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第十五話

「あれが遺跡じゃ。」


 翌日、相変わらず天気にも恵まれ俺たちは宿舎を後にした。牧歌的な風景の中、街道を進むとゼニスさんが街道のわきを指差し教えてくれた。

 それは言われてもすぐにはわからない、ただのこんもりとした丘のように見えた。


「ただの丘のように見えるが、丘の反対側に地下への入り口がある。」


 日本人の感覚だと、こういう遺跡は昔の人のお墓じゃなかろうか。


「馬車はここに置いて歩いていきましょう。」


 コーブ副隊長が先頭を歩いていく。五人ほどが馬車のところに残り、留守番になった。七人でなだらかな丘を歩いていく。

 

「ここは何の遺跡かわかったんですか?」


「おそらく墓だろうと思うが、盗掘にでもあったんじゃろう、埋葬品も何も出てこなかった。それでそれ以上の調査はされておらん。」


 丘の頂上に辿り着くと丘の陰に隠れた斜面に途中で途切れている石畳が見えた。


「元々地下に埋もれていた石組みが大雨に流されて一部地表に露出しての。掘り進むと地下へ繋がる通路があったのじゃ。」


 石畳に来ると、確かに丘の地下に通じる通路へと繋がっているようだ。エジプトのピラミッドもマチュピチュの遺跡も行ったことはないが、テレビで見たその二つの遺跡の壁のように、石組みが隙間なく積まれて二メートルほどの天井まで続いている。

 階段はすぐ終わり、下に向かって通路は坂になって下っている。二十メートルほど歩いたろうか、ほどなく一つの部屋に出た。外からの明かりはほとんどない。

 兵士の一人が魔道具のカンテラを持っている。俺もLEDライトをつける。

 広さ的には四畳半くらいだろうか。

 部屋の中には俺とゼニスさん、コーブ副隊長だけが入り、四人は外で待機している。


「この部屋は丘の中心部に位置しているから、まず墓で間違いないだろうということになっておる。この壁に使われておる石も大きさ自体はそこそこ大きいがさほど遠くないところから運んできたもののようじゃ。壁には壁画も文字も残されておらんから、だれがいつ作ったのかはさっぱりわからん。おそらく相当古いもののようじゃがの。」


 ゼニスさんの言うように、部屋の中には文明を感じさせるものは何もなかった。ただ綺麗に積まれた石や、きちんと長方形になっている部屋の形はやはりピラミッドの王の部屋を連想させてくる。


「この部屋の下にも部屋があったりしませんかね。」


 俺は壁や足元を触りながら言ってみる。


「似たような遺跡がほかにもあって、お主の言うように掘ってみたことがあったが、何も出んかった。地球のように金属探知機や音波探知機があれば探せるのかもしれんが、こちらにはないからのう。」


 さすがゼニスさんは地球の事に詳しい。そんなことまで知っているのか。



 しばらくそうしていた。何か超常現象的なことも起きることもなく、得体のしれないエネルギーを感じることもなかった。


「確かに何にも出なかったかもしれませんが、この世界の人の営みを感じることが出来ました。戻りましょうか。」


 少し冷えた空気、土のにおい、そういうものを感じながら外に向かって歩いていく。



 部屋から出ようとした瞬間、部屋が急激に光を帯びてくる。


「なんだ!!」


 不意を突かれた俺たちは茫然としてしまう。


「副隊長!!」


 外にいた騎士が慌てて走ってくるのが見えた。


 そのまま光は俺たちを呑み込んでしまった。

















 目蓋の向こうが明るい。目を開けると白い天井が見えた。


「知らない天井だ。」


 異世界に行ったら言ってみたいセリフ三十番目くらいのセリフを吐いてみた。

 体が動かない!

