第11話 死に続ける村
「よし、全員揃ったな」
「「zzzzzz」」
「隊長と副隊長がまだ寝てます」
朝6時前、征魔連合軍日本支部東門に31小隊の姿はあった。豹助と叶夢は慣れない朝からか立ったまま眠りについていた。ここのトップ‥‥すなわち日本支部支部長及び日本支部総司令である神座 頼光は血管を浮き上がらせながら叶夢と豹助の頭を掴んだ。
「起きろグズ共」
「「あばばばば! おはようございます!」」
神座は言葉とともに軽い電流を二人の頭に流した。突然受けた電撃に二人は眠気を一瞬にして消し飛ばされた。神座は二人が起きたのを確認すると、31小隊の目を一人ずつ見つめた後、一呼吸を置いて激励の言葉を話した。
「いつも初任務の小隊には、俺からの激励の言葉を送っている。
まず、いかに調査任務とはいえ油断せず挑んで欲しい。魔族との戦闘になればそれは討伐任務と何ら変わらない。命続く限り戦え。より人間らしく死にたいなら魔族に命を狩られる事だけはするな。お前達は普通の人間では無い。その悪魔達を狩る力を持っている。
最後になるが、俺が言いたいことはただ一つ。狩られる『魔』になるな。魔を駆る『魔』になれ」
「「はい!」」
普段はリーダーなんて飾りか何かと思うぐらいに風格やオーラなんて無い。叶夢の目にそう映っていたはずの神座 頼光と言われる男の目には殺気や憤りがあった。
「それでは行ってらっしゃい」
「「はい!」」
第31小隊は司令に背を向けた後、東門を後にした。
場所は変わってとある電車の中。征魔士達が任務に行く際には移動手段などは原則全て公共交通機関を利用することになっている。その場所に魔族が急襲した際に被害を最小に抑え、直ちに駆除する為である。
何故いきなりこんな事を話してしまうのかと思うと、この日は平日。そして出発した時間は6時。
「ぎゃあああ! 魔族に殺される前に人混みに殺されるうううう!」
「あー! 叶夢くんが流されてった!」
通勤ラッシュと時間が重なり、人混みの激流に流された叶夢がいたからだ。千夜と紫以奈は痴漢防止の為に女性専用車両に乗ったとはいえあちらも人混みに揉まれているはずだ。
「豹助くん! 時間止めて叶夢くん持ってきて!」
「はぁ!? 何で俺が!」
「あれがいなかったら戦力の半分近く削がれるでしょうが!」
「くっ‥‥白鳩が言う事は割と理由が通ってるから反論できないにゃ。待ってろ叶夢!」
アクシデントが度重なり、乗り換えなどをして長野行きの新幹線に乗れたのは午前8時。
そのまま五人は席に着き通勤ラッシュで揉まれた身体を休めていた。一方、人混みに流された叶夢とそれを引き戻す為に魔法まで使って叶夢を連れてきた豹助は某ボクサーの最期の様に真っ白に燃え尽きていた。
そして午前10時。
「そろそろ着くね‥‥豹ちゃんは‥もう」
「魔族狩る前に人に狩られるとか洒落になりませんから‥‥叶夢。いい加減起きてください」
『まもなく 長野 長野。お忘れ物。落とし物のないようにご注意ください』
アナウンスが聞こえると三人は荷物をまとめ始めた。白鳩は私物のタブレット端末の電源を付け、任務についての資料を開いた。
「そんじゃおさらい。向かうのはA村とB村」
「A村‥‥確かそこって一番被害が酷かった場所じゃ無かったでしたっけ」
「B村もだそうだ。魔族の量が酷くてまともに捜査できないみたいだけど、あと、合流する小隊が分かった」
「それって?」
「第1小隊。合流地点はA村とB村の間にある古びた鉄塔広場」
場面は変わり、新幹線を降りた後、バスを使ってA村に最も近い山奥の道のバス停で降りて、A村へ続く森の道をを進んでいた。
山の天気は変わりやすいと言うように、駅の時点で晴れていた空は山に向かうにつれ、暗く曇っていった。
「嫌に人の気配が無いね‥‥風は生暖かいし」
「紫以奈の言う通りです。ほんとにここは人が住んでいた場所なんでしょうか?」
「もう少し歩かなきゃいけないみたいだ。2人の女子には厳しい距離だったかな?」
