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第2話 ①前世の遺産

私の名前はガイア。地球を創り変えたロボットだ。

すまないが、今はゆっくり話す余裕がない。

私は今、ある男性と対峙している。彼は、両手に大きな包丁を持ち、私の友達である烈に襲いかかってきた。私は烈を守るために、何万年も動かさなかった体を、ブレイブの力も借りて動かした。その結果、今片手で男性の手ごと包丁を掴み、もう片方で烈を守っていた。

力は互角、少し負けている気もする。男性の顔を見ると、全体が怒りに溢れていた。アースの情報から推測するに、おそらく操られているんだろう。早く元に戻さなければ。


「ガイア!!」


烈が気付いてくれてよかった。男性はもう一つの包丁を振り下ろしてきたのだ。

私は、烈を守っていた手で、男性の肘を押さえた。もう動けないだろう。


「キ、キカイニンギョウ!!」


機械人形、私の事を言っているのか?


「キカイニンギョウ、お前を殺す!」


なんて怒りに満ちた言葉だろう。今の地球にそんな怒りの原因はないはずだ。


「あなたはあの島から来たのか?何故今の世界を恨む!」

「リガース様が甦った!お前を壊して、この腐った世界を元に戻す!」

「リガース?それがあなたを操っているのか!」

「ガ、ガァアアアアアア!!!!!」


気持ちが暴走しているようだ。私の手も強引に振りほどかれてしまう。このままでは、烈が怪我をしてしまうかもしれない。


「仕方ない……。許してくれっ!」


私は男性に体を思い切りぶつけ、強引に距離を空けた。

滑るように尻餅をついた男性。私も勢い余り、盛大に転けてしまった。体の何処かが軋む音がした。


「大丈夫かガイア!」

「あぁ、大丈夫だ」


烈が起こしてくれたが、私は男性から目を離せず、少し冷たい対応になったかもしれない。


「あの人何なんだよ!いきなり襲ってきて!」

「烈、逃げろと言っただろう!もう少しで刺さるところだったんだぞ!」


冷たい対応の延長とは言いたくはないが、私は本気で怒った。包丁を持った大人が襲ってきているのだ。普通は誰でも逃げる。それなのに、烈は無謀にも立ち向かったのだ。

烈は黙っていた。顔が見えないが、怒っているか、落ち込んだ顔をしていると私は思った。


「とにかく、私が隙を作るから、君は家に逃げるんだ」

「ヤダね!」


その声のなんと強いことか。

あまりの驚きに、私は烈の顔を見てしまった。そんな烈は、紅く燃えるような瞳で、自分を襲ってきた男性をじっと見つめていた。落ち込む所か、悔しさとやる気が感じられた。


「恐くないのか!!」

「恐いよ!」

「じゃあ何故逃げない!」

「友達置いて、逃げられるかよ!」


あぁ、そうだった。私は改めて思った。烈は小さい時から友達思いで、自分に出来ることなら、何でも手伝う。手伝った相手の笑顔を見て喜びを感じられる優しい子だったのだ。

そんな彼の気持ちは、私にも向けられていたんだ。


「……すまなかった」

「別に謝られても……」

「私が間違っていた。いや、間違ってはいなかったんだが」

「どういうこと?」

「話は後でする。少し集中させてくれ」


そうこうしている内に、男性は胸を押さえ、フラフラと立ち上がっていた。

やはり、体は人間だった。操られていると言えども、体のダメージはどうしようもないようだ。


「どうするんだよ?」


操っている力が、心に作用するものならば……!


「ガァアアアア!!」


男性が走り出すのと同時に、私も飛び出した。


「ガイア!!」


私が生まれた理由。それを博士はいつも自信を持って言ってくれた。


『君は、人間の友達になれる純粋な命なんだ。だからもし、君が困ったら私達は君を助けよう。だけどもし、私達が困った時には、君の力を貸してほしい。一緒に助け合って、これからを生きていこう』


私は右手に力を込めた。


私が地球を創り変える時、ブレイブさんにもらったのは、アテナさんと話す力だった。そして、私が博士と暮らしていたときにもらったのは、勇気だった。強いものに立ち向かう力、弱いものを守る力、そして自分を変えたい力。それを男性に問いかける!わかってくれる筈だ!