 首から下の感覚がなく、動かすことができない。動くのは頭だけのようだ。

 周りを見るとゼニスさんや護衛の騎士たちがテーブルのようなものの上に横になっているのが見える。おそらく俺も同じようなことになっているのだろう。皆意識はないようにみえる。思ったよりパニックになっていない自分に驚く。


 どこからともなく光の玉が現れた。ぼんやりと宙に浮いている。


 何か音が聞こえるが、なんの音かわからない。声のようにも聞こえる。


「私の声が聞こえますか?」


 英語で呼びかけるが聞こえた。


「あ、英語だ。」


 思わず日本語で答えてしまった。


「……あなたは日本人ですか?」


「はい。」


 流暢な声で日本語で問いかけてきた。


「あなたは神ですか?」


 こんな状況で一番考えられるのは神だ。俺は光に聞いてみた。


「いいえ。私は神ではありません。地球人の言うところの地球外生命体です。」


「は?」


  思わず間抜けな声が出てしまった。これにはちょっと驚いた。エイリアンとの遭遇?


 俺の上がった心拍数など気にもせず、光は話を続ける。


「貴方も地球からこの世界に渡ってきたのでしょうか。私もある日突然こちらの世界に迷い込んでしまいました。以来地球時間で千年待ち続けました、地球人と出会えることを。」


 千年!! 重いよ。


「貴方にお願いがあります。そのための力も与えます。話を聞いてくれますか?」


 エイリアンは随分紳士的だった。こう何と言うかエイリアンのアブダクションと言えば、もっと問答無用の人体改造とかインプラントとかだイメージだったから、思わず答えてしまった。


「はい、お願いします。」





「まず、私たちの概念には地球人の理解が及ばないものもあります。わかるように説明しますが、ひとまず私の話を聞いて下さい。私の星は地球から三十光年ほどの距離にあります。我々の目的は地球人の観測が主で、私は地球の暦で西暦二千年から始めました。」


 あれ、思ったより最近だぞ。太古の昔からじゃないのか?


「観測を初めて二十年ほどたったある日、こちらに迷い込んでしまいました。」


「次元の狭間とか渦とかに吸い込まれたとか?」


「そのようなものはありません。本当に何も状況がわからないままこちらに来ました。もともと観測が主ですから私は仕方なくこちらの星を観測することにしました。」


「何を調べているんですか?」


「宇宙には生命が溢れています。地球人や我々も想像できない環境でも生命は誕生します。しかし私達の長い歴史でも確認できた知的生命体は地球人だけでした。ですが地球人は未だ宇宙には進出できず、お互いが出会うことは未来の話になります。それまで地球人がどのようなものなのか調べるのが私の任務でした。」


「何がわかったんですか?」


「色々と。まず地球は我々の星と環境が酷似していました。そして地球人は遺伝子的にはほぼ私達と同一の存在でした。」


 ええええええー!


「あなた達は人間なんですか?」


 思わず聞いてしまった。


「分類的には人間になりますね。随分と姿は変わりましたが。」


「変わった?」


「はい。これは我々の歴史になりますが、惑星に生まれた生命体はその環境から離れることはできません。大気、重力、食料などですね。そして宇宙空間にはそのようなものなく、また有害な放射線など惑星環境にはないもので溢れています。」


 聞いたことがある。宇宙飛行士は宇宙空間では一日八時間ほどの運動をしなければ筋肉が衰えると。それでも地球に帰って来たときには自力では中々立つこともできず、一般生活に戻るために一月くらいのリハビリが必要だと。


「ですから私たちは頑丈な内骨格と強固な外骨格を自分たちの身体に付与することにしました。それでやっと宇宙空間に出ることが叶いました。随分昔の話です。」



 これは驚いた。彼らは宇宙に出るため自分たちを改造したということになる。


「話を戻しましょう。地球人と私たちは遺伝子的にはほとんど違いはありませが、異なる星の環境でそのようなことがあるはずがありません。であるなら答えは一つです。」


「……それは……」


「第三者の介入です。それを神と呼ぶのか創造主と呼ぶかはわかりませんが。何処かに高度な文明を持った知的生命体がいて私達を作ったか、或いは星を渡って流れ着いたか。遭遇して確認しなければわかりません。」


「我々はある意味兄弟なんですね?」


「はい。そしてこの星の住人も我々の近似種だとわかりました。」


「それって……」


「おそらくこの星の住人が我々の祖先になっていると思われます。」


「確かに似ていますが、体の大きさが違いますよ?」


「私や貴方の星にはありませんが、この星の住人が魔力と呼ぶ我々の知らない未知のエネルギーが存在しています。この星の住人はその魔力に適応し、遺伝子を変化させ、それをエネルギーとすることに成功したようです。」


