第1話 三度目の正直
初投稿です。
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「はぁ‥はぁ‥」
ここは日本のとある埠頭。昼は船や客の出入りで賑わっているが、夜になれば訪れる船の数や人の流れは少なくなり、昼の喧騒とは対照的に潮のさざめきが耳を安らげる。
「見つけたか!?」
「いや、まだだ‥多分ここじゃない‥他を探すぞ!」
「わかった!」
しかし、そんな音に耳を傾けず休む間もなく走り続ける姿があった。
「はぁ‥行ったか‥」
息を切らした青年は疲れ果ててレンガの壁に寄りかかる。
「にしても油断したな‥俺らしくもない‥」
疲労により痙攣した足はこれ以上動くことを拒んでいる様に見えた。
「しっかし、どうすっかなぁ。久々に日本に戻ってきたと思ったら、変なヤツらに追っかけられるし‥って休んでる暇も与えてくれないのかよ‥」
「そんなことないぞ~。現にこうやって休ませてやってるだろ?」
「ッ! ‥誰だ!」
返ってくるはずのない言葉に青年が腰に帯刀した刀を引き抜こうとする。
「あぁ戦うつもりは無いから」
「!?」
一瞬で反応したはずだった。だが足りない。青年が刀に意識をやった時点で、相手は既に青年との距離を詰め、刀の柄に自らの手を抑え込むように添えていた。まるで時間でも止めていたかのように。
「あんた‥何が目的だよ? 何で俺を捕まえる? というか誰だ?」
暗闇に隠された声の主が青年に近づいたことで月明かりにその姿が照らされる。深緑の髪はうなじの近くまで伸び切っており、服装はポロシャツに黒ズボン。りっぱだったとおもわれる黒い軍服は腰に巻かれ、さながら会社終わりの会社員を通り越して、放課後の学生のような服装した中性的な顔立ちをした20代後半の思われる男が現れた。
「一度に聞くこと多すぎだ。 それと人に名前聞くときはまず自分から名乗れよ」
「よく言うぜ。 俺の事をよく知らないまま捕まえるつもりか?」
「仮にお前が一般人だとして、どこの世界に刀ぶら下げた一般人がいる? お侍さんならとっくに滅んでんだぜ?」
「まず対等に話がしたい。 刀に乗っけた手を退けてくれないか?」
「おっと‥ごめんよ」
男はゆっくりと刀から手を離す。その隙をついて青年が再び刀を抜く。
「おいおい。 意地でも話を聞いてくれないのか?」
「あんた。 知ってて離したよな? そういうのいらつくんだよ‥人のこと舐め切った態度が!」
青年が刀を振り上げ、男は後ろに後ずさる。しかし下げた左足は数センチ動かしただけで壁に当たって止まってしまった。
「あ、やば」
後ろは壁。どちらかに逃げようと背を向けた時点で無事では済まない。よって逃げ場は無い。男が脳内で出した結論はそれだった。
「仕方ないか‥」
「なっ!?」
男は何を思ったか、振り下ろされた刀にそっと触れ、ある言葉を呟いた。
「電撃」
その言葉と同時に刀に電流が走る。その衝撃に耐えかねた青年の手は自然と刀を離してしまった。
「て、てめえ!」
「形勢逆転。ちゃんと油断してくれたな」
男は青年の右手が痺れて動かない間に、地面に落ちた刀を拾い上げ青年の額に突きつけた。
「…」
青年にもはや打つ手は無い。今まで後悔が脳を埋め尽くす。
(どうしてこうなったのだろう。俺はどこで間違ったのだろう。俺はただ、俺が望んだ世界を、彼女が愛した世界を守ろうとしただけなのに)
「やっと大人しくなったか‥」
「そりゃあな。これでようやく死ねる‥」
「こいつほんと人の話聞いてないな..無力化させといて悪いが本題に入ろう」
「は?」
男は刀を突きつけたまま、話を続ける。
「身長164cm。長めの黒髪に紅いコートを着た赤い目の青年。報告書に書いてあった条件が合いすぎて、答えはもうわかっているが一応名前を聞いておくよ」
ここまでバレて今更『違います。』と言うのは自殺行為というものだろう。そう思うと青年は静かに自分の名前を吐いた。
「刀堂 叶夢だ。お前らの探してる『紅い死神』はここにいるぜ」
言い終えると同時に男は剣を下げて、少し笑いながら言い放った。
「会えて嬉しいぜ。早速で悪いが、一緒に来てもらう。近くに車を用意させたんでな」
遠くの方で車のクランクション音が鳴り、音の鳴った方に青年と男は歩きだした。
