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紅い死神の征魔戦争  作者: 雨色 A音
13/83

第13話 走る雷槍 穿つ黒迅

事情が畳み掛け、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません!ではお楽しみください!


追記 出雲 朔夜くんのプロフィールを後書きに乗せておきます。気になった方はぜひ目を通してみてください。

「おい! どうした! 千夜! 千夜!」


砂嵐がなり続ける通信機に叶夢は叫び続けた。


「やっぱりそうなるか」


「どういうことだ朔夜。やっぱりって」


朔夜が自分のバッグから端末を取り出すと、B村の調査記録を取り出した。


「A村の村人の死体の損傷はどうなっていた?」


「死後数週間‥‥それがどうした」


「こっちも同じだ。簡単に言いたいことを言うならこの村とA村は同じタイミングで全滅している」


朔夜はページを変えて、推測をまとめたページを見せた。


「鉄塔の位置からなら同時刻で滅ぼすことも可能だ。封印用の魔力の流し方を知ってる人間はいるのか?」


叶夢は静かに目を逸らした。

一度発生した魔族の巣は、四人の征魔士が同時に魔力を巣に向けて流し込めば完全に封印できる。そもそも自分の隊員に封印式が使えるか、確認すらしていた無かった叶夢に言い返す言葉は無かった。


