第十六話
あれから3日ほどたった。
俺達が光りに包まれ気を失い、そしてあの衝撃のエンカウトを経験した時、馬車を預けていた留守番組が戻りが遅いのを不審に思い、遺跡を調べに来ると、皆が倒れているのを発見。それから大急ぎで領都まで皆を搬送し、病院に担ぎ込まれたらしい。勿論俺は意識不明で記憶もない。そして皆は一日で意識を戻したが、俺は三日たった今日まで意識不明の重体であったらしい。まあ重体と言っても生命活動に目立ったところもなく、ただ意識だけが戻らなかったらしい。おそらくナノマシンをインプラントされた影響だと思う。あの宇宙人というか人工知能が言うにはナノマシンは体を作り変えるものらしいから、意識不明になるのもある意味当然かもしれないと思える。
今は三日間ほど食事も取っていなかったわけだから、栄養剤の点滴を受けているが、ちょっと前までは意識を回復したものだから、結構な騒ぎになってしまった。大勢の看護婦やら医者やらてんやわんやで、検査やなんの薬かわからないが投薬など、ようやく落ち着いてきたところだ。
地球の知識からか、この病室も日本と比べても違和感のないくらい、ちゃんと病室になっている。白い壁、ベッドの回りののカーテン、水飲みなど。おまけに俺のあそこには導尿管まではいっている。点滴に使う針までちゃんと作れているようだし。おまけにどこぞのVIPが泊まるような豪華な部屋を用意てくれている。
さっきまでゼニスさんが見舞いに来てくれていた。
随分心配かけてしまったようで、隊長に詫びを入れてくれるよう、お願いした。責任問題などにならければいいのだけど。相手が地球外生命体では、賊としては想定外も想定外だったが。
とにかく皆無事でよかった。
胸に見慣れない七つの円があるのを見られ、仕方なく事情をゼニスさんに話してしまった。正直言えば話さないという選択肢はなかったわけで、何よりゼニスさんたちも巻き込まれた当事者なわけだし、あの人達に嘘をつき続ける自信は俺のような若造にはある筈もない。ゼニスさんならあの話も信じてくれそうだし、悪いようにはしないだろうとの、根拠のない自信のようなものもあった。勿論ゼニスさんもそれは保証してくれたし、これからの対処を本家の方で考えてくれるとのことだった。
俺の体は順調にナノマシンによる改造が進んでいるようだ。まだまだ全身には及んでないが、このまま時間が進んでいけば、数ヶ月のうちには終わるだろう確信があった。三日間も寝込んでいれば、どこかしら身体に不調の兆しはあるだろうに、身体自体にはほぼ何も違和感がなかったからだ。このまま改造が進めばわからないが。
翌日、検査の結果は特に異常なしとのこと。ただししばらくは経過観察が必要とのこと。なにせ、意識不明の原因も対処方法も不明な状態だったので、医者としては不安なのだろう。俺としても彼らを困らせるつもりもない。
今現在は身体に不調は何もなく、そうなると病室でじっとしているのは、なんとも退屈である。テレビとかあるわけでもないし、本で時間を潰すようなインドア派でもないので、病院の敷地内だけでも散歩できないかとお願いしたところ、車椅子ならOKの許可が出た。勿論介助の看護婦さん付きだ。しかも体格のいいふっくらした年配の。その看護婦さんに導尿管を抜かれた。初めての経験だからちょっと衝撃的で、違う世界に目覚めてしまいそうだ。
病院の中庭を車椅子を押してもらいながら散策する。気がついたときに病室にいたので、病院の建物を見るのは初めてになる。全然気が付かなかったが、どうやらかなり大きな病院で、2階建てのようだ。
「この病院はスミス家が運営していて、領内でも一番の施設を持っているのよ。」
領都にあるので当たり前だが、領内で一番の病院らしい。土地が余っているので、基本は二階建てらしいが、見るからに三階くらいの高さはある。みんな身体が大きからね。
今はお昼前の時間で、看護婦さんも基本忙しいので、あまり長くは居られない。
「しかし随分子供が多いですね。」
中庭のベンチで二人揃って座って回りをなんとはなしに見ていると、明らかに子供の姿が多い。
「患者さんの半分近くは子供なんです。」
なんと、そんなことを看護婦さんは言った。
「どうしてそんなに多いんですか?」
「この国には子供だけがかかる風土病があるのよ。」
「……風土病ですか。どんな病気なんですか?」
「それがはっきりした原因も、治療方法も未だにわかっていないんです。」
彼女が言うには、この病気は感染症とか伝染病のたぐいではなく、寄生虫とかでもないそうだ。発症率はあまり高くはなく、死亡率も高くはないそうだが、高熱やら全身の炎症やらで後遺症の残る子供も多く、治るかどうかは完全に運任せの状態だそうだ。だから治療も熱を下げたり、炎症を抑えたりするような対症療法にとどまり、病自体を治すような治療は行っていないと言う。最初のうちは夜中の微熱で、昼間は普通に動けるらしい。また逆に体がすごく冷えてしまうこともあるらしい。
スミス家の領内は決して貧しくはないが、病気のこどもを抱えて暮らしいくのはやはり大変らしい。またこの国自体もこの風土病に関しては大きく力を入れていて、病気にかかる費用は各貴族が負担することを法律で決めていて、領内のあちこちからこの病院に子供が連れてこられるらしい。
今中庭で遊んでいる子供たちは、初期状態なのだろう。その子供たちを見る彼女の目は、なんとも言えない哀しい目をしていた。
医者や看護婦の仕事は病気を治し、健康になってもらうこと。それができずに、ただ見ているだけの状態はさぞ辛いことだろう。
サッカーのような遊びをしている子供がいた。結構元気に遊んでいる。
ボールがこちらに転がってきた。子供が走ってボールを追いかけてくる。ベンチから立ち上がり拾ってあげる。
「お兄ちゃんありがとう。」
ボールを渡し子供の目線までしゃがみながら、頭を撫でる。
「どういたしまして。」
子供は一礼して走って去っていった。撫でた瞬間なんとなくわかった。
看護婦さんに聞いてみる。
「その病気はいつからあるんですか?」
「初めて病気が確認されたのがおよそ百年前です。」
百年治せなかった病気を俺が治したらまずいかなあ。