第15話②
龍神町の上空で、プアが赤くなった空を見上げていた。
ぐぅ……!!
ここ最近、何かを食べる度に余計に空腹に襲われるようになった。ガイアに勝っていれば空腹も嬉しいものなのだが、負けているのでイライラに変わっている。
今日もロストアイランドから大きな風船に乗ってやって来たのだが、頭を動かせば腹が減るので今は心穏やかに空だけを見ていた。
少し前のロストアイランドでの事を思い出した。
フラフラとした足取りで帰ったプアは、倒れ込むように椅子の座り、机に体を投げ出した。
「おいプア……!!」
アダムがたまらず注意したが、リガースは目で制止した。
「どうしタ、今回ハ失敗しタのカ?」
パワードの言葉に、プアは黙って首を横に振った。
「ナラ、何でフラフラナんダ?」
「……お腹が減ったんだよ」
「ハァ?アんナに食べタのに、マダ足りナいってカ」
顔をあげたプアを見て、パワードは驚いていた。最初のときと比べて、プアの体が痩せ細っているのがわかったからだ。その理由をリガースが代わりに説明し始めた。
「プアは、食べれば食べるほど空腹になる。いい調子で力を溜めているようだな」
「リガース様、惨めな姿を見せて申し訳ありません……」
「お前は自分の力を最大限に発揮している。何も恥じることはない」
「ありがとうございます……。そろそろ、人間達が困る頃だと思います。次はもっと大切な物を奪ってやろうと思います」
「それは、楽しみだ……」
そして、龍神町に戻ってきたのだが、リガースの言った「楽しみ」という言葉に、少しだけ落胆の気持ちが含まれていたのに、プアは気付いていた。
自分の不甲斐なさにイライラした。どうすればいいのか、考えてみるのだが。
ぐぅ……!
腹が減ってしまう悪循環が生まれるのだ。
「機械人形め……」
この世界は何かがおかしいと、プアはずっと思っていた。綺麗な空、緑の大地、青い海、プアから見ると幻のような光景だが、現に存在しているのだ。
だが逆に、作り物のような景色に苛立ちも覚えた。
幻だ。現実は甘くないのだと自分に言い聞かせ、プアは風船の上で準備を始めた。
風船と言っても、正体はいつも背負っている大きな白い袋。今日は中身を小さくするのが面倒だったので、そのまま入れてきた。
風船が高度を下げ始めると、地上の音が少しずつ聞こえてくる。何か騒いでいるようだ。
「よっと……!」
袋に手を掛け、勢いよく剥ぎ取ると、中に入っていたものが重力に従い始め、ドスンと地上に降り立った。
丸い体に背中に大量に生えた針。正体は、背中に大量のUSBが刺さったハリネズミだった。
今回のプアの目的はいつもとは違う。今までは食べ物、エネルギーといった、直接的に困るものを奪ってきたが、今日は空腹を満たす以外にすることがあった。
「やれ」
逃げ惑う市民を余所に、ハリネズミの背中から大量のUSBが発射された。USBはザクザクと地面や建物に刺さると、光り始める。すると、プアのもとに、情報と言う名の食べ物が送られてくるのだ。
「ふぅ、やっと落ち着いた」
空腹を満たすと同時に、プアは流れてくる街の情報からガイアの情報を探そうとしていた。
どんな情報でもいい。リガースに有益な情報であれば何でもよかった。
「くそっ、見つからない……」
当然、アースベースも対策をしているため、普通のパソコン等を探しても見つかるはずもない。しかし。
「やっぱり、リガース様の言う通りだ……!」
ビックデータを探ってみた結果、以前の地球を滅ぼした原因となるもの戦争や病気、環境などが起こっていなかった事がわかった。
それを知り、プアは苛立ちを覚えた。やはりこの地球は幻なのだと。
すると、プアの後ろから男性の声が聞こえた。
「プア、やめるんだ!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには私服姿の青山が立っていた。走ってきたのだろうか、額には汗も滲んでいた。
「あ、お兄さん!僕に会いに来てくれたの?」
「もうこんなことはやめるんだ!」
