第1話 ②
サイレンがけたたましく鳴り響いている。私の周りの人達は慌ただしく動き、みんなで情報を交換していく。私もガイアに連絡をしたのだが、何せ出来ることが少ないので、これ以上出来ることはないく、申し訳なく見守るしかできない。
私の名前はアース。地球の2代目守護者だ。色々あって、地球が生まれ変わってから現在まで、ここで星を見守っている。この部屋の中央が私の席だ。周りには円を描くように机が並び、パソコンや色々な計器類、書類などが、置き場もないくらい散らばっていた。そんな機器を忙しそうに操作するのは、私の活動に賛同し、協力してくれている人達だ。
彼らが、忙しくしているのは理由。
それは、つい30分前。私のセンサーが凄まじい衝撃を探知したからだった。例えるなら、直径約10kmの隕石同士がぶつかったくらいの衝撃だ。
……分かりにくかっただろうか?
とても大きな力がぶつかって、ほんの少しだけ小さなほうが壊れた。そんな感じだ。
大きな力が振るわれたのは、太平洋に浮かぶ小さな島。私たちは、その島が生まれた理由から「ロストアイランド」と呼んでいる。
島と言っても、その姿は自然に全く溶け込んでいなかった。灰色一色の島は、ゴムのようなもので覆われ、草木一本、石すら存在しない。
大きなモニターに映る姿からわかる最低限の情報。長年の調査でそこまでしかわからなかったのだ。全くもってわからない。
「状況はどうなっている」
私の正面に座る初老の男性が聞いた。彼は、私の初めての友人で、この組織を作ってくれた男だ。
仕事に熱心で心優しい、人柄の良さが滲み出るような皺が、顔一杯に入っていた。
あれから40年か……。早いものだ。
「結界は破壊は、内側からの強い力が原因です。これを見てください」
チームリーダーの男性がパソコンを操作すると、モニターが移り変わった。
「これは、結界が破られる直前の映像です。動かします」
そこには、まだ結界がある島があった。そして突如、衝撃波とともに結界が砕けたのだ。
「ここを見てください」
男性がある部分をズームしていく。監視カメラから一番遠くの島の端。そこには不自然な盛り上がりがあった。
盛り上がりというか、何か細く白いものが地面から突き出ている。
「解像度を上げます」
荒い画像が、段々と綺麗になっていく。
「これは……」
人間が立っていた。学生服を着た少年が、島に立っていたのだ。真っ白な髪と肌、外国人とも思える端整な顔立ちをしていた。
「アース……一つ聞きたい。あの島に上陸はできるか?」
「無理です。生身の生き物が上陸すれば、一時間も保たない劣悪な環境です」
「そうか、そうだったな。では、この少年は……」
私は少し考え、決心して言った。
「もしかしたら、彼は、前世の人間なのかもしれません……」
ーーーーーーーーーーー
アースから連絡があったが、その後何事もなく昼が過ぎた。
烈はさっき帰ってきて、変わらずの元気で家に戻っていった。
どうすればいいだろう……。私はずっと考えていた。
烈を巻き込んでいいのか?友達を危ない目にあわせていいのか?
しかし、烈しかいない。私の心がそう言っているんだ。
「よっし、じゃあ今日も練習練習っ!」
学校が昼までの時は、烈は決まって、部活の自主練習をする。ちなみに剣道部だ。
「見ておいてくれよーー!」
私は、素振りをする烈を見て、姿勢が崩れていないか確認する役割だ。
ひゅん、ひゅんと風を切る音が聞こえる。小学校の頃から習い始めた剣道だが、先生がいいせいか、実力は相当ついている。
「どうだ、ガイア、できてるか?」
竹刀を振り抜く度に、汗が弾ける。
「あ、あぁ。乱れていない」
「よかった!」
その笑顔は、私の話を聞いても、変わらないだろうか……。
「な、なぁ烈……」
「何?」
「話が、あるんだが……」
烈は、素振りを止め、私の近くにやって来た。
「どうした?」
「実はな……」
話し出す、まさにその時だった。
『ミツケタ………』
烈の向こうに、一人の男性が見えた。
フラフラとこちらに近付いてくる男性、見たところサラリーマンのようだ。
「あれは……」
私の声を聞き、烈も後ろを向いた。
「誰だろう……?」
『ミツケタ、キカイニンギョウ』
ボソボソと口を動かしているのに、言葉が妙にはっきり聞こえた。
機械人形?
「ガイア、聞こえますか!!」
突然アースから連絡がきた。
「どうしたアース?」
「先ほど話した島にいた少年が、龍神町に現れて、サラリーマンの男性に何かをしました!その男性があなたの方に行ったみたいなんです!」
私は咄嗟に男性を見た。
不気味な笑みを浮かべた男性は後ろ手に何かを取り出した。木の柄が見え、その先のは怪しく光る刃が見えた。
「烈、逃げろっ!!!」
私が叫んだ時には、男性は走り始めていた。両手に大きな包丁を持って。
烈は、突然の事に一瞬動くのが遅れた。しかし、すぐさま竹刀を構えたのだ。
「やめろ烈、逃げろ!」
もう遅かった。包丁を持った男性が、すぐ目の前まで迫っていた。
「めぇええん!!!!」
烈は無謀にも、竹刀を振り上げ、男性の頭目掛けて振り下ろした。間合いは完璧だ。しかし……。
男性が普通の人間であれば直撃だっただろう。しかし、男性はあっさりとそれをかわすと、左手に持っていた包丁で、竹刀を真っ二つに斬ってしまったのだ。
烈が驚いた時には、男性は右手の包丁を振り上げていた。
私は動いた。何万年ぶりだろう。体の表面の膜が、バリバリと砕ける音がした。本当は、ゆっくり動くのがいいのだが、今はそんなこと言っている場合じゃない。
友達が危ないんだ!助けたいんだ!
「地球の勇者よ、勇気を分けてもらいにきたぞ」
「ブレイブ!!私に友達を救う力を貸してくれ!!」
「よかろう。その体、動けるようにしてやる。しかし、少しだけだぞ」
ガキィイイイイン!!!
「…………、あれ?」
烈は無事のようだ。もう少し遅かったら、烈は……。
「大丈夫か烈!!」
「が、ガイア、なのか?」
「そうだ、私の名前はガイア、地球に生まれたロボットだ!」
『キカイニンギョォオオイオオ!!!』
「前世の魂よ、私はあなた達を絶対に救ってみせる!!」
私の使命は、地球を創り変え、平和を取り戻すこと。そして、創り変えた際に浄化しきれなかった、前世の魂を救うことだ!