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転生魔術師の建国王覇譚  作者: うるふパンツ☆ぴこまる
第1章 三年ぶりのメッセージ
4/11

4 ☆

 ♦︎ロキルside♦︎


 族長のヴォリスを納屋にぶち込まれるのを見届けた後、ロキルは一人、身体にこびりついた血液を川で洗い落としてから、村の出入り口まで舞い戻っていた。

 帝国兵士の無残な亡骸は既に、無数の小蝿が集って腐敗臭を漂わせていた。ローウルフの鋭い嗅覚を持つロキルは、顔をしかめながらも一体の死体に歩み寄る。


「……さて、始めるとするか」


 そう呟いて帝国兵士の亡骸のそばに屈み込んだとき——後方の草木が揺れ、草陰から白毛のテュナがひょっこりと顔を出した。


「ロキル?そんなところでなにしてるの?」

「ああ、テュナか。ちょっと死体の処理をしょうと思ってね。また汚れるかもしれないし……。キミは皆んなと一緒に族長のヘソクリでも楽しんでくると良いよ」

「でも皆んなロキルを探してるよ。今回の大手柄はロキルだって」

「……いや、俺は良いよ。今のうちに死体を片付けておかないと、いろんな病気が村中に蔓延しちゃうから」

「そうなんだ……。あ、じゃあ私も手伝うよ」

「え……テュナ?」


 大量の血を染み込ませた大地を、臆することなく踏み締めてやってくるテュナ。


「い、いや、ここ凄い臭いし……」

「大丈夫、鼻で息しないから」

「そうは言ってもな……」


(困ったな……。まさかあんな作業をテュナの目の前でする訳にはいかないし……)


 ロキルは、そばで腰を下ろして「なにすれば良いの?」と尋ねる彼女へ思い切って打ち明けた。


「ごめんテュナ。これから奴らの心臓を取り出そうと思うんだ」

「……えっ?」

「流石にそんなところ、キミは見たくないだろ?」

「で、でも……心臓を取るって……さっきみたいに引き千切るの?」

「いや、そこまで乱暴にする気はないけど。もうあんなとこ見たくないでしょ」

「見たくないけど……でも、どうして心臓を取るの?もう死んでから随分時間が経ってて、魔石は使い物にならないと思うんだけれど」


 テュナの疑問は正しい。死んでから時間が経過した心臓は腐敗し、黒い石ころへと姿を変えてしまう。そんなものに使い道はなく、持っていた所でなんの価値もないのだとされているからだ。

 だが、ロキルの口から出た言葉はその真逆の答えであった。


「いや、実はまだちゃんと利用価値があるんだ」

「へ?そ、そうなのっ?でも……それじゃあ何に使うの?」

「なにって、そりゃあもちろん魔石として使うんだよ」

「え、ええっ?で、でも……」

「驚くのは無理ないと思う。けど物質っていうのはそう何度も、簡単にコロコロと本質を変えるものじゃないからね」

「う、うぅん……。私にはロキルの言ってることが良く分かんないよ」


 耳をペタンと折り唸り声をあげるテュナ。彼女が悩む際に良くしているクセだ。それを見たロキルは朗らかな視線を送る。


「まぁ難しい話かもしれないね。……て言う訳で、テュナがいると作業に集中できないから、出来れば皆んなのところへ戻っていてほしいんだ」

「うーん……分かったよ。じゃあ先に帰ってるね。ロキルもそれが終わったらちゃんと来てよ。皆んな待ってるから」

「うん、必ず行くよ。……あ、それと皆んなにここには来ないように伝えておいて。その時は魔石の話はしないように頼むよ。まだ皆んなには秘密にしておきたいから」


 キオルの時に言い忘れていたことを思い出し、その反省を活かしてそれだけ言い加える。


「うんっ、絶対内緒にする!その代わり、皆んなより先に魔石について教えてくれない?良いでしょうっ?」

「……分かった。約束するよ」

「ふふっ良かったぁ。じゃあ私、もう行くね」

「ああ、気をつけてな」


 村の中へ帰って行くテュナの後ろ姿を見送り、彼女の気配が周囲から完全に消えた頃……。ロキルは安堵の溜息をついて作業に取り掛かるのだった。



 ♦︎


 死体から心臓を取り出す作業を終えたロキルは、彼らの使える装備品を剥いだ後、彼らを一箇所に纏めて積み上げ焼却した。死体が骨と灰になったのを確認してからその場を後にする。

 その後は川で出来るだけ臭いを落とし、テュナに言いつけられた通り皆んなの所へ合流することにした。


「ようようよう!英雄の登場じゃねぇか!ハハハッ!」

「ったくぅ〜、おっせぇんだよロキルぅ!俺たちもう五本目だぜぇっ?」

「まぁヒーローは遅れて来るって言うから別に良いだろ。っていうかキオル、お前飲み過ぎだぞ」


 ロキルは目の前でラッパ飲みしょうと酒瓶を咥えたキオルから、酒を奪い取って嗜める。

 ちなみに、ローウルフは13〜14歳頃から立派な村の一員として認められ、大人と同じように扱われるようになる。したがって、キオルやロキルがお酒を飲んでも誰も咎めるものはいない。