「い、いえ! 私は別に! でも多分‥‥今の豹ちゃんと叶夢君にとっては厳しい距離かも」
隊員の後をつけるように、真っ白に燃え尽きた二人は死んだ魚の目で剣を杖にして無言でゆっくり歩いていた。すると千夜はそんな2人に嫌気がさしたのか、後ろに振り向き手をかざした。
「氷の槍」
「「!!?」」
千夜は魔法で氷塊を二つ作り、それを二人に向かって放った。反応には間に合いギリギリで避けることは出来たものの、叶夢と豹助の顔には驚きの表情がしばらく晒されていた。
「殺す気か!? この距離で人の顔並みにでかい氷塊を飛ばすとか! そんなに撫でたのがやだったのか!」
「千夜ちゃん!? 叶夢だけならまだしも俺までなんで狙ったにゃ!」
「そんなに元気があるなら大丈夫ですね。全く疲労が取れてない顔だったので、ちょっかいかけて見ました。ふふっ」
千夜は光映さぬ目で微笑んだ。我に返った二人はそんな千夜の顔に背筋を震わせた。
叶夢と豹助の意識が現実に返ってくると同時に前を先行していた白鳩の視界にもあるものが映りこんだ。
「お、見えてきた見えてきた。そろそろA村に着くよ! 全員村に入ったら武器構えて、臨戦態勢を解かないように!」
「「はーい」」
「てかそれ隊長である俺のセリフ」
「うちの隊長は朝の通勤ラッシュに負けるほど弱いから」
「あんなの初めてだったんだもの‥‥」
木々のトンネルを抜けると、そこには無残にも破壊され尽くした木造の建物が密集した村があった。破壊された建物はその時のまま。アスファルトに撒き散らされた人の血。一歩足を踏み入れると、血の臭いが鼻を通り、より鮮明に路上に晒された村人の屍が目に入ってきた
「うぅ‥‥思ったより酷い‥そして臭いが‥‥」
「死後数日経ってますね‥‥だから腐敗臭が」
口元を抑えた紫以奈の背中を擦りながら千夜は今の惨状を見ていた。
「さっさと行くぞ。悲しむのも吐くのも弔うのは後でもできる。今は手掛かりを探すのが先だ」
叶夢は止まった隊員をおいて、一番近くにあった崩壊しかけている民家のドアを蹴飛ばして破壊し民家に入っていった。
その轟音につられ白鳩達は叶夢が入っていった民家を覗き込んだ。
「待ってよ〜!かむ‥‥い‥」
そこにあったのは草刈り用の鎌を持ったまま倒れた男の死体と何かを抱いたまま死んだ女の死体だった。さらに女が抱いていたのをよく見ると、5〜6歳ぐらいの幼女であった。残念ながらもこちらも既に死んでいた。
「酷すぎる」
「親子‥‥母親は娘を庇ったが娘も死んだ。あぁ酷い。魔族は立ち去ったとはいえ、まだこの村は危険だな。早く魔族の巣を見つけないと」
叶夢は、ポケットから通信機を取り出し、冷静に状況説明を始めた。
「こちら第31小隊隊長の刀堂 叶夢。ただいまA村に到着。死後数日放置された死体の臭いで鼻が曲がりそうです。状況としては最悪です。生存者がゼロの為、襲撃についての情報が得られません。第1小隊の方は何時頃の到着になりますか?」
『こちらオペレーター。A村の任務報告ご苦労様です。第1小隊は午後6時ごろに鉄塔広場に到着します。そこで合流してもらえれば』
「ありがとうございます。調査を続けながらこちらも合流します。以上」
「ご武運を」
叶夢は通信機を切ると、白鳩達に視点を変え
「午後6時に鉄塔広場だそうだ‥‥まぁあそこだろう」
叶夢が北西の方に指を指した方角を見てみると、少し先に山の中に古びた鉄塔が見えた。
「6時‥‥まだ7時間も時間が余ってるから、十分調査は進められますね」
「いや、あまり時間は無い。なんせ、山の天気は変わりやすいからな。天気のことを考えて15時にはここを出る。なにより‥‥」
「なにより?」
千夜が首を傾げる。
「陽の光が見えなくなれば‥‥ここも騒がしくなる」
ネズミの色の空は完全に陽の光を閉ざした。午前11時だというのに、空は夕暮れのように薄暗く染まると同時に冷たい雨が降り始めた。それと共に黒い羽音が遠くの空から聞こえてきた。
「向こうから来ています‥‥恐らく東方向に魔族の巣が‥‥」