「遺伝子的にですか……」


「私達の細胞の中にあるミトコンドリアはATPという物質を生成しています。それを細胞がエネルギーとして利用しているのですが、この星の生命体はミトコンドリアはATPと共にある物質を作り出しています。この星の住人はそれを魔力と呼び、それをエネルギーとして取り込み我々より大きな体や大きな力を得ているようです。」


「我々のミトコンドリアと違うということですか?」


「私の仮説になりますが、この星の住人が私の星や地球に何らかの方法で移住し、我々の祖先とまじり、遺伝子を残したものと思われます。御存知かわかりませんが、ミトコンドリアDNAは母親からしか遺伝しません。この星の住人のミトコンドリアDNAは進化の歴史の中に埋もれてしまったのでしょう。ですが貴方の身体を調べたところ一部遺伝子が活発に活動していることが確認されました。今までジャンクDNAと呼ばれていた部分です。その遺伝子は魔力を取り込んで活用しようとしています。この遺伝子の存在は我々がこの星の住人の末裔であると推測するには十分と思われます。」



 ゼニスさんの言うこの星と地球との関連が、図らずも証明されたのか。


「そして今貴方は非常に危険な状態にあります。」


「え?」


「本来地球人の身体は魔力などというエネルギーを必要としない体になっています。そして魔力はミトコンドリアが出す物質なのですが、純粋なエネルギーの性格も持っています。それを一部取り込み、きっと貴方はこちらに来てから早く走れたり、力が上がったりしているはずです。」


「はい。」


 心当たりがある。いくらなんでも三百キロもあるような猪を引きずっていけるようなことは地球だったら有り得ないと今ならわかる。


「魔力を生み出すミトコンドリアを持たない貴方の身体が、どうして魔力を利用できているのか。それは貴方の体自身が魔力の発生源となっているからです。」


「どういうことでしょう。」



「例えが適切かどうかわかりませんが、放射能の内部被曝によく似た現象が起きています。」


「放射能?」


「強い放射能を浴びたり、放射性物質を身体が吸収したりすると、細胞や骨そのものから放射線が出、内部被爆をおこしてしまいます。魔力と放射能との違いはありますが、貴方の身体全体からかなり高い魔力が出ています。」


「……それって何か問題がありますか?」


「ええ。魔力は純粋なエネルギーですので、消費する必要があります。消費されないと体内に蓄積され、今すぐは問題なくとも長期的には体調不良からストレスになり、精神的にも肉体的にもボロボロになって、最後は生死に関わる状態になります。しかも貴方自身の魔力は非常に多いことがわかっています。この星の住人ならば喜ばしい状態ですが、貴方の場合は重篤な状態までの時間が短縮されることになり、決して放置していい問題ではありません。」


「……それは解決方法があるということでしょうか?」


「あります。魔力は純粋なエネルギーですので、あるベクトルを与えてやると、消費できることがわかっています。この星の住人が紋章と呼ぶものがそれになります。この星の住人の魔力では紋章の効力は大したものではありませんが、貴方の魔力だと大きな力になるでしょう。」


「紋章が……」


 紋章にそんな効力があるなんて思いもしなかった。


「これはこの星に来てわかったことですが、動物や一部の生物が何故あんなにもカラフルなのか、何故身体に模様が入っているか、それが魔力の存在と密接に関係していました。」


「……それはどういう……」


「人間もそうですが、生物は食物連鎖の輪の中に入っています。その進化の過程で生き残るために魔力を効率よく取り入れるための紋章、それが生物の模様や色とりどりの体表に現れているのです。」


 そういうことか!!


