履物の改良・革製のサンダルで歩きやすくしましょうか。
さて私は保存が効くように加工した海の幸をもって信濃に戻ってきました。
そして、義仲様や私の父母兄弟、義経一項などにおすそ分けしたあとで私は考えていました。
「やはり長距離行軍の際には履物の改良が必要ですよね」
この時代の履物ですが私達武士階級は革製の皮足袋、要するに革でできた靴下のようなものを履いて、での下に馬上靴といわれる毛皮製のブーツや、貫と呼ばれるローファーのようなものを用いますが、徒歩兵は鼻緒式の草鞋や足半と呼ばれる足裏前半分にあたる草鞋もしくは裸足でした。
草鞋と草履は混同され易いですが、草履が鼻緒式のビーチサンダルに近い構造なのに対し、草鞋は前部から長い「緒」と呼ばれる紐が出ており、これを側面の「乳」と呼ばれる小さな輪およびかかとから出る「かえし」と呼ばれる長い輪に通して足首に巻き、足の後部(アキレス腱)若しくは外側で縛るものです。
鼻緒だけの草履に比べ足に密着するため、山歩きや長距離の歩行の際に非常に歩きやすいのですが、消耗が激しく基本的に使い捨てが前提となります。
「草鞋と同じような形のものを革で作ったらどうでしょう?」
ローマの軍靴 )とかグラディエーターサンダルは草鞋を革で作り変えたような構造だったよううなきがします。
まずは自分で作成してみましょうか。
鹿のなめし革を足の形に切り抜いてそれに脚を固定するための紐を縫い付けます。
「こんなものですかね?」
自分でそれを履いて、履き心地を確かめて納得がいくまで作り直します。
「ふむ、こんなものですか」
納得の行く出来のものができたらそれを使って同じようなものを作らせます。
「では、早速作らせてみましょうか」
私は甲冑職人を呼んで、革製のローマ式のサンダル状ブーツの軍靴を見せて説明します。
「というわけで履物をこのように革で造り、底の皮を長持ちさせるため、脚の負担軽減の為に裏に鉄鋲を打ってほしいのです。
まずは10足ほど作って欲しいのですができますか?」
「へえ、わかりました。
では同じようなものを作ってみます」
わたしは笑顔で、うなづきました。
「よろしくお願いしますね」
そして、しばらくして完成品が届けられました。
「ふむ、いい出来ですね」
早速義仲様のところへ持っていきます。
「義仲様、本日は新しい履物を造りましたのでお持ちしました」
義仲様は怪訝そうな顔でした。
「新しい履物か?それは一体どんなものだ?」
私は持ってきた軍靴を義仲様に一つ手渡しました。
「草鞋を革で置き換えて作ったものでございます。
一度履き心地を試していただければと思います」
「うむ、では俺も試してみようか」
義仲様が庭で靴を履いてまずは歩いてみます。
「ほう、歩きやすくて良いな」
そういう義仲様に私は言いました。
「駆け回っても沓のようにすっぽ抜けたり群れたりしませんし、草鞋よりもはるかの丈夫なので一度つくれば長持ちいたします」
義仲様はそれを聞いて笑いました
「うむ、今後はこれを使うとしよう。
今後も頼むぞ」
「はい、おまかせください。
ただ雨降りのときや岩場、川を渡るときは草鞋のほうがいいと思います」
「なぜだ?」
「この靴では滑ってしまうからです」
「なるほど、草鞋は草鞋で必要か、わかった」
私は兄弟や義経一行のもとにも同じものを持っていきました。
大体のものには評判が良かったのですが、弁慶には靴底が小さすぎたようです。
「うむ、拙僧にはこれでは小さすぎて入らぬな」
「すみません、では大きなものを作って持ってきます」
「うむ、かたじけないな巴御前」
私は念のため弁慶の脚の裏の大きさを紐で測って、それを甲冑職員に伝えてあら手混て大きなサイズの物を作らせました。
そして出来上がったものを持って弁慶のところへ行ったのです。
「今度はどうですか?」
靴を履いて少し歩き回ったあと弁慶は言いました。
「うむ、拙僧にぴったりであるな、手間をかけていただいてかたじけない」
「いえ、いえ、これからもよろしくお願いします」
概ねみんなに好評なようでよかったです。
そうしましたら今度は松本の手習い天神の全員分も作らせましょう。
行軍訓練が少し楽になるはずですからね。