大きく、よく研がれた包丁が、私の顔目掛け振り下ろされようとしていた。


まず言っておくが、私の体は、パーツとパーツの間に包丁が入らない限り、当たってもそれほど傷は付かない。ただ、わざと当たるのは、創ってくれた博士に申し訳ないし、私自身も意思を持たないロボットとの違いとして、常に気を付けている所だ。

ギシっ!!

もう時間がないらしい。


「はぁああ!!!」


私は体を捻り、切っ先を避けた。そして、大事に貯めた力をそっと、男性の胸に押し当てた。小さな小さな勇気の欠片だ。

これで、どうだ……?


『ギィイイアァアアアア!!!!』


思った通りだった。男性の体から黒いドロドロしたものが流れ出ていく。


『キカイニンギョォオオイオオ!!!』


あの中には、前世の魂が何人いるんだろう。私が地球を創り変えた時に、最後まで抗った魂達が集まったのがあの島だ。言うならば、あの島の大きさが私への憎しみだ。

私はそれらを浄化して、今の世界に生かせたい。そのために、今は少し痛いが、耐えてくれ。

私はまた拳に力を込めた。さっきより強い、勇気を込めて。


「うぉおおおお!!!」


黒い遺恨に向けて放った拳は、男性にかろうじて寄生していたそれを、引き剥がした。

そして、私の力を受けた瞬間、綺麗な光になって崩れていった。

断末魔が悲しく響いた。できればもう、そんな声を出さなくてすむ世界に生きてくれと、切に願うばかりだ。

支配を解かれた男性はバタンと前に倒れ、私はそれを受け止めた。よく頑張ったな。


「ガイア!」


後ろで烈の声もした。とにかく怪我がなくてよかった。そうだ、まだあの話をしていなかったな。しかし今は、何だかとても疲れている。

ボフンっ!!


「ガイア?!」


おっと、活動限界らしい。一先ず男性をそっと地面に寝かせた。

膝か?肩か?いや、全てか……。

ブレイブさん、ありがとうございました。大事な友達を守ることができました。

私はそのまま倒れこんでしまった。駆け寄ってきた烈を見て、安心して、私は少し眠ろうと思った。

“一緒に戦ってほしい”

烈に言うのは、起きてからでも遅くないと思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕はアダム。この世界を恨むものだ。そしてここは、ロストアイランド。この世界の人間がそう呼んでいるらしい。失われた大陸が、僕の家だ。

グニグニと音を立てる何もない大地を踏みしめると、昔の地球を思い出す。僕は、島の中央にある地下へ続く階段を下りていった。

僕はさっきまで、ある目的のために、この島の外にいた。僕が生まれて初めて見た地球は、伸び放題の自然に驚異のない天候、そして、平和ボケした人間達が暮らす吐き気がする世界だった。

その目的というのも、地球をこんな風にした機械人形も発見し、殺すことだった。最初だから挨拶程度に人間を使ってみたんだが、案外機械人形もしぶとかったな。まあいい。

そういえば、リガース様はもう目覚めているだろうか?奴等に任せても大丈夫だっただろうか?

僕は、長い長い階段を心配しながらも下っていった。


「リガース様、お待ちくダサい!!」


下から仲間の焦る声が聞こえる。早速問題が起こったようだ。

一番下まで行くと、暗く広い空間が広がっている。地上より10度は低い気温。どこからか吹く冷たい空気が、地表で受けた気持ち悪さを消してくれるようだ。


「た、助けてくれ!!」


突然私の目の前に、高級そうなスーツを着た男性が飛び出してきた。何を隠そう、この御方がリガース様なのだが、この言動からは全く想像がつかないだろう。

ドンっ!

