第5話②
「ここガ、新しい地球カアァアア!!」
俺は機械人形を壊すため、日本に向かっている。その道中俺はたくさんの物をみた。青い空、青い海、緑の大地、酸素濃度の高い空気。どれも以前の地球に無かったものばかりだ………。
吐きそうだっ!!
俺は何かが燃えるのが好きなんだ。木、油、生き物も好きだが、その中でも特に好きなのが、家電製品が燃えるのが大好きだ。プラスチックがタダれる時に発する鼻の奥を抉るような臭い。電気線がショートして自らを燃料として燃える様。そして、自らが燃えているのに何も感じず、機能が駄目になるまで動き続ける根性。素晴らしいじゃないか!!火は人間を進化させたとも言うしな。
だが、今の地球は……。
「焼いてる臭いガしねぇ……」
おかしくねぇか?そりゃたき火や草焼きの臭いはしてる。だがゴミは?発電所は?放火する奴とかいねぇのか?こんなにも狂った星になっちまったのか?
しょうがねぇと俺は、家電製品を探した。とりあえず一番好きなもんを燃やせば、このイライラもマシになると思ったからだ。粗大ごみ置き場くらいあるだろと探していると、やっぱりあった。
冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビ、掃除機が……。
「アァん?中古品売り場カここハ?」
看板には確かに家電製品終末処理場って書いてあったぞ。だが何だこれは?でっけぇ屋根付きの倉庫に綺麗に並んでると思ったら、使ってたのかってほど綺麗じゃねぇか。
「おいおい……マサカ……」
俺はこの事実を確認するべく横の倉庫を覗いた。
「狂ってヤガる……」
聞いてくれ。全ての部品がネジ一本に至るまで分解されて綺麗に箱詰めされてやがる。箱には丁寧にリサイクルなんて書かれてな。
家電をリサイクルだと?そういえば家電の形がほとんど同じだ。まさかどこの企業でも同じような物を作ってるのか?特徴ってのはねぇのか?
「狂ってヤガる……」
さっきも言ったな。頭がおかしくなったみたいだ。
「……ひっ!!」
「ア?」
やべぇ、見られちまった。ここの従業員みてぇだが、人間ってのはこんなに小さくなっちまったのか?まぁ、逃がしてはおけねぇ。
「おい、お前」
「ば、化け物ぉ!!」
おいおい、逃げるんじゃねよ。無駄なことに力を使いたくねぇんだ。
へっぴり腰で逃げる人間を捕まえるのは簡単だ。ただ俺のでっけぇ手で握ればいいだけだからな。まあ死なせても別に構わねぇ。そぉら捕まえ……。
バチィイイン!!
「ア?」
おいおい、何で俺の腕が吹き飛んだんだよ?せっかくリガース様から頂いた設備で付けたのに。攻撃か?反応は無かった筈なんだけどなぁ?まぁいい。とりあえず目の前の人間を握り潰す。
ブゥウウウウウウン!!
なんだ、もう来ちまったのか?この間送ったクズ戦車から見てたから覚えてるぜぇ。緑の車に小せぇ人形が座ってな。そうだあんな形をしてた。
覚えてるぜぇ、初めてテレビに出たときの事。わざと出来損ないみたいな話し方してよ。その後すぐにちゃんと話しやがってよ。イライラしたぜ。
あ?降りてきやがった。挨拶でもしようってのか?しょうがねぇ。
「よぉ、機械人形」
俺は優しいからよ。先に挨拶してやったんだ。そしたら何て言ったと思う。「あなたは、あの島からやって来たのか?」だってさ。
余計イライラしたぜ。当然だっての。俺が来る理由はお前を倒すためだけなんだからな。その後も俺のイライラは消えず、ただただ怒りが貯まっていくだけだった。
そうか、リガース様はこういう気持ちだったのか……。
ーーーーーーーーーー
私が現場に到着すると、人の4倍はありそうな強大な人影が見えた。先日見た戦車のように、たくさんの機械を寄せ集めた人形のようだ。
その目の前には1人の男性の姿が。足を絡ませながら必死に逃げようとしている。
「今度はあいつか!」
「そうらしい。いくぞ烈!」
スピードを上げた私はあることに気付いた。男性を襲っていたであろう大きな機械の人形の右腕が半分無かったのである。何かあったのだろうか?
