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第7話②

パワードとの激闘から数日が経った。あの日、アースベースに戻ってきた私、グライガイアは、すぐに体を分解された。この世界で一番の強度を持つグラントレーラーの装甲をもってしても受けきれなかったパワードの力は相当なもので、そこら中にヒビや凹み、破損が見られた。

しかし助かったのが、中のGAーXが無事だったことだ。その日中の慎重に取り出されると、この数日でGAーXが使用可能になった。現在は分解したグラントレーラーの組み直しと改良が、緑川繁雄さん陣頭指揮のもと、行われていた。

「いいぞー。その調子だ!声掛け合ってけよ!!」

作業を進める様子を見ながら、私はレプリカの体を自分で整備していた。

「ごめんね。手伝ってあげられなくて」

話し掛けてくれたのは健太郎さんだった。

「いえ、これぐらいは自分でしないと」

「ありがとう。それでどうだった、グライガイアは?」

健太郎さんの声は明るかった。

「素晴らしかったです。ですが、せっかく皆さんが創ってくれたのに、あんなにボロボロにしてしまって……」

痛みはなかったとしても、やはり体が傷つくと、心が同じくらい痛む。グライガイアを創ってくれた健太郎さん達は、あのボロボロのグライガイアを見てどう思ったのか?私がもっと巧くやっていれば、傷が少なくなったのではないか。今も整備を頑張っている人達に、私は責任を感じていた。

そんな私の気持ちに気付いてくれたのか、健太郎さんはおもむろに腕を組んで、少し真剣な表情になった。

「中は無事だっただろう?」

「えぇ。GAーXは無事だったのでよかったです」

「パワードにも勝つ事が出来ただろう?」

「何とかですけどね……」

「じゃあいいじゃないか」

「えっ……」

「グライガイアは確かに壊れた。でもその中にいたガイアは大丈夫だった。それに、あんな強い力にも打ち勝てた。体が傷付いても、心が折れなかったから勝てた。今回は、そういう闘いだったんじゃないのかな?」

「ですが、それでいいのでしょうか……」

確かに健太郎さんのいう事も一理ある。しかしやはり、これだけ関わってくれた人がいる以上、私は一言謝らないといけないと思う。

「そういえば……。みんな!ちょっといいか!?」

何かを思い出したように、健太郎さんが整備をしている人達を呼んだ。

「健太郎さん、皆さん忙しいのに!」

健太郎さんの声を聞いて、技術課の皆さんはすぐに手を止め、集まってきてくれた。私が戻ってきてから、ずっと作業をしてくれている人たちの顔には、少なからず疲れが見えていた。

「みんな。実は、ガイアが今回の戦闘でグライガイアを壊してしまったことに責任を感じているみたいなんだ」

健太郎さんは、私の思っていることを隠さずに言ってくれた。

「これは技術課の課長である私のミスだ!」

「け、健太郎さん。そんなつもりは!」

「ごめんガイア。少し聞いてほしい。……ガイアが帰ってきて数日が経った。みんな黙々と作業してくれているが、やってないことがあった。それは会話だ。てっきり私は、みんな同じ気持ちだと思っていたんだが、そうじゃなかったみたいなんだ。それで聞きたいんだが、今回の戦闘を見てどう思ったか。そして、帰ってきたグライガイアを見てどう思ったか教えてほしいんだ」

みんなが一斉に「えっ?」という顔になった。私も思わず同じ顔になったのだが、互いに顔を見渡し、最後に私の顔を見たとたん、みんなが一斉に笑い始めたのだ。

そこからは、みんなが健太郎さんと同じ気持ちだったということを知らされた。そして、今回の件で、グライガイアをもっと良いものにしたいとみんなが思ってくれていた。結局、考えが違っていたのは私だけで、少し恥ずかしくなった。

そんな事もあって、その日の昼休みはみんな一緒に取ることになった。

「そういえばガイア。あの、ガイアソードだっけか?あれは整備しなくていいのか?」

緑川さんがおそらく奥さんが作ってくれたであろう、とても可愛いお弁当を食べながら聞いてきた。

「持ってみてわかったんですが、あれは私にも整備ができません。あれは、博士が本気で作った武器です」

あの剣は、おそらく博士が作った唯一の武器だ。私の力を最大限に発揮するように作られたもので、あれの材料には、私とアテナさんが封印したものも含まれている。あれを見せられた時の記憶の中でも、博士はあまり嬉しそうな顔をしていなかったような気がする。