車の中は運転席と後部座席が仕切られており、延長し広げられた後部座席部分に向かい合わせに備え付けられた椅子やテーブル等のくつろぐスペースなどがあった。
「野良の征魔士を連行する車にしては、随分とVIP待遇ですね」
少し笑いながら呟くと、男は
「連行する? 馬鹿言え。ニートの再就職先への近道にパトカーを出す奴があるか」
と嘲笑しながら言った。
後ろの席に男と叶夢が乗り込むと、運転手は無言でアクセルを踏み車を走らせた。
流れる夜景を眺めながら、叶夢はこれから何処に向かうのかを考えていた。無駄な考えだとしても、頭を回転させていなければ落ち着かなかったからだ。
「この車。何処に向かってるんですか?」
何処に向かうのか。叶夢の中では結論が出ていた。あくまで答え合わせとして聞き出した。そして男は反対側の景色を見たまま、少し楽しそうに言った。
「征魔連合軍日本支部。名前ぐらいなら聞いた事あんだろ?」
「名前は聞いたことあるが詳しくは知らん」
「仕方無い..軽い説明ぐらいはしてやるよ..」
男は備え付けの冷蔵庫から取り出した炭酸水を開け、それを飲み喉を潤すと、再び話を始めた。
「13年前‥2003年に起きた征魔戦争はわかるな?」
「あぁ‥人類最初の魔族侵攻だっけか?」
「そう。あの頃、戦争に参加した征魔士のほとんどが野良だったが故に勝てる戦にも勝てなかった。そして戦時中にそういった征魔士をまとめるために出来た組織が前身になってる」
「へぇ‥」
「自分から聞いといてあからさまに興味無さそうな声を出すな‥」
「それで、俺が連れてこられた理由は?」
「人手不足でスカウト頼まれたから、外を見回りしてたらとんでもないお宝に巡り会えたものだ」
(さらっと誘拐まがいな事してないか?)
叶夢は脳内でツッコミを入れつつ呆れながら答えを返す。
「何で俺なんかに‥だいたい俺は」
「征魔士をやめたから、オレには関係ない話だ。でも思ってるのか? 」
男は叶夢の言葉を遮るように言った。
「今のご時世。魔族を狩り尽くすには、この世の全ての征魔士を集めても足りないぐらいだ。だからこうやって走り回ってるんだ。
それにお前のことはあいつらから頼まれたからな..」
「?‥今なんて‥」
「気にすんな。俺の事情だ」
「そうか‥なるほど納得したよ。だからアンタみたいな人がこんな下っ端がやる様な仕事してるのか。
征魔士連合軍日本支部最高司令官。
神座 頼光さん」
(神座 頼光。征魔士の中でその名を知らない者はいない。征魔士連合軍が出来る前に「十二帝」という十二人の征魔士を従えて、魔族狩りを行い、ある記事では1000の魔族の軍をたった一夜で一人で壊滅させたという。その他のケタ違いの功績があってか、訓練校卒業と共に征魔士連合軍に入り、現在の立ち位置に落ち着いたそうだ。
実際会ってみると、なんか雰囲気が軽い・・)
「悪かったな。どうせ俺は下っ端仕事しか貰えませんよ」
「なに拗ねてんだよ」
「そりゃ年下に痛いところ突かれたら誰だって拗ねるだろ!」
「そうだけど‥せめて拗ねるなら人の見てない所でやれ!」
神座と叶夢は数分でうちとけ合いつい数分前まで争っていたとは思えないほどの会話をしながら車内に居る時間を潰していた。
「でもまぁ何か安心したよ。丁度リセットしたいと思ってた時期だからな」
ふと叶夢が心の内を漏らすと、神座は少し驚いたような顔を見せて、まだ笑顔で返した。
「へぇ、心機一転てか。なら話は早い、もう着いたから車から降りろ。正式な手続きをすすめてやる」
止まった車から降りると、目の前にあったのは鉄筋コンクリート作りの大きなビルだった。東側には一等地に立つマンションのような宿舎。西側にはガラス張りによって中のウォーキングマシンや巨大なダンベルなどが見えるトレーニング施設。最初のビルの後ろにはコロシアムの様な建物まで見えた。
「ようこそ。征魔連合軍日本支部へ。広さはだいたい東京ドーム四つ分を正方形に並べたのと同じってところか‥」
「ほぉ‥金の無駄づか」
「思っても言うな」
「あんたも思ってんじゃねえか」
俺は頼光さんの後を歩き、征魔連合軍へ足を踏み入れた。
「刀堂 叶夢。16歳。身長164cm 体重60kg。好きな食べ物 ドライフルーツ。嫌いな食べ物 甘納豆 干肉…」
(俺のデータだろうか? だとしたら何故好きな食べ物まで書かれてるのだろ‥ていうかどうやって調べた‥)
