにか潜んでるにゃ」


「逆にどうやったらおにぎりを劇物に変えれるんだよ」


叶夢はその中から一つおにぎりを取り、恐る恐る口に近づけた。


「ものすごく怖いんだけども。何。この人類で最初にキノコを食う感覚。んじゃいただきます」


叶夢は勢いに任せて、おにぎりにかぶりついた。できるだけ味を感じないように無心でおにぎりを完食した。瞬間、名状しがたい何かが叶夢の口内を駆け巡った。それと同時に胃の中から汚物が上がってくる感覚。正常だった呼吸すらまともに出来ない状態にまで陥った。


「叶夢くんの顔色が‥‥青色に」


「これぞ紅い死神あらため、青い死顔(しにがお)ってやつだにゃ」


「クワシイ カンソウ ハ マトモニ モドッテカラ イウカラ イマハ コノママ ホウチ シテクレ。ガクッ」


「死んだにゃ」


叶夢はしっかり口の中のものを飲み込むと、白目を向きながら気を失った。


「まさかここまでとは‥‥今日のは自信作だったんですけど」


「仕留める的な意味でかにゃ?」


「ちょっと豹ちゃん!」


「いいんです‥‥料理下手な私が悪いんですし」


千夜は自分の作ったおにぎりを見ながら、枯れそうな声で呟いた。それを見て紫以奈は目の色を変えた。


「豹ちゃん」


「何かにゃ。しい‥‥な‥」


紫以奈と目を合わせた豹助は石のように固まってしまった。紫以奈の目は神具メデューサを使って石化の魔眼へと変わっていた。


「た、助けて白鳩‥‥」


「あ、電話だ。桐原からか。ごめん席外す」


白鳩は、着信画面を見えるように開くとそのまま車両を後にしてしまった。


「裏切り者ー! はっ…」


「豹ちゃん。私が女子との上手な話し方を教えてあげるからちょっと席外そうね」


「嘘だろ紫以奈! だって左手に村雨印のおにぎり持ってるにゃじゃねえか! おにぎりというか鬼切りを持って言ってるにゃ! 助けてー! 誰かー!」


紫以奈は殺意の篭った笑顔を豹助に向けたまま、席を立ち豹助を引きずりながら車両から出ていってしまった。


「結局、私一人になっちゃいましたね‥‥叶夢くんも起きそうにないですし‥はぁ」


「騒がしいと思って来てみれば‥‥何で叶夢は昇天してるんだ?」


「あ、出雲(いずも)隊長」


別の席から抜けた面子と入れ違うように朔夜が現れた。一部始終を聞いていた朔夜は呆れの目を叶夢に向けると通路を挟んで向かい側の席に座った。


「席そこだったんですね。どうして今までいなかったんですか?」


「今日の任務の件で支部長に報告の電話入れてたからトイレにいた」


「他の小隊のメンバーは?」


「別の席。報告書作るから資料広げるのにあいつらには別の席とって貰った」


「帰ってからでも良かったんじゃないですか?」


「帰宅途中の外眺めてる時間が勿体なくて、いつもこうしてる」


朔夜は端末の電源を入れてレポートのページを開くと、缶コーヒーに口を付けながら作業を始めた。


「あの、出雲隊長」


「朔夜でいいよ。で、どうした?」


「朔夜隊長って叶夢くんの昔のチームメイトだったんですよね?」


「そうだが」


「昔の叶夢くんってどんな人だったんですか?」


「んー、そうだなぁ‥‥ガキの頃から一緒だったが、まぁ、今とあんまり変わってないよ」


朔夜は作業を進めながらもその口は叶夢の昔を語り出していた。


「変わってないんですか?」


「あぁ、全然。ゼルリッチ・ファミリーにいた時から何にもな。こいつだけ時間が止まってるみたいに」


「‥‥あの」


「変に緊張するのもわかるが、別に隠す事も無いから気軽に何でも聞いてくれ」


「叶夢くんが皆さんを裏切る原因になったメンバーについて何ですけど」


その言葉に朔夜は動かしていた手を止めて崩していた表情を突然固めると一呼吸置いて、語り出した。


「ソフィア・エルグランデ。ゼルリッチの魔子の6人目のメンバーにして、俺達の姉みたいな存在だった」


「年上だったんですか?」


「いや同い年。性格がってこと」


「なるほど」


「今は亡きエルグランデ王国っていう王国の第一王女だったんだが‥‥叶夢が連れ出してゼルリッチ・ファミリーに入ってきたんだ」


「エルグランデ王国‥‥あぁ、数年前に王族の血が途絶えたとかで滅びたあそこですか?」


「そ。魔法に関しての技術が群を抜いていた場所でもある」