「いないのか?」


「わからない‥‥てか封印式を知らなかったらどうすんの?」


朔夜は顔に手を当てて、呆れのため息を吐き出した。


「援軍が来るまで待つしかない。第一が間に合ってれば話は別だが‥‥最悪俺達がやるしかないな」


「俺達? 俺以外の誰かとの間違いだろ?」


「そういえば三回使ったんだよな。ホント使えないなお前」


「降ろすぞ」


叶夢はそう言うと、背中に張り付いていた朔夜を振り下ろし登山道を走り始めた。

振り下ろされた朔夜はさっきの雨で出来た水溜りに勢い良く落下した。


「痛い! お前なぁ!」


「いやちゃんと言ったわ」


朔夜は泥まみれになりながらも水溜りから立ち上がった。


「全く‥‥まぁ第一小隊のあいつらには、最短で行けるルートを教えた。間に合いはするだろう」


「流石第一小隊!‥‥で、巣から出た魔族たちはどうするんだ?」


「え?それ31の役割じゃないのか?」


「うちの小隊はこれがまともな初任務だから‥‥多分数分しか食い止められない‥‥と思う」


「おい少しは仲間を信じ‥‥切れそうに無いな」


二人は互いの青ざめていく顔を見合わせた。


「とにかく向かうぞ! 何かあったら俺が神座さんに何されるかわからん!」


「魔法使えない俺らがなんの役に立つんだ?」


「勝手に俺を混ぜるな。俺はもう魔法は使えるぞ」


朔夜は右手に電流を走らせながら言った。叶夢はそれを恨めしい目で見ていた。


「ただし、完全に回復した訳じゃない。お陰様で神具が使えないし、高火力の魔法もダメだ」


「それがなんの問題になるんだ? 別に雷を当てるだけなら」


「俺の魔力回路から放たれる落雷はあくまで魔法で再現した模倣品だ。それが故に威力も本物の数分の一」


「なるほど‥‥武御雷(タケミカヅチ)はその雷を空から降らす能力って訳か。確かにそれならオリジナルと相違ない威力になるってもんだな」


「あぁ、察しが良くて助かるよ。さて、問題はそこからだ。今、魔族を一掃するため雷球(プラズマボール)という魔法を使うことになるんだが‥‥」


プラズマボールは雷魔法の一つで、雲の中に投げ込むことで1発だけ自然の雷を放てる魔法。

しかし落雷地点までの操作はできない。


「確かに神具無しで雷球だけだと、相手にピンポイントで魔法で雷当てようとすれば何か中継する物が必要になるからな‥‥」


朔夜と叶夢は鉄塔広場を目前に控えたうえで考えながら登山道を走っていた。しばらくすると朔夜が目を見開き、叶夢に首を傾ける。


「叶夢、身体強化使えるか?」


「え?あぁ、それぐらいなら使えるが‥‥馬鹿力は出せないぞ?」


「充分だ。今から作戦を伝える。あの狭い敷地内で確実に落雷を当てる方法をな」


朔夜は叶夢に作戦を伝えると、叶夢は了承し2人は鉄塔広場に出た。


「あ! 叶夢くん! その人は?」


「第一小隊隊長の血色悪い丸」


「変なあだ名を付けるな。出雲(いずも) 朔夜(さくや)だ。詳しい紹介は後でする。第1小隊!並びに第31小隊に告ぐ。魔族を鉄塔の周りに集中させろ!」


「はーい! 質問!」


ある青年が声をあげた。翡翠(ひすい)色の目を持つくせっ毛の青年。桐原(きりはら) 銃造(じゅうぞう)だ。