大きな機械の人形がこちらをゆっくりと見た。驚いた……、顔は人間じゃないか。
「烈、一旦止まるぞ」
「えっ、なんで?」
私はすぐにでも乗り込める所にGAーXを止め、無謀にも思われるが、外へ出た。
「よぉ、機械人形」
「あなたは、あの島からやって来たのか?」
「ダっタラどうする?」
機械混じりの声をした男性は、私の言葉を理解している。
「私は、あなたを救いたい」
「一度滅ぼしタのにカ?」
過去の記憶もあるのか。
「あの時の地球は、人間の住める所ではなかった。だが今はみんなが幸せに暮らせる。だからっ!」
「ダァアアアマァアアアアれぇえぇえええええ!!!」
怒り、憎しみ、怨み、悲しみ、以前の地球に溢れていた感情の全てが、音ではなく衝撃として私を襲った。やはりあの中にはたくさんの魂達が……。
機械の男性は、目の前の倉庫に入ると綺麗に整えられていた家電製品の部品をバラバラに散らかした。
「俺達ガ……いヤ。リガース様ガどれダけ苦しんダカ。過去の人類ガどれダけ憎んでいるカ、お前ハ全くワカっていナい!」
機械の男性の腕にバラバラになった家電製品の部品が集まっていく。それはやがて手となり、力強く拳が握られた。
「生きている人間ハいタ!!栄えている国もアっタ!!技術ダって日々進化していタ!!それのどこガ悪いんダ!!人間ハ自然と競いアって勝っタ!技術を生み出し、地球も進化した。俺達ガ、アの地球を作っタんダ!頂点ダっタんダ!そんナ俺達が作ってヤっタお前ごときガ、偉そうにしてんじャねぇぞ!!」
男性の声と機械の音が、私にはもっとたくさんの音に聞こえた。
「俺ハお前を壊してリガース様のもとへ帰る。そうすれバ、マタアの時の地球に帰れる!」
「ガイアっ!」
烈の言葉がなかったら、私の頭は無くなっていただろう。家電製品の部品が私の顔の横を通りすぎ、後ろにあったコンテナに突き刺さっていた。
「動くぞガイア!」
烈が体を動かしてくれたお陰で、なんとかGAーXに戻ることができた。
GAーXの中で、私は倉庫の中で暴れる機械の男性を見ていた。あれが過去の人類の言葉か……。あの人と話していると、過去の地球を思い出す。競い合っていた社会、優位に立とうとする感情、何もない事への恐怖、そんな色々な感情があの人の言葉にはこもっていた。
私は、あの人を救うことが出来るのだろうか……?
パァアン!!
「えっ?」
私の視線は何故か横を向いていた。
「しっかりしろ!」
烈の平手が、私の頬を叩いていた。
「ガイアは正しいことをしたんだろ!だったらあの人を救ってあげないと!」
……そうだ。あの地獄のような地球で、私はアテナさんと一緒に再生を行ったんだ。あの時の地球でよかったはずは絶対にない。それを諦めてしまった過去の魂達を、今の地球に生かすために、私は戦うんだ!
「……ありがとう烈、変形するぞ!」
「おう!」
「「チェイーーンジ!!」」
私が変形を終える頃には、機械の男性は倉庫中の電化製品をめちゃくちゃにばらまいてしまっていた。
「私はあなたを救いたい。だからあなたと戦う!」
「ヤれるもんナラヤってみろ!!俺のほうガ強いに決マってる!!」
機械の男性が両腕を挙げると、真っ黒い煙のようなものが倉庫中に広がった。真っ暗の中に男性の声が遠く聞こえる。
「俺の名前ハ、パワード!!!リガース様のタめに俺ハお前を壊す!!」
やはりリガースという存在が、何かを握っているみたいだ。
急に足元がグラつき始めた。
「烈、離れるぞ!」
「わかった!」
離れようとした瞬間だった。黒い煙の中から、巨大な腕が私目掛け襲いかかってきたのだ。私は何とかそれを避け、倉庫から離れたのだが、地面の揺れはどんどん大きくなるばかりだ。
「機械人形ぉおお!!」
機械の男性、パワードの声だ。
「変形すれバ俺に勝てると思っタカ?ダっタラ俺ハ、もっとでカくナるぜぇええええええ!!!」
黒い煙は倉庫全体を包むと、先ほど飛び出てきた腕がドスンと地面に手を着いた。そして肘を伸ばすようにゆっくりと立っていくと、さっきまで見えなかった肩が現れ、手の横から足が現れた。まるで、黒い沼から何かが這い上がってくるようにも思えた。頭が見えたときには、もう黒い煙も薄くなり、そこにあった筈の倉庫も綺麗に無くなっていた。
「ガァアアアアハッハッハハッハッ!!!」
巨大な声が龍神町に響き渡った。目の前に現れたパワードは、変形した私よりも、さらに5倍、いや8倍ほどの大きさになっていたのだ。おそらく、倉庫全体の部品を吸収したのだろう。
「俺に勝てるカァアアア、機械人形ぉおおお!!!」
私も負けるわけにはいかない。
「ガイアソォオオオド!!」
私は、地面から突き出た剣を握り走り出した。ダメージを与えるなら、まだ慣れていない今がチャンスだ。
「はぁっ!!」
ジャンプした私は、パワードの胸目掛け剣を振り下ろした。バリバリと音を立てて壊れていくそれは、色々な家電製品の塊だった。
「どうだ!?」
ある程度のダメージが入ったのではないだろうか。傷は左肩から斜めに入り、バチバチと音を立てている。
「ん?どうしタ機械人形ぉ、早くカカってこいよ!」
「何?!」
パワードは何事も無かったように、挑発している。ダメージが無かったのか?