「ふむふむ‥血に飢えてる以外は優秀な人材だな。ちなみにうなじフェチ‥性癖は」
「ちょっと待て! 本当にどうやって調べた!? 」
「うわ‥これは理解者が少ないな‥ドンマイ」
神座の顔が苦笑いに変わる。叶夢にとってはその哀れみの反応が何よりも心にきた
「一応再確認する‥征魔連合のチームの方式は基本的に五人で1小隊でいいんだよな? 」
「そうそう。話が早くて助かるぜ」
「仕事は?」
「魔族の討伐任務は俺から回されたものと自分から受ける二種類があるが‥基本的には俺が仕事を回す形でやってる」
「報酬は?」
「任務が終わり次第振り込む形だ。基本的に給料日とかは無い」
「わかった。俺の配属される部隊は?」
「あぁ‥丁度余りがお前を合わせて五人になったグループがあるから第31小隊な」
「31‥いかにも余り物の寄せ集め感が否めないな」
「まぁ今のところはな。これを見てくれ」
神座は自らの机の中から1枚のプリントを叶夢に手渡す。
「昇格制度?」
「功績によっては小隊の数字が上がっていく。もちろん待遇も上がるし、危険度の高い任務にも挑みやすいようにもなる」
「なるほどな。随分な高待遇じゃないか」
叶夢が渡されたプリントを隈無く読むのを横目に、神座は鼻歌をうたいながら二つの珈琲をテーブルの上に置き、うち一つを叶夢に差し出した。
「お、サンキュー‥」
「お前さ‥そろそろ敬語使えよ。今日から一応俺の部下だぞ?」
「別にあんた以外居ないんだからいいだろ‥」
「人がいる時は仕方なく使ってやるって判断でいいんだな? もし使わなかったら‥」
「なにか罰則でも?」
「障害残るレベルで電気流す」
叶夢は驚きのあまり口に含んだコーヒーを吹き出す。
「ゲホッゲホッ‥‥怖っ!」
「なーんてな。ジョークだよ」
「その言葉はそんな真顔とセットで放たれる言葉じゃないぞ?」
叶夢は察する。この真顔と声のトーン。たぶん使わなかったら本当に殺られる。
「わかり・・ました」
「やればできるじゃない・・えらいえらい」
神座は慣れない手つきで叶夢の頭を撫でる。しかし本人が撫でてるつもりなだけで、実際は髪をわしゃわしゃされているだけだった。
「あああ、やめろ! 髪わしゃわしゃすんな!」
「あ」
「‥しないでください!」
「まだまだ習慣がいるなぁ‥」
神座は名残惜しそうに手を離す。叶夢も手が離れたのを確認するとすぐさま神座から離れた。
「ああそういえば」
「まだなんか質問があるのか? 俺も夜遅いから寝たいんだが‥」
「その寝る場所についてだ‥ですよ」
「強制した俺が悪かった。俺だけの時は敬語じゃなくていいぞ。むしろわかりにくい」
叶夢は一旦歯がゆそうに黙り込み、もう一度最初から言いたいことを述べた。
「俺の寝る場所何処だよ?」
「第31小隊の部屋だよ」
「いやだからそれがどこなんだよ!?」
「あぁ‥そこ」
神座は窓の外を指さした。意図が汲み取れなかった叶夢は神座を二度見した。
「テントで寝ろと? それとも飛び降りて永遠の眠りに‥」
「あほか。東舎609号室だ」
叶夢が神座の窓の外を指差す方向に目を向けると、入り口から見えた宿舎が見えた。
「最初からそう言ってくれ‥そこに俺の仲間もいるって訳か‥全員?」
「もう四人揃ってるだろ。と言っても、みんな寝てる頃だが」
叶夢がふとテーブルの上のデジタル時計を見てみると、AM2:00と表示されており部屋の外にも意識を向けると物音1つせず、まるで廃墟のような静かさがあった。
「以上が今日の話だ。今日はもう休め。部屋に案内してやる」
叶夢は神座に連れられ、東宿舎六階の一番壁際の部屋の前に来た。他にも話をされてはいたが、叶夢は道を覚えることや施設内の設備などを見ることに集中して聞く耳を持たなかった。
「久しぶりの屋根の下でゆっくり休めよー」
「うーっす」
叶夢はこれからの期待や不安。その全てをこの目で視るためにドアノブ手を掛けて、部屋に足を踏み入れた。
ご既読ありがとうございます!
実際この原稿自体は去年の八月には出来ており、その時期に投稿をしようと思ったのですが、なろうの使い方が理解出来ず放置してしまいかなり遅れてしまいました。il||li_| ̄|○ il||li
不定期更新にはなりますが、ぜひ続けて呼んでもらえるとうれしいです。
(*´∇`)ノ ではでは~