「おぉ……じゃあ止めとくか。すまねぇ」

「いえいえ。私も頼みたかったんですが。アースベースが吹き飛んでしまうのはちょっと……」

その瞬間、みんなが一斉に私に注目し、握っていた箸も止まった。

「じ、冗談ですよ……。ははは……」

つられてみんなの乾いた笑いが起こった。

あの剣については本当に何が起こるかわからない。博士が本気で作った武器というのは、私も想像できなかったから、そう言うしかなかった。

「そういえば……あの時、声が聞こえたよね?」

ちょっと静かになった雰囲気を、健太郎さんがおにぎりを食べながら壊してくれた。この辺りも烈と似ていると思う所だ。

「そうなんです。あの声のお陰で私も思い出せたんです」

「私も聞いたけど……。あの声は、烈じゃないな……」

「あれはたぶん、博士の声です」

「ていうことは、神さ……ガイアの博士が帰ってきたって事か?」

緑川さん。今神様って言おうとしました?尊敬してくれるのはありがたいんですが、ちょっと恥ずかしいです。

「帰ってくれば私に話し掛けてくる筈です。おそらく、烈を仲介して博士の声が聞こえてきたんだと思います」

「なるほど、ひょっとしたら烈は、ガイアの博士と似ているのかもしれないね」

「そういえば、いつも寝坊していたような……」

みんなで笑いながら食べるご飯は美味しい。私が生まれた頃、博士が勤めていた研究所で気付いたことだ。それを博士に言うと、いつも笑顔で頭を撫でてくれた。これが幸せなことなんだって思ったときでもだった。

それにしても、私もまだまだ人の感情を理解できてないみたいだ。烈や健太郎さん、そしてアースベースの皆さんが、私にどんどん新しい気持ちを芽生えさせてくれる。私はまだまだ成長できる。これは素晴らしい事だ。

ウゥーーーーーーーー!!!

『街中に巨大な植物が出現!!緊急配備お願いします!!』

警報が鳴った瞬間、私を含めたみんなが一斉に昼食を掻き込んだ。私はGAーXに乗り込み、エンジンを掛けた。

「すまないガイア、グラントレーラーは出せそうにない。何とか頑張ってくれるかい?!」

「大丈夫です!そろそろ弟も来てくれると思います!」

気をつけて!と健太郎さんが送り出してくれた。周りを見ると、技術課の皆さんも手を振って私を応援してくれていた。この人達のためにも頑張らなければ。



ーーーーーーーー




「地球って綺麗だね……」

久し振りに近くで見た故郷は、青くて、緑いっぱいで活き活きして、それはそれは綺麗な場所だった。これが、兄さんの取り戻してくれた、本来の地球なんだ。

「そうですね」

相棒の反応が薄いのはいつもの事。いつも落ち着いていて、どうも気持ちが分かりにくい。だけど最近、少しずつわかってきた気がする。今の「そうですね」は、ちょっと拗ねてる気がする。

「水星もいいところだよ?」

「わかってますよ。暑くて寒くて、地面がボコボコでカッチカチですからね」

ほーら。やっぱり拗ねてる

「拗ねないの」

「拗ねてません。ほら集中してください。そろそろですよ」

今は地上に安全に降りるために、自転と機体の速さを同じくらいにしている所だ。まあ自転と逆向きに進入しない限りは大丈夫なんだけど。やっぱり安全に降りたいじゃない?

それにしても綺麗な星だな。早く降りたくて、ムズムズする。

「着陸先は日本でしたよね?」

「そうだよ!日本のちょうど……あの辺!!」

まだまだ高速で回転する地球目掛けて僕は指を指してみる。

「早すぎてわかりません」

「ほら、……そこっ!!」

「……お任せします」

「もぉ、しょうがないなぁ」

着陸するのは兄さんが教えてくれたアースベースがあるって言う龍神町。僕たちが住んでた家の近くらしい。そういえば兄さん、博士の家はどうしたんだろう?地球を出るときには、もう上の部分が粉々だったから、さすがに上はないと思うけど、僕らが隠れてた地下室は残してるよね?

そうしているうちに、僕の機体は地球の空気に包まれて、赤く熱を帯びてきた。

僕の乗ってるのは飛行機。小さくて運動性能もいいから曲芸飛行もしていて、イルカって異名もあったんだ。僕はこの機体が大好きで、博士と行った航空ショーが今でも忘れられない。

「大気圏突入しましたね」

「楽しみだなー」

「何かしたいことでも?」

「そうだなぁ……。兄さんの手伝いをするのも大事だけど、やっぱり今の人間と仲良くなってみたい。前の地球では博士の知り合い以外関わってこなかったからね。僕と馬が合う人間がいるかも」

「いるでしょうか?」

この言葉も本当の意味は「いたとしても私が最初に合ったんだからね」と僕は解釈する。

「君は僕の最初の友達だよ」

「私はそんなことを言ってるんではありません」

「はいはい」

さて、だんだんスピードが落ちてきた。高度を下げながら、日本を目指す。

ここで一旦、兄さんが連絡してきてくれた位置周辺を望遠鏡でチェックした。

いい感じに発展した街だ。ビルがあって、学校があって、スポーツ施設もあって、大きい植物があって。

……ん?大きい植物?