「おびき寄せる役はどうすんの?悪いけど機動性のある人達は殆どスタミナ切れで囮には使えなさそうだけど」


叶夢(ばか)が丁度いいだろ。機動性もあるし、少なくとも俺のお墨付きだ」


「人の名前のルビを馬鹿に変えてんのバレてんだからな。まぁやるけどさ!」


叶夢は刀を抜くと、鉄塔を登り始めた。それにつられて魔族達は叶夢を追い始めた。


「ほーらほら! こっちだよ!」


叶夢は戦闘後とは思えない身のこなしで鉄塔を登り始めた。

朔夜は叶夢を見守りながら、左に小さな雷球を作り出した。


「仲悪いんじゃなかったの? 朔夜ったら俺らと別れる前は叶夢くんを殺すって言ってたのに‥‥」


銃造は半笑いで朔夜の後ろから問いかけた。朔夜は黒雲を見つめながら、笑いながら答えた。


「ついさっきまでだ。今は俺の復讐よりも、叶夢をこき使う方がいい判断だって思っただけだ。それにこの作戦はあいつの命を配慮せずやってる」


「どういう事ですか?」


朔夜が呼ばれた声に反応し右を向くと、銀色の髪の少女。村雨 千夜が息を切らしながら朔夜の前に現れた。


「出雲 朔夜だ。血色悪い丸で呼ばなかっただけまともだと思うが‥‥え、君は?」


朔夜は呆気に取られた顔で千夜を見た。


「村雨 千夜です…けど。なんでそんなに驚いた顔でいるんですか?」


「え? あぁ、すまない。んでどうした」


「叶夢くんの命を配慮を作戦に入れてないってどういう事ですか?」


「言葉の通りだ」


朔夜は千夜の質問に上を見ながら、千夜に目を合わせず答えた。その冷たい目に対して千夜の中では怒りがこみ上げていた。


「何で叶夢くんの命をそんなに粗末にできるんですか!? 確かに彼は性格はあれですが…」


「まぁまぁ落ち着いて」


銃造が間に分け入り千夜を落ち着かせようとしたが、それを無視する形で朔夜は雷の玉を黒雲の中に放り込んだ。


「言葉足らずだったな。確かに君がそういうのも仕方ない。だが君達の隊長がそう簡単に死ぬと思わない方がいい」


「どういうことですか…」


「まぁ見てればわかる。万が一あいつが死んだら俺の首を切ってもらっても構わないよ」


朔夜は笑みを浮かべながら、首の動脈の部分を人差し指で指さした。


「わかりました。貴方がそこまで言うなら」


「あ、本気で斬る人の目だ。千夜さん怖いね」


「いいの!? そこまで言ってほんとに朔夜君の首が飛んだらどうすんのよ!?」


「この場にいる全小隊に告ぐ! 直ちに鉄塔広場から離れろ! そろそろ落とすぞ!」


朔夜の指示に反応した隊員は鉄塔広場から離れた。朔夜は帽子を深く被ると、再び鉄塔にいる叶夢を見た。


「叶夢! そろそろ離れろ! 鉄塔に落ちるぞ!」


「あぁ!? ここで打ったら絶対うち漏らしが出るぞ!」


「封印式ならもうやり終わってるそうだ! 巣から湧くことは無い!」


「なら良かった。もう消えるよ俺は」


叶夢は魔族達をジャンプ台代わりに鉄塔から猛スピードで離れ、空中で一回転した後に衝撃を殺しながら着地した。


「よし来たな。雷球(プラズマボール)!」


雷球が雲の中に入ると同時に空の黒雲から、光が轟音と共に漏れだした。それを見た朔夜は鉄塔を背に合流地点のB村に向けて走り出した。


「そろそろだ‥‥落ちるぞ」


