第12話『嫉妬』との再会
「あぁ、わかった。お前達は先に向かってくれ。B村からのルートは俺が指定したものを使ってくれ。そこなら最低限魔族と交戦せずに鉄塔広場まで行ける。あぁ、お互い無事に」
B村の高台にその姿はあった。ある青年は高台から見える鉄塔を見据えると、ただ静かに微笑んだ。
「天地を分けし雷よ。閃光と共に大地を焼き切れ。神具解放。武御雷」
青年の持った槍に雷が落ち、鎖が弾け飛ぶ。それと同時にその槍には雷が宿った。
「おそらく叶夢がゾンビ化した村人から逃げる為にやる事はただ一つ。A村の登山道を身体強化を使って全力疾走だろう」
青年が槍を天に掲げると、その槍を中心に黒い雲が立ち込み始めた。
その雲の存在に気付いていなかった叶夢達は夢中で登山道を上り詰めていた。
「白鳩! 打ち漏らしがあるぞ! もっと正確に狙え!」
「そんな事言われてもこんな状況で正確に狙う方が難しいんだよ!」
後ろから追ってきていたゾンビ化した村人達が追いかけてきており五人はそれから逃げるようち山道を駆けていた。
登山道とは言え狭い獣道の為に、いざ囲まれた時に逃げる場所がない。そんな状況を脱するための疾走だった。
「じゃあ止まって狙うか? この量囲まれたら俺らだけじゃ何分とも持たないぞ!」
「叶夢!前からきてるにゃ!」
「あいよ!」
叶夢は刀が仲間に当たらない範囲にまで加速を行うと、前に現れたゾンビを横一線に斬り倒した。斬り倒されたそれは声にならない叫びを出しながらピクリとも動かなくなった。
「30m先、右に曲がる」
「「はぁ!?」」
叶夢の発した言葉に他の者は驚きと困惑の声を漏らした。五人の前に現れた案内用の看板には正式なルートは左と書かれていたが故に、四人は困惑した。
「最短で行く。妙な胸騒ぎもするからな」
「かっこつけて言ってんじゃねえにゃ! それならもう少し早く言っとけ!」
「悪いな。後で謝罪する!」
隊員達は別れ道を右に曲がる。そこに現れた登山道はさらに荒れ果てていた。
「ホントにここで合ってるんですか?」
「千夜。ちょっと空見てみろ」
千夜が叶夢の言った通りに空を見ると、西の空から黒雲が立ち込めて来ていた。その黒雲の所々から光が漏れていた事から千夜は雷雲であった事を知った。
「まさか雲から逃げるつもりですか!?」
「この道を豪雨の中突っ切るのは厳しい。だったら出来る限り雨に当たらずに鉄塔広場に向かう」
「はぁ‥‥なんと言うか叶夢くんらしいにゃ‥‥悪い意味で」
そのまま彼らは出来る限り東寄りに、鉄塔広場に向かった。六合目に差し掛かった時五人はついに黒雲に追いつかれ、冷たい雨が五人のからだを濡らしていた。
「追いつかれちゃったけどもう鉄塔広場は目前だにゃ!」
「後はこのまま向かうだけだな!」
雨に打たれながらも叶夢達は着々と鉄塔に向けて進め、嬉しげな表情を表し始めていた。だがただ1人、叶夢だけがキリキリと張り詰めた緊張を解こうとしなかった。
しかしその顔はすぐに解かれる事になる。
突如、黒雲の光が叶夢達の背中をフラッシュを焚いた様に照らしたからだ。
「伏せろ! 落ちるぞ!」
叶夢の叫びと共に、隊員達を数発の落雷が襲った。落雷は凄まじい轟音と共に立ち並んでいた木々を薙ぎ倒し、辺り一帯を焼き払った。
「いてて‥‥」
「全員無事か!?」
「叶夢くん? 何処ー?」
「その調子なら全員無事みたいだな‥」
隊員4人達は災禍の後を見渡した。しかし何処にも叶夢の姿は無かった。
4人が叶夢の声を頼りに叶夢の姿を探すと、千夜が崩れた土砂の上に座り込む叶夢を発見した。
「叶夢君こそ大丈夫なんですか!?」
「あぁ、ただ登ると時間のロスだ。俺は別のルートで鉄塔に向かう! お前らは残ってる道を使ってさっさと行ってくれ!」
「了解しました! ご武運を!」
千夜が他の隊員に指示を出すと、隊員達は残った登山道を使って鉄塔に向かった。
