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第6話① 戦う力、護る力

対峙した私とパワードの体格差は、先ほどよりは無くなったが、それでもまだ、私のほうが小さかった。

「アァ?誰ダお前?機械人形ハ?」

ようやく目が治ったパワードが私を見て言った。

「今の私はグライガイアだ」

「ハ?アァ、でカくナっタのカ」

「私を応援してくれている者に与えてもらった力だ」

「俺を倒すにハ、マダ足りねぇぜ?」

パワードは鼻で笑っていた。

「いや、この星を護るには十分すぎる力だ」

「じャア、試してヤるよ!」

ドスドスと歩いてくるパワードに、私は恐怖を感じなかった。体が大きくなったからだけではない。

「くラえぇえ!!」

左拳のストレートが私の右頬に当たった。首すら動かない。まだ耐えられる。

「マダマダァアア!」

今度は右拳のアッパーが私の胸目掛けて飛んできた。

バキバキバキぃ!!

もちろん砕けたのは相手の方だ。おそらく一番強度のある胸に、もともと無い腕に急に作った右拳を力一杯当てたら、そうなることは目に見えている。

「うぉおおおお!!」

それでもパワードは向かってくる。足や頭、肩を使って攻撃してくるが、この屈強な体が、傷どころか、衝撃すらも無くしてくれていた。

そのおかげで、パワードが次にやろうとしていることもよく見えた。先程体を作ったのと同じように、周りにに散らばる瓦礫を集め、右腕を形成していたのだ。その大きさはさっきの5倍くらい。あれは少し気を付けなければならない。

「余裕カ、機械人形ぉお!!ナラ、これでもくラえぇえええ!!!」

一旦距離をとったパワードは、その重く大きい右腕を振り上げた。大きすぎて、影が私をすっぽりと包み込むほどだ。

もちろん、対策はあった。私は右拳を腰の横に構え、左手は狙いをつけるため前に伸ばした。

その直後、まるで隕石でも降ってきたかと思う拳が、私を襲った。硬く詰め込まれたであろうそれを避けるのは簡単だ。だが、避けたとすれば、周りに被害が出てしまう。だから私は、拳に力を込めた。

「はぁあっ!!」

腰の回転を利用して、私は拳を打ち出し、パワードの拳へと衝突させた。

当たった瞬間、バキバキと壊れていく家電製品の山が私の横を通って弾けていく。前腕、肘、上腕と私が伸ばした腕が届く限り、パワードの腕を破壊していった。



ーーーーーーーーーー


なんだこの力は?ただデカくなっただけなのに。俺が押されてるのか?いや、材料のせいに決まってる。こんなペラペラのプラスチックじゃあ、あいつの体を砕けねぇ。……俺の右腕が無くなっていく。

「アーァ……痛ぇ痛ぇ」

ふざけた野郎だ。こんな力を持ってやがったとはな。あーーあ、負けた負けた。

『どうしたパワード?』

俺の中で、突然リガース様の声が聞こえた。

『何をしている?』

あっと……、機械人形の力が強くて負けそう。……です。

『どうしてだ?』

材料が悪ぃ。ペラペラのゴミばっかで俺の体に全然馴染まねぇ。……です。

『お前の力は何だ?』

俺の能力は、触った機械を自分に集めて体を改造できる能力だったかな?

『機械人形は取り込めないのか?』

無理。……です。何か変な力が働いてるみたいでよ。

『私の力を使え。お前が体に着けた物に忍ばせてある』

マジ。……ですか?

俺は核となる元の体の一部を剥がした。すると、どす黒い液体がドバドバと溢れ、俺の体に馴染んでいった。やべぇ、すげえ気持ちいい!!

『それをその辺りのものに混ぜて奴にぶつけろ』

ありがとうございます、リガース様!!よっしゃあぁやってやるぜぇえ!!!

『ドラッグも見てるぞ』

はっ?なんであいつが?

『いや、いい。骨は拾ってやる』

必要ねぇよ!!俺が機械人形をつぶすんだからなぁああ!!!