「なんだあれ?」

もう一度見ると、大きな植物が暴れながら街を破壊していた。

「植物が暴れてますね」

「確認だけど……あれ、敵だよね?」

「新手の解体業者に見えたのなら、私はドン引きします」

「そんなこと言わないでよぉ。ちょっと待ってね。兄さんに電話するから……」

僕は、兄さんに電話を掛けた。

プルルルルル、プルルルルル。

「ヘルメスか、どうした」

電話にでた兄さんは、切羽詰まったような声をしていた。

「兄さん、急にごめん。地球に到着したんだけど……」

「すまない。今、街に巨大な植物が現れたから、現場に向かっているんだ」

「僕も確認できたよ。あの島のやつ?」

「おそらく。経緯はわからないが、植物があの島の力を受けたみたいなんだ」

なるほど。じゃあ兄さんが守りたいっていう人の魂じゃないな。

「手伝っていい?」

「私もまだ本調子じゃないんだ。手伝ってくれると助かる」

「いいよ!成長した僕の力。見せてあげるよ!」

「ありがとう」

僕は、通信を切らないまま、早速さっき見た植物にロックオンした。

「このスピードで突っ込めば街に被害が出ますよ?」

「なら、遠くから狙い打てばいいでしょ。少しスピード落とすよ」

僕は機体のスピードを落とすと、水星から持ってきた物の準備を始めた。

「何を撃ち込むんです?」

「えっとね……。超リラックス弾で!」

「わかりました」

僕は水星でサバイバルしてただけじゃない。この機体も創ったし、化学とか物理とか、ほかにも色々な研究をしてきたんだ。これから撃つのは、ラベンダーの香りを極限まで強めた特製の弾。これを嗅げば、冬眠前の気が立った熊だって、盆栽を壊された雷親父だって、一瞬で笑顔になっちゃうんだ。

「準備できましたよ」

「ありがとう。じゃあ発射ぁ!!」

機体の翼についている小さな筒が、勢いよく飛び出していった。狙いはバッチリ。弾着までは1分少々。

「もしもし兄さん。もう少しで当たるから、その隙を狙って!」

「わかった!」

僕が遠くから様子を観察していると、一台の車が、植物目掛けて走ってきた。

「あれかな?おぉ!!」

車が変形して、ロボットになった。緑色のすらっとした体は、どこか博士が創りそうな形で、少し懐かしい感じがした。

「弾着15秒前」

ロボットはすぐに地面から剣を抜き出すと、植物が繰り出す触手攻撃をバッタバッタと切っていく。

「やっぱり兄さんだ。がんばれ!!」

触手を全部切られた植物だけど、今度は花の部分から種を跳ばしてきた。そんな攻撃当たる筈がない。案の定兄さんは華麗な身のこなしで種攻撃を避けていく。

「あと何秒?!」

「5、4、3、2……」

「兄さん避けて!!」

その瞬間、兄さんは植物から距離を取った。植物の頭上には僕がさっき撃った小さな筒。丁度花の部分に突き刺さると、紫色の煙が、植物全体を包んだ。

「よし!」

植物は動きを止めて大人しくなった。さすが僕だと素直に誉めてあげたい。

その後は、剣を振りかぶった兄さんが植物をズバァっと一刀両断。めでたしめでたしさ。

「よぉし!」

速度もようやく落ち着いた僕は、一直線に兄さんのもとへと飛んでいった。

「じゃ、あとよろしく!」

「了解です」

コックピットハッチを開いた僕は、パラシュートを背負い、意気揚々と飛び降りたのである。

「兄さぁああああああん!!」

「ヘ、ヘルメス?!」

上を見上げて焦っている兄さん目掛け、僕は一直線に急降下していき、パラシュートを開いた。

ふわふわと降りてくる僕を、兄さんは両手をお椀のようにして受け止めてくれた。すぐに僕は兄さんの顔を見ようとしたけど、パラシュートが上から落ちてきたせいですぐには見えなかった。でも兄さんは、そのパラシュートを優しくめくってくれて、顔を見ることができた。

「大丈夫かヘルメス?」

通信とは違う生の声。優しくて強い兄さんが僕の目の前にいる。

「ただいま、兄さん!!」

もう我慢しなくていい。何度も会いに行きたいと思いながら、過ごしてきたこの50億年間。これからは兄弟みんなで、この綺麗な地球で博士を待つんだ!


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