それを見届けた叶夢は、泥で汚れた顔を空に向けて考え込んでいた。
「この落雷‥‥偶然にしては出来過ぎている。この雲が発生した先はB村か‥‥ここからなら近いな。魔族の危険性もあるし‥鉄塔は後回しにするとしよう」
叶夢は立ち上がると、西にあるB村に足を走らした。
「良かった。B村への道は崩れていない‥‥さっさと行って千夜達を追いかけなきゃな」
叶夢はB村から鉄塔に向かう登山道を逆走する。しかし、その道を阻むかのようにまたもや激しい落雷が叶夢を襲った。
「ッ‥‥ったく執拗い男は嫌われるぜ!」
叶夢は落雷が降り注ぐ地獄の道を我武者羅に疾走した。数分走り抜け叶夢はようやくB村に到達した。
「B村到着‥‥おい! 雷の発生源! 出て来いよ! てめえが俺を狙っているのは十十承知だ! 影から雷なんか落としてないで正面から面見て落としてこい!」
叶夢の叫びに応じるように雷が止む。
そして叶夢の目は前から歩いてくる人影を捉えた。
「相変わらずだな。だが発生源がB村だったのをあの一瞬で解ったのだけは褒めてやるよ。叶夢」
「その声‥‥やっぱりお前かよ‥出雲 朔夜。」
「会えて嬉しいよ。『裏切り者』」
叶夢の向こうから歩いてきたのは、白銀の髪に帽子を深くかぶった檸檬色の目を持つ少年だった。その少年は自らを朔夜と名乗った。
「にしては親切だな。俺だけをB村に呼び出すなんて‥‥流石ゼルリッチの魔子の頭脳。作戦の立て方と進め方が普通の人間とは訳が違う。お前の敷いたレールに誰も抗えない。この俺すらもな」
「お前は抗わないだけだろ。ある意味お前はその分タチが悪い」
叶夢は抜刀すると紅い目を刀と共に朔夜に向ける。それを向けられた朔夜は、雷を纏った槍を叶夢に突き返した。
「もはや言葉はいらないか。お前の心は俺への憎しみでいっぱいだもんな、早く来いよ。だが、お前の姿が見えてるおかげで俺はもう落雷で死ぬ事は無いがな」
「普通逆だろ。今度は稲妻だけじゃなくて俺の槍も避けないと行けないんだぜ?その紅く濁った目は遂に節穴にまで成り下がったか?それとも恋は盲目という言葉に習ってソフィアを思い続けて節穴になってるのかな?」
「あっはははははは! この年になってやっと冗談を吐ける様になったか! ますます道化が様に来たな朔夜!」
二人は狂気に満ちた笑いを吐き出す。
血走った目で互いを見つめ合う。
そして笑いをやめると同時に、その戦いの火蓋が切って落ちる。
二人は殺意の入った互いの武器を力を込めてぶつけた。
「お前の脳みそ。ホルマリン漬けにして死ぬまで愛でてやるよ」
「お前の眼球。ビリヤードの玉にして腐るまで使い続けてやる」
叶夢が刀の向きを変えて朔夜の槍を流すと、体制を崩した朔夜の脇腹に刀の柄をめり込ませた。
「ぐっ‥‥」
叶夢は笑みをこぼしながら、怯んだ朔夜に拳と刀による連撃を叩き込む。しかしその全てをを朔夜は怯みながらも避けきり、後ろに跳躍して大きく距離を取った。
「どうした? この動きはお前でもわからなかったかな?」
「まさか、様子見さ。だがもういい。もうお前の攻撃を食らうことは無いからな」
朔夜が槍を空に掲げると、雲の中から雷の轟音と共に閃光が漏れ出した。
「さぁ、避け切れるかな?」
「さっき言ったよな? 雷はもうくらわないって!」
朔夜は空に掲げた槍を叶夢に向けると、叶夢の立っている場所に向けて無数の落雷が降り注いだ。
しかし叶夢は、身体強化の魔法を自分の身体にかけ空高く飛び上がると、屋根の上を駆け回り落雷をことごとく避け始めた。
「流石にキツイか‥‥まぁこのまま朔夜に向かって走れば‥‥!?」
叶夢は顔に驚きの表情を表した。朔夜の姿が突然消えた。本来なら走って移動している姿の朔夜が見えてもおかしくないはずなのに。
「あいつ何処に‥‥いや‥この気配‥前か!」
「正解だ!」
叶夢が視点を前に戻すと、そこには槍を叶夢の腹に刺し、青白いオーラを纏った朔夜が現れていた。