ーーーーーーーー


「ガァアアアアアア!!!!」

パワードの突然の豹変に、私は一瞬戸惑った。諦めのような感情が垣間見えた気がしたのだが、吹っ切れたように本能的に私に襲いかかってくるのだ。

子供のように体全体で当たってくる攻撃は受け止めるのが難しい。力が分散してしまって、どこに力を入れていいかわからないからだ。

「ガァアアアアアア!!」

しかしそんな事はパワードには関係なかった。体の大きさを利用して力で押し込んでくる攻撃は、私を押し潰すように向かってくるのだ。咄嗟に私は体をひねった。この重量の体で態勢が不利な状況を作りたくなった。

急に無くなった壁に対応するのは難しい。パワードは、直線のみの力のせいでバランスを崩し、子供が転けるように顔から滑り込んだのである。

ずざぁ。と音を立てた巨体は、周りにあった建物を巻き込んで倒れた。

「……ガァアアアアアア!!」

それでもすぐに立ち上がり、今度も体当たりのような攻撃をしてくるパワード。

そう何度も町を破壊させたりはしない。私も今度はどっしりと腰を落とし、パワードの肩を抑えるようにして攻撃を受け止めた。だが。

「ガァアアアアアア!!」

それでも肩を揺らしながら迫ってくる彼を、私は止めることができなかった。

どしゃぁ。と滑り込んだ結果、また建物が壊れてしまった。幸い、この辺りはゴミの集積施設だ。建物は多いが、人は少なく、青山さん率いるアースベースの職員によってすでに避難を終えたと知らせも入っていた。

だが、これが街中だったらと考えた時。アースベースのみんなと考えなければならない事だと思った。

「くっくっくっく……」

倒れたパワードは、左手をつきながら笑っていた。

「何が可笑しい?」

「いヤァナ、馬鹿みタいダと思ってよ……」

「諦めたのなら、話をしてくれないか?」

「ちっ、しょうガねぇナ……」

ゆっくりと振り向いたパワードは、その場にどっしり座り込むと、私の目を見て答えた。

「あの島には何があるんだ?」

「何にもねぇよ。机と椅子くれぇダ」

「さっき言っていたリガースとは何だ?」

「ア?自分ガ閉じ込めタ奴すラ忘れタのカ?」

「あなたの仲間なのか?」

「そんナんじャねぇよ」

「学生服を着ている少年がリガースか?」

「ハっ?アんナヤつと一緒にするんじャねぇよ」

「教えてくれ、あの島にはどれくらいの人間の魂達がいて、あなたはあの島でどうやって生まれて、あなたのほかにも話せる人はいるのか」

「質問ガ長ぇ、疲れる。殺すナラ、さっさと殺せ」

「答えてくれ」

「俺にも質問させろよ……。確カ、お前を作っタのハ結城博士ダっタカ?」

「そうだ」

「覚えてるぜぇ。自信満々にお前を紹介しタ時をよぉ。テレビで、いヤ、戦地で、いヤ、その場ダッタカナ。俺ハ見てタ。マタ兵器ガ増えて嬉しカっタ。これで俺達ハ勝てるって思っタぜ」