ライフルのスコープで魔族の姿を確認した紫以奈は、銃弾を装填しいつでも狙撃できる状態になった。目測だけでも数百体はざらにいた。そして魔族達はみな夢中で何処かに向かっていた。叶夢が魔族たちをしばらく見ていると、突然何かに気づいたように
「千夜! 白鳩! あの群れに向かって射撃して注意を引け!」
「え?‥‥う、うん!」
「了解!」
「使えそうなものは‥‥あった!」
叶夢は民家の屋根に登ると、屋根に付いていたアンテナをへし折り魔族たちの群れに投槍のように投げつけた。紫色の体液が雨と共に空から降ってくると同時に全ての魔族たちが急降下して叶夢達に襲い掛かってきた。
「アンテナを投げ槍に使うなんて…やっぱり君は人間じゃないにゃ」
「いや、ゲームでやってたの見たから行けるかなと思って‥‥ほんとに行けるとは思ってなかったが」
「でもそのお陰でこっちにターゲットが向いたにゃ! 告げる。我が元に集え十二の勇士の魂よ! 神具解放!シャルルマーニュ!」
神具を展開した豹助は、三本の聖剣を操り襲ってきた魔族達を八つ裂きにした。
叶夢は屋根の上で魔族との交戦中にあるものを見つけた。
「あれは村の中心広場か。あそこの方が戦いやすそうだな‥‥」
叶夢は魔族達を刀で薙ぎ払うと、屋根から飛び降り村の中心に向かった。
「半分は俺が受け持つ! 千夜! 行くぞ!」
「はい!」
「任せたにゃ!」
千夜は叶夢を追って走り出す。彼女が叶夢に追いつくとある質問をした。
「叶夢くん。なんでこの魔族達に喧嘩をふっかけたんですか?この量を私たちでさばくのはムリに近いんじゃ」
叶夢はただ冷静に、前を見ながら答えた。
「あの方向。市街地に向かっていた。この量なら都市の一つや二つは壊滅できる。だから俺達が食い止めることにした」
叶夢は足を止め、魔族達を再び狩り始めた。
その頃、二手に分かれた豹助達は既に魔族達を狩り終えていた。
「叶夢たちに加勢した方がいいんじゃないかにゃ」
「いや、叶夢くんなら大丈夫っしょ」
「でも、万が一って事もありますし‥‥」
「スコープで見えると思うけど、言うほどあの二人苦戦してないよ」
ライフルのスコープ越しに見た叶夢の姿は、地形や身体強化を駆使して魔族達を狩り、ただ目の前の敵を倒す獣のような姿だった。魔法が使えないとはいえ、第三位魔族達を紙くずのように潰す様は、他の隊員すらも恐れ戦く存在だった。
「ラスト1匹」
白い斬撃が黒い魔族の身体に刻まれると魔族の死体が塵になる。叶夢は改めて隊員全員の安全確認をすると、持っていた刀を納刀する。
「殲滅終了。引き続き調査に入る。各自自由に行動してくれ。」
「「了解」」
叶夢は指示を告げると、開かないドアを片っ端から蹴飛ばし、壊してから室内に入っていった。
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調査を続け時刻は14時をまわっていた。
その中で民家を捜索していた紫以奈がある物を見つけた。
「あれ‥‥引き摺られた後?でもこの位置って、まるでこの死体が移動したみたい。少しでも逃げようとして這って移動したのかな?」
「即死とは限らないからにゃ。まあ気にすることじゃないと思うけどにゃ」
不自然な血痕が紫以奈の目に止まる。紫以奈は部屋にあった二人の死体に底知れぬ違和感を覚えた。
同時刻、別の民家では叶夢と千夜も死体の違和感に気づいた。こちらは紫以奈達より奇怪な状態だった。四人の死体があったのだが、一人は銃を持った状態で死亡。他三人は壁に寄りかかって死んでいた。
「銃が放たれてますね。応戦しようと打った人が死んだんでしょうか?」
「壁の血痕、全員に弾が命中している‥‥銃を持った奴が撃ったのはこの三人か」
「仲間割れですか? この状況で?」
「まさか。混乱して撃ったんだろ。こいつらが味方を撃つ道理があると思うか?」
叶夢は死体から銃を取り上げ、そこに残っていた弾を全て捨てる。二人が民家を出ると同時に通信機が鳴った。