「ぐっ‥‥雷衣‥てっきり副作用で使わないものだと思ったが‥短期決戦で俺と戦うつもりかよ」
「その点に関しては問題ない。確かに雷衣は自分の身体を可能な限り雷に近くして凄まじいスピードで動けるようになるが、サイコフュージョン施術の副作用で魔法の使用制限が付いているお前に取っては一分使うのが限界だろう」
「朔夜‥お前‥‥外したのか。あの副作用を」
「ちょっと特別な薬を作ってね。副作用が軽かった俺はこの薬で魔法の制限が解除されてる。ほぼ永続的にな!」
朔夜が槍を引き抜くと、叶夢の腹からは赤黒い血液が零れだした。それを見た叶夢は、静かに傷口に手を当てる。
「対してお前は三発しか魔法を放てない。勝機は俺に向いているな」
「バカ言ってんじゃねえよ。お前ともあろうものが慢心か?」
叶夢が傷口から手を離すと、抉られた傷口が綺麗に塞がっていた。
「年々悪化するとは聞いていたが‥‥そこまで来ると人間とは思えないな。傷口に魔力を少し込めるだけで傷が塞がるとは」
「一日三回しか魔法は打てないが身体が魔族に近づいてる分こっちは回復力ならお前の数十倍だ」
叶夢は魔力回路に魔力を流し込み、魔法式を組み始め、魔法を使用する準備に入る。
朔夜は雷衣の状態で叶夢から距離を置くと、さらに一瞬で叶夢の視界から離れた。
「おいおい。貴重な魔法を使っていいのか?」
「そうだな。その前にやる事があったよ‥‥我、人なれど牢獄に爪を突き立てし獣。我、人なれど人に反逆を誓いし悪魔。暗黒となりて虚無を誘え! 神具解放! モンテ・クリスト伯!」
叶夢の片目が黄色く変色すると同時に魔力回路が赫に染まる。刀を掲げた叶夢が高らかに叫び出す。
「散々空から贈り物ををもらったからな! 俺からもお返しだ!」
「そんなんで俺がくたばると思うのか?」
「あと宣言。十発降ってくるが全部お前に当ててやる」
「は?‥‥あっはははははは! 冗談を言うならもっとセンスあるものを言ってくれよ! あっはははははは!」
朔夜は叶夢の馬鹿げた発言に笑いをこらえきれなかった。しかし叶夢の紅い目は、その朔夜を見て怒るでもなく悲しむでもなく、ただ哀れみの目で朔夜を見つめていた。
そんなやり取りを続けている内に、叶夢から黒い球体が放たれ朔夜の上で動きを止めた。
「ほら来るぞー。黒い天槍!」
叶夢が黒い槍状にまとめた魔力を朔夜の上空に投げ飛ばす。そしてそれは朔夜の上で止まると、朔夜が行った落雷のように黒い稲妻となって降り注いだ。
「はっ‥‥最初の1発から当たんねえ‥‥な!?」
突如、朔夜の槍を持っていた左手に痛みが走る。その手には叶夢の刀が刺さっていた。されにそれは投げ飛ばされた物ではなく、叶夢が本人直接突き刺しに来たものだった。
「俺の攻撃は魔法だけじゃないんだぜ?」
「馬鹿なそれは雷衣!?」
雷衣を発動し、朔夜と同様青白いオーラを纏っていた叶夢は一瞬で朔夜との距離を詰めたていた。
「模倣させて頂いたよ」
叶夢は笑みを浮かべながら朔夜から槍を奪い、その槍を朔夜の右の手のひらに突き刺さしそのまま足元の屋根にまで槍を貫通させた。
「ぐっ!」
「おらよ! まとめてくらっとけ!」
空から十本の黒い槍が雨の如く降り注ぎ、動きを封じられた朔夜を襲った。叶夢は被害を被る事を危惧し距離を取った。
「はぁはぁ‥‥流石に策を立てるのが得意な朔夜とは言え、動きを封じればどうしようもねえよな?」
雷衣が解け、身体が熱を帯びた叶夢は民家の影に寄りかかった。
「ヒートアウト‥‥やっぱなったな‥30秒とは言え魔力回路をフル稼働させたからな‥だが幸いこの天気だ。戻ってる間に平常に戻るだろ‥‥残り1回しか魔法は使えないからな。今度は考えて使わないと」
ヒートアウト。魔力回路が熱暴走を起こし、正常に作動できなくなり魔力を流せず魔法を撃てなくなる。
