表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木曽義仲の覇業・私巴は只の側女です。  作者: 水源


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/109

各地に草の種をまきましょう・諜報活動は大事です。

 さて、義経たちの兄弟に関しては今のところこれ以上できることはありません。


 以仁王の令旨が発せられ混乱するまでは寺を抜け出すことは難しいでしょうし、無理に抜け出されて今すぐに信濃に来られても困ります。


「追っ手を差し向けられて、信濃に義仲様や義経がいることが平家に漏れてそこから面倒なことになっても困りますしね」


 信濃はど田舎であるから今までのところは表面化してませんがね。


「さて、そろそろ周りの国に草の種を植えておくべきですかね」


 草というのは当然植物ではなくその土地に根付いて、情報収集を行う者たちのことです。


「『孫子曰く、凡そ師を興すこと十万、師を出だすこと千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費やし、内外騒動して、道路に怠れ、事を操るを得ざる者、七十万家。

 相守ること数年、以て一日の勝を争う。

 而るに爵禄百金を愛みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。

 民の将に非ざるなり。

 主の佐に非ざるなり。勝の主に非ざるなり。

 故に明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は先知なり。

 先知なる者は、鬼神に取る可からず。

 事に象る可からず。

 度に験す可からず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。』といいますからね 」


 まあようするに、孫子という古の兵法家は、大軍で長距離の遠征を行うなら、民衆の出費や国による戦費は、莫大なものだから、補給路の確保と使役に消耗し、農事に専念できない家がたくさん出て、こうした中で数年にも及ぶ戦争準備が、たった一日の決戦によって成否を分けるにもかかわらず、間諜に褒賞や地位を与えることを惜しんで、敵の動きをつかもうとしない者は、兵士や人民に対する思いやりにかけており、指揮官失格であり、そんなことではとても兵を率いる資格はないし、勝利もできないと言っているわけです。


 逆にこうしたことで、聡明な君主や優れた将軍が、軍事行動を起こして敵に勝ち、人並み以上の成功を収めることができるのは、事前に敵情を察知するところにこそあるので、先んじて敵情を知ることは、天に祈れば実現できるものではなく、必ず人間が直接動いて情報をつかむことによってのみ獲得できるものである。


 ということですね。


『なんじゃ、それでは妾の存在を無視しておらんか』


 貴狐天王がそう言ってきますが、彼女の力を借りるには相応の代償が入りますからね。


「あなたの力を借りるのはとても大事なときだけにしておきます。

 便利な力を使いすぎればその力に溺れて破滅するでしょう」


『ふん、つまらぬことじゃ、まあいい、汝は妾に美味なものをきちんと捧げておるからの』


「はい、それが約束でございますから」


「『故に間を用うるに五有り。

 因間有り。

 内間有り。

 反間有り。

 死間有り。

 生間有り。

 五間倶に起こりて、其の道を知ること莫し、是を神紀と謂う。

 人君の宝なり。

 生間なる者は、反り報ずる者なり。

 因間なる者は、其の郷人に因りて用うる者なり。

 内間なる者は、其の官人に因りて用うるなり。

 反間なる者は、其の敵間に因りて用うる者なり。

 死間なる者は、誑事を外に為し、吾が間をして之を知ら令め、

 而して敵を待つ者なり。』 でしたっけ」


 これは間諜の種類についての話ですね。


 間諜には5つの用い方があり、それぞれは、因間、内間、反間、死間、生間である。


 この5つの間諜が一斉に動いてそれぞれが活動していながら、その手口や動きを知られなければそれは神業と言え、君主の宝とも言うべき存在である。


 生間というのは、敵国に侵入して諜報活動を行ってから生還して報告を行う者である。


 因間というのは、敵国の村里にいる一般人を使って諜報をする者である。


 内間というのは、敵国の官吏などを利用し内通させる者である。


 反間というのは、敵国の間諜を逆利用する者である。


 死間というのは、偽情報や誤情報を流すことで敵を欺き、味方の間諜にそのことを自国に報告させ、敵がその偽情報に乗せられて動くのを待ち受ける者であるとされています。


 草というのはこの中では生間に当たりますが、因間にも近いですね。


 あまり早く送り込んでしまうとその土地や主人への愛着が深くなってしまいますし、かといってある程度の時間をかけなければ信頼を得られません。


 これが難しい所ではあります。


「そのあとは『故に三軍の親は、間より親しきは莫く、賞は間より厚きは莫く、事は間より密なるは莫し。

 聖に非ざれば間を用うること能わず。

 仁に非ざれば間を使うこと能わず。

 微妙に非ざれば間の実を得ること能わず。

 密なるかな密なるかな。

 間を用いざる所なし。

 間の事未だ発せず、而して先ず聞こゆれば、間と告ぐる所の者と、皆死す。』でしたね。」


 つまり、全軍の中で、間諜の長よりも親密な者は居ないもどでなければならず、褒賞も間諜より厚遇される者は居ないというぐらいでないといけないというわけです。


 しかも、間諜を使う側が聡明で思慮深くなければ、間諜を諜報活動に当らせることはできないし、思いやりや慈悲の心がなければ、間諜をうまく使うことはできないというわけですね。