青山の顔はとても必死で、プアにしてみればどうしてそんな必死なのと笑うしかなかった。
「なんで?僕たちが生きていた世界を機械人形は壊したんだよ?」
「この地球では駄目だって言うのか!?」
「ダメに決まってるでしょ?こんな機械人形の都合だけで作られた世界なんて、人間が生きる価値なんかないよ」
「そんなことはない!」
青山の真っ直ぐな目が、笑っていたプアの視線を少しだけ惑わせた。
「この世界だって、まだまだ未熟だ。俺は世界を回って見てわかった。助けを求めている人はまだまだいる。ガイアは、俺達と未来を創っていこうとしているんだ!」
一瞬でも心が揺れた自分に苛立ちを覚えながらプアは鼻を鳴らした。そして、突然ハリネズミから降りてきて、青山に近づいた。
「じゃあ、僕らも助けて求めている人だったらどうするの?」
「……もちろん助ける!」
「じゃあ僕らを助けるために、仲間になってよ……」
右手を差し出したプア。しかし青山は、その手をじっと見たと思ったら、再び目線を合わせた。
「……それはできない」
「なんで?」
それは……、と言いかけたその時、空から一体のロボットが降りてきて、青山を連れていってしまった。
「ちっ!青い機械人形かっ!!」
「大丈夫青山さん?」
「ヘルメスっ!戻ってくれ、俺はまだ言わないといけないことがあるんだ!」
「危ないから駄目だよー」
そうして青山は近くの通りまで運ばれた。
「言いたいことがあるのはわかるけど、そういうことはみんなで言わないとね。ほら、後ろ」
青山が後ろを向くと、アースベースの機動部隊の隊員達が心配して集まってきてくれていた。
「みんなの意見聞いたんでしょ?隊長ならまず、その意見をまとめなきゃ!」
背中を押された青山は、仲間を見た。
先日の発電所での件で、隊の指揮が下がったのはわかっていた。そこで隊長である青山は、隊員達一人一人に意見を聞いていたのだ。
そこでわかったのは、誰もがプアの姿に動揺し、自分のやっていることが不安になったという事だ。
青山はどうしたらいいか考えた。そして今日、やっと自分なりの答えが出たときにプアに出会ったのだ。
だから、その答えは青山だけのものだった。
「そうだった……。俺は急ぎすぎてた」
「じゃあ隊長、どうするの?」
ヘルメスに言われた青山は、今の部隊をまとめている隊員の肩をトンと叩いた。
「あとは任せる。それと、業務連絡だ。明日朝に話があるから、集まってほしいとみんなに伝えてくれ」
敬礼をした隊員に、青山も応えその場所から離れていった。
それを見つめていたヘルメス。周りを見ていた刀耶の声が響いた。
「ヘルメス、後ろっ!」
「はいよっ!」
咄嗟に反応したヘルメスは、飛んできたUSBを受け止めた。手で止められる位の大きさだが、勢いもあって何個も相手にはできない。
「プア、邪魔しないでもらえるかな。今、人間の成長が見えたんだよ?」
それでもヘルメスは弱味を見せたくなくて、平然を装った。
「青い機械人形、そっちこそ僕の邪魔しないでよ。もう少し話してれば、あの人間は僕らの仲間になってたのに」
「それはないよー。わがままを許すのは、単なる同情だからね。本心なわけないじゃん!」
「ドラッグの時もお前はそんな調子だったな……
いいだろう、やれっ!」
ハリネズミからさらなるUSB端子が飛び、ヘルメスを襲う。しかし駆けつけているのは一人じゃない。
「ゼウスっ!!」
「了解っ!」
晴れている空に稲光が光り音とともにUSBが落ちていく。煙を上げて落ちるUSBは、まるで雷を受けたように黒く焼け焦げていた。
ヘルメスの視線の先、ハリネズミの向こうから一両に新幹線がこちらに向かってきているのが見えた。ゼウスだ。
「チェーインジ!」
金色を基調とした一両編成の新幹線は、双子の弟と同じく細いフォルムを残しながら、左肩に特徴的な鼻を背負いながら変形した。
「ボルトハンマー!!」
腰から取り出した黄金のハンマーを振ると、稲妻がヘルメスの受け止めていたUSBに落ちた。
ーーーーーーーーー
「やっぱりゼウス兄は強い。そう思うだろ?」
「あ、あぁ……」