「こちら白鳩。鉄塔の上にラッパ見たいな口をした魔族を発見。どうす」
「本気で言ってるのか。全員に聞こえてるだろうから言うが中心広場に集合しろ。臨戦態勢でな」
その通信を聞いていた紫以奈と豹助は、首を傾げながら叶夢が集合指示を出した理由を考えていた。
「なんで突然集まれだなんて‥‥紫以奈?」
「‥‥豹ちゃん、私抱えて2階から飛び降りれる?」
「余裕だけど」
「そう」
紫以奈は持っていた黒いハンドガンに弾を装填し、後ろの窓を開ける。
「なんで突然そんなこと聞いたんだにゃ? しかもなんで2階から出るつもりなんだにゃ? 普通に1階から出れば」
『ブアアアアアアアァァァァァアアアアアア!』
豹助が喋っている途中に窓の外、つまり鉄塔の方角からサイレン音にも似た生き物の叫び声が響いた。余りにも大きい叫び声は崩壊寸前の民家を地震のように揺らした。
二人は耳を塞ぎしゃがみ込んでしまった。
「うるさ‥い‥‥何だこの声」
「魔族‥‥豹ちゃん!後ろ!」
紫以奈はハンドガンで豹助に弾丸を放った。
「危なっ!?」
「ーー!!」
豹助の後ろに着弾した弾丸は、本来なら壁に着弾するだけだったが豹助の後ろから聞こえたのは乾いた叫び声だった。
「何だよこれ! ゾンビかにゃ!?」
「豹ちゃん! 飛び降りるよ!」
「お、おうにゃ!」
豹助が後ろを振り向くとそこにはつい数秒前まで死体となり決して動く筈のなかった村人が生きてるかのように動いていた。豹助は紫以奈を抱えると2階のベランダから飛び降りた。
「紫以奈、重くなったにゃ?」
「逃げ切ったらしばらく口聞かないから」
「冗談だにゃ」
二人はベランダから飛び降りると、中心広場に向かって走っていった。中心広場には叶夢と千夜と白鳩が待っているのが見えた。
「叶夢くん。あれって」
「紫以奈は気づいたみたいだな。そ。あれは自分の血液を入れた人間を操る魔族‥‥第二位魔族のサイレンバードだ。あれを倒せればこの村人ゾンビは糸が切れたマリオネットのように動かなくなる」
「彼処まで射撃すればいいじゃないですか?」
「こんなに敵に囲まれた状態で正確な狙撃は無理」
村の中心から奥を見ると、多くの死体だった人達がこちらに向かってきていた。鉄塔の魔族は叶夢達を嘲笑うかのように鳴き声を喚き散らし続けた。
「絶体絶命じゃないですか叶夢くん!」
「なんで呑気に地図なんか見てるにゃ!? 現在の状況をよく見てみるにゃ!」
しかし叶夢はA村周辺 の地形図に目を通したまま全く動こうとしない。
紫以奈がライフルを使って応戦していたが、気休め程度の足止めにしかなっていなかった。
「よし! 指示を出す! 予定を早めて、今から鉄塔広場に向かう。その際に使うのはこのルート。つまり登山道を通って鉄塔広場に向かう」
『ブアアアアアア!』
「来ましたね。氷の部屋」
千夜は五人を覆う小さな氷のドームを作り出し、安全圏を確保した。
「それからどうするにゃ!」
「その際だが‥‥メモの最後に書いたあの陣形で登山道を全力疾走してもらう」
「「まじすか‥‥」」
「身体強化を使えば2時間の登山道を1時間で登りきれる。さぁ、氷のドームが崩れたらスタートだ」
全員は同意すると五角形に並んだ。先頭を叶夢一人。右翼に千夜。左翼に豹助。追ってきた敵を迎撃する為の飛び道具を構えた白鳩と紫以奈がそれぞれ右翼と左翼の後ろについた。
「3」
叶夢が静かにカウントダウンを始める。ゾンビ化した村人達は痛覚が無いのか、自らの手が血塗れになっているにも関わらず氷のドームを叩き続けた。
「2」
全員が魔力を回路に流し込む。これで身体強化を済ませた。氷のドームはひび割れ、決壊を始める。
「1」
登山道の方向を確認し、武器を構え走り出す準備を終わらせた。
(久しぶりの疾走陣形‥‥やば、超楽しくなってきた‥さぁ、ラッパさん勝負と行こうか。お前がその泣き声で俺への鎮魂歌を奏でるって言うなら‥)
「0」
(俺はその泣き声で、俺達の凱歌を奏でてやる)
氷は砕け散った。




