農具工具の改良のススメ
さて、信濃の山道における兵站つまり輸送について革新的なアイデアは、人間が長時間にわたって荷物を背負いやすくする背囊と悪路でも使いやすいであろう一輪手押し車ぐらいしか今のところは思いつきません。
まあ水路での輸送が可能な場所では船着場の近くに穀物などを貯蔵できる倉庫を予め作っておき、重たい食料や武器などは河川を小舟で運び、河川の近くの街道を本隊が進むという方法は考慮しておきましょう。
私は小百合と話をしていました。
「小百合、軍隊というものは戦場に到着するまでは小荷駄や力車、
人夫による食料や工具、武具や掻楯の万全な輸送が、
到着してからは指揮官の能力がものをいう。
そして戦闘というのはそれまでの準備の積み重ねの結果である。
だそうですからね、兵士が腹をすかせていたり疲労困憊していたり、やる気を失っていた
武器盾が満足になかったら勝てる戦にも勝てないということらしいです」
「なるほど、あたりまえのことですね」
「ではとりあえずは皆がお腹をすかせなくてもすむように、
開拓や農作業に役に立つ道具などを作ることにしましょうか」
「良いお考えかと」
「なら、まずは脱穀用の千歯扱きですね」
「なんですか?それは」
「前に作った水車小屋での木臼と杵での脱穀は時間的には力はいらないから楽にはなったけど
効率が良くなったわけではないからね。
けっきょくそうなるとそれを補うために脱穀は従来通り扱箸を使ってるわけじゃない。
でも稲穂を挟むのが大変なら固定して挟む隙間を増やせばいいじゃないということかな。
とりあえず試しに作ってみるね」
大雑把に言えば木のテーブルに鉄製の櫛状の歯を取り付ければ良いわけです。
まあ、もみなどの大きさが違うので稲用と麦用は別に作らないといけませんし、細かい隙間の調整は必要ですけどね。
実際に脱穀するときは本体が動かないように足置きを踏んづけるなり石を置くなりして固定し、櫛状の歯の部分に刈り取った後に乾燥した稲や麦の束を振りかぶって叩きつけ、歯の間に通して、そのあとは力いっぱい引いてもみを梳き取るわけです。
さらに一度で完全に落ちるわけではないの二度三度その作業を繰り返す必要はありますけどね。
「こんな感じかな」
「なるほど、たしかに楽になりそうでは有りますね」
「っと、よく考えたら今使ってる水車小屋の木臼や杵を取り外して、
円筒形のものに櫛状の歯をくっつけて歯の部分を回転させて
稲や麦の束を置くことで半自動的に脱穀できるようにできるような気がするね」
「たしかに」
「更に手回し式扇風機を応用して軽い籾殻などを吹き飛ばし、籾だけ落ちるように
選別できるようにすればもっと楽になるんじゃないかな?」
「そううまく行きますか?」
「まあ物は試しだから作っておくよ」
早速設計図を作って作らせることにしましょう。
「それから次は鋏かな」
「鋏ですか?繕い物をするときの鋏ならありますが?」
「えっとね、今の鋏のように押し切るものじゃなくて、2枚の細長い金属板を刃を
ばつ字に重ねて挟みこんで切断できるようにしたいの。
糸だけじゃなくて布や革を切ったり、枝や枝になった果実を
切ったりするのに使えるようにしたいし」
「なるほど」
「ハサミの持ち手のほうに取っ手をつけてやれば高いところの枝や立ったまま稲や雑草などを刈れる
人力刈り取り機にもできるはずだよ。
今みたいに腰をかがめて鎌で刈取るよりは多分楽になるはず……」
「はずというのは?」
「いや、実際やってみないとわからないからね」
「それはそうでございましょう」
「あとはさらに台鉋を作りましょう」
「代鉋?」
「槍鉋より簡単に平面板を綺麗に削れるようにできる木工用の道具だよ
槍鉋は臼や樽を作る時に木材の内側を丸く加工できるから便利だけど
一枚の板を綺麗に削るのは大変だからね。
台鉋があれば掻楯(人間のの身長くらいあるおいて使う木製の盾、
離れた場所で弓矢を射かけあう盾突き戦の時に使用する)を
作るときにかかる時間が減ると思うよ。」
まあ、カツオブシを作れた場合にはそれを削るのにも使えますが、木材の表面加工がだいぶ楽になるはずですし。
「あとは金属加工用の旋盤及び自動研磨機だね」
「そういったものが有ればだいぶらくになりましょうね」
「うん、刀や農具の刃を磨くのも大変だからね」
木工旋盤の時と同じように作りますが、今度は旋盤本体は金属製です。
とは言え鉄を切削するのは大変なので今回は木材の代わりに青銅を用います。
バイスは鋼で作りますけどね、青銅は鋼より柔らかいので青銅であれば割と楽に加工できますし。
鋼より硬い金属を作る方法を今の私は知りませんし鋳鉄を大量生産するのはまだ難しいから、鋼の加工は結局手を使ってハンマーを打つ従来の方法しか無いでしょう。
しかし、青銅というと粗悪なイメージが多いですが、そんなこともないのです。
少なくとも木材より強度もありますし、湿度によって曲がったりすることもありません、加工しやすいというのは大きなメリットです。
指矩やノギスのような測定器も作りましょう。
砲や銃を作るとなあると精度が必要になってきますからね。
「とりあえずはこんなところかな」
「はい、十分かと」
「早く役に立つかどうか試してみたいね」