「魔力が全ではないとしても、ほんの僅かでも他の種より優れているモノがあれば、生き残る事ができるということですか。」


「そうです。例えば恐竜にはトカゲ型と鳥型がいますが、現代まで生き残っているのは鳥型だけです。その理由は魔力を取り込めたかどうかだと考えられます。」





「話がそれましたが、私のお願いを聞いてもらうためには、貴方に生きていて貰う必要があるため、貴方の身体に紋章を付与しました。」


「え!!何してくれとん?」


 思わず素が出た。


「貴方の魔力を消費する必要が生じたため、やむなく貴方の胸に紋章を刻みました。これは入れ墨ではありませんが、死んでも取れません。」

 俺は恐る恐る下を見た。俺の胸には丸が7つの紋章があった。確か何処かの名家の家紋に九曜というのがあった。あれは真ん中に丸があって回りに八つの丸が囲んでいたが、俺の胸には真ん中の丸がなく、回りの丸だけが七つあった。言うなれば七曜か。


「それぞれの紋章にはそれぞれの意味があります。これは私が名付けたものですが、健常、大力、俊敏、活性、継続、再生、絶倫になります。簡単に言えばいつも健康で素早く、頭の回転が早くなり、スタミナは無尽蔵です。」


 なにげにスルーしやがったが、最後のやつは必要か?


「身体の機能が地球にいた頃よりもアップしたと思ってもらえば結構です。ただ、貴方の魔力は多量ですので、その効力を十全に発揮した場合、貴方の体が持ちません。」


「力が強くなっても、その力を使うと骨が折れたりとか?」


「そうです。ですので貴方の身体を強化するため、ナノマシンを体内に注入しました。」


「は?」


「このナノマシンは貴方のミトコンドリアの中に入り、そのATPをエネルギーとし、増殖しながら全身を強化します。人の体の細胞数は約六十兆個、一つの細胞の中のミトコンドリアは三百から四百。そしておよそ二京個のナノマシンがそれぞれ脳の神経細胞のようなネットワックを作ります。そのネットワークは全身が脳であり、全身が筋肉と同義となります。」


 確か人の脳の細胞の数は一千億個だった気がするが、二京個とは何倍になるんだ?でも嫌な予感がする。


「……そのナノマシンは暴走しないのか?俺の身体を食い破ってこの星の生物を絶滅させたりしないか?」


 これはグレイグーと言われる問題。体内で暴走したナノマシンが無限増殖し、体内から体外に出て、地上の生命を絶滅させる。地球はナノマシンに覆われ、灰色のドロドロになってしまうというもの。


「この星の住人のミトコンドリアはATPの量が少なく、ナノマシンが十分に増殖できません。もし貴方の体外から外に漏れたとしても、無限に増殖することはありませんし、そもそも暴走することもありません。」


「そんなことわかんないじゃないか。」


 エイリアンが身体を食い破って出て来るあの映画のシーンが頭から離れない。


「私達が発見した知的生命体は地球人だけでした。そしてこの星の存在はどうしても私の星に帰って報告しなければなりません。帰る方法は見つかりましたが、この星に戻ってこられる保証はありません。貴方の体の中のナノマシンはマーカーでもあります。それがあれば多少離れていてもこの星に戻ってくることができます。貴方への依頼は死なずにこの星で生きていてもらうこと。ですので貴方の中のナノマシンが貴方を害することはありません。」


「帰ることができるのか?」


 望んで異世界に来たから帰る気は毛頭ないが、帰れないと帰れるの差は大きいだろう。


「我々の方法では貴方は帰ることができません。」


「……そうか……」


「私たちは地球に来るのにワームホールを使っています。これならば向こうの時空間に移動できるはずです。ですがこの時間と空間の歪な場所は有機生命体の存在を許しません。私達のような機械でないと。」





「そろそろ時間です。色々不安や疑問もあるでしょうが、大きな力と丈夫な体を得たと思ってこの星を楽しんで下さい。貴方に生きていてもらうことが私の利益になりますから、貴方を害することは絶対にありません。まずはその体に慣れて下さい。」


「この星のことを教えてほしい。」


「残念ですが時間がありません。大事なことはナノマシンが知っています。ナノマシンは人工知能ではないので会話ができませんが、必要な情報は問題ありません。今は眠って下さい。」


「おい、ちょっと待て。まだ聞きたいことが山ほどあるんだ。自分だけ……。」


 急速に眠くなってきた。くそ!覚えてろよ。

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