空へのあこがれ・滑空模型と人力飛行機
さて、農作業が一段落ついたところで私はあるものを作ろうとしていました。
「巴様、今度は何をしているのですか?」
私は竹と紙を組み合わせた小さなグライダーの模型を作っていました。
「空を渡ることができる滑空機を作ろうと思っています」
「空をわたる?」
「はい」
「人間は鳥ではありませんから空を渡ることなどできないのではありませんか?」
「そんなことを言うのでしたら人間は水の上に立つことなどできませんが、船があれば人間は水を渡ることができるでしょう?」
「理屈ではそうなりますが木は水に浮きますが、竹と紙は空気には浮くわけではないですよ」
「まあ、普通はそう考えますよね……」
オットー・リリエンタールやライト兄弟が飛行に成功したときも、大学の教授や科学者は新聞等でライト兄弟の試みに「機械が飛ぶことは科学的に不可能」としていたくらいです。
とはいえ 日本の江戸時代にハンググライダーの・ようなものを竹と紙や絹布で作って空を飛んだ日本人は実際に居たようですし、私は過去に空工学、材料工学、設計工学、生産工学、検査工学などの航空整備や生産の座学大型機ジェット機、小型レシプロ機、ヘリコプターなどの整備点検実習や小型機の製造実習などを学んで地方空港の整備士をしていたことがありますから、飛行機の存在も知っていますし、飛行機の設計も可能です。
飛行機ってジュラルミンで作るものではないかと思うかもしれませんが、第2次世界対戦でイギリス空軍が採用したデ・ハビランド・モスキートは全木製でしたし、フェアリー ソードフィッシュは複葉機で鋼管骨組み羽布張りの機体でした。
グライダーもFRPが主流になっては居ましたが木製羽布張りや鋼管羽布張りの機体も存在しましたしね。
とは言え、いきなり人間が乗れる大きさのものを作るのは難しいですし、ますは手のひらサイズの模型で滑空実験をしてからですね。
流石にこれは図面を書いて丸投げはできないので、図面を書いたあと自分で加工作業をします。
この時代FRPもジュラルミンもないので木製羽布張りで考えます。
翼の前の部分は強度の強い木材で軽い木材を挟み込み、膠と漆で接着したあと表面を削って布の骨組みの方に翼を作ります。
ジャンク船の帆の作りに似ていますね。
人力飛行機を想定した細長い胴体に垂直尾翼と水平尾翼をつけてカゴ型の運転席を翼の下に取り付けてバランスを取ります。
「こんなものですね」
「それが滑空機ですか、たしかに鳥の飛んでいる姿に似ていなくもありませんが」
小百合が不思議そうに聞いてきました。
「ええ、とりあえず飛ばしてみましょう」
私はひょいと紙飛行機を飛ばす要領で投げてみた所……
「あ」
胴体部分がボきりと折れて、墜落してしまいました。
「巴様?」
「うーん、胴体部分の強度がたらないか」
胴体部分を少し太くして作り直します。
「これで大丈夫なはず」
「本当ですか?」
先程の失敗もあり小百合は半信半疑です。
「多分大丈夫なはず……では行きますよ」
私はふたたび紙飛行機を飛ばす要領で模型を投げてみた所……
「おお、たしかに飛んでいます」
「でしょう」
今度はうまく飛びました。
「これで大きさを10倍ぐらいにすれば人が乗って飛べるはずです」
「流石にそれは難しいのでは?」
「大丈夫ですよ、ついでに手回し扇風機の技術を応用して飛行用の扇も取り付けましょう」
プロペラも足こぎ式でなんとかなるでしょう、レシプロエンジンがあればそれこそ飛行機として飛ぶこともできるかもしれませんが、内燃機関どころか蒸気機関のような外燃機関ですらない状態では無理ですね。
先程の模型を10倍にして翼や胴体を作り、運転席に自転車のような足こぎペダルを付け、それを歯車でプロペラに回転を伝え、太めの針金を作って操縦桿に連結させ垂直尾翼や水平尾翼に連動させます。
魔女の宅急便のエンディングに出てくるトンボが乗っている人力飛行機みたいな感じです。
まあ、自転車はないので下の部分はソリですが。
「さて早速試してみましょう」
「大丈夫なのですか?」
「多分大丈夫……」
流石に平地をソリで滑ってプロペラを回して飛べるとは思わないので下人を何名か連れて、草が生えている坂場までみんなで運びます。
下人に籠の部分を支えてもらいながら私がそこに乗り込んで準備をします。
「よし、みんな放して」
下人たちが籠から手を話すと重力に従って機体がソリで滑り降りていき……ふわりと空に舞い上がりました。
「よし、いくぞぉ」
わたしはペダルを力いっぱいこいでプロペラを回します。
人力飛行機はゆっくりと空を進んでゆきます。
「人力飛行機は浪漫ですよね……」
問題は着陸ですが、結局着陸のときに羽が地面に接触して折れてしまいました。
「成功は成功だけど、着陸が難しいですねこれ」
やはり三点の車輪をつけるべきでしょうか。
しかし、バネや空気によるサスペンションもなければゴムチューブもないことを考えると着陸の衝撃に車軸が耐えられるとは思えませんね。
ソリを用いてうまく着陸できる方法を考えるといたしましょう。