モニターを見ていたクロノスが元春に話しかけた。
蒼井道場から突然、アースベースに招待された元春は、職員が慌ただしく動いている所を見せられて、ガイアやヘルメス達と出会って、この部屋で映像を見せられていた。いつの間にか刀耶がいなくなっている事にも気付いてはいなかった。
「この機体は俺が創ったんだ。やはりゼウス兄には金色が似合う!!」
とりあえず挨拶は済ませたのだが、それでは全く説明になっていないのは明らかだ。ガイアは少し困っていたが、とりあえず話を進めようと思った。
「黄瀬川君、突然呼び出してすまない。実は君に、私達と一緒に地球を救ってもらいたいんだ。そして、ゼウスかクロノスのどちらかとパートナーになってもらいたい」
「は、はぁ……」
考えていたプランなど最早、破り去られた設計図となのだが、何故か烈は自信満々な顔をしていた。
「いいぞゼウス兄、そこだ!」
その中でクロノスは一人、兄が戦っているのを興奮しながら見ていた。その様子を、元春は不思議そうに見ていた。
「今戦ってるのは、兄貴なのか?」
映像に映るゼウスを見て元春が聞いた。
「ん?そう、俺達は双子だ!」
「仲がいいんだな……」
顔を少し暗くした元春にクロノスは顔をキョトンとさせた。
「何言ってんだ?俺たちは今、喧嘩しているんだ」
「はっ?」
クロノスは、絶賛喧嘩中の理由を話始めた。クロノスはゼウスに前に出てほしい。ゼウスはクロノスが下がるのはおかしい。自分達の悩みと似ていると元春は思った。
「俺がそれを言ってもゼウス兄は否定するんだ。何でだ?」
似ているからこそ、答えもなんとなくわかる気がしていた。
「それは、兄がお前も凄いと思っているからだろ?」
「いやいや、俺よりゼウス兄のほうが凄い」
「お前もあんな風に戦えるんだろ?じゃあ同じ位じゃないか」
「いいや、ゼウス兄はあんな相手ちょちょいのちょいだからな」
二人の関係は、双子的に言うと磁石のN極とS極なのだが、性格的にはN極とN極なので反発しているようだ。
「いや、それだと前に出ない理由になってないじゃないか!?」
「俺が前に出たらゼウス兄の邪魔になるだろ?!」
「そんなことない!兄貴だってお前に前に出てほしいと思ってるはずだ!!」
「いいや、俺は強いのにいつも静かにしてるゼウス兄には、どんどん前に出てほしいんだよ!」
一歩も引かない二人。そして言いたいことを言った二人は、こう言って顔を背けた。
『この、わからず屋っ!!』
端から見ると、二人はまるで性格の似た双子のようだ。
その時、元春のスマホが鳴った。
見ると、隆景から忙しいから手伝ってほしいとのメールが届いていたのだ。
「何だよ、誰からだ?」
「弟だよ」
「お前にも兄弟がいるのか?」
メールをじっと見ていた元春に、クロノスも画面を覗き込んだ。
「あぁ。お前と同じ双子だよ」
「相手は弟か?」
「そうだよ」
「なら話が早いっ!」
クロノスは笑顔で手を打った。
「よし、じゃあ今度来るときにその弟を連れてこい!お前の弟なら俺の言ってることがわかるはずだ!」
得意気に鼻を鳴らしたクロノスに、元春もムカッとした。
「じゃあ、お前もそのゼウス兄とかいう奴を連れてこい!俺の言ってることがわかるはずだ!」
再び顔を合わせた二人は、ガイアの仲裁もあって一旦収まり、次の休みにお互いの兄弟を連れていくと約束し、元春は烈と一緒に帰っていった。
ーーーーーーーーーー
「ボルトハンマー!」
ゼウスのハンマーから雷が迸り、襲ってくるUSBの針を打ち落としていく。
「キリがない……」
ヘルメスも弓を使って応戦するが、打ち落としてもすぐに新しいものがハリネズミの体から出てくるのだ。
「こんなときにクロノスの氷があれば……」
「だから早く仲直りしてっていってるでしょ!?」
ハリネズミの上では、プアが情報を整理していた。
あまりいい報告は出来そうにないが、この調子でいけば、機械人形二体を倒せると踏んだプアはハリネズミにもっと出せと命令した。
「ふぁああ……」
最初はすぐに力尽きるだろうと思ったプア。飽きてきたのか大きな欠伸をした。
