第三話
異世界研究同好会の主な活動は試作と思索。
異世界にどうやったら行けるか、そして異世界に行った時のためのサバイバル方法の模索とサバイバル道具の試作。
異世界に行く方法ははっきり言ってわからなかった。
転生はあるかもしれないが死ぬのは論外。同好会メンバーであちこちのパワースポットを回ってみたがこれも結果は出てない。。
出てはいないが、現状これくらいしかないので俺もあちこち行ってみた。
今週も俺は富士の樹海を歩いてみたが何もなかった。幽霊すら会えなかった
まさか町中の公園で魔法陣に出会うとは思っていなかったが。
試作はみんなでアイデアを出してそれを作ってみる。出来る物も出来ない物もあるが、いま俺が使っているのがその一つ水筒だ。
道を歩いていると。途中で川が現れた。沢と言ってもいい。小さな流れだ。
俺は沢の水を水筒に入れ、スイッチを押す。
この水筒には深紫外線LEDが二個付いている。電源は水筒についている太陽電池。
出力が小さいので二回押す。
これは俺のアイデアを同好会の金持ちの先輩が実現してくれたものだ。
銭儲けの気配がしたのか、実家のつてを使ってメーカーに働きかけていた。
紫外線は生命体には有害で、深紫外線は紫外線より生命体へのダメージが更に強い。つまり強力な殺菌力を持つ。
日本では沢の水や湧水を飲んでもあまり心配ないが、海外でそんなことをしたらどんな細菌や病原体があるか分かったものじゃない。キタキツネの持つエキノコックス病などは湧水を飲んでも感染するというし。
ましてや異世界である。
未知の細菌や寄生虫、地球人が免疫を持たない病気もあるかもしれない。
この水筒には簡易浄水器も付けてあり、これで九十%以上の細菌は除去できるようになっている。百%でないのは仕方ないだろう。そもそも未知の細菌やウィルスでは検証のしようもない。
水を飲み、また歩きながら今夜のねぐらを探す。
時刻は暫定で午後三時。まだまだ明るいが日の入りの時間がわからないから早めの用意をしたい。
今までの道は植物はあまりなく、岩と土の風景ばかり。頂上から見たときには森も見えたので、そのうち景色も変わるだろう。動物や魔物は見ていない。
道はけもの道ではなくちゃんとした道になっていた。
昔は人が通ることもあったのだろう。今は使われていないことは雑草が生えたり、石があったりで、歩きにくいことでなんとなくわかる。
少し歩くと左手の方向が開けており、山肌に小さなくぼみが出来ているのが見える。川は道の右手に変わらず流れている。
くぼみに近づき周りを見て、今日はここで野宿をすることに決める。
リュックを下ろし、用意をしていく。
テントを出し、寝袋も出す。携帯コンロも用意する。
コンロは料理をするには小さすぎるが、水くらいなら沸かすことができる。
時刻は午後四時半。まだまだ明るい。ここまで休憩をしながらも五時間くらい山を歩いてきた。それにしては日本にいた時よりも疲れていない。
軽く跳躍したり、体を動かしてみる。
やはり体の動きがいい。
物を落としても重力が地球より少ない感じはしないので、何らかの理由があるのだろうと思う。
こんな方法でわかるかは微妙だが。
同好会の先輩達との研究では異世界に行ったときにはサバイバル能力は必須だろうということになった。
仮に転生ならその星の環境に適応した個体で誕生するはずだ。故に転生ではおよそ孤児とかではない限りサバイバル能力はいらない。
転移で行った場合、その星の環境が生存するのに適さないなら転生した段階で即死するので、また必要ない。
高すぎる気温や、少ない酸素。水のない星や重力の重い星など。
人間は適応する環境が非常に狭いので、その場合は考えても意味がない。
文明が進んでいた場合も、あまり考える必要がないだろうということになった。
その場合、普通に考えれば保護してくれるからだ。それは精神病院かもしれないが。
地球でももちろん、砂漠やジャングルなど過酷な場所も多いが、よほどの場所でない限り人が住んでおり、進んだ文明なら暴力的にはならない余裕もあるだろう。
やはりサバイバル能力の必要となる場合は、地球より文明的に遅れた危険な星の場合だろう。
今の段階でこの星の文明はわからないが、環境は人間が住んでいくには好ましい環境なんだろうと思う。
空が青いのはこの星に大量の海があることを示している。
地球ほどあるかはわからないが、それは今のところ確認しようがない。
湯が沸いた。インスタントコーヒーを作って飲む。
リュックからカロリーメイトを出してかじる。
スリングショットは日本にいたときに練習もしているが、狩りなどしたこともないし、そもそも日本の一般人は狩りなどしたこともないだろう。
鳥などを狩って食事するとかファンタジー小説にはあるがそこは無理だろうと思う。
料理は多少できるが、鳥などさばいたこともない。寄生虫も怖いし鳥インフルエンザも怖い。
一応一日二食で一週間分カロリーメイトは用意してある。何とか無くなる前に町に行きたい。
暫定午後六時、あたりは暗くなってきた。
LEDランタンのスイッチをつける。
火をおこしたいが燃やすものがない。携帯燃料はあるが限りがあるので使いたくない。寒さは寝袋に入ってやり過ごそう。
勿論、ナイフやトンファーは枕元に置いてある。枕はないが。
ゲームもテレビもないから時間を持て余す。
日が完全に落ちると空の星が輝きだす。
日本では見たことのないほどの星の数。
これはこの星には大気汚染が少ないか、ここがすごい田舎かのどちらかだろう。
文明が低いのか、人口が少ないのか。
二杯目のコーヒーを作りながらぼんやり空を見る。
夜はこれからだ。