本来であれば魔法を使った後に魔力回路は一定期間を置くことで平常の温度に戻り、魔法を使えるようになる。
「さーてと‥‥そろそろ回収に‥ん?」
叶夢が意識を朔夜がいた場所に向けると、そこから風を切る音が聞こえた。そしてその音は着々と叶夢の元に向かっていた。
「マジか‥‥あれで生きてるのか。まぁ死んだとも思ってなかったけど」
叶夢が走って民家を離れると、横から青白い流星のような物が叶夢目掛けて飛んできた。
叶夢はその流星の正体にすぐに気づいた。
「流石にキツかったな、だが耐えきれない程じゃない」
「どうやって! 十発は確実には当たったはずだぞ!」
「忘れたのか? 俺の奥の手‥‥潜在魔法を!」
潜在魔法とは、魔法自体にかけるエンチャントのこと。例えば水魔法であれば水温を操ったりと様々な種類がある。しかしそれを使えるのは一部の征魔士だけである。
自らの潜在魔法を使い、窮地を脱した朔夜は叶夢を首を掴み押し倒した。
「魔力防御‥‥自分が放った魔法を防御用の盾に変化させる潜在魔法か…すっかり忘れてたよそんなもん」
「その通り。実質くらったのは一発限りだよ。さて‥‥俺が聞きたいのはただ一つだ。何故落日の日に俺たちを裏切った?」
「あれは‥‥確かに連絡したはずだ‥俺は‥‥牢獄に‥向かったって‥‥」
「そんな嘘をついて欲しいんじゃない。何故俺達を裏切ったか聞いているんだ」
「嘘なわけ‥‥無いだろうが!」
「裏切り者の言い訳なんざ、誰が信じるか」
「聞いといてそれかよ‥‥結局自分が欲しい答えを聞きたいだけか‥‥」
叶夢は今にも掠れそうな声でニヤケながら呟いた。
「んじゃあ‥‥こう言えばいいか。お前ら全員よりソフィア一人を選んだ」
「‥その言葉が聞けて充分だ」
朔夜は怒りの表情を浮かべたまま、叶夢を首を持ったまま地に叩きつけた。
「あのとき‥‥お前が来ていれば、あいつが瀕死になることも無かったのに‥」
朔夜が視界に浮かべているのは、かつてのゼルリッチの魔子が袂を分かった日。
2009年12月25日。ゼルリッチ・ダークマンの隠れ家に大量の魔族が押し寄せ、ゼルリッチ・ダークマンを含む多くの犠牲者が出た。
今の朔夜の目にはあの日の怒り。悲しみ。憎悪。それら全てが入り乱れていた。
「神具奥義」
朔夜の槍に今まで以上の雷魔法を込められた。
「おいおいマジかよ‥‥その攻撃は流石にオーバーキルってやつなんじゃないですか?」
「ただの裏切り者を始末するには十分過ぎるが、お前を始末にするにはこれでも足りないぐらいだ」
「くそっ!」
叶夢は持っていた刀で朔夜の左手を貫き、掴まれていた自らの首を離した。
「天帝神雷撃!」
朔夜が逃げた叶夢に向けて雷を纏った槍を投げた。投げられた槍は雷で龍の姿を作り出し、背中を向けた叶夢に向かって猛スピードで迫ってきた。
「逃げ切れると思うなよ!叶夢!」
「逃げきれずにゲームオーバー‥‥そこで俺はこう言い捨てるのでした」
「「終わりだ!」」
朔夜はヒートアウトした魔力回路を冷却しながら叶夢を追いかけた。
「あ」
叶夢にとっての油断だった。逃げ切れているという事実から生じたその油断から、叶夢は屋根の瓦につまづいてしまった。雷槍はそんな叶夢をさらに追い詰めるようにスピードを落とさず遂に叶夢の眼前に辿り着いた。
「死んだ」
雷槍は叶夢の右の横腹を肉ごと抉り、そのまま叶夢を地に叩き伏せた。叶夢は思わず諦めの言葉を呟き煙の中に消えた。
「やったか‥‥とは言わない約束か‥‥念のためにまだ動かしているが‥‥ここまでやれば」
朔夜が手を翳すと叶夢を貪っていた雷槍は朔夜に向けて徐々に雷が小さくなりながらまっすぐ朔夜の手元に戻ってきた。
「はぁはぁ」
朔夜は腰を崩すと弱い雨に打たれながら、空を仰いだ。
「やったよ。俺‥‥復讐できたぜ? あっははははははははははははははは! はぁ‥‥ん?何の音だ?」