朔夜の一言を引き金に、鉄塔に巨大な光の刃のような雷が落ちた。空から落ちた雷は鉄塔だけでなく周辺の森や巣から湧き出た魔族達を焼き払った。


「やったか!?」


「お前二度とその言葉吐くなよ」


「フラグってやつか? 俺の陽動が効いてるんなら、全部やれてるはずなんだがな」


辺りを焼き尽くした閃光の刃はすっかり収まったが、それが(もたら)した炎は止むことを知らず木々を飲み込みながら燃え続けた。


「んでどうすんだ? まさかこのまま自然破壊放置してB村へ撤退なんて言うつもり何じゃないだろうな?」


「あ‥」


朔夜は炎を見ながら、呆気に取られた声を漏らした。


「え、まじでそれやるつもりだったの?」


「いや消火ならいつでもできるからいいんだが…叶夢。炎の中よく見てみろ。鉄塔付近」


叶夢は朔夜言われた通りに燃えた鉄塔を見てみると、微かに炎の中に動く黒い影を見つけた。そしてその影の正体をこの2人は知っていた。


「どうやら運悪く、イフリートに進化見たいだな」


「ねえ‥‥イフリートに炎ってダメなの?」


「そりゃ栄養源が炎だからな。あいつにとっては天国だろうさ」


「グウワアアアアアアアア!」


炎の中で叫び声を上げたイフリートは、その叫びと共に炎を薙ぎ払った。

普通の魔族とは違い、赤黒い甲殻に鷹の翼を生やした魔族が炎の蛹の中から現れた。


「やれやれ‥‥必要な作業は消火じゃなくて浄化か‥」


「笑えない冗談だ。いや笑えないのは状況も同じか」


「にしてもあれなら消火の作業はいらないな。勝手に炎を吸い込んでいる」


二人が周りを見渡すと、森を焼き尽くす勢いで燃え盛っていた炎がイフリートに向けて吸い込まれていた。炎が無くなると燃やされていた物は真っ黒な炭に変わってしまった。


「どうする。他の面子に任せるか?」


「第五位の魔族を今の体力で普通に倒せると思ってるならお前は本物の馬鹿だ。ここじゃ分が悪い。B村に逃げるぞ」


朔夜は一目散に登山道を走って下り始めた。


「ほーら! こっち来い!」


叶夢はイフリートに向けて石をぶつけると、朔夜の後を追いかけた。


「グウワァァア!」


イフリートもこれが侮辱の行為だと察したのか、空から急降下し叶夢を追いかけた。


「どうにかもう一回雷を当てられれば‥‥一発で倒せないとはいえ致命傷にはなる筈だ」


「一番雷を当てやすい場所を捨てといてそりゃないぜ?」


叶夢は朔夜に追いつき、朔夜の独り言に回答を返した。


「他に‥‥高い物は‥」


「確かに致命傷を負わせるには雷は十分だろうな‥‥あと怯んだ隙に一斉攻撃をかければ」


「くそっ‥‥俺の魔力回路がヒートアウトしてなければ神具で1発だったのに!」


朔夜が顔に手をつけため息を漏らすと、叶夢はその顔を見て表情を固くした。


「朔夜。お前が神具使えるまでの魔力回路の冷却にどれ位時間がいる?」


「馬鹿な事は考えるな」


「10分あれば足りるか? なら稼げる」


「やめろ。今のお前じゃ1分とも持たない」


朔夜は焦った表情で叶夢を止めた。今の叶夢の発言は自殺すると言ったようなものだったからだ。ただでさえ身体強化の魔法しか使えない叶夢に第五位の魔族を倒すのは限りなく無理に近かった。