「機械人形ーまだー?」
「まだって、こんな攻撃で僕達を倒そうって言うほうがおかしいでしょ?」
「とか言いながら、一生懸命動いてるくせにー」
プアはすでにわかっていた。そろそろ限界だろうと。そしてヘルメスも、意地でも弱いところは見せないようにしていたが、そろそろ打ち落とすのも限界だった。
(そろそろなんだけど……)
すると、空を飛んでいたUSBの動きが止まった。
動きが止まったと言うが、ハリネズミの攻撃は続いている。しかし、ヘルメスやゼウスに飛んでくるUSBが極端に減ったのだ。
「待たせたな」
「ユピテル!」
「民間人の避難は完了しましたよ」
「ありがとうメルクリウス!」
三羽の鳥と一緒に、金色の角を持った白色の牡牛が上空におり、飛んでくるすべてのUSBを落としているのだ。
「邪魔が増えたか!」
プアの視線が、一瞬空に引かれた。
「ヘルメス兄、今のうちに!」
「オッケー、いくよ刀耶!」
「うん!」
『エアロコンビネーション!!』
変形したヘルメスが三羽の鳥のもとへと飛んでいく。
「しまった。ドラッグを倒したロボットになる気だな!そうはさせないっ!」
「それはこっちのセリフだ。ユピテル!!」
「おう!」
ハリネズミの攻撃がヘルメスに向いたことで、今度はゼウスが自由になった。
牡牛が降りてくると、ゼウスは持っていたハンマーをユピテルの首筋に組み込んだ。
「チェンジ、トールハンマー!!」
ゼウスの声に応えるように、ユピテルの体は巨大なハンマーへと変形していく。脚だった部分を掴んだゼウスは、重たそうに肩に担ぐと、大きく振りかぶった。
「サンダーステップ!」
一瞬のうちに地上からゼウスの姿が消えた。そしていつの間にかヘルメスとハリネズミの間に入り込んだるのだ。
「いつの間に!」
「マキシマムボルトォ!」
電気が溢れる巨大なハンマーを重力のままに振り下ろすと、飛んできたUSBを次々の爆発させていく。
「このまま潰す!」
「やばい、丸くなれ!」
勢いそのままに、ゼウスがハリネズミへとハンマーを進めるのを見て、咄嗟にプアはハリネズミから離れた。
プアの命令通りに丸くなるハリネズミ。背中のUSBが体全体を覆い、ガッチリと固まった。
衝突する両者は、どちらともミシミシと音を立てながら空と大地に力を逃がしていく。
それと同時にゼウスの電流が、周りにあったものを細かく削り、近くにいたプアにもダメージを与えた。
「うぐぅ!!ここまでか。今度こそ負けないからな、覚えてろ!」
プアの気配が消えた。
ゼウスとハリネズミの戦いは、両者が弾きあって終わった。しかしハリネズミの体にはヒビが入り、電気の影響でその場から動けなくなったようだった。
『天空合体、ガルダヘルメス!!』
その間にヘルメスは合体完了。大きな弓を構えようとしていた。
「ヘルメス兄、これを使ってください!」
ゼウスが空へと投げたのは、雷を帯びた白銀の矢だった。ガルダヘルメスはそれをゆっくりとつがえると、大きく弓を引いた。
『サンダーバード・シュート!!』
放たれた矢は稲妻のように曲がりながら、的確にヒビ割れた箇所に突き刺さった。砕き割れる殻の内部で高圧の電気が暴れまわり、内部から火をあげたハリネズミが爆散した。
「ふーー。終わった……」
「ありがとうございますヘルメス兄」
何とか勝利することができたが、内容的にはあまり良くないだろうとヘルメスは自己分析をしていた。
「クロノスがいたら、もっと楽だったなー」
「そんなこと言わないでください……」
バツが悪そうな顔をして、ゼウスはヘルメスに近付いた。
「早く仲直りしてよ……」
「……そうですね」
観念したゼウスは、帰ってすぐにクロノスに声を掛けようと思っていたのだが、それより先にクロノスに話しかけられた。
まず今日会った人間の事を話して、次の休みに双子同士で話をしようということになったらしい。ゼウスはいい機会だとすぐに頷いた。
結果、黄瀬川兄弟とゼウス・クロノス兄弟との出会いができたわけだが。
人間と機械の双子は、仲直りすることができるのだろうか。