「私は、兵器ではない」

「機械に生まれタのナラ同じダ」

「私は人類の友となるべく生まれたんだ」

「世界ハ、おママごとじゃねぇんダよ」

「博士は平和な世界を目指して、私達を創ってくれたんだ」

「それガ無理ダっタカラ、俺達ハ戦っタんダよ」

「なぜ平和に暮らせない!」

「何故って?そりャ人ガ良く見えるカラダよ!アいつハアんナに良いのに、ナんで俺ハこんナに悪いんダって思うカラダよ!!」

「互いに思いやれば、出来た筈だ!」

「それガ人間ナんダよ!お前達機械とハ違う!」

「私は、機械ではない。新しい命なんだ!」

「ぶぅふううう!!!笑ワせんナよ!!」

パワードは腹を抱えて笑っていた。

「ヤっパり狂ってヤガるナ。ヤハりリガース様ハ正しカっタ」

「戦うしかないのか?」

「ハァ、何言ってるんダ?俺ハ最初カラお前を殺しに来てるんダぜ!!」

不気味に笑ったパワードは、おもむろに左腕を上げた。

「話に付き合ってくれタお礼ダ。タっぷり受けとれ!!」

その直後、私は左脚に衝撃を受け、膝を付いてしまった。先程の攻撃とは全く違う。硬く重い一撃だった。

「どうしタ機械人形ぉ?立てよ」

私が視線を上に戻すと、よいしょと立ち上がったパワードが私を見下していた。

「……何をした?」

まずいと思った私は、すぐに立ち上がろうしたが、それを拒むように今度は右脚に衝撃が走り、私は両膝を付いてしまった。

「無様ダナァ機械人形ぉ!!」

パワードは右肩を振り上げ、また腕を作り始めた。固まっていくそれは、先程と変わらないように見えたが、拳を作り始めたその時、攻撃してきた正体がわかった。真っ暗な塊が腕の先に付き、まるで本当の手のように拳を握ったのである。

「それはなんだ……?」

「これガリガース様の“力”ダ。美しいダろ?」

不意に振るわれた拳が私の胸に当たると、ミシミシぃ!!という音とともに私の体が悲鳴を上げ、私の体は宙に浮いていた。

高笑いするパワードの声が聞こえ、私は地面に落ちた。

「くっ……!!」

「大丈夫かガイア!」

「あ、あぁ。だが……」

せっかく創ってくれたこの体が傷付いてしまった。ヒビや凹みがパワードの力の強さを表していた。

「帰ったら健太郎さんに謝らなければな……!」

それでも私は立ち上がらなければならない。私が負けてしまったら、今の地球に生まれた命に申し訳が立たないからだ。

私はゆっくりと体を起こした。大丈夫。まだ動ける。

パワードは少し離れたところで、私の様子をニヤニヤしながら見ていた。

「おうおう、マダ立つのカ?」

「私が負けるわけにはいかないんだ!」

「じャア諦めるマで、痛めつけるしカねぇな!!」

パワードが両腕を大きく開くと、周りに散らばっていた瓦礫達が、各々集まり、色々な形に変化し空中に浮き始めた。大きさはワゴン車ぐらい。数は、20以上ある。

「サァ、いつマで保つカナァ!!」

おそらくあの全てに、パワードの右手と同じ力があるのだろう。

「死ねぇええええ!!」

掛け声とともに、襲いかかってくる瓦礫達に対し、私は腕を交差し、なるべく体を小さくして体を守った。

容赦のない攻撃が私の体を傷付けていく。どうにかして、チャンスを作らなければ。

体を傷付けている瓦礫は大きさもまちまち。しかしダメージはあまり変わらないように思える。もしかしたら瓦礫達の先端以外は、普通のものではないだろうか。だとすれば、先端以外を狙えば、私の攻撃も効くはずだ。

再び前からやって来た瓦礫に私はわざと体をぶつけてみた。もちろん先端ではなく横の方を狙って。

グシャ……。

案の定、瓦礫は勢いで凹んだ。よし、いける!

「ふラついてるぜぇ!サっサと倒れろよ!」

パワードにはバレていないようだ。ならば……!