突然の事に、僕も避けられず、リガース様とぶつかってしまった訳なのだが、当然僕も御方も倒れる事はない。人間と一緒にされては困る。


「り、リガース様!?大丈夫ですか!!」


と思っていた私が駄目だった。何故かリガース様は私の前で尻餅をついていたのである。


「痛たたた……た、助けてくれ、化け物が!!」


恐怖に怯えきった目は単なる人間だ。まだ、思い出されないのですね。


「よぉアダム、帰っタカ!!」


リガース様の後ろに現れたのは、人間というには無理がありすぎる大男だった。


「パワード……。何をしているんだ」

「ハァ?何もしてねぇよ!?俺ハタダ、早く思い出して頂こうとし挨拶しタダけダ!!」


この脳筋バカが……。


「はぁ……。ドラッグやアンテミスならまだしも、お前は強烈すぎると言っただろう……」

「ガベージにも言ワれタガ、俺ハこの体に誇りをもっている!」


何を言っているんだこいつは……。どうも話が噛み合っていない。


「まぁいい。みんなは?」

「向こうで座っている」

「……わかった。行きましょうリガース様」


未だに震えている御方に、僕はそっと手を差し出すと、すがるようにリガース様の手が伸びてきた。


「っ!?」

「どうかしましたか……?」

「い、いえ。大丈夫です」


危なかった……。


「そういえば君は……?」

「僕はアダム。あなたが生み出した人類の意思です」


それから僕は、リガース様の手を握り、暗い中を歩き始めた。まるで子供の手を引くように。慣れない足取りが、すぐ後ろを付いてくる。時々手を引かれたのは、後ろでパワードがリガース様にちょっかいを出しているからだろう。

今のリガース様は、普通の人間だ。恐らく特注で作ったであろうスーツを着ていたが、猫背で小股で歩く様が弱々しく見えた。しかし、金色の髪や切れ長の目が私が知るリガース様を保っている。

というのも、リガース様は僕達を作る際、自らの力を与える形で僕達の自我を形成された。最初に生まれた僕の頃はまだ、見た瞬間恐怖に襲われるようなお姿をしていたんだが、それから仲間を一気に作られたために、脱け殻のようになってしまっていた。

……何故、僕だけ最初に作られたのだろう?

そんな事を考えながら進んだ先には、一ヶ所だけ明かりが灯った箇所がある。黒曜石のテーブルと同じ素材の椅子が8脚。その5つにはすでに影が腰かけていた。


「お帰りなさい。アダム、パワード、そして、リガース様」

「ドラッグ、お前、どういうつもりだ」

「何がですか?私は挨拶しただけですよ?なのにパワードが、自分も挨拶したいと、言うことを聞かなくて」


唾広の帽子の下の顔は、半笑いだった。


「お前達もだ!我らの産みの親であるリガース様に敬意を払えないのか!!」


誰も返事をしなかった。これほどリガース様が見くびられているのか……!とても腹立たしい!!


「くっ……!!」

「まぁまぁ、とりあえずお座りになってはいかがですか?」


僕は、1つだけ豪華に作られた椅子にリガース様を座らせ、隣の席についた。


「さて、アダムも帰ってきた事ですし、改めて自己紹介でもしますか?リガース様、私の名前はドラッグ。人間の物欲が具現化した存在です」


ドラッグは、トレンチコート、ハット、シャツ、スラックス、丸眼鏡を全て黒でまとめたガリガリの男だ。眼鏡の奥に見えるのは細い狐目で、常に瞳孔が開いている。名前の通り薬を常用しており、今はこうだが、薬が切れたときは手に負えない。


「じゃア次ハ俺ダ!今度ハ驚くナよ。俺ハパワード!人間の怒りが爆発しタ存在ダ!」


パワード。人間の3倍はありそうな大きな体を持つ。所々言葉が濁るのは、体の6割を占めるその機械のせいだろう。力は強いが、頭の方は機械ではどうにもならなかったみたいだ。


「じゃあ次はボク!!ボクの名前はプア人間の止まらない食欲が具現化した存在だよ。じゃあ次はアンテミスね」


プアは、一見ガリガリの子供でボロボロの服を着ているが、その正体は大喰らいで、加減を知らない暴走狂だ。


「私はアンテミス。人間の嫉妬心が生み出した存在。あーあ、こんな頼りない連中に囲まれて、私やんなっちゃう」


唯一の女であるアンテミスは、特異な理由からこの島に取り込まれ、体を与えられた存在だ。赤い髪に、赤い瞳が特徴で、何故か研究員のような白衣を着ていた。


「オハツニ オメニカカリマス ワタシノナハ ガベージ ニンゲンガ ガンライモツ ショウドウガ ワタシヲ ツクッテイマス」


言葉なのか音なのかわからないが、意思を持って話すガベージ。その正体はドロドロの物質で、未だに何で構成されているのかわからない。


「モグモグ……」

「おいファット、お前ダぞ」

「へっ?余もするのか?」

「当タり前ダろ」


みんなの視線が、丸い体に集まる。その巨体は、どこから出したかわからないスナック菓子を、机や椅子が汚れるのも気にせず、ひたすら食べ続けていた。


「面倒くさいなぁ……。余はファット。見ての通り、人間の怠惰代表だ」


お前が一番リガース様を侮辱しているんだぞファット。貴様のそのやる気の無さは見ていて腹が立つ。そして、格好を今すぐやめろ。僕達の王はリガース様だ。お前にはその王冠も、マントも似合わない。