朔夜が喜びの笑いに浸っている中、ある音が朔夜を現実に引き戻した。音の鳴っている方向を見てみると、そこにあったそれは朔夜の喜びを無残にも粉々に粉砕した。
「は‥はぁ‥‥まさか‥嘘だろ‥あんだけやったんだぜ? それでもまだ生きてるのかよ?しかもあれ‥‥柱?」
朔夜は驚きながらも雷槍を再び構えた。叶夢が倒れた地点と同じ方向に現れた巨大な黒い魔力の柱に向けて。そして朔夜は目を見開く、その柱の頂点に位置した人物に。
「お前が本気で俺を殺すつもりだってのは解った。だから俺も潜在魔法を使った」
「魔力暴走‥‥使えたってのか‥‥お前のそのボロボロの魔力回路で!?」
「魔力暴走は自分の魔力回路に負荷をかけて魔法の威力をあげる潜在魔法だが‥‥俺はどうにも自分の魔法に意図せず軽い魔力暴走をかけちまってる。主にそれが原因で一日三回しか魔法を使えないんだが‥‥まあ、そんなことはどうでもいいや意図して魔力暴走を使った俺の魔法の最大威力はどうなると思う?」
「意図せず2〜3倍。意識すれば」
「10倍。そしてモンテクリスト伯の神具奥義にかけた。更地にするどころか地形を変える威力になってるぜ!」
「ぐっ‥‥クソがァ!」
「逃げても無駄だ、神具奥義。黒キ復讐ノ唄・魔力暴走!」
叶夢はその闇の刃を振り上げ上空から朔夜を村ごと一刀両断した。それだけでは飽き足らず振り終わった黒い刃をもう一度空に戻し、殺意のままに再び振り下ろした。
「まだまだァ!」
天災の如き剣戟が数分続き、黒い刃が消えると叶夢は支えとしていた魔法が消えた為に空から荒れ果てたB村に落下した。
「ホントに勝ったのは俺だったみたいだな」
着地した元に横たわった朔夜がいた。
朔夜は叶夢と目を合わせること無く言葉に応じた。
「あぁ負けだよ。後は煮るなり焼くなり好きにしろ」
「そうか」
叶夢は納刀したあと横たわった朔夜を無言で背中に乗せた。
「なっ‥‥お前、馬鹿なのか? 俺はお前を殺そうとしたんだぞ? その俺を殺さず‥‥救うだと? 離せ! 今すぐおろせ! さっさと殺せ!」
「うるさい。耳元で騒ぐな傷に響く」
「なんで俺を助ける!?」
「約束だからだ。ソフィアとの最期の」
叶夢は少し悲しげな表情で前を向き歩き始めた。
「ソフィア‥‥まだあの女のことを引きづってるのか‥」
「当たり前だろ。俺たちと同じ、ゼルリッチ
の魔子として背中預けた仲間だぞ。忘れられるわけが無い」
「あの夜、あの女から何を言われた」
「『私を守れなかった分、今度は私の仲間達を守って。それが私と叶夢の約束だよ』って」
「まだ、そんな妄言に囚われてるのか」
「妄言でも誓った。俺は仲間にどう思われてもいい。この命ある限りは仲間を守り続けるって」
朔夜は呆れながらも聞き流していた。朔夜にあった叶夢に対する憎悪は消えて、再び叶夢を仲間として見れるようになっていた。
「叶夢‥‥すまなかった。許してくれとは言わない。そっちの意見も聞かずに」
「朔夜が謝ってどうすんだよ。普通は俺が謝るんだろ‥‥まぁ確かに? 今回の任務で殺されかけたことについては? ちょうど謝罪のひとつも欲しいところでしたけど!」
「前言撤回。やっぱお前に頭下げるのはやめだ」
「何でだよ!? せめて殺しかけたことについては謝れ!」
「数年跨いだ正当防衛だ。俺が謝る義務は無い」
「かー! クソだわ! マフィアで義務教育終えたやつはこれだから!」
「お前もだろうが!!」
二人は再び笑いあった。狂気や憎悪では無く、純粋な笑いで。その姿は朔夜の目にはかつての日々よりも輝いて見えた。
「でも朔夜が知らなかったってことは‥‥あの通信って‥おっと」
その笑顔を遮るように通信機の着信ベルがなった。叶夢はその通信機の受信ボタンを押し、耳に近づけた。
「千夜か。悪い遅くなった今から向か」
「叶夢くん! 早く来てください! 鉄塔広場に魔族の巣が発生! 大量の魔族が溢れ」
千夜からのメッセージが途絶えた。