何度か襲う瓦礫達の動きを見つつ、前から来た瓦礫が通りすぎたのを見計らい、私はパワードに向かい走り出した。

「ハァっハっハっハ!!!来タナァ!!!いいぜぇ、挟み撃ちダァ!!」

読み通りとパワードは拳を構えるが、私のほうも読み通りだった。

「烈、瓦礫は!?」

「後ろから来てる!タイミングは任せろ!」

烈は私のやろうとしている事を理解してくれている。

「こいよ機械人形ぉおお!!!」

パワードが拳を振り上げたその時だった。

「今だっ!!」

「ガイアソォオオオド!!」

その瞬間、私の後ろにあった瓦礫は一瞬で崩れ落ちた。同時に、振り下ろされたパワードの拳を、私は剣で受け止めたのである。

「ハァ?」

さすが博士の創ってくれた剣だ。あの力に負けていない。

「ナマくラ剣ガ頑張るじャねぇカ」

「この剣は博士が私に残してくれたものだ。そう易々と、折られはしない!!」

しかし、小さい私が扱って少し大きいサイズの剣だ。当然だが押されてしまう。私は一旦攻撃を弾き、先程打ち落とした瓦礫を飛び越えて距離をとった。

「アァアァ、勿体ねぇ……」

崩れ落ちた瓦礫を見てパワードが右手を伸ばすと、磁石のように瓦礫達が集まっていく。

「せっカくリガース様カラもラっタのによぉ……」

パワードは瓦礫の黒い部分だけを取り出すと、自分の中にしまっていく。そして残った瓦礫で大きなボールを作った。

「ゴミハ、要ラねぇ!!!」

おそらくそうくると思っていた。丸くなった瓦礫が私の視界を覆うように投げられたのだ。だが、対策は考えてある。

「はぁあ!!!」

剣を振り上げ、その勢いで瓦礫を切る。こうすれば、次にパワードの攻撃が攻撃してきても対応できると思ったからだ。

タイミングは完璧。思った通り、瓦礫は真っ二つに……。切れてない!!

「バカガァアアアアア!!!!」

瓦礫は私の腕ごと剣に巻き付き、さらには飛び出た鎖のようなものを地面に飛ばし、私の動きを止めた。危険だと思ったときには、すでに目の前に拳を握りしめたパワードが迫っていた。

「今度こそ死ねぇえええ!!!!」

パワードの右手は力を全て集め、巨大化していた。あれを受ければ、一溜まりもないことはすぐにわかる。だが、反応できない。

拳が当たる、その瞬間だった。

「アっ?」

急にパワードの体が動かなくなった。まるで、後ろから何かに引っ張られるように、前のめりのまま止まっていた。

「う、動カねぇ何でダ!何でダよ!!どうしちマっタんダよ!!」

勝利を確信した顔が、一瞬で崩れる。何かが不具合を起こしているのか?いずれにせよ、原因にせよ、今がチャンスだ!

「うぉおおおお!」

まとわりついた瓦礫から剣を引き抜こうとしたその時、私は持ち手の不思議な感触が気になった。体が小さい頃は力が無くわからなかった事だ。

柄が回転する……?

「……っ!!わかったぞ!ガイアソォオオオド!!」

手首をひねり、柄を勢いよく回した瞬間、緑色の光とともに剣が形を変え始めた。

柄はより長く、鍔はより広く、そして刀身は包んでいた瓦礫を突き破るほど長くなった。

「何ナんダよ!そりゃァア!!」

まさか、博士はここまで見越して……?いや、今は目の前の魂たちに集中だ!

「パワード、これからは新しい地球で過ごすんだ!」

「ふザけんナァアアアアアア!!!俺ハこんナ所で死ねるカよぉおおお!!!」

首だけで無理やりに動こうとするパワードに、体の隙間から蔦のような植物がパワードの顔面を押さえつけた。

「ガァアアアアア!!!ド、ドラッグぅううううう!!!貴様ァアアアアアア!!!」

「いくぞ烈!!」

「おう!」

私は瓦礫に埋まった剣を引き抜き、再び空へと掲げた。

「「グラァアアアアイ、スラァアアッシュ!!」」

パワードの脳天目掛け振り下ろされた剣は、瓦礫の体を真っ二つに叩き切っていく。バチバチと飛び散る火花が、体のあちこちでショートし、火の手が上がる。

「くそガァアアアアア!!!!」

苦しみながらも睨むパワードから黒い煙のようなものが溢れるのが見えた。その中の魂たちを数えることはできなくても、私はすべてを見送らなければならない。地球を創り変えた私は、謝らなければならないかもしれない。前世の人間に責められなければならないかもしれない。ただ、地球を創り変えて、誉められてもいない。しかし、自己満足でもない。

助けを求めていた人はいた。その代表がアテナさんだ。私はそんな人達の勇者となるために、地球を創り変えたんだ。

ボフン!!

私のダメージも相当なものだったらしい。私は剣を地球に戻すと、ゆっくりと膝をついた。そのままアースベースからの迎えが来るまで、じっとしていたのだが、弟たちに連絡をとろうと思い、すぐ下の弟に通信を送った。

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