「1発撃てればいいんだろ?なら行けるさ。それに俺よりお前が残った方が勝つ見込みはあるからな」


「わかった。ただ10分以内に帰って来い。準備が整いしだいすぐに連絡する」


「これってあれか?『時間を稼ぐのはいいが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?』ってやつか?」


「減らず口を叩く暇があるなら余裕だな。あとは任せた!」


朔夜はさらにスピードをあげて、B村へ向かった。それと同時に並んで走っていた叶夢はイフリートの方に身体を向けて刀を持ち飛びかかった。


「アッツイ!」


その声を聞いて、少し笑いを漏らしながらも朔夜はB村へ続く登山道を走りながら自分の通信機に手をかけ第31小隊と第1小隊に繋げた。


「こちら朔夜! 鉄塔付近で第五位魔族のイフリートが出現中! 急ではあるがあれを野放しにはできない! イフリート討伐を行う! その作戦を伝えるからB村の旧役場前に集合してくれ! 以上!」


朔夜は通信機から指令を出すと、さらにスピードをあげてB村に出た。


「まだ3分か」


そのスピードに乗って旧役場に続く一本の道を駆け抜けた。


「いた! おーい! 全員集まってるか?」


朔夜が声をかけた先には叶夢を除く第31小隊と第1小隊のメンバーが既に揃っていた。


「朔夜くん! さっきの通信の内容ってほんとなの!?」


「残念ながら本当だ桐原。そこでだ、もう一回落雷をイフリートに当てて止めを刺す。そう作戦を立てたんだが‥‥」


「あの、叶夢くんは?」


朔夜は壁に旧役場の扉に寄りかかると、身体を風に晒し冷却を開始した。


「あいつなら時間稼ぐって言ってイフリートと交戦中だ」


「まさか‥‥魔法が使えない叶夢君を置いてきたんですか?」


「千夜さん‥俺が何の考えもなしにあいつに任せると思うか? ただでさえ自分の首がかかってるのに」


朔夜は汗を額に垂らしながら、千夜の方を向いて言った。


「あいつの生命力は頭の中のトラウマ並みだ。どんな状況だろうと、生きて帰ってくる。あいつを殺せるのはごく一部の魔族か征魔士ぐらいだろうな‥‥」


「何でそこまで言いきれるんですか?」


「決まってる‥‥あいつは」


朔夜が言いかけた直後、鉄塔広場の方角から爆発音がした。皆がその方角を見ると、B村の近くの森から火の手が上がっていたのと火の中から飛び出る二つの影が見えた。

それと同時に朔夜の通信機から声が流れ始めた。


「こちら叶夢! 出来るだけ時間は稼いだがもう限界! さっさと雷球(プラズマボール)を投げ込め朔夜!」


「それはいいが‥‥当たる秘策は浮かんだんだろうな?」


「あぁ! とっておきの策がな! 全員! ちょっと物拾ってくるからイフリートお願いしまーす!」


そこから聞こえたのはピンチを諸共せず、寧ろこの状況を楽しんでるような叶夢の声だった。だがその声は確かに現場の張り詰めた空気を(ほぐ)していた。


「だから言ったろ‥‥あいつはこの程度で絶望しない。ただの娯楽なんだよ。あいつにとっては」


「なーんだ‥‥そういうの昔から何ですね」


千夜はクスッと笑みをこぼしながら呟いた。初めて朔夜に笑顔を見せた。


「桐原、行けるか?」


「さぁね。でもまぁ行けるんじゃない? どうせ止めは君達の仕事でしょ?」


千夜が顎に手を置き考え込んでいたが、他の隊員に視点を戻すと。


「第1小隊のみなさん。ここは私達第31小隊に任せてもらえますか? さっき言った通りに桐原さんと朔夜隊長は連れていきますが」


「それは出来ない。幾ら何でも初陣の君たちに無理はさせられないよ。ぐっ!‥‥」


隊員の1人がボロボロの身体を持ち上げたが武器を支えにしたとしても、その身体は呆気なく崩れた。


「いえ、第1小隊の皆さんはさっきの鉄塔広場で私達を守りながら魔族達を倒していただけでなく巣の封印式を組み上げるのにいつも異常に魔力回路を酷使していたはずです。その身体のボロボロっぷりを見ればわかります。それに叶夢くんに朔夜隊長。この二人が受け持つって言ってくれたんです。だったらお言葉に甘えない訳は無いですよ?」


「おいおいもう来ちゃってるにゃ! 陽動やるんだったらさっさとやるにゃ!」


「わかりました! 全員戦闘配備! 目標はイフリートの陽動ただそれだけです! 行きますよ!」


千夜は瑠璃(るり)色に煌めく刀を、背中の鞘から引き抜くと一飛びで屋根に登りイフリートを睨みつけた。

既にイフリートは目標である叶夢を見失い全てを燃やしながら叶夢を探していた。

その中で炎を背にイフリートの目は五人の征魔士に狙いを定めた。


「来ます!」


「グウオオオオオオオ!」


雨が降る暗い空に咆哮したイフリートは千夜達目掛けて飛んできた。いつの間にかこの場に連れてきた本人である叶夢は消えていた。


「叶夢くん! 今どこに!?」


「今避雷針を取りに行ってるところだ! 今から数秒後に煙弾を打つからその地点までイフリート持ってこい!」


「避雷針!? そんなの村にあったんですか!?」


朔夜は叶夢の考えを整理し、纏めた。


「つまり叶夢は避雷針をあいつにぶっ刺してそれで雷を当てるって言いたいんだな?」


「そう!その通り!」


「確かにそれなら!」


誰もが名案だと思い、笑顔見せた。だが


「で! その避雷針は!?」


「桐原と矢岬の待機地点にある筈だが」


「桐原副隊長の待機地点って確か‥‥東側の高台に設置してあるんだよにゃ?」


「‥‥無いよ。無残に切断された避雷針だったものしかないよ」


「はぁ!?」


狙撃手の二人は待機地点の確かに高台にいた。しかし皆が言ってるような避雷針は無く、二人の目に写っていたのは無残にも破壊された避雷針だった。


「何で!? まさか魔族に‥‥」


「朔夜くん。ここって君が31小隊が登山道を登るのを監視する時に使った高台だよね?」


「そうだが」


「その時はどうだったんですか!? 避雷針はあったんですか!?」


紫以奈は通信機に願うように朔夜に問いただした。


「そもそも被害がなかったからこそこの高台を使ったんだ。少なくとも破壊された避雷針なんて無かったぞ」


「つまり‥‥魔族の巣が発生した時に破壊されたって考えるのが妥当かにゃ」


そのやり取りを聞いていた叶夢は顔を手で隠し、絶望しながら民家の壁に寄りかかった。叶夢には一つ心当たりがあった。その心当たり‥‥もとい真実に皆が辿り着かない事を祈っていた。