恥ずかしながら、これが僕の仲間だ。とても同じ親とは思えない。


「はぁ……」


僕はわざとらしくため息を付いた後、しっかりとリガース様を見て話した。


「リガース様、僕の名前はアダム。あなたが人間の傲慢さをもとに作った存在です。僕の力は遺伝子情報の操作。先ほどはその力をもとに、機械人形に我々の存在を思い出させにいって参りました」


ドラッグが鼻を鳴らした音が聞こえた。


「僕達は貴方様から生まれた存在。今の貴方は僕達を生み出したせいで、知識が不足しているんです。でも大丈夫。ここで生活していれば、そのうち思い出されますよ」

「は、はい……」

「何を畏まっているんです?僕達は貴方の手足も同然。何なりと申し付けてください」


僕の言葉が気に入らなかったのか、ドラッグが立ち上がった。


「アダム、止めてください。それ以上は無駄です。確かにリガース様は私達の産みの親です。しかし、私達に力を与えて亡くなったのです。そこにいるのはタダの脱け殻の人間。力など微塵も感じない!私達のリガース様はもういないのです。だから私達で機械人形を殺すしかないのです」


ドラッグ以外もそう思っているのだろうか?なるほど、だからリガース様に対してそんな態度がとれるのか。だったら……。


「わかった。じゃあドラッグ。お前が脱け殻と言い張る人間にも戦って貰おうじゃないか」

「……何故です?いきなりどうしたんですか?」

「気が変わっただけだ。それより、ここで生活させるのか?死体にして捨てるよりは、一番槍で突っ込ませるほうがいいだろう?」


ドラッグは考えていた。頭がいいお前ならわかるだろう。もう少しだ……。


「そうだ!お前の力を見せてくれよ。ちょうどいい実験台だ」

「ア、アダムさん?!何をっ!」

「リガース様、いえ脱け殻さんは少しじっとしておいて下さい」


僕はリガース様の肩を押さえる形で椅子に固定した。申し訳ありませんリガース様。ですがこれが一石二鳥なのです。


「確かに、目眩まし位にはなるかもしれませんね……」


そうだ、やれ!


「では人間。私の力でたくましい植物人間にしてあげましょう!」


ドラッグの差し出された右腕。もとより細い指がさらに細く、茶色くなっていく。


「い、いやだ!アダムさん、助けて!!」


ドラッグの指先が、リガース様に触れる瞬間。僕は手を離した。そして、ボロボロになった自分の両腕を隠すように後ろに回した。


「さぁ!!…………ぎ、ギャアアアアアア!!!!!!」


さぁ叫んだ!!言っておくが、リガース様ではなく、ドラッグがだ。


「た、だ、ダズゲデェエエエエエエ!!!!」


必死だな!ざまぁみろ!


「ダレガ、ダレガぁああああああ!」


ほかの奴等も気付いたか。もういいだろう。僕はドラッグとリガース様の間に入り、リガース様に少しだけ触れているドラッグの指先を、手刀で叩き斬った。

まるで炎に包まれたように床を転がるドラッグが、とても笑えた。指だけでなく顔まで植物になっている。当分力は使えないだろう。


「ア、アダムゥウウウウウウ!!!!」

「そんなに怒るなよ?僕の腕もボロボロなんだ」


そういって両手を見せると、ドラッグを含めた全員が驚いた顔をした。


「お前達、これでわかっただろう?この方こそがリガース様だ。力は無くしていても、器はそのままなんだろう。無くなった力を回収しようとしているんだ。直接触れれば僕やドラッグのようになる」


全員の眼の色が変わった。少し高い代償だったかもしれないが、リガース様の為なら……。


「ありがとうアダム」

「リ、リガース様っ?」


そこには、先ほどより若干力の戻ったリガース様がいた。


「少し思い出したようだ。ドラッグもすまなかった」

「い、いえ。私が悪かったのです。申し訳ありませんでした……リガース様」

「力が戻れば、お前の力を返そう。その時皆も力が欲しければ、言え」

「「はっ!!」」


待っていろ機械人形。僕達の憎しみは、これからだ!



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