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金の魔眼の娘  作者: uno
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プロローグ

暗いです。徐々に明るくなります。



――――――嗚呼、私は喰われたのだ。


故郷も、記憶も、名前も。生きてきた年月さえも、あの(おぞ)ましい生きた門に。



身体の芯まで竦み上がるような孤独の中、少女はそのことを思い出した。






◇  ◇  ◇


気付けば真っ白な空間にいた。


自分が何故そんな所にいるのかも、どころか直前まで何をしていたかもわからず、本当に気付いたらそこにいたのだ。


果てが見えぬ空間だった。音のしない空間だった。ともすれば平衡感覚さえ失ってしまいそうなほど何処もかしこも真っ白な空間の中、巨大な門だけが唯一存在する物質だった。

首が痛くなるほど高い門だ。働かない思考のままで呆然と見上げていると、バチリと目が合った―――そう、目が合ったのだ。

門には目があった。一見すると門を装飾する宝石と見がまう黄金色のそれはギョロリと動き、間違いなくそれが眼なのだと伝えていた。いっそ厳かなほど白く美しく、そして大きな門だったが、眼の存在がその雰囲気を不気味なものに変えていた。

黄金色の眼に射抜かれた私はその不気味さを気持ち悪いと思う前に、強烈な心細さに襲われた。それは例えるなら海で陸が見えないほど沖の方に1人流されてしまった時のような、ちっぽけな存在があまりに大きすぎるものを前にしたときに感じる恐怖だった。

なぜ自分はここにいる、ここはどこで、どうやったら戻れる――そんな疑問を抱く間もなく、ただただ恐ろしかった。金縛りにあったように身体はピクリとも動かない。あ、だかう、だか意味をなさない声を漏らしたような気がする。わけがわからない。呼吸が乱れて、鼓動が今までになく速く脈打ち、黄金色が、不気味な黄金色が―――――そして、私は白にのまれた。





◇  ◇  ◇


ふと気が付けば、そこは森だった。

人の気配はない。暗い夜の森だ。それも浅い入り口でなく奥深くだろう。

何を思うでもなくふらりと歩き出した。そのまま目的さえなく歩き続け、疲れを感じて木の根元に座り込んだ。自分は何をしているのだろう。むき出しの肩をなでる風が冷たくて、帰りたい、と思った。


「(……どこに?)」


自分はなぜ、帰りたいなどと思ったのだろう。わからない。わからないけれど、ふとそう思ったのだ。

相変わらず森は静かで、自分以外の人の影は見当たらない。ぼんやりと遠くを見つめる。夜の森はどこまでも暗く闇色の帳でおおわれている。


怖い、と思った。


と同時に、自分はこれに近い恐怖を知っている、と思った。出口の見えない真っ暗な森の中にひとりぽつんとうずくまっている。ちっぽけな自分という存在に夜の闇が牙をむき襲いかかってくるのではないか、そんな恐怖を感じる。たまらなくなって駆け出した。無我夢中だった。時々疲れて座り込んでは、また怖くなって走り出す。そんなことを繰り返すうちにやがて空が白んできてほっとすると同時に、小さな水場を見つけたこともあり少女はやっと足を止めた。カラカラになった喉を潤そうと水面をのぞき込んで―――息を呑んだ。


「なに、これ……」


感じたのは強烈な違和感だった。済んだ水面に移るのは7、8歳ほどの幼い少女。自分はこんなに小さかったか?それになにより、金色に輝く瞳と目が合って鳥肌、が、


「あ、あ…ぁあああああっ!」


そうだ、自分はこの色を知っている。どこで?あの真っ白な空間で。不気味な門に埋まっていた―――なんで。なんであの目がここにある。そうだ、自分はもっと大人だったはずだ。瞳の色は黒だったはずだ。家族や友人に囲まれて、平和に暮らしていたはずだ。

それがどうしてこんな森の中にいる。どうしてこんな身体になっている。どうして家族の顔が思い出せない。どうして自分の………自分の名前さえ、思い出せない。

帰りたいと思うのに、どこに帰ればいいのか思い出せない。家族に会いたいと思うのに、その顔も名前も思い出せない。

わかったのは、私という存在を形成することごとくをあの悍ましい白い門に奪われたということだけだった。



徐々に明るくなっていく森の中、少女の慟哭が木霊した。




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