「あぁ‥‥やっちった‥‥誰も考えてくれるな…」


叶夢は通信機を外し、雨に打たれながら突破口を考えた。そしてふと屋根を見上げると、叶夢は目を見開き再び立ち上がった。


「なーんだ‥‥汚名返上できるじゃねえか!」


そして再び通信機の電源を入れて連絡を行おうとしたその時だった。


「唯一思い当たる節は叶夢が神具奥義を撃って村ごと俺を葬り去ろうとした時ぐらいだな。でっかい闇魔法で村抉ってたし」


「「「「……」」」」


時すでに遅し。朔夜が叶夢の望まない真実にたどり着いてしまっていた。通信機越しでも他の隊員の殺気を叶夢は感じ取った。


「察しのいい餓鬼共は嫌いだよ」


「時間稼いだのでイフリートお渡しします。どうぞ」


千夜の冷たい一言は通信機からだけでなく、後ろからも聞こえた。

千夜が村の道を走りながら後ろのイフリートを引き付けていたからだ。叶夢と千夜の距離は既に3mも無かった。


「案外近くにいらっしゃった!?」


叶夢は急いで民家の壁を蹴り屋根に飛び乗った。あくまで逃げる事を選んだ叶夢にイフリートは見向きもせず千夜をターゲットに追い続けていた。


「白鳩さん。うちのバカ隊長に向かって毒矢をお願いします」


「イエッサー」


「ふっはははは! たかが矢一本! 避ける事は容易い!」


叶夢は高笑いしながら飛んできた矢を避けて、再び走り出した。そして余裕を持って後ろを見たその時だった。


「千夜ちゃん。避けられたけど‥‥」


「いやあれでOKだにゃ。あの角度なら」


「はい。叶夢君が避けてくれたお陰で叶夢君にターゲットが向きましたから」


叶夢が後ろを振り向いた先に、叶夢の避けた矢が刺さったイフリートが叶夢に襲いかかろうととしていた。


「裏切ったな! てか死んじゃう! I Will Die!」


「朔夜さんから聞きました。叶夢くんの生命力は頭の中にカビのように蔓延るトラウマ並みだと。なら任せても問題ありませんよね?」


「朔夜くぅん!? 何教えてんの!?」


「頑張れ。もうそろそろ終わるだろ?」


「そうだけどさ!?てか話してる暇あるんだったらさっさと雷球を投げ込んでよ! 俺をいつまで泳がせるつもりだよ!?」


「チッ‥‥状況が状況だ」


朔夜は舌打ちをしながら雨雲に雷球(プラズマボール)を投げ込んだ。雷球が入った黒雲から轟音と共に閃光が漏れだした。


「13秒後だ。早く当てろ」


「アイアイサー!」


叶夢は身体を回転させると、自分のスピードに急ブレーキをかけるために民家の屋根にあったアンテナを掴み、別の屋根に足をつけた。


「グウオオオオオオオ!」


叫び声と共に叶夢の動きに対処できなかったイフリートはそのまま叶夢を追い越し、大きく旋回しながら再び叶夢に狙いを付けて猛スピードで迫ってきた。


「さぁ来いよ。そのまま‥‥」


叶夢はブレーキに使ったアンテナを根本からへし折ってイフリートを見据えながら構えた。

イフリートとの距離は既に目と鼻の先にまで迫っていた。


紅い死神(おれ)に飛び込んで来い。」


叶夢は手に持ったアンテナをイフリートの脳天に突き刺し、そのまま突き刺したアンテナをイフリートの頭ごと上に蹴り飛ばした。

そして運命の13秒になり雷が落ちた。落ちた地点は、言うまでもなくイフリートの脳天に刺さったアンテナだった。


「グウワアアアアアアアア!!!」


イフリートの断末魔が村中に響き渡った中、朔夜はその光から逃れるように帽子を深く被った。


「最初からそのつもりだったわけか。避雷針そのものを使うのではなく、避雷針に変わるもの‥‥アンテナを使って落雷を当てるとは」


その光は炎の化身たるイフリートを焼き焦がすと、その燃え滓となったイフリートはまた大地に叩きつけられた。その衝撃はイフリートの命の灯火を吹き消し、それに安らかな眠りをもたらした。