「ガイア、もう一回だ!」
「おぉ!」
私はもう一度ジャンプし、今度は右肩からの傷をつけた。傷を受けてさらにバチバチと鳴るパワードの体は、今にも爆発しそうに見えた。
「……どうしタ機械人形。攻撃してこナいのカ?」
どういうことだ。ダメージを受けていないのか?
「確認するガ、マサカこの程度の傷で俺ガ倒れるとでも……?おいおい……、攻撃ってのハ、こうヤってするんダよぉおおおおおお!!!!」
パワードは大きく腕を振り上げ、地面に向かって拳を叩きつけた。
まず私を襲ったのは振り下ろした際の風だ。台風のような一瞬の突風が私の動きを封じた。次に地面からの衝撃。直下型地震のように下から突き上げられられ、私の防御姿勢を崩した。最後に来たのは地面の破片。抉られた道路の破片や岩、砂が私無防備な体を襲った。
「「うわぁああああ!!!」」
飛んできた瓦礫と一緒に、私は近くの倉庫に飛ばされてしまった。
「どうしタ機械人形、これで終ワりカ?つマラねぇぞ!!」
パワーが、違いすぎる……。せっかく創ってもらった体なのに、私のほうがまだ、使いきれていないようだ。どうすれば……。
『ガイア、烈、大丈夫かい!!』
「父さん?!」「健太郎さん?!」
『よかった!まだ大丈夫みたいだね。いいかい、よく聞いてくれ。今、そっちに車輌が一台向かっている。二人のサポートマシンだ。そして今からデータを転送するから、その通りに動いてくれ。大丈夫、二人なら絶対に出来るから!』
突然の通信に驚きながらも、健太郎さんが送ってくれたデータに目を通す。
「これは……!」
ブパァアアン!!
遠くから大きなクラクションが聞こえる。緑の大きな車輌が一台、こちらに向かって走ってきていた。
「アァ?ナんダアりャ?」
『名前はグラントレーラー!!二人の新たなる力だ!』
「いくぞ烈!!」
「おう!」
私は立ち上がり、飛ばされていた剣を握った。
すいません博士、荒っぽい使い方をします。
グラントレーラーに釘付けになっていたパワードの顔目掛け、私は剣を放り投げた。
「ぐワァアアアアア!!」
狙い通り、剣はパワードの目を通りすぎ、彼の視界を奪った。
「グラントレーラー!」
ブパァアアン!
私の声に反応しこちらに向かって来る車輌。私と同じ緑を基調としたカラーリングのキャリアカーだ。
前の部分は、アメリカの長距離トレーラーのようなフロント部分が長い構造になっている。後ろはと言うと車を積み込む事ができるようだ。あそこに私が乗ればいいんだな。私の目の前をグラントレーラーだ通りすぎていく。
「よし、チェイーーーンジ!!」
変形した私は、グラントレーラーの後を追うように走り始めた。
「烈、大丈夫か?」
「何とかわかった!」
「よし、いくぞ!」
「「グランフォーメーション!!」」
私がアクセルを踏み込むと、グラントレーラーの後ろが開き始め、ちょうど私が乗れそうな空間が現れた。真っ直ぐ引かれたガイドラインに従い、地面スレスレまで降りてきていたアタッチメントにタイヤを乗せると、吸い込まれるようにトレーラーに搭載された。
そしてトレーラーが変形していく。車体後方は脚へ、前方は体へと形を変えていく。胸にはサイの顔が、肩には上に突き出るような角が飛び出た。
なんて美しい体だろう。私のレプリカやGAーXもそうだが、アースベースのみんなは、どうしてこんなにも素晴らしいものを作れるんだ。高いところに理想があるはずなのに、それを実現する力が強いんだと改めて感じた。さっきは言えなかったが、この戦いが終わったら、技術課のみんなにたくさん質問したいと思う。みんなの思いがたくさん詰まったこの体を、私は平和のために使わせてもらう!
「「創星合体、グラーイガーイアーーー!!」」