「というか叶夢くんが連れてきたんですか!? 第一王女様を!?」


千夜が驚きの顔を見せると、その顔を見て朔夜は思わず吹き出してしまった。


「あぁ、蛇足嫌いなこいつがわざわざ任務を投げて連れてきたんだ。そりゃ俺らもそのときは驚いたよ」


「よっぽど叶夢さんにとって大切な人何ですね‥‥」


「でなきゃ裏切ってまで助けに行かないだろう‥‥」


二人は今の叶夢に視点を変えると、その哀れな姿に昔との違いを見た。


「ゼルリッチの魔子は俺と叶夢を含めて五人いる。いずれにせよ君達は会うことになるだろう。ある一人は俺以上に殺意持ってるからな」


「やっぱり叶夢くんのやった事が許せないんですよね‥‥」


「そりゃな‥‥でも今の叶夢なら許しを乞う強さを持っているから大丈夫だろ。少なくとも俺はそう思う」


「でも‥‥」


「‥怖いか? 叶夢が裏切るかもしれないって」


「お見通しなんですね‥‥」


千夜は手を固く握り沈んだ表情で朔夜に問い詰めた。会って間もないということも重なり裏切ったという事実がある以上、千夜は叶夢を信じきる事ができなくなっていた。

朔夜はそんな千夜を見て柔らかい声で答えを話した。


「少なくとも今は裏切らない」


「本当にそう言いきれますか? この任務で叶夢くんは判断が早い人だって言うのはわかりました。だからこそ怖いんです。もし、その状況になって私達を捨ててしまうんじゃないかと思うと」


「不安だろうな、誰だってそうだ。裏切った前科がある新しい仲間なんてそうそう信じられる物じゃない」


「‥‥」


「でも俺にも言いきれる理由がある。逆に言えば叶夢はそれだけ仲間思いな人間だって事を証明している。ただちょっと不器用なだけだ。それでもこいつはこいつなりに取捨選択してるつもりなんだろうな」


「取捨選択‥‥私達はどっちの立場にいるんでしょう‥‥」


「取る立場に決まってるだろ‥‥おえ」


「叶夢くん! いつから!?」


千夜のおにぎりを食べ気を失っていた叶夢が元の顔を取り戻していた。口直しに水を飲み、一息つくと二人を見た。


「あのな千夜。俺を三国志演義の呂布みたいな扱いしてるところ悪いが」


「お前が呂布は無い。全国の三国志ファンに焼き土下座で謝れ」


「朔夜は黙ってろ。あくまで例えだ」


叶夢は水の入ったペットボトルを置くと、千夜に視点を変えた。


「俺は取捨選択が出来るんじゃない。その逆の優柔不断なんだよ。だからどっちも選ぼうとする。捨てたものまで拾い上げて、全部落ちていっちまうのが怖いんだ。だから間違った判断に走ってしまうことだってある‥‥無理に選んだ結果にそうなるのを何度も学んだ癖にな」


「ほんとに不器用なんですね‥‥」


「でもこの小隊は絶対捨てない。どんなものを天秤(てんびん)にかけられても俺は絶対に手放さないって決めてる。こんなに居心地が良い場所も久しぶりだしな」


「ふふっ‥‥叶夢くんらしい言葉ですね」


「何だよそれ」


千夜は叶夢の言葉で笑顔と安心を取り戻した。その二人の姿を見て朔夜も自然と笑みをこぼした。


(なんか懐かしいな‥‥もうあいつはいないはずなのに。なんでソフィアの面影を千夜に重ねちまうんだろう‥‥)


『まもなく東京。東京。落し物お忘れ物の無いようにご注意下さい』


車内にアナウンスが流れると同時に他のメンバーが帰ってきた。


「お、叶夢くんが生き返ってる! 大丈夫?」


「大丈夫だ、あと、白鳩そろそろ荷物まとめておいた方がいいぜ?」


「そうだね。帰ったらしばらく任務無いし‥‥何かする?」


「ひとまずこいつの料理下手を何とかするぞ」


「返す言葉もございませんです‥‥」


叶夢が自分のバッグに荷物をまとめ終わった頃、意識を失った豹助を引き摺って紫以奈が帰ってきた。


「すいません! 予想以上に教育的指導に時間がかかってしまって‥‥」


「教育的?‥‥まぁいいや、豹助起きろ。このまま寝てると道端に捨ててくぞ」


「無駄ですよ叶夢隊長。恐らく今夜中は寝てると思います。無理矢理村雨印のおにぎりを食べさせたので」


「そういうことか‥‥豹助の荷物は紫以奈が持っていてくれ。白鳩、荷物持つから豹助頼んだ」


「はいはい了解」


列車が停止し、ドアが開くと彼らは戦果を持って人混みの中に消えていった。

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