「17時50分。第五位魔族イフリート討伐完了。本作戦は是を持って終了とする。報告者。第1小隊 隊長 出雲 朔夜。討伐者。第31小隊 隊長 刀堂 叶夢」


朔夜はそう呟きながら自らの端末にそう入力した。


「叶夢くーんお疲れ様! 凄いよ! 第五位の魔族を倒しちゃうなんて!」


「見直しましたよ! 叶夢隊長!」


「すごいにゃすごいにゃ!」


「叶夢くん?」


叶夢は腰が抜けたように座り込んだ。

そして無表情に空を見上げていた。


「魔法‥‥コントロールできるようにならないとな‥帰ったら朔夜に付き合ってもらうか‥‥おっと!」


そんな放心状態の叶夢を紫以奈が撃った弾丸が現実に引き戻した。


「危ないだろ!?」


「良かった生きてた」


「何だよその生存確認‥‥まぁいいや。お前らさっさと帰るぞ。こっちは疲れ過ぎて、早く飯食って風呂入って寝たいよ」


疲れ果てて寝そべる叶夢の顔に影がかかる。


「お疲れさん」


「…朔夜か」


いつの間にか屋根に上がってきた朔夜が、ミネラルウォーターを両手に叶夢の隣に座り込んだ。


「ほれ今なら俺を殺せるぞ?」


「ここでお前を殺すのは愚策だ。」


「は?」


朔夜は片手に持ったミネラルウォーターを叶夢に渡しながら呟いた。


「それにお前がアイツとの約束を守り続けてるのを見て、馬鹿らしくなった。それ故に殺意も吹き飛んだよ」


「‥‥アイツは関係無いだろ。」


「どうしてそう言える?正直、あの約束があったからお前は俺を殺さなかったんじゃないか?」


「‥‥」


目を閉じると嫌でも思い浮かばれる。叶夢が他のゼルリッチの魔子と袂を分かったあの日を。初めて愛した人を守りきれなかった怒り混じりの後悔を。


「俺はあの時みたいな事をもうしたくないだけだ」


「そうだ、その件だ。あの時、お前確かに連絡したんだよな?」


「あぁ、通信機の向こうでお前の了承の声も聞いたし‥‥」


「‥‥そんな連絡一切受けてないんだけどな。」


「あ、いた。おーい二人ともー!そろそろ帰りますよー!」


あの時、叶夢の連絡を受けたのは誰だったのか?そんな事を考えてる二人の耳に千夜の声が入ってきた。


「まぁ、今は疲労も溜まってるからこの件はまた今度にしよう」


「そうだな。あと朔夜」


「ん?」


屋根を降りようとした朔夜を叶夢が呼び止める。朔夜が叶夢の方を見ると叶夢が右手を握手のように突き出していた。


「これから改めてよろしくな。朔夜隊長」


「‥‥はぁ。朔夜でいい。こちらこそよろしくかむ‥‥い!」


「おおっ!」


朔夜が叶夢の右手を掴むと、片手で叶夢を勢いに任せて屋根から振り下ろした。幸い、着地には成功したが恨めしそうな目で叶夢は朔夜を見た。


「この野郎‥‥」


「ふっ‥ほら行くぞ。置いてかれる」


朔夜は屋根から降りると、そのまま歩き出した。千夜は叶夢と朔夜の背中を見つめるとふと笑いを漏らした。


「何見てんだよ千夜ー!置いてくぞー!」


「あぁー!待ってくださいよー!」


かくして計十人の征魔士はB村を後にした。

出雲(いずも) 朔夜(さくや)

170cm/66kg

誕生日 5/15


ー『嫉妬』は全てに憎悪した。

自分を残して進む仲間を。

全てを裏切った紅い目の少年を。

無力で愚かな自分すらも‥‥ー


灰色の髪に、真っ白な肌にレモン色の目を持った青年。

使用武器は槍。日本支部第1小隊隊長。

元ゼルリッチの魔子である。雷魔法を得意とする。幼少時代から頭が良く、サイコフュージョン施術の副作用である魔力回路の弱体化による魔法制限を自らが作った薬で克服している。

叶夢ですら彼が立てた作戦は成功率100%と言わしめる程。叶夢の事は唯一作戦通りに動いてくれない奴として嫌っているが、唯一頭脳戦で張り合えるのは叶夢だけと認めている。

性格は冷静沈着で、どんな事があっても顔色一つ変えずに対処する性格。しかし、騙されることに耐性がないため、他の隊員からたまにドッキリを仕掛けられたりする。

潜在魔法は、自らの魔力を防御壁として展開する魔力防御(マジックウォール)

神具は武御雷(タケミカヅチ)。器は槍。能力は槍を翳した方向に落雷を発生させる。

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