 ロキルが皆んなの集まる広場へ赴いた頃は、もう太陽が西へ沈もうとしていた。そう考えると、昼間から酒を飲み続けているこの現状はあまりよろしくない。


「ほら、これでも食ってなよ」

「……なんだぁこれは?」


 ロキルから乾燥した四角い茶色の食べ物を手渡されたキオルは、一口かじってから目を丸くして大きな声をあげた。


「——っ!?ぬぅおおおおおっ!?めちゃうめぇ〜っ!!なんだこれ、なんだこれぇっ!?」

「それはハチミツをビスケットってやつで挟んだものだな。帝国の一般的な菓子なんだとさ」

「い……一般的だって!?て、帝国の奴らは……毎日こんな美味いもん食ってんのかっ!!」

「ははっ。流石に毎日かは分からないけど、家庭で簡単に作れるから、そう思っておいて間違いじゃないね」

「ふへえぇっ……!」


 酔いから覚め、目を輝かせてビスケット菓子を眺めるキオルを他所に、ロキルもビスケットを一つ手に取って口の中へ放り込む。


 ゴリッゴリッ、と少し硬いビスケットを噛み砕くと、間に挟んでいた濃厚なハチミツが口の中にとろけ溢れた。


(うん、確かに旨い)


 そんな感動に乏しい感想を抱きながらビスケットを飲み込むと、未だビスケットをしげしげと眺めるキオルへ視線を移した。


「なぁキオル」

「んんっ?……なんだ、ロキル?」


 すっかり酔いの覚めたキオルは、ロキルが放つ真剣な眼差しを受け、自然と顔を引き締めて見つめ返した。


(流石、10年以上伊達に親友してきただけのことはあるな)


 ロキルはそんな彼に満足してから、一息ついて口を開いた。


「ちょっと聞きたいんだけどさ、キオルは今の生活に満足しているのかい?」

「今の生活?……ああ、人間に支配されてからの話か」

「ああ。正直な話、お前はどう思う?」

「どう思うって……そりゃ良い思いなんてしねぇよ。それに母さんも親父もリィロも殺されちまった。次は自分かもしれない……」

「………………」


 ロキルがなにも言わないのを見越してから、キオルは姿勢を正して向き直った。


「なぁロキル」

「うん?」

「お前、いつからあんなに強くなったんだ?」

「さぁな……。気がついたらいつの間にかあーなってたんだ」

「……本当か?本当は力を隠していたんじゃないのか?」

「………………」


 もしロキルが力を隠していた場合、ロキルはキオルの家族をみすみす見殺しにしたということになる。

 彼の言いたいことを理解したロキルは、彼の目を数瞬も晒さずに見つめる。


「本当についさっきのことなんだ。突然自分でも良く分からない声が聞こえてきて……そしたら急に力が湧いてきたんだ」


 ロキルは本当のことを言いながらも、あれから色んな知識が雪崩のように頭に入って来たことは口にしなかった。


自分がこれまでに幾度も転生をして来た魔術師だなどと——。そんなことは、決して誰にも知られてはいけないことだったからだ。


「そうか……そう、だよな……。はは、悪いな疑っちまって、オレはお前の言うことを信じるぜ。だって、それだったらお前の家族だって助けられたんだもんな」

「そうだな……。早くこの力を手に入れていれば良かったのに……」

「でもさ、テュナは助けられたわけじゃん?そう考えたらさ、良かったなって思うしかねぇよ」


 満面の笑みを浮かべて我がことのように喜ぶキオル。ロキルは、つくづく良い親友だなと感心した。自分が逆の立場ならば「なぜお前だけなんだ!」と言う自身がロキルにはあった。

 ……いや、本当はキオルだってそう思っているのかもしれない。だがそれを言わないとすれば、それはきっとロキルを傷つけまいとする優しさではなく、最低のことを言うまいとする、彼の心の強さなのだろうとロキルは思った。


 二人の間にしんみりとした空気が流れ、周りで騒ぎ回る村人たちの声だけが辺りを支配する。

 しかし、そんな沈黙を破ったのはキオルの方だった。


「ま、過ぎたことをやいやい言っても始まらねえ。今日一番疲れたのはお前だろう……。さぁ、一杯やろうぜ?」

「そうだな。そうしよう」


 それからロキルとキオルが酒をチビチビと飲んでいると、テュナが二人の間に割って入ってきたので、彼女を交えた三人で酒瓶を一本開けることにした。


 村中がお祭り騒ぎで眠らない中、普段の疲れで憔悴していたロキルたちは、輪になって群がる村人たちの隅で、仲良く寄り添って眠るのだった。

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