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2 ☆☆

 ♦︎盗賊の頭領side♦︎


「頭ぁ、お頭ぁ!」


 ローウルフの集落を偵察させていた斥候の子分数十人が、顔を綻ばせて意気揚々と帰って来る。


「奴らの様子はどうだった?」

「村ん中は静かなもんでさぁ。昨日と一緒で、徘徊してる帝国兵の影すらねぇみてぇです」

「クックック、帝国の奴らめ……。オレたちが襲撃に懲りたと思い込んでやがるな?こりゃあとんだ絶好の狩り日和じゃねぇか!」

「今攻めれば間違いなく成功しやすぜ!」

「おい野郎ども!これまで奴らから受けた屈辱を果たしてやれ!フハハハハハッ!」


 頭領の高笑に釣られ、総勢三百人強の手下が一斉に咆哮をあげた。目をギラつかせて興奮している彼らを見守っていた頭領は濃い笑みを浮かべて頷く。


(よし、士気は充分に高まった。このまま一気に攻め立てて暴れてやる)


 ふつふつと闘気が湧き上がってくるのを感じていると、頭領のもとへ下卑た笑みを浮かべた手下がすり寄って来た。つい先日、仲間に加わったばかりの痩せた男である。


「頭ぁ、ふへへ!」

「なんだ……?」

「ふへ!オレが持って来た情報通りでしょう?」

「……ああ、そうだな。全て終わった暁には然るべき褒美をくれてやる」

「ふへ!ありがとうございます。で、そこで折り入って話があるんですが……」

「なんだ。これくらいで幹部になりたいなどと言うつもりか?」

「いやいやいや、そりゃあトンデモねえ!」

「ではなにが望みだ、言ってみろ」

「へぇ。あの亜人の娘……オレに譲ってくれやせんでしょうかねぇ?」

「亜人の娘?ん……ああ、アレのことか」


(確かクニクルス人のガキが居たな。殴っても反応しないから、直ぐに飽きたんだったか……)


 頭領は、すっかり忘れかけていたその存在を思い出してようやく首肯する。


「ふん、あんなのが良いんなら別に構わん。好きに使え」

「ふへへ……ありがとうございやす」


 手下はニンマリと笑みを浮かべると、頭を下げて襲撃の準備に備えるべく走り去っていった。頭領は彼の背中を目で追って嘆息する。


(近頃の若い新人は直ぐにつけあがる。ああいうのは後々面倒な奴になるが……。まあ、成果がなければ後で殺してしまえば良いだけのことか)


 せめて今だけでも良い思いをさせてやろう。と、頭領は納得した。


 ——そして、そうこうするうちに襲撃の準備が瞬く間に整い、頭領は手下たちに向かって号令を掛けた。


「さあ、亜人狩りの始まりだ!一番多く仕留めた奴を幹部にしてやる!かかれ野郎どもおぉっ!!!!」

「「「「うおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!!」」」」


 鬨の声を挙げて一斉に村の入り口から突入を開始する。が、しかし……。


「——ふぐぇっ!?」


 先陣を切って走っていた一人が、突然なにもないところで盛大に真横へ吹き飛んでいった。


「……は?」


 そのありえない現象を目の当たりにした者たちは、自然と足を止め、血を流して倒れている仲間を呆然と見つめる。

 倒れた仲間の頭からは、弓のやじりらしき突起が飛び出していた。


「な、なんだ?なにが起こっ……グゲッ!?」

「あがぁっ……!?め、目がぁ!目がっうわぁぁぁっ!!!!」


 オロオロと狼狽えていると、盗賊の首に命中した矢が貫通し、後方にいたもう一人の男の眼に横から深々と突き刺さった。彼の悲鳴を聞いた盗賊たちは弾けるように意識を取り戻す。


「こ、攻撃だ!こっちの茂みから弓で狙ってるんだ!皆んな散らばれぇ!!」


 盗賊たちは身を屈めて散開するが、恐ろしいことに矢は次々と彼らを討ち取ってゆく。


 ヒュン、ヒュン——と頭領の両耳を掠めた。その後に轟いた悲鳴を理解し彼は振り返るのをやめる。


「なぜだっ!帝国の奴らは眠っているんじゃなかったのかっ!?」

「ほ、本当に見当たらなかったんですよぉ!オレたち嘘なんて……あぎゃああああっ!!!!」


 頭領が掴みかかった手下が、血反吐を吐いてこと切れる。


(くそぉ……!!なぜだ……なぜこんなことになっているんだっ!?)


 手下の亡骸に潜り込み、降り注ぐ矢の雨から身を隠す頭領は、そう激しく歯ぎしりするのであった。

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