 また、微細なところまで配慮のできる洞察力がなければ、間諜から集めた情報の中にある真実を見極め実地に用いることができないから、


 なんとも奥深く、一見しては見えづらく、微妙なものである


 ですが、軍事において間諜を使わないことも、諜報した情報を活用しないこともありえない。


 もし、間諜の情報が公表される前に他から耳に入り、間諜が情報を漏らしていたとなると、その間諜本人だけでなく、その情報を知った者はすべて殺してしまわなければならないのです。


 それは裏切りというだけでなく、自軍に大きな損害を与えうるものだからですね。


「その次は『凡そ、軍の撃たんと欲する所、城の攻めんと欲する所、人の殺さんと欲する所は、必ず先ず、其の守将・左右・謁者・門者・舎人の姓名を知り、吾が間をして必ず索めて之を知らしむ。』ですね」


 要は実際に攻撃を行う場合は、攻撃したい相手の細かい情報を調べ、間諜に命じて更に詳細な情報を得るようにしなければならないということです。


 まあそうでなければ対応できませんからね。



「でそのつぎが『必ず敵人の間を索し、来たりて我を間する者は、因りて之を利し、導きて之を舎せしむ。

 故に反間は得て用う可きなり。是に因りて之を知る。

 故に郷間・内間も得て使う可きなり。

 是に因りて之を知る。

 故に死間も誑事を為して敵に告げ使む可し。

 是に因りて之を知る。

 故に生間も期するが如くなら使む可し。

 五間の事は、必ず之を知る。

 之を知るは必ず反間に在り。

 故に反間は厚くせざる可からざるなり。』


 こちらが間諜を送り込むということは相手も同じことを考えているはずであるから、必ず敵方の間諜がいないかを探し、潜入して来て我が方を探っている者がいれば、それを逆用して利益を与え、うまく誘導して寝返らせ自国側につかせ、こうして逆スパイである反間を得て用いることができるのである。


 この反間によって敵情をつかむことができる。


 そうすれば郷間や内間となる人物を見つけ出して使うことができるのである。


 この反間によって敵情をつかむことができる。


 だから死間が攪乱行動をとり、虚偽の情報を敵方に伝えさせることができるのである。


 この反間によって敵情をつかむことができる。


 だから生間を計画した通りに活動させることができるのである。


 五種類の間諜による諜報活動により、必ず敵の情報をつかむことができる。


 その敵情をつかむ大元は必ず反間の働きにある。


 だから反間は厚遇しないわけにはいかないのだと。


 日本人はスパイとか外交官というものを嫌いますが本来はとても大事なんですよね。


 というわけで堀弥太郎景光殿を呼ぶことといたしましょう。


 私は義経の屋敷に人を出して彼にきてもらうことにしました。


 しばらくして彼がやってきました。


「これはこれは巴御前、今日は私にいかようなご用事でしょうか?」


 彼はにこやかに笑みを浮かべていますが目が笑っていません。


「はい、これからあなたには諸国を回り草の種を埋めてきていただきたいのです」


 私も微笑み返しながら答えます。


「ほう、草の種でございますか?

 で、それはどちらにございますので?」


 その言葉に私は


「裏天神より男女を連れて下人として越後、下野、上野、武蔵、相模、伊豆、駿河、甲斐、尾張、美濃の各国の国府や有力豪族に彼らを売ってきていただきたいのですよ。

 特に下野の小山、武蔵の畠山、相模の大庭、伊豆の北条、甲斐の武田、越後の城、尾張の長田忠致には確実に売っていただきたい。

 そして、現地の役人や家人で口が軽そうなものがいれば、そういったものたちもこちらの情報源にできそうであれば買収してください。

 継続的な商いの相手となれるよう炭や木工品を持ち、越中の宮崎で塩を手に入れて言ってください。

 無論報酬は弾みます。

 報酬は下人を売った金額の半分と協力者1名につき銭100貫でいかがですか?

 それとは別に活動に必要な資金は用意いたしましょう」


「ほう、随分な大盤振る舞いですな、わたしが下人を売ったままどこか他国に蓄電するとは考えないのですか?」


「今の私が提示した条件より良い報酬を提示できるのは平家か奥州の藤原氏ぐらいでございましょう。

 しかし、同行してきた人々を考えれば平家に組するとは考えがたいですからね」


 まあ、奥州藤原氏には関係している可能性もありますけどね。


「なるほど、分かりました、その役目引受させていただきましょう。

 私には武家働きよりこういった仕事のほうがあっておりましょうからな」


 私はニコリと笑いました。


「ええ、助かりますよ。

 荷運び用の駄馬などは用意しておきます。

 草の人選はあなたにお願いいたしましょう。

 裏天神への手配はしておきますので」


「ははは、コレはなかなか手厳しい。

 では私は準備をさせていただきますのでこれで失礼致します」


「半年に一度は信濃に戻り報告をお願いしますよ。

 それと証文をきちっと残してください。

 無いものには報酬を出せませんからね」


「かしこまりました。」


 彼はそう言って私の屋敷から退出していきました。

 そして、裏天神の中より人を選び出すと炭や木工品などを駄馬に積んで越中の宮崎に向かいました。」


 さてさて、これでうまく各地に情報源